表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
New Space Scrolls  作者: 乃木了一
第二章 兆し
16/56

1.ランページ号

地球暦4260年10月20日、フリートランドを出発して5日目、第20警備隊はテラフォード星系外縁部に位置する惑星ネオ・ネプチューンを横目に見ながら航行を続けている。第6警備隊とは昨日引継ぎを終えたばかりで、現在星系内に唯一存在するワープ可能地点ワープ・ポイントに向けて航行中である。ワープ(星系間航行)は星系内のどこでもできるわけではなく、恒星・惑星の重力や恒星風などに影響される特定の条件が整った場所でしか行うことができない。すなわち、現在第20警備隊が向かっているワープ・ポイントはテラフォード星系と帝国領を結ぶ唯一の玄関口であり、その監視がウォラフソンの所属する第1警備管区の任務である。1か月半程前、第20警備隊がレ・ファムらの乗ったリベラシオンⅡ号を拿捕したのもこの星域であった。これから第20警備隊は約1カ月の警戒任務に就くところである。

「左舷、VLCC級タンカー通過。マルトモ商事所属、メリーランド号。積荷は宇宙船用水素燃料30万トン。輸入及び通行許可証に異常なし」

警備艦ランページ号の船内AIがすれ違う大型タンカーから送られてきたデータを本国の経済産業省のサーバー上にあるデータと照合している。ワープ・ポイントに近づくにつれすれ違う民間船の数が増え、船内AIは数分おきにデータの照合結果を報告するようになっている。


「旗艦ヴァリアント号から通信です。右舷前方21光秒を進行中の貨客船をチェックせよ、とのことです。針路0-2-4、+5度に変針します」

PAMT-AIヒューイが報告するのに「いや、違う!」と大声が割り込んだ。

「アルファ、進路は0-2-5、+5.5度だ」

大柄で髭面の声の主はブラッドリー・ホフマン大尉、ランページ号の副官兼航法士だ。アルファとは、警備艦の航行用AIの通称である。

「しかし、それでは目標針路から外れてしまいます」

抗議するヒューイをホフマンは睨みつけ、「うるせぇ、ポンコツ」と返した。

「いいか、人間ってぇのは気まぐれな生き物なんだ。あるいは奴がヤバいものを運んでいたとしたらどうだ?我々が接近するのをみて逃げようとするかもしれん。だから直付けじゃなくて奴の頭を押さえる必要があるんだよ!」

「アタマヲオサエル・・・ってどういう・・・」

ヒューイが更にいうのを「もういい、ヒューイ」ウォラフソンは止めて、「アルファ、0-2-5、+5.5度に変針だ」と航行AIに告げる。

溜息をつきながらウォラフソンは艦長椅子の上で頬杖をつく。ウォラフソンが艦長として初めてランページ号に乗船した時、ホフマンはウォラフソンが連れてきたヒューイに目を剥いたものである。そんな反応はどこの船に行っても同じなので慣れっこだったが、ホフマンのヒューイに対する対応は少し違う何か・・・つまり敵意を感じさせる。出航以来、ホフマンとヒューイはずっとこんな感じなのだ。


(おそらく・・・)副官兼航法士という自分の領域にヒューイが侵入してくることが気にくわないんだろうな、とウォラフソンは考える。

ホフマンは民間大手宇宙船運航会社パシフィック・スターラインズから准士官として転職してきた人物で、歳はウォラフソンより6つほど上、民間にいた時から腕利きの航法士として知られていたらしい。警備艦隊は若者の就職先としては人気がなく、常に人手不足であるため中途採用者を多く受け入れている。特に航法士は貴重で、ホフマンはそうした中途採用者の一人である。しかし稼ぎの良い民間から安月給の軍に移籍してくるのは余程の変わり者か事情のある者で・・・。ホフマンもそのプライドの高さと気の荒さでいくつかの船で船長と諍いを起こし、会社を辞めざるを得なかったらしい。その後、自ら貯めた資金を元手に小型船を買って事業を起こしたが、どうやら商才はなかったらしく数年で破産、愛想を尽かした妻は子供を連れて出て行ってしまったときく。独り身となったホフマンは借金返済のため軍に志願し今に至る、というわけだ。そんなホフマンが航法士の仕事に口を出されて愉快なわけがない。

(いや、それだけじゃないな)ウォラフソンは一昨日、リューク・アキノ中尉から聞いた話を思い出している。アキノは火器管制担当の若い士官だが、どうもお調子者のようで他人の噂話が大好きだ。ホフマンの個人情報も、その殆どはアキノがぺらぺらとしゃべったものである。その中でアキノがリベラシオンⅡ号拿捕の顛末を語った部分がウォラフソンの心に留まったのである。


約1か月前、第20警備隊がリベラシオンⅡ号と遭遇した時、最終的に同船を拿捕したのはこのランページ号だった。警備隊の警告にもかかわらず、リベラシオンⅡ号は細かな加減速と進路変更を繰り返し、警備隊の包囲網を突破してワープ・ホールに逃げ込もうとしていた。その中でランページ号はリベラシオンⅡ号の先を読んだ見事な操船を行い、最後には完全に同一針路・同一速度での直付けに成功し逃走を諦めさせたのである。ウォラフソンも第20警備隊旗艦ヴァリアント号の艦橋で感嘆の声を上げたのを覚えている。

「それでですね」アキノはにやにやしながらウォラフソンに囁いた。「副長はその功績で自分がこのランページ号の次期艦長になれると思ってたようですよ」

ランページ号の前艦長ソレル中佐は先月の警備航海終了後に定年退官することが決まっていた。確かに、ホフマン大尉がリベラシオンⅡ号拿捕の功績を認められて少佐に昇進していれば、ソレル中佐の後釜に座ることもあり得ただろう。

(しかし実際には、)何の功績もない年下の俺が中佐に昇進し横から艦長の座に滑り込んだわけだ、とウォラフソンは苦笑する。ホフマンからみると、キャリア・プロパー組と中途採用組の間に隠然と存在する「昇進の壁」を示すまた一つのエピソード、というところだろう。ホフマンが優秀な手腕を見せながらも度々昇進を見送られてきたことについて、ウォラフソンとしても彼の怒りを理解していない訳ではない。ただ、とウォラフソンは心の中でつぶやく。今回の昇進見送りは、前艦長ソレル中佐の強い主張によるものだ、ということをホフマンは知らない。(一度、じっくりと話し合ってみる必要がありそうだな)

ウォラフソンが艦長席の上で足を組み替えて背を伸ばした瞬間、旗艦からの緊急通信を示すけたたましい警報が艦橋に鳴り響いた。

「ワープ・ホールから正体不明の大型武装船出現!各艦急行せよ!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ