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New Space Scrolls  作者: 乃木了一
第二章 兆し
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8.軍人

「ほう・・・」

スクリーンを眺めていたラ・ファイエットは小さな声をもらした。旗艦を失って完全に麻痺したようにみえたテラフォード艦隊が再び動き始めている。

(旗艦の司令機能がまだ生きているのか?)そう思ったラ・ファイエットだがすぐにその考えを打ち消した。打撃を受けた敵艦隊旗艦は艦勢をなんとか立て直しつつも戦場から離脱しようとしているのに対し、他の4隻には攻撃に向けたポジションを取ろうという明らかに組織的な意思を感じる。

(どうやら、テラフォード艦隊は思っていたより柔軟なC&C運営をしているようだな)帝国艦隊であれば、これほど小規模な艦隊が旗艦を失った後でも組織的な行動を起こせるとは考え難い。ラ・ファイエットは先程短時間会話を交わしたテラフォード艦隊中佐の顔を思い浮かべた。

「敵艦隊は我が方後方に向かって機動を始めております。主砲の攻撃範囲を避け、我が艦の後方からメイン・エンジンを狙う積りのようですな」

オランド艦長の見立てにラ・ファイエットも頷いた。しかし、継戦の意志と能力があるなら、旗艦が撃破された直後に一発ぐらいミサイルを発射していてもよさそうなものだ。と、ここでラ・ファイエットはバルベリーニの言葉を思い出した。「その後は・・・政府が閣議を開き、対応を・・・」

(なるほど)つまり目の前の艦隊は政府からまだ「交戦許可」を得ていないのだ。それでも交戦許可が下り次第、直ちに攻撃を実施できるポジションを取ろうとしているのだろう。民主主義を経験したことのないラ・ファイエットには民主主義国家の閣議決定にどれほど時間がかかるのか分からないが、敵艦隊の動きを考えれば彼らが速やかな決定を想定(期待?)しているのは明らかだ。つまり、こちらも今この瞬間に決定が下されることを前提に判断しなければならない、ということだ。

「小型艦とはいえ、4隻が連動して攻撃をしかけてくるとなるとやっかいです。先制攻撃しますか?」そう言ってオランド艦長はシャブラン中佐に視線をやった。

「敵艦隊に対するロック・オンは完了しています。1艦につきミサイル発射筒を10門ずつ割り当てております」シャブランがきびきびと応答する。

敵艦1隻につき10門。連続発射すれば1艦につき30~40発のミサイルがほぼ同時に襲い掛かることになる。コルベットやスループの対空能力ではその全てを打ち落とすことは不可能だろう。上手くいけば、それだけで敵艦隊を全滅させられるかもしれない。しかしラ・ファイエットは頭を横に振った。

今回の遠征の最優先目的は、少なくとも表面上は脱帝者16名の送還である。最低限の武力行使で戦列艦の威力を見せつければテラフォード側が送還に応じるかもしれない、という期待がラ・ファイエットにもあった。しかし旗艦の撃破にかかわらず敵が継戦意志を失わないことでその「プランA」が崩れた今、さらなる威嚇は必要不可欠である。しかしだからといって、ここで敵の第20警備隊を全滅させ100名規模の死傷者を出せば、さすがのテラフォード世論も硬化し、持てる戦力を総動員し立ち向かってくる可能性がある。そうなれば帝国とテラフォードの全面戦争、すなわちサン・リミノの和約の破棄に発展しかねないが、それは帝国政府のオーベルニュ外務卿に対する「一任」の範囲を超えている、ということもラ・ファイエットには良く分かっている。

一方、オランド艦長がいうように敵に自由な機動と先制攻撃を許せば、敵はRX-02の対空網の死角からそれこそ100発を超えるミサイルによって飽和攻撃を仕掛けてくるだろう。そのうちの1発でも撃ち漏らし、最悪メイン・エンジンを損傷すれば宙域外への撤退もままならなくなる。そうなれば今回の遠征のもう一つの、しかし脱帝者16名の送還と同じぐらい重要な目的、RX-02の試験という目標の達成も覚束ない。


艦橋の要員達が見守る中、ラ・ファイエットは一つ頷くと驚いたことににっこり笑った。

「艦長、一刻私にこの艦のコントロールを預けていただけませんか?」

そう言いながら艦長席に向かってすたすたと歩き始めた。オランドは軽く眉を上げただけで、直ぐに声を張った。「艦長席の管制卓に機関システムを集約せよ」

オランドは自分がどこまでいっても一介の軍人に過ぎないことをよく理解している。と同時に、目の前にいる若者が自分よりもずっと高次元の戦略・政治的視点から軍事というものを理解していることに敬意を持っている。

あ、それから、とラ・ファイエットは立ち止まった。

「急激なGの変化に備え、全乗員は着席、シートベルトを装着するように。また敵ミサイルに備え、対空警戒を厳にしてください。シャブラン中佐、」

「はっ」シャブランが向き直る。

「こちらも主砲管制用のアクティブ・レーダーを用意しておいてください」

オランドほどラ・ファイエットを理解していないシャブランは一瞬言葉につまり、ちらっとオランドに視線をやったが、艦長が頷くのをみて復唱した。

「了解。主砲管制用のアクティブ・レーダーをスタンバイしておきます」

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