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New Space Scrolls  作者: 乃木了一
第二章 兆し
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3.邂逅

カルロ・バルベリーニ大佐は綺麗に刈りそろえた顎髭をしきりにさすりつつ第20警備隊旗艦ヴァリアント号の艦橋を行ったり来たりしながらも、目はスクリーンに釘付けになっている。いつもはきっちり真っすぐに整えられたネクタイが歪んでいることにも気づかないようだ。

「司令」グエン・ティ・ホアン少尉の声に大佐は小太りの体をびくっと震わせた。「何だ!」

司令の不自然に上ずった声に動じることもなく、グエンの声は沈着冷静だ。冷たい、といってもいい。

「ランページ号のウォラフソン艦長から入電です」

グエン少尉がオペレーターに命じて正面スクリーンを2画面にすると、画面の右側にウォラフソンが現れた。ウォラフソンが敬礼する。

「司令、付近の民間船を即刻退避させなくてはなりません」

バルベリーニは一瞬口をあんぐり開けかけたが、苛立たし気にグエンを振り返り「手配しろ!」と怒鳴った。グエンは通信担当オペレーターに近寄り、小声で指示を出し始めた。

それには構わずバルベリーニは再びウォラフソンに向き直ると、左の画面を指さしながらウォラフソンに目を剥いた。どうやらウォラフソンからその画面は見えないということにも気づいていないらしい。

「あれは、何だ!」

バルベリーニの副官を2年務めたウォラフソンは慣れたもので、少し首を傾げただけで冷静に答える。「帝国軍の戦列艦のようですね」

「そんな、ことは、分かっておる!」バルベリーニは喘ぎながら絶叫する。

「何でそんなものがここにいるんだ!」

「さあ」ウォラフソンはまた首を捻るような仕草をする。しかし彼の脳裏にはスレイドの言葉がまるでネオンサインのように点滅している。『過去は未来を保証しない』

(しかし、)ウォラフソンは心の中で唸った。(こんなに早くそれを思い知らされるとはな。あのオッサンは予言者か!)

「もしかして、」

急に明るくなったバルベリーニの声にウォラフソンは一瞬の物思いを中断した。司令が何か思いついたらしい。

「道に迷ったとか?何らかの機器の故障で・・・?」

ウォラフソンは心の中で苦虫を嚙みつぶしながら首を振った。

「先程から解析を進めておりますが、あちらさんに何も異常は発見できません」

「じゃあ、何で戦列艦がここにいるんだ!それでは、あの、あの・・・」

「サン・リミノ条約違反、ですか?」

バルベリーニは激しく頷いた。

「そう、その条約違反じゃないか!」

サン・リミノの和約はテラフォードの軍備制限の見返りとして、帝国軍のテラフォード及び隣接アブロリモーゼ星系への配備を禁止している。

「そのようですね。では、本艦から警備艦隊司令部に一報を入れておきましょう。あ、もちろんバルベリーニ司令の名前で、ですよ。そちらは民間船の誘導で忙しいでしょうから。その後で、」

「その後で?」

「接近して先方の意図を確かめねばなりませんな」

「誰が・・・?」

さすがにウォラフソンもいら立ちを隠せなかった。「我々、全員でですよ!」


カルロ・バルベリーニ大佐は46歳。口癖は「規則通りに」で、何事につけ「前例」を持ち出し、嫌いな言葉は「創意工夫」と「臨機応変」だと普段から公言するような人物である。長い間本格的な実戦を想定することもなく、極度に官僚化した軍が産み出した典型的なサラリーマン軍人といってもいい。通称「内局」と呼ばれる人事や予算等の総務系が長く、その中で他の軍人達が苦手な法律や会計の知識を駆使して出世の階段を昇ってきた男である。「上には弱く下に強い太鼓持ち、処世術に長けた男」というのが同僚や部下達のもっぱらの評価であるが、もちろんバルベリーニ自身はそれを「競争に勝つ術を知らぬ愚か者共のやっかみ」だと鼻で笑っている。

その男が現在何故第1警備管区の警備隊司令を務めているのかといえば、もちろんそれが更なる出世のために必要だからである。官僚化が進んでいるとはいえ表面的には実力組織である軍にあって、佐官から将官に昇進するためには現場指揮の経験が必要、というのは暗黙の了解となっている。そのためバルベリーニは本心ではいやいやながら警備隊司令の職を願い出た、というところである。どうせ現場に出るなら警備艦隊でも「花形」と目される第1管区がいい、ということで得意の猟官術を使い第20警備隊司令の職に収まった。バルベリーニが密かに狙う総務局長、そしてゆくゆくは防衛隊宇宙総監といった要職はいずれも第1管区出身者が占めている。

その警備隊司令職も既に2年が経過し、そろそろ異動の内示があってもいい頃である。後3ヶ月もすれば総務局次長のポストが空く、ということは分かっている。バルベリーニには自分以外にそのポストに適任者はいない、という自負がある。先月のリベラシオンⅡ号拿捕の功績を考えれば、早々に准将に昇進してもおかしくない。それで十分なはずだ。今さらこんな途方もない厄介事はいらない。バルベリーニは溜息をついて司令席に沈み込んだ。

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