6.初交戦
事態はバルベリーニが説明した通りに進んだ。
秒速1,000kmで進み始めたRX-02に対して、最初の「警告」ミサイルはその針路上はるかかなた10万km先で爆発した。RX-02からみると全く脅威には感じない程の距離だが、テラフォード艦隊にとってはこれでも警告のつもりらしい。RX-02は秒速3,000km、標準戦速に増速する。
前進開始から約2分後、双方の距離が戦艦の標準射程3光秒を切ろうかとする瞬間、RX-02の艦橋内に警告音が鳴り響いた。どうやらバルベリーニが彼の言う「火器管制レーダー照射」に踏み切ったらしい。
「シールドを展開しますか?」
オランド艦長が尋ねるのに、ラ・ファイエットは首を振った。
「この次は『船体射撃』でしたね。ただ、彼は『小口径のレーザー砲』を使うと言っていました。それが正しければ、このRX-02に大した被害を与えることはできないでしょう。それに、」
ラ・ファイエットはいたずらっ子のようにオランドに片目をつぶった。
「新型装甲の効果を見るには絶好の機会だと思いませんか」
まあ、RX-02に傷がついたら私の方から伯爵にお詫びしますよ、とラ・ファイエットは言いながら火器管制担当士官を呼んだ。長身の女性士官が近寄って来る。
「シャブラン中佐、あの艦の」スクリーンを指しながら、「動力部だけを狙って破壊することはできますか?」
シャブランはスクリーンに目をすがめる。シャブラン中佐もまた、今回の試験航海に選抜されたオクシタン軍有数の射撃の名手である。
「動力部に当てるだけでしたら誘導ミサイルを使用した方が簡単ですが、それだと恐らく破壊力が大きすぎて下手をすると相手艦は沈みかねません。主砲でやるのであれば、左右どちらかに機動の軸をずらしていただければ可能かと思います」現在、RX-02はヴァリアント号に向かって直進するコースをとっている。
ラ・ファイエットは頷いた。
「分かりました。主砲の出力は最小限にして下さい。無駄に死傷者を増やしたくありませんから。艦長、相手レーザー砲による船体射撃が済み次第、最適位置に機動してください」
シャブランは艦橋前面に歩いていき、火器担当オペレーターの肩を叩くと席を替わり、自ら主砲照準器の調整を始めた。
火器管制レーダー照射開始から約2分、両艦の距離が1.5光秒を切った時、オペレーターが叫んだ。「敵艦側に熱源反応!」艦橋にいる全員がはっと身を固くした。
直後、ヴァリアント号のレーザー砲がRX-02の艦体を直撃・・・したはずだった。
「?」
艦橋内にいる者達が互いに顔を見合わせる中、ややあってラ・ファイエットが口を開いた。
「ダメージ・コントロール班、状況を報告してください」
了解、の声がした後、しばらくしてオペレーターが報告する。
「艦体外板にレーザー砲が直撃した模様ですが、特に損傷なし」
艦橋内で小さな歓声が上がる中、オランド艦長が声を張り上げた。
「進路0-0-5!・・・・よし、そのまま直進。・・・・針路3-4-8に変針!・・・・1番から5番スラスター、噴射・・・・全スラスター停止。メイン・エンジン逆噴射、微速まで落とせ」
右に鋭く弧を描いたRX-02の正面で、今やフリゲート艦ヴァリアント号は大きく左側面を晒している。艦橋内でシャブラン中佐の声だけが響く。
「右0.5度、マイナス0.2度に修正、よしそのまま・・・・・・主砲発射!」
一瞬の間の後、ヴァリアント号中央やや後ろ寄りの側面が小さく光った。1秒、2秒・・・と突如、同艦の側面から炎が噴き出した。内部の酸素に引火したらしい。ヴァリアント号は衝撃で姿勢を崩し、大きく傾きながら押し流されていく。僚艦がこれを避けようと慌ててエンジンを噴射しているのがみえる。
「シャブラン中佐、お見事です」
ふう、と小さく溜息をもらしてラ・ファイエットは言うと、オランドを振り返った。
「敵旗艦はこれで行動不能、おそらくもう組織的な艦隊行動はできないでしょうが、一応、残敵艦の動向には注意しつつフリートランドに向けて出発しましょう」
「敵」という言葉にもう反応する者はいない。帝国内の基準では火器管制レーダー照射の時点で明確な敵対行為が行われたと認識するのは常識だからだ。




