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New Space Scrolls  作者: 乃木了一
第二章 兆し
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2.ラ・ファイエット

レオポルド・ラ・ファイエット准将は艦橋中央の艦長席の前に立ち、正面の巨大スクリーンを眺めている。現在、オクシタン国内で密かに開発コードRX-02の名で呼ばれる新型戦列艦はワープを終えた後、減速シークエンスに入っているところだ。スクリーンには豆粒のような赤い点が5つ、映し出されている。

「敵艦隊、依然として急速接近中。距離10光分。このままいきますと30分以内に戦闘開始距離に入ります」緊張したオペレーターの声が告げる。

ラ・ファイエットは頭を振り、苦笑しながらオペレーターを窘めた。

「『敵』ではないぞ、君。まだ、今はな。彼らのことは『テラフォード艦隊』と呼んでやりなさい。それが正式名称だ」はっ、オペレーターがしゃちほこ張って敬礼するのに頷くと、ラ・ファイエットは振り返った。

「オランド艦長、各部、特に機関の各パラメータのチェックを入念に行ってください。これは試験航海でもあるのですから、きちんとデータがとれないと、伯爵に叱られます」

ふふっ、と笑って肩をすくめるラ・ファイエットに艦長のラウル・オランド大佐も微笑を返しながら敬礼した。「御意」


レオポルド・ラ・ファイエットは現在29歳、帝国第三の星系ボルトハーゲンに小さな領土を持つ下級貴族の出身だが、オーギュスト・ド・オーベルニュ伯爵の右腕として今や知らぬ者はいない。二人の付き合いはラ・ファイエットが少壮の少尉時代、18歳で初めての軍務に就くオーベルニュが彼の搭乗する艦に配属されてきたことに遡る。その後、二人は辺境での宙族掃討や密輸取り締まり、叛乱星系の鎮圧等で共に死地を乗り越えて親友となった。

順調に昇進を重ねるオーベルニュの後を追うように24歳で少佐に昇進していたラ・ファイエットは、家族の相続問題で一時オーベルニュの下を離れていたが、その時に例のオクシタン・クーデター事件が勃発。オーベルニュのたっての願いが帝国軍本部に認められ、ラ・ファイエットはオーベルニュ軍司令部筆頭幕僚として叛乱軍討伐に参加した。叛乱討伐後伯爵家を継いだオーベルニュには慣例に従って中将位と自らの幕僚本部を開設する権利が与えられた。オーベルニュはまるで当然のことのように、ラ・ファイエットの叛乱討伐の功績による二階級特進と幕僚本部長就任を帝国軍本部に要求した。

オーベルニュ本人だけでなく、ラ・ファイエットまでがあまりに早い昇進をすることに帝国軍内で異論がないわけではなかったが、最終的にはラ・ファイエット「大佐」をオクシタン軍幕僚本部長「代理」とすることで決着がついた。一昨年には帝国軍本部からラ・ファイエットの准将への昇任を認められ、ラ・ファイエットは正式にオクシタン軍幕僚本部長となっている。その幕僚本部長が直々にこの「試験航海」に座乗している、という事実が、この一件にかけるオーベルニュ伯爵の並々ならぬ意気込みを示しているといえよう。同時に、最新鋭艦RX-02の艤装及び処女航海の担当艦長に選ばれたオランドも、オクシタンでは右に出る者のない優秀な艦長といわれている。


艦長と軽口を叩いた後、ラ・ファイエットはスクリーンに顔を戻した。スクリーン上の光点を見つめるラ・ファイエットの目からは先程の穏やかな気配は消え失せている。ラ・ファイエットはオペレーターに命じて「テラフォード艦隊」各艦の解析結果をスクリーンに表示させた。(中型フリゲート1、コルベット4、というところか・・・。いや、あの小型の1隻はスループなのか?)

先の大戦を終わらせた「サン・リミノの和約」によって、テラフォード(旧グロスター)共和国には軍備制限が課せられることとなった。具体的には、①戦列艦の保有禁止、②軍艦への恒星間航行装置ワープ・エンジン搭載禁止、③保有する軍艦の総トン数は30万トン以下、等と規定されている。大戦終結後20年くらいまでは帝国側によるテラフォード軍への査察も厳しく行われたらしいが、大戦が遠い記憶の彼方に消え去った今では帝国側で「辺境の野蛮国」の軍備に対して関心を持つ者などいないに等しかった。にもかかわらず、解析結果はテラフォードが未だにその規定を律儀に守っていることを示していた。


ラ・ファイエットはその穏やかさと礼儀正しさでオクシタン軍内でも評判の高い人物だが、それでもテラフォードの現状に対して軽い軽侮の念を抱かざるを得なかった。

(人間、いや国家全体がここまで牙を抜かれて平然としていることはできるものなのか・・・)それはあるいは、既存の体制に対する激しい敵意に溢れ、自分の人生を決して他人や運命というものに委ねることを許さないオーベルニュに彼も幾分感化されたが故の感情なのかもしれなかった。

ラ・ファイエットは長年秘めてきた「計画」を彼に打ち明けた時のオーベルニュのきらきらした瞳を思い出している。計画の壮大さ、激しさとは不釣り合いの、純粋な、まるで子供のように無邪気な薄いブルーの瞳に引き込まれたかのように、ラ・ファイエットは思わず頷いたのだった。(閣下のような人物を他に求めても詮無いことか・・・)

「計画」は前倒しされ、決行日は早まっている。そのためにこの「試験航海」は何としても成功させなければならない。


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