第八章 最初の家族
試行事業の参加者募集には、三十二組から応募があった。
創生都市開発のウェブサイトへ掲載したのは、文章だけの案内だった。清流の写真も、星空の映像も、古い校舎の画像も使わなかった。
『一日のうち一時間、置くものと、向き合うものを、自分で決める。奈良県清澄村で行う、一泊二日の滞在試行に参加するご家族を募集します』
応募条件は、中学生以上の子どもを含む二人から四人の家族であること。体験後の聞き取りに協力できること。村内で撮影した写真を、住民の許可なく公開しないこと。デジタル機器を一律に預ける企画ではないことも明記した。
応募者には、家族で滞在へ参加したい理由を書いてもらった。
『子どもがスマートフォンばかり見ているから』
『夫婦の会話が減ったから』
『都会の生活に疲れたから』
『何もない場所で自分を取り戻したいから』
『子どもに自然の大切さを教えたいから』
美月は応募理由を読みながら、何度も手を止めた。
子どものスマートフォン使用を問題にする文章は多かった。しかし、保護者自身の使い方に触れている家庭は少ない。
自然の大切さを教えたいと書いた親が、子ども本人の希望を書いていない場合もあった。
選考にあたって、美月は五つの条件を設けた。
家族全員が参加に同意していること。
村を問題解決の道具として扱っていないこと。
滞在中に意見の相違が起きる可能性を認めていること。
参加前から明確な成果を求めていないこと。
困った時に、自分たちで話し合う意思があること。
「最後の条件、確認できますかね」
森下が応募一覧をのぞき込んだ。
「文章だけでは分かりません。候補を五組に絞り、オンラインで面談します」
「一組を選ぶのに、ずいぶん時間を使うんですね」
「最初の一組ですから」
「二組目からは?」
「同じようにはできません。選考にかかる時間も、今回の費用として記録します」
森下が壁の時計を見た。
「田中さん、今日この作業に何時間使いました?」
「四時間二十分です」
「私も、二時間十分」
美月は運営時間の表へ入力した。
募集文作成、応募者対応、個人情報管理、面談準備。
実施日が近づくほど、表の行は増えていった。
村で一泊するだけの体験を作るために、何十時間もの準備が必要になっている。
既存の仕事へ追加される形でこれを続ければ、森下が最初に疲弊する。
美月は作業表の一番上に、住民会議で決めた言葉を入れた。
『無理を当たり前にしない』
*
五組との面談を終え、美月は最終候補を一組に絞った。
父親の正志、母親の由紀、中学二年生の彩。
三人暮らしの家族だった。
応募理由を書いたのは由紀だった。
『娘の進路について話す必要がありますが、三人で話すと、いつも途中で誰かがスマートフォンを見ます。娘だけの問題ではありません。夫は仕事の連絡、私は家事や学校の情報、娘は友人との連絡に使っています。それぞれに必要な理由があるため、使うなと言い合うだけでは解決しません。結論を出すためではなく、最後まで話を聞く練習ができればと思っています』
オンライン面談では、三人とも同じテーブルに座った。
正志はジャケット姿で、面談中にも二度、仕事用のスマートフォンを確認した。由紀は家族の間へ置いた資料を何度も並べ直した。彩は椅子の背にもたれ、画面の外を見ている時間が長かった。
「彩さんも参加を希望していますか」
美月が尋ねると、由紀が先に答えた。
『本人も、一度行ってみたいと――』
「彩さんに伺っています」
美月は言葉を続けた。
由紀が口を閉じる。
彩は画面へ視線を戻した。
『絶対に行きたいわけではないです』
「では、行きたくありませんか」
『どっちでもいいです』
「どちらでもいい場合、参加しないという選択もできます」
正志が横から口を挟んだ。
『せっかく無料で参加できるんだから、行ってみたらいいだろう』
『そうやって、もう決めてるじゃん』
『嫌なら嫌と言えばいい』
『嫌って言ったら、何で嫌なのか説明しろって言うでしょ』
『理由もなく嫌と言われたら、聞くのは当然だろう』
面談の画面越しにも、三人の会話が同じ場所を回っていることが分かった。
「参加した場合、彩さんが嫌だと思った活動には、途中でも参加しないと言えます」
美月は説明した。
「ただし、山へ入ってから一人だけ引き返すことは、安全上できません。事前に選べることと、その場では選べないことがあります」
『スマホを預けないといけませんか』
「預けるかどうかも、自分で決めます。一時間だけ、何を置くかを選んでもらいます」
『スマホじゃなくてもいいんですか』
「はい」
『じゃあ、進路の話を置いてもいい?』
彩が言うと、由紀の顔が曇った。
『その話をするために行くのよ』
『だから嫌なんだよ』
「一時間の使い方を、進路の話に限定する必要はありません」
美月が答えた。
「話すかどうかも含めて、三人で決めてください」
『それでは、何のために行くのか分からない』
正志が言った。
「参加すれば必ず家族の問題が解決する、という企画ではありません」
『解決しないかもしれないことに、一泊するんですか』
「はい」
『正直ですね』
「結果を約束できないからです」
正志は腕を組んだ。
彩が小さく笑った。
『私は行ってもいい』
「理由を聞いてもいいですか」
『解決しなくてもいいって言ったから』
由紀は娘を見た。
『本当に、それでいいの?』
『また確認する』
『大事なことだからでしょう』
『今、行ってもいいって言ったのに』
二人の声が重なる。
正志のスマートフォンが震えた。
彼は画面へ視線を落とし、すぐに裏返した。
美月は三人の姿を見つめた。
以前、東京のカフェで見かけた家族だった。
父親の横顔、母親が広げていた学校案内、娘が細い紙包みを折っていた指。
偶然に気づいたのは、面談が始まってすぐだった。
三人は美月を覚えていない。
美月も、あの日に会話を交わしたわけではない。ただ隣の席から見ていただけだ。
選考理由に、その偶然を含めるべきではない。
「最後に確認します」
美月は三人を順番に見た。
「お父様、お母様、彩さん。それぞれが、参加するかどうかを答えてください」
『参加します』
正志が答えた。
『私も参加します』
由紀が続く。
彩は一度、両親の顔を見た。
『参加します。ただし、行きたくない場所には行かないって言ってもいいなら』
「事前に相談してください。当日でも、安全上問題がなければ変更できます」
『分かりました』
三人の返事を確認してから、美月は面談を終えた。
*
参加決定を村へ伝えると、最初に澄江から電話がかかってきた。
『家族構成、聞いてもええですか』
「父親、母親、中学二年生の娘さんです」
『食べられんものは?』
「事前の申告では、娘さんが蕎麦に軽いアレルギー反応を起こしたことがあるそうです。蕎麦は完全に避けます」
『軽いいうても、アレルギーは軽う考えたらあかんよ』
「分かっています。調味料や加工品も確認します」
『厨房で蕎麦は打ってへんけど、同じ保存棚に蕎麦粉を置いとります。別の場所へ移した方がええですね』
「保管場所の清掃費も計上します」
『そんなもんまで、お金を取るんですか』
「作業が増えますから」
『いつも掃除しとる場所ですよ』
「通常の掃除とは違います。使う器具、布巾、食器も分けて確認してください」
電話の向こうで、澄江が黙った。
『田中さん』
「はい」
『蕎麦を出さんかったら、それでええと思ってました』
「私も、申告書を見た時はそう考えました」
『分からんことは、怖いですね』
「はい。ご家族へ症状の詳細と、緊急時の対応を確認します。受け入れが難しい場合は、参加者を変更します」
『断るんですか』
「安全を確保できなければ」
『最初の一組やのに?』
「最初だからです」
翌日、由紀との確認で、彩が過去に蕎麦を食べたあと、唇の腫れと咳が出たことが分かった。医療機関では摂取を避けるよう指示され、本人は処方された緊急用の薬を持っている。
美月は診療所の医師、保険会社、澄江と協議した。
山路館の厨房内から蕎麦粉を一時的に撤去し、調理器具と食器を分ける。調味料の原材料表示をすべて確認する。本人の薬は保護者が管理し、緊急時の搬送経路を事前に共有する。
それでも、危険を完全になくすことはできない。
美月は由紀へそのことを伝えた。
『分かっています。家でも外食でも、完全には避けられません』
「参加を取りやめる選択もできます」
『彩と話しました。本人は行きたいと言っています』
「お父様とも話しましたか」
『夫は、私が判断すればいいと』
「ご家族全員の判断が必要です」
電話の向こうで、由紀が息をついた。
『こういうことは、いつも私が確認するんです。学校にも、病院にも、店にも』
「お父様にも説明します。三人で確認したうえで、同意書へ署名してください」
『そこまで必要ですか』
「必要です」
由紀の返事には、疲れがにじんでいた。
美月は、彼女へ追加の仕事を渡している。
けれど、母親だからという理由で安全管理を任せるわけにはいかなかった。
その日の夜、正志を含めた三人と再びオンラインで話し、緊急対応を確認した。
正志は最初、由紀が把握しているから大丈夫だと言った。
「彩さんの薬が入っている場所をご存じですか」
美月が尋ねると、正志は答えられなかった。
「由紀さんが入浴中や、別行動中に症状が出る可能性もあります」
『分かりました。僕も確認します』
由紀が鞄から薬を取り出し、使い方を説明する。
彩は、両親の間で無言のまま聞いていた。
説明が終わると、正志は薬を自分の手に取った。
『これは、どちらが持つ?』
『普段は私』
由紀が答える。
『山へ入る時は、僕が持つよ』
『使い方、分かった?』
『もう一度確認する』
短い会話だった。
美月は、確認表の父親の欄にも印を付けた。
*
実施日の朝、清澄村はよく晴れていた。
山路館の玄関には、颯太が作った三つの木箱が並んでいる。
杉の板を組んだ、蓋のない小箱だった。スマートフォン一台と、財布や時計が入る大きさになっている。
正面には、小さな札が差し込める。
「思ったより立派ですね」
美月は一つを持ち上げた。
表面は滑らかに磨かれ、杉の香りが残っている。
「端材で作っただけです」
颯太は箱の角を指でなぞった。
「釘を使わず、組んであります」
「一個いくらですか」
「また値段ですか」
「請求書をください」
「材料は端材ですよ」
「加工した時間があります」
「三つで一時間半です」
「時間単価は、林業体験と同じでいいですか」
「こんな箱に、そこまで出すんですか」
「必要な備品です」
「試行が終わったら、旅館で使ってください。それでええです」
美月は箱をテーブルへ戻した。
「物で受け取ることと、無料にすることは違います」
「田中さん、無料の話になると急に頑固ですね」
「父の会社では、知り合いだからという理由で、支払いを待ってもらうことが何度もありました」
口に出したあとで、美月は少し驚いた。
颯太には、父の会社の話を詳しくしていない。
「それで?」
「待ってもらっているうちに、払えなくなりました」
「お父さんの会社が?」
「はい」
「相手も困ったでしょうね」
「何人も」
颯太は木箱を見た。
「請求書、出します」
「お願いします」
「でも、必要以上には払いませんよ」
「必要な金額を出してください」
「田中さんのお父さんも、こんな感じやったんですか」
「何がですか」
「払うって言い張るところ」
「反対です。払いたくても払えない人でした」
美月は木箱の札へ、三人の名前を書いた。
正志。
由紀。
彩。
「だから、最初に払える形を作りたいんです」
颯太はそれ以上尋ねなかった。
*
午前十一時四十分、井上のワゴン車が山路館の前へ到着した。
予定より二十分遅れている。
助手席から井上が降り、後部の扉を開けた。
「駅前で、別の客に声をかけられて時間がかかりました」
「別の客?」
「タクシーと間違えられたんです。村まで乗せてくれって」
「断りましたか」
「途中のバス停まで乗せました」
「試行の送迎中ですよ」
「困っとる人を置いていけんでしょう」
美月は時計を見た。
予定表は、到着から昼食まで二十分しか余裕を取っていない。
森林散策の開始時刻にも影響する。
「次回から、送迎中だと分かる表示を車に付けます」
「俺が悪いんですか」
「責めているのではありません。二つの依頼を同時に受けない仕組みが必要です」
「都会の客を優先して、地元の人を断れというんですか」
「それも違います」
美月は言葉に詰まった。
試行の一組だけを予定どおり運ぶために、普段の村の助け合いを止める。そんな計画では、住民会議の条件に反する。
「予備時間を増やします」
「それがええと思います」
「到着が遅れる場合の連絡方法も決めます」
「運転中は電話に出ませんよ」
「同乗する人が連絡するか、自動通知を使います」
「人を増やしたら、人件費も増えます」
「記録しておきます」
「やっぱり細かいな」
井上が笑ったところで、車内から少女の声がした。
「降りてもいいですか」
「すみません。どうぞ」
彩が最初に降りた。
灰色のパーカーに黒いパンツ、足元は新品らしいトレッキングシューズだった。肩から小さなバッグを下げ、右手にスマートフォンを持っている。
続いて由紀が降りた。大きな旅行鞄と保冷用の袋を持っている。
正志は車内で電話をしていた。
『ですから、月曜の朝に確認します。今、移動中なので』
通話を切ると、美月へ頭を下げた。
「遅れてすみません」
「井上さんの送迎中に、別の対応がありました。ご家族の責任ではありません」
美月は三人の顔を見た。
カフェで見かけた時と、ほとんど同じ並びだった。
正志は仕事用のスマートフォンを手にし、由紀は三人分の荷物を確認し、彩は少し離れた場所から二人を見ている。
「田中美月です。オンラインではお会いしましたが、改めてよろしくお願いします」
三人も順番に名乗った。
彩の視線が玄関の木箱へ向く。
「あれにスマホを入れるんですか」
「入れるかどうかは、あとで決めます」
「今じゃないんだ」
「一時間を始める時に使います。それまでは自由です」
正志が木箱を手に取った。
「鍵はないんですね」
「預かるための箱ではありません。自分の手元から少し離して置くためのものです」
「盗難は?」
「ご家族ごとの部屋で使ってください。貴重品を入れたまま離れないようにお願いします」
「それなら、箱でなくてもいいのでは?」
正志の指摘は正しかった。
「はい。箱でなくても構いません」
「これは象徴みたいなものですか」
「使い方を決めるための道具です」
颯太が横から言った。
「要らんかったら、薪にもできます」
「薪にするんですか」
彩が驚く。
「木は、使い方を変えられますから」
「もったいない」
「なら、使ってください」
彩は自分の名前が書かれた箱を持ち上げた。
顔へ近づけ、匂いを嗅ぐ。
「森みたいな匂いがする」
「杉です」
颯太が答えた。
「今日歩く山にも、同じ木があります」
*
昼食は、山路館で用意したおにぎりと鶏肉の煮物、野菜の味噌汁だった。
蕎麦を含む食材は使っていない。
澄江は原材料を記した紙を、一品ずつ添えた。
「ここまでしてもらって、すみません」
由紀が何度も頭を下げた。
「謝らんでええんですよ」
澄江は味噌汁を置いた。
「知らんかったら、普通のしょうゆにも蕎麦が入ることがあると思ってました。今回は入ってませんけど、勉強になりました」
「私も、いつも店の方へ確認するのが申し訳なくて」
「確認せん方が怖いです」
「でも、忙しい時に聞くと、嫌な顔をされることもあります」
「うちも忙しい時は、顔に出るかもしれません」
澄江は笑った。
「それでも聞いてください。答えられんものは、出しません」
彩が味噌汁を一口飲んだ。
「おいしい」
「ほんま?」
「うん」
「よかった。味が薄い言われたらどうしようかと思ってました」
「母は、いつも私に確認するんです」
彩が言った。
「おいしい? 大丈夫? 何か変じゃない? って」
「心配やから聞くんでしょう」
「食べる前から聞く時もある」
由紀が困ったように笑った。
「咳が出たことがあるから」
「分かってる。でも、何回も聞かれると、食べ物より、お母さんの顔ばっかり見るようになる」
由紀の箸が止まった。
「ごめんね」
「今、謝ってほしいって言ったわけじゃない」
「じゃあ、何て言えばいいの?」
「また、それ」
彩はスマートフォンを手に取り、画面を開いた。
正志も仕事用の端末を確認している。
三人の間へ沈黙が落ちた。
美月は声をかけなかった。
家族を会話させるために来たわけではあるが、食事のたびに話をまとめる役を引き受けるつもりはなかった。
澄江も何も言わず、自分の湯呑みに茶を注いだ。
やがて、正志がスマートフォンを伏せた。
「彩」
「何」
「薬は、今日、僕が持っている。山へ行く時も」
「知ってる」
「使い方も確認した」
「うん」
「それだけ」
彩は父親を見た。
「お父さんが持つの、初めてだね」
「そうだな」
由紀が何か言いかけ、やめた。
三人は再び食事を始めた。
*
午後一時半、颯太の案内で山へ入った。
参加者は三人の家族、美月、颯太の五人だった。森下は緊急連絡のため役場に残り、澄江は夕食の準備へ戻った。
歩くのは、佐藤林業が管理する杉林の手前までの往復二時間の道だった。
危険な斜面には入らず、林道から外れない。出発前に天候、服装、薬の携行、緊急連絡手段を確認した。
「圏外になる場所があります」
颯太が説明する。
「緊急時は、俺の無線で麓の作業場へ連絡します。足を痛めた場合は、林業用の車両を呼びます」
「熊はいますか」
正志が尋ねた。
「目撃はあります」
「出たら?」
「距離を取り、走らずに戻ります。今日は先に音を出しながら歩きます」
「危険なんですね」
「山ですから」
颯太の答えは簡潔だった。
「パンフレットには、初心者向けとありました」
「初心者でも歩けます。危険がないとは書いてません」
「正志さん」
由紀が小声で言った。
「確認しているだけだよ」
正志はそう答えたが、表情は硬かった。
林道へ入ると、空気が変わった。
道の両側に杉が並び、まっすぐな幹が高いところまで続いている。枝葉に遮られ、昼間でも薄暗い。
彩は最初、スマートフォンで何枚も写真を撮った。
杉の幹、足元の苔、細い沢。
「その写真を公開する時は、人の家や顔が写っていないか確認してください」
美月が声をかける。
「木しか写ってません」
「位置情報も、できれば外してください」
「どうして?」
「立ち入りが制限されている場所へ、写真を見た人が入る可能性があります」
「でも、ここは普通の道でしょ」
「私有林です」
颯太が答えた。
「歩いとる道も、両側の山も、持ち主がいます。今日は許可を取って入ってます」
「山にも持ち主がいるんだ」
「東京の土地と同じです」
「木一本ずつも?」
「土地の持ち主が植えた木です。ただ、境界が分からん場所もある。持ち主が村を出て、連絡が取れん山もあります」
彩はスマートフォンを下ろした。
「自然なのに、人が作ったんですか」
「この辺りの杉林は、ほとんど人が植えました」
「じゃあ、自然じゃないの?」
「どこからを自然と呼ぶかによります」
颯太は一本の杉へ手を当てた。
「植えたのは人です。でも、木を伸ばすのは人やない。雨も、土も、虫も必要です。放っておけば元の山に戻るかというと、簡単でもない」
「誰も切らなかったら?」
「木が混みすぎて、地面まで光が届かん。草が生えず、土が流れやすくなる場所もあります」
「切ったら環境に悪いと思ってた」
「切り方によります」
彩は父親を振り返った。
「学校で、森林伐採を減らしましょうって習った」
「熱帯林の話じゃないか」
正志が答える。
「日本の山は別なの?」
「僕に聞かれても分からない」
「お父さんでも分からないこと、あるんだ」
「あるよ。何でも知っているわけじゃない」
彩は少し意外そうな顔をした。
正志も、自分で口にした言葉を確かめるように黙った。
林道の途中で、三人は小さな沢の前に座った。
颯太が十五分の休憩を告げる。
彩は倒木へ腰を下ろし、沢の流れを撮影した。
由紀は水筒を配り、正志は仕事用のスマートフォンを確認する。
「お父さん、ずっと仕事するの?」
彩が尋ねた。
「連絡が来ていないか見ただけだ」
「来てた?」
「一件」
「返すの?」
「急ぎではないから、あとで」
正志は画面を閉じた。
彩が自分のスマートフォンを見た。
「友達から七件来てる」
「返す?」
由紀が尋ねる。
「あとで」
彩も画面を閉じた。
美月は、二人の動作が似ていると思った。
指で画面を消し、端末を膝の上へ伏せる。
親子であることは、顔よりも、そうした癖に表れることがある。
*
帰り道で、予定外のことが起きた。
彩が道端に落ちていた小さな木片を拾った。
「これ、持って帰ってもいいですか」
長さ十センチほどの杉の枝だった。
「落ちとる枝ならええですよ」
颯太が答える。
「何か作れますか」
「削れば、鉛筆立てくらいにはなるかもしれません」
「やってみたい」
颯太は時計を見た。
予定では、四時までに山路館へ戻り、休憩のあと村民会館へ移動することになっている。
「今日は道具を持ってきてません」
「佐藤さんの作業場にはあるんですか」
「あります」
「行ったら駄目?」
彩が尋ねる。
颯太は美月を見た。
「予定にありません」
美月は答えた。
「作業場の安全確認もしていません」
「十分だけでも?」
「木を削るなら、十分では終わりません」
彩の顔から期待が消えた。
「はい」
その返事を聞いた颯太が、木片を受け取った。
「俺が預かります。夕食のあと、旅館へ持っていきます」
「佐藤さんが作るんですか」
「最初の切り方だけ整えます。続きは明日、時間があれば」
美月は予定表を開いた。
「明日の朝は、大西さんの川沿い案内があります」
「朝食前ならできます」
「颯太さんの勤務時間は?」
「朝は七時から作業場にいます」
「追加の体験費が必要です」
「十分か二十分ですよ」
「道具の準備と片づけもあります」
「また始まった」
颯太が笑った。
「今日は持ち帰って、次に来た時に作ればいい」
正志が言った。
「次に来るかは決まってない」
彩が答える。
「気に入ったなら、また来ればいいだろう」
「そういうの、簡単に言わないで」
「どうして?」
「お父さんは、来週になったら仕事が忙しいって言うから」
正志の表情が変わった。
「今は来週の話をしていない」
「いつもそうじゃん。今度行こう、時間ができたらって」
「本当に時間ができない時もある」
「だから、約束しなければいいのに」
「彩」
由紀がたしなめる。
「何」
「お父さんだって、来られるように仕事を調整したのよ」
「お母さんは、すぐお父さんの説明をする」
「説明じゃなくて――」
「一回、自分で話させたら?」
彩の声が林道に響いた。
颯太が足を止める。
「ここは道幅が狭いから、話すなら少し先の広い場所へ行きましょう」
正志が顔を上げた。
「話すつもりはありません」
「なら、歩きましょう」
颯太はそれ以上口を挟まなかった。
五人は再び歩き始めた。
由紀は正志と彩の間を歩こうとしたが、道幅が狭く、横には並べなかった。
*
村民会館の調理室へ着いたのは、予定より三十五分遅い午後五時五分だった。
フミと春江は、すでに野菜の準備を終えていた。
「遅かったな」
フミが壁の時計を見た。
「申し訳ありません。山での移動に時間がかかりました」
美月が頭を下げる。
「謝るんは田中さんやなくて、案内した人やろ」
「俺です。すみません」
颯太が答えた。
「途中の休憩が長かったんか」
「話をしながら歩いとったら、遅れました」
「山の中で話さんでも、ここで話したらええのに」
「それは、そうですね」
颯太は反論しなかった。
春江が調理台の上を指した。
「野菜は切ってませんよ。家族で作ってもらう話でしたから」
夕食は、野菜を使ったカレーだった。
ジャガイモ、ニンジン、タマネギ、ナス、トマト。肉は使わず、蕎麦を含まないルーと香辛料を用意している。
「カレーなら、家でも作ります」
彩が言った。
「ここでも作ります」
フミが包丁を三本並べた。
「田舎へ来たからいうて、毎回知らん料理を食べなあかんことはない」
「山菜とかじゃないんですか」
「春の山菜を夏に出せ言われても困る。採れる時に食べるもんや」
「スーパーには一年中あります」
「あれは誰かが保存したり、別の場所で採ったりしとるんやろ。ここにあるもんを、いつでも出せると思われたら困る」
フミはニンジンを彩へ渡した。
「今日は、この畑で採れたもんを使う。嫌いな野菜があるなら、先に言うて」
「ナスが少し苦手」
「ほんなら、小さく切る?」
「入れないのは?」
「作る鍋を分けるほど、台所は広うない。食べる時によけてもええ」
彩はナスを見た。
「小さく切ります」
三人は調理台を囲んだ。
正志はタマネギの皮をむき、由紀はジャガイモを洗い、彩はニンジンを切る。
由紀が娘の手元を見た。
「指、気をつけて」
「分かってる」
「左手を丸めて」
「学校で習った」
「でも、その持ち方――」
「由紀さん」
春江が声をかけた。
「トマトを切ってもらえますか」
「あ、はい」
由紀は彩から離れた。
彩の包丁が、まな板へ一定の音を立てる。
形は揃っていない。大きなものも、小さなものもある。
フミは直さなかった。
「煮えにくい大きさのだけ、もう一回切ろか」
そう言い、彩の横で一つだけ見本を見せた。
「全部同じじゃなくていいんですか」
「同じ方が煮えやすいけど、家で食べる分まで定規で測らん」
「田中さんなら測りそう」
彩が言った。
調理室の端で記録表を書いていた美月は顔を上げた。
「必要なら測ります」
「やっぱり」
「でも、今日は測りません」
彩が笑った。
美月もペンを置いた。
*
カレーを煮込む間に、一時間の使い方を決めることになった。
三つの木箱を、食堂の隅に置く。
美月は三人へ小さなカードを渡した。
『置くもの』
『向き合うもの』
二つの欄がある。
「書いた内容は、見せなくても構いません」
美月は説明した。
「家族で共有するかどうかも、それぞれが決めてください。一時間の途中でやめても構いません。その場合は、やめた理由をあとで聞かせてください」
「スマートフォンを入れなくてもいいんですよね」
正志が確認する。
「はい」
「仕事用と私用、二台ある場合は?」
「別のものとして考えてください」
「片方だけ置いてもいい?」
「構いません」
「それでは、意味が薄くなりませんか」
「何を置くかは、ご本人が決めます」
正志はカードへ何かを書いた。
由紀は書き始めては消し、何度も迷っている。
彩はすぐに書き終えた。
三人が木箱の前へ来る。
正志は私用のスマートフォンを入れた。仕事用はポケットに残している。
由紀はスマートフォンと腕時計を箱へ入れた。
彩はスマートフォンを持ったまま、折り畳んだ紙を入れた。
「スマホじゃないんですね」
正志が言った。
「何を置くかは自分で決めるんでしょ」
「何を入れたんだ?」
「見せなくていいって言われた」
「聞くことくらいはいいだろう」
「お父さんは、仕事のスマホを持ってるじゃん」
「緊急の連絡があるかもしれない」
「私にも友達から緊急の連絡があるかもしれない」
「中学生の連絡と仕事は違う」
「何が違うの?」
「責任がある」
「私には責任がないの?」
正志の表情が硬くなる。
「開始前から言い合わないで」
由紀が間へ入った。
「せっかくここまで来たんだから、一時間だけでも穏やかに――」
「一時間、穏やかに過ごすことが目的ではありません」
美月が言った。
三人が美月を見る。
「言いたいことがあるなら、言って構いません。ただし、相手に答えを強制しない。途中で離れる時は、一言伝える。それだけ守ってください」
「喧嘩してもいいんですか」
彩が尋ねる。
「物を投げたり、誰かを傷つけたりしなければ」
「田中さん、思い切ったことを言いますね」
由紀は困ったように笑った。
「話さないことを選んでも構いません」
調理室の時計が、午後六時十分を指した。
美月が開始を告げる。
三人は向かい合って座った。
何を話すかは決めていない。
フミと春江は別室へ移り、颯太も外へ出た。美月は調理室の隅に残ったが、会話の記録は取らないことになっている。
最初の五分、誰も話さなかった。
鍋の中で、カレーが小さく煮立っている。
由紀が立ち上がり、火加減を確認しようとした。
「調理は私が見ます」
美月が言う。
「でも、吹きこぼれたら」
「その時は対応します」
「私、何をしたらいいんでしょう」
「何もしなくても構いません」
由紀は椅子へ戻った。
正志が腕を組み、窓の外を見る。
彩はスマートフォンを持っているが、画面を開かない。
十分が過ぎた。
「何か話す?」
由紀が尋ねる。
「お母さんが話したいなら」
彩が答える。
「私は、彩の進路のことを――」
「やっぱり、それなんだ」
「話さないと決められないでしょう」
「今日は決めなくていいって言われた」
「今日決めなくても、期限は来るの」
「分かってる」
「分かってるなら、資料くらい見て」
「見たよ」
「何も言わないじゃない」
「言ったら、お父さんが無理だって言うから」
正志が窓から顔を戻した。
「まだ無理とは言っていない」
「京都の学校は遠いって言った」
「距離の話をしただけだ」
「学費も高いって」
「費用を確認するのは当然だろう」
「ほら、もう無理って顔してる」
「顔で決めつけるな」
「お父さんだって、私がスマホを見たら、話を聞く気がないって決めつけるじゃん」
「実際、見ているだろう」
「今は見てない」
彩はスマートフォンをテーブルへ置いた。
「持ってるけど、見てない。お父さんは仕事のスマホを持ってるだけで、責任がある人になるの?」
「そんなことは言っていない」
「じゃあ、何で私の連絡より、お父さんの仕事の方が大事なの?」
「生活に関わるからだ」
「私の学校も、これからの生活に関わる」
正志は答えなかった。
由紀が娘の前にある木箱を見た。
「箱に入れたの、進路希望調査?」
彩の表情が変わった。
「見せなくていいって言ったよね」
「紙の色が同じだったから」
「お母さん、すぐ見る」
「心配だから」
「何が心配なの?」
「期限に間に合わないこと。あとで後悔すること。選べる学校が減ること」
「私が後悔するんじゃなくて、お母さんが後悔したくないんでしょ」
「そんな言い方――」
由紀の声が震えた。
「私は、あなたが困らないようにと思って、学校のことも、塾のことも、ずっと調べてきた。お父さんは忙しいし、先生は本人と家庭で話してくださいと言うし。誰かがやらないと進まないから」
「頼んでない」
「頼まれなくても、親だからするの」
「それで、私が何を言っても、調べた方が正しいってなる」
「正しいなんて言ってない」
「言ってるのと同じ」
由紀が立ち上がった。
「少し外へ出ます」
「理解しました」
美月が答えた。
由紀は自分の木箱から何も取らず、調理室を出た。
襖が閉まる。
彩は俯き、正志は由紀が出ていった方を見た。
「追いかけないの?」
彩が言った。
「今は、一人にした方がいい」
「いつもそう」
「何が?」
「お母さんが怒ったら、お父さんは黙る」
「僕が何を言っても、余計に怒るからだ」
「それを、お母さんに聞いたことある?」
正志は答えなかった。
ポケットの中で、仕事用のスマートフォンが震えた。
正志は取り出し、着信画面を見る。
指が応答の位置で止まる。
「出れば」
彩が言った。
「いいのか」
「私が決めることじゃない」
正志は立ち上がった。
「仕事の電話に出ます」
美月へそう伝え、廊下へ出た。
残された彩は、テーブルの木目を指でなぞった。
「一人になっちゃった」
「私もいます」
「田中さんは、家族じゃない」
「はい」
「これ、失敗ですか」
「何がですか」
「一時間。誰も向き合ってない」
「彩さんは、何に向き合うと書きましたか」
「見せなくていいんでしょ」
「はい」
「なら、聞かないで」
「分かりました」
美月はそれ以上尋ねなかった。
鍋から湯気が上がる。
彩はしばらく黙っていた。
「木箱に入れたのは、進路希望調査です」
「はい」
「向き合うものには、お父さんとお母さんって書いた」
「そうですか」
「でも、二人とも出ていった」
「戻るかもしれません」
「田中さんは、戻ると思う?」
「分かりません」
「普通、大丈夫って言わない?」
「大丈夫かどうか、私には決められません」
彩は小さく息を吐いた。
「田中さんって、安心させるの下手ですね」
「よく言われます」
「誰に?」
「今、彩さんに」
彩は笑いかけて、やめた。
*
二十分後、由紀が戻ってきた。
目元が赤くなっていた。
「ごめんなさい。外で、北村さんと話してました」
「謝らなくていいです」
彩が答えた。
由紀は娘の向かいへ座った。
「謝ってほしくないって言われたから、もう謝らない」
「無理に言わなくていい」
「うん」
二人の間に、また沈黙が落ちた。
正志はまだ戻ってこない。
「お母さん」
「何?」
「私、京都のデザイン科に行きたいって、決めたわけじゃない」
「そうなの?」
「見学に行きたいって言っただけ」
「でも、パンフレットに丸を付けてたから」
「見に行ってから考えたいの」
「そう言ってくれたら――」
「言ったよ」
由紀が口を閉じた。
「お母さんが、通学時間と学費を調べて、現実的じゃないって言った」
「私は、寮へ入る可能性もあるから、先に確認しようと思って」
「だから、それを一緒に調べたかった」
「彩と?」
「私の学校でしょ」
由紀はテーブルの上へ両手を置いた。
「分かった」
「すぐ決めないで」
「何を?」
「分かったって言ったら、またお母さんの中で結論になる」
「じゃあ、何て言えばいい?」
「聞いた、でいい」
由紀は娘を見た。
「聞いた」
彩もうなずいた。
「うん」
正志が戻ってきたのは、開始から四十七分が過ぎた頃だった。
「遅くなって、すみません」
木箱の前へ座る。
「工場の設備に不具合が出た。担当者だけで対応できることになったから、月曜に確認する」
誰も責めなかった。
正志はポケットから仕事用のスマートフォンを出し、電源を切った。
私用の端末が入っている箱へ重ねる。
「今から置いても、十三分しかない」
彩が言った。
「十三分はある」
正志は椅子へ座った。
「彩。京都の学校の見学、行きたいんだな」
「お母さんから聞いたの?」
「今、初めて聞いた」
「前にも言った」
「僕は、通えるかどうかの話しか聞いていなかった」
「それは、お父さんがそこしか聞かなかったから」
正志は反論しようとして、口を閉じた。
「そうかもしれない」
「すぐ認めるの、ずるい」
「なら、どう答えたらいい?」
「知らない」
「僕も、今は分からない」
正志は両手を組んだ。
「見学へ行くことには反対しない。ただ、僕も一緒に行くと言ったら嫌か?」
「仕事は?」
「日程を先に決める」
「行けなくなったら?」
「その時は、行けないと早めに言う」
「いつも前の日に言う」
「今回は、一週間前までに判断する」
「一週間前なら、キャンセルできる?」
由紀が尋ねた。
「学校見学にキャンセル料はないでしょう」
「交通と、前泊が必要ならホテルも」
正志は考えた。
「そこを三人で調べよう」
彩はすぐには返事をしなかった。
「分かった、じゃなくて?」
「聞いた」
正志が言う。
彩が母親を見た。
由紀は少し笑った。
調理室の時計が、午後七時十分を指した。
一時間が終わった。
*
夕食のカレーは、予定より四十五分遅れて完成した。
煮込みすぎたナスは形がなくなり、ジャガイモの一部はまだ少し硬かった。
「火を止めるのが遅かったな」
フミが鍋をのぞき込んだ。
「私が話に気を取られました」
美月が言う。
「由紀さんに任せといたらよかったんや」
「体験中の調理管理は運営側の仕事です」
「食べられるなら、ええけどな」
フミは皿へカレーをよそった。
全員で食卓を囲む。
正志は最初の一口を食べ、しばらく黙っていた。
「どう?」
由紀が尋ねかけ、口を閉じた。
彩が父親を見る。
「おいしい?」
「ジャガイモが硬い」
正志は正直に答えた。
「それだけ?」
「ナスは、どこに入っているか分からない」
「小さく切ったから」
「でも、味はおいしい」
「最初に言ってよ」
「聞かれたことから答えたんだ」
「順番が変」
三人が笑った。
美月もカレーを口に運んだ。
確かにジャガイモは硬かった。
商品として提供するなら、失敗と記録すべき状態だった。
しかし、食べられないほどではない。
「田中さん」
フミが言った。
「今、失敗いう顔をしたやろ」
「ジャガイモの加熱時間が足りませんでした」
「食べられる?」
「食べられます」
「ほんなら、今日はこれでええ。次は小さく切る」
「次もフミさんが担当できますか」
「月一回までやったらな。それ以上は畑がある」
「今日の準備時間は?」
「朝から二時間。ここへ来てから三時間」
「合計五時間ですね」
「後片づけもあるで」
「それも記録します」
「客の前で金の話をするんか」
「必要な費用ですから」
正志が箸を置いた。
「今回、僕たちは無料で参加していますが、本来なら、いくらくらいなんですか」
「予定価格は、一家族十二万円です」
「一泊で?」
由紀が驚いた。
「はい。交通費は含みません」
「高いですね」
「現在の内容を、関わる方へ適正に支払って提供する場合の金額です」
「十二万円でも利益が出るんですか」
「初回と同じ準備を毎回行えば、出ません」
「では、続けられない?」
「内容、回数、人数を見直します。ただ、無料の手伝いを増やして価格を下げる方法は選びません」
正志は食卓を囲む村の人たちを見た。
「このカレーにも、人件費が入っているんですね」
「入ります」
「家で由紀が作る夕食には、人件費を考えたことがなかった」
由紀が夫を見た。
「今、その話をする?」
「思ったから言っただけだ」
「言われても、どう答えればいいか分からない」
「答えなくていい。僕も、何をしたらいいか考える」
「食器を洗ったらええ」
フミが言った。
正志が驚く。
「今ですか」
「今食べとるから、あとでや。何をしたらええか分からん時は、目の前の汚れた皿から片づけたらええ」
正志は、少し遅れて笑った。
「承知しました」
「返事だけやったら、誰でもできるで」
食事のあと、正志と彩が食器を洗った。
由紀は手を出しかけたが、途中でやめた。
水切り籠へ置かれた皿は、重なり方が不揃いだった。
由紀はそれを直さなかった。
*
夜八時半、参加者と運営側は山路館の庭へ出た。
星を見る予定だった。
しかし、山の上には雲が広がっていた。
「何も見えませんね」
正志が空を見上げた。
「天気は選べませんから」
颯太が答える。
「星空観察も、料金に入っていますよね」
「星が見えることを保証する料金ではありません」
美月が言うと、正志が笑った。
「田中さんらしい答えですね」
「説明文にも、天候によって中止または変更と記載しています」
「読んでいます。責めているわけではありません」
「なら、よかったです」
予定していた星空観察は、川辺を歩く時間へ変更した。
全員が懐中電灯を持ち、足元を照らす。
川沿いでは、旅館の明かりもすぐに届かなくなった。
雲の向こうに月があるらしく、空全体が薄く明るい。
「真っ暗じゃないんだ」
彩が言った。
「目が慣れると、見えてきます」
颯太が懐中電灯を消した。
ほかの人も順番に消す。
暗闇の中で、川の音だけが大きくなる。
「写真を撮っても、たぶん何も写らないよ」
正志が彩へ言った。
「撮らない」
「スマホは?」
「部屋に置いてきた」
「自分で?」
「うん」
由紀が尋ねる。
「どうして?」
「聞かないで」
「ごめん」
「謝らなくていい」
「じゃあ――」
「聞いた、でいい」
由紀は少し黙った。
「聞いた」
三人の姿は、暗闇の中では輪郭しか見えなかった。
誰がどんな顔をしているのか、美月にも分からない。
川上から、冷たい風が吹いてきた。
彩が小さくくしゃみをする。
「上着、持ってきた?」
由紀が尋ねる。
「持ってる」
「着た方がいいんじゃない?」
「自分で決める」
「風邪を引いたら――」
由紀は言葉を止めた。
少しして、彩がバッグから上着を出した。
「寒いから着る」
「うん」
由紀はそれだけ答えた。
*
翌朝、彩は六時四十分に一階へ下りてきた。
手には、颯太から預かった杉の木片がある。
颯太は旅館の裏庭へ、小さな作業台と手工具を運んでいた。
「作業場へは行かないんですか」
彩が尋ねる。
「安全確認ができていないから、今日はここです」
颯太は刃物の使い方を説明した。
木片を固定し、角を少しずつ削る。彩が一人で刃物を使う時は、必ず颯太が隣に付く。
「鉛筆立てにするには、穴を開ける機械が要ります。今日は外側を整えるところまでです」
「完成しないんですか」
「時間が足りません」
「持って帰っても、家に道具がない」
「なら、次に来た時に続きをします」
「次に来られなかったら?」
颯太は少し考えた。
「俺が仕上げて送ります」
「それじゃ、私が作ったことにならない」
「完成せんまま持って帰るのも、一つです」
「途中なのに?」
「途中のものは、失敗ですか」
彩は木片を見た。
「分からない」
「なら、今日は分からんまま持って帰ったらええ」
颯太が木片を作業台へ固定する。
彩は小さな鉋を両手で持ち、ゆっくり押した。
薄い木屑が、くるりと丸まりながら落ちる。
「きれい」
「力を入れすぎんように」
「もう一回やっていい?」
「時間までなら」
正志と由紀も庭へ出てきた。
由紀は娘の手元へ近づこうとしたが、作業台から少し離れた場所で止まった。
正志はスマートフォンを出し、写真を撮ろうとした。
「顔は撮らないで」
彩が言う。
「手元だけなら?」
「それならいい」
正志は、木片と娘の両手だけが入るように撮った。
撮影後、画面を彩へ見せる。
「公開してもいい?」
「送るだけなら」
「家族の共有だけにする」
「うん」
美月は少し離れた場所から、そのやり取りを記録した。
写真は撮らなかった。
*
朝食後、大西が家族を川沿いへ案内した。
古い道と新しい道を見せるだけだと言っていたが、途中で足を止め、ダム建設前の集落があった方向を指した。
「あの山の向こうに、家があった」
正志が尋ねる。
「今は水の下ですか」
「家があった場所は水の下やない。地滑りで住めんようになって、別の場所へ移った」
「ダムで沈んだのでは?」
「全部が同じ話やない」
大西の声が硬くなる。
「外から来る人は、何でもダムで沈んだ村いう話にまとめたがる。水に沈んだ土地もある。山が崩れた土地もある。補償を受けて先に移った家もある。最後まで残った家もある」
「すみません」
「謝る前に、分けて覚えてくれ」
「はい」
「分からんことは、分からんと言うたらええ」
正志はうなずいた。
大西は彩へ顔を向けた。
「お嬢ちゃんは、何か聞きたいことあるか」
「どうして村に残ったんですか」
由紀が娘を見る。
「失礼じゃない?」
「聞いてええ」
大西が答えた。
「移る場所がなかったから。土地を離れたくなかったから。出ていく決心をするのが怖かったから。全部や」
「村が好きだから、じゃないんですか」
「好きな日も、嫌いな日もある」
「嫌いでも住むんですか」
「家族かて、毎日好きやないやろ」
彩が両親を見た。
正志と由紀は、どちらも否定しなかった。
「嫌いになったら、出ていってもいい?」
「出ていったらええ」
大西は即座に答えた。
「帰りたくなったら、帰ってきたらええ。帰ってこんでもええ。ただ、出た人間のことを、最初からおらんかったことにするんは違う」
「村の人は、そう思ってるんですか」
「全員が同じことを思う村なんかない」
大西は杖の先で、川辺の石を動かした。
「わしが言えるんは、わしのことだけや」
*
正午前、最初の滞在は終了した。
山路館の食堂で、参加者と運営側が振り返りを行った。
美月は満足度を五段階で尋ねるアンケートだけでなく、途中でやめたかった活動、負担に感じたこと、説明が足りなかったことも質問した。
正志は、森林散策を「満足」と評価した。
一方で、スケジュールの遅れと、費用に対する体験内容の少なさを指摘した。
「十二万円を払うなら、もう少し明確な成果が欲しいと思います」
「成果とは?」
「家族関係が改善したとか、スマートフォンの使用時間が減ったとか」
「今回、改善したと思いますか」
「一泊では分かりません」
「では、改善したと宣伝することには同意できませんか」
「できません」
「ありがとうございます」
美月はそのまま記録した。
由紀は、何もしなくてよい時間が少なかったと答えた。
「体験が詰まっていて、遅れたら次の方へ申し訳なくなりました。旅行でも、いつも私が時間を気にするので、村へ来ても同じでした」
「どの活動を減らした方がいいですか」
「分かりません。どれも、やってみたらよかったです。でも、全部でなくてもよかった」
「一つ選ぶなら?」
由紀は考えた。
「調理です」
フミが顔を上げる。
「料理が嫌やった?」
「いいえ。反対です。あの時間だけで十分だったかもしれません。知らない料理を習うのではなく、家でも作るカレーを一緒に作ったから、普段のことが見えました」
「失敗したカレーやけどな」
フミが言う。
「ジャガイモが硬かったですね」
由紀が笑った。
「次は小さく切る」
「また来てもいいですか」
「月一回までやったら」
フミは同じ条件を繰り返した。
彩は、満足度を三とした。
「普通ですね」
美月が言う。
「五にすると、すごくよかったみたいだし、一にすると、全部悪かったみたいだから」
「よかったことは?」
「木を削ったこと。川を歩いたこと。カレー」
「嫌だったことは?」
「お母さんとお父さんに、話すために来たんだから話せって思われたこと」
正志と由紀が娘を見る。
「でも、一時間の途中で、自分で話したんですよね」
「話したかったから」
「スマートフォンは、最後には自分で置きましたか」
「はい」
「なぜですか」
「手に持っていると、見てなくても、見てるって言われそうだったから」
正志の顔が曇る。
「それは、自分で選んだことになりますか」
美月が尋ねる。
彩は考えた。
「半分くらい」
「残りの半分は?」
「お父さんとお母さんに、話を聞いてないって思われたくなかったから」
「では、今回のルールに問題があったと思いますか」
「自分で決めるって言われても、家族が見てたら、完全には自分だけで決められない」
美月は、その言葉を一字ずつ記録した。
自分で選ぶ。
それをルールにした時点で、選ぶことを求めている。
何も置かないと決めた人が、周囲からどう見られるか。そこまで考えられていなかった。
「次に来る人へ、何を伝えたいですか」
彩は杉の木片を両手で持った。
「スマホを置けなくても、悪い人じゃないって、最初に言った方がいい」
「はい」
「あと、家族で同じものを置かなくてもいいって」
「はい」
「途中で取り出しても、失敗じゃないって」
正志が娘を見た。
「僕は途中で仕事の電話に出た」
「うん」
「嫌だった?」
「嫌だった。でも、電話に出たことより、戻ってこないと思った」
「戻ったよ」
「戻ったから、今回はよかった」
「次も戻れるとは限らない」
「だったら、何分で戻るか言って」
正志はうなずいた。
「分かった」
彩が眉を上げる。
「聞いた」
正志が言い直す。
彩は少し笑った。
*
参加者を乗せたワゴン車が山路館を出たあと、運営側だけの振り返りを行った。
井上は送迎の遅れを報告した。
次回は、途中の対応が発生する可能性を含め、到着時刻に三十分の幅を持たせる。
颯太は、森林散策が予定を二十五分超えたことを認めた。
「話が出た時に、止めにくかったです」
「時間を守ることと、話を止めないことを両立させる方法が必要ですね」
美月が言う。
「散策後の予定を減らすか、山の中で時間を知らせる人を別に置くか」
「人を増やしたら費用が増える」
「はい」
「次は、距離を短くします。沢まで行かず、手前で戻る」
「参加者によって歩く速さも違います」
「なら、時間で折り返します」
「その方がいいと思います」
澄江は、アレルギー対応の準備に通常より五時間かかった。
「毎回これをするのは無理です」
「食物アレルギーのある方を、今後は受け入れない方がいいですか」
美月が尋ねる。
澄江はすぐには答えなかった。
「断るのは簡単です。でも、それやったら、彩ちゃんみたいな子は、ずっと家族で出かけにくいままです」
「安全を守れなければ受け入れられません」
「今回は、守れたんでしょうか」
「問題は起きませんでした。ただし、問題が起きなかったことと、安全だったことは同じではありません」
「田中さんは、どうしたいんです?」
「対応可能な品目と方法を決めます。すべてのアレルギーへ対応できるとは言いません。受け入れ前の確認に必要な費用も価格へ含めます」
「高くなりますね」
「はい」
「客が来なくなるかもしれん」
「その可能性もあります」
澄江は空になった湯呑みを見た。
「安くするために、できる言うたらあかんのですね」
「はい」
「理解しました」
フミは、調理準備と後片づけを合わせて六時間十五分働いた。
「月一回でも、六時間は長い」
「次回は、野菜を事前に運ぶ作業を別の方へ頼めますか」
「頼むなら金を払わなあかん」
「払います」
「どんどん人が増えるな」
「活動を減らす方法もあります」
「カレーをやめる?」
「由紀さんは、調理だけでも十分だったと話していました」
「ほんなら山歩きをやめたらええ」
颯太が顔を上げた。
「何で山をやめるんです」
「時間が延びたんは山やろ」
「調理に六時間かかったのも事実でしょう」
「喧嘩せんといてください」
春江が二人を止める。
「毎回、同じことをせんでもええんと違いますか。山へ行く家族、料理をする家族、本を読む家族。来る人が選んだらええ」
「選択肢を増やすと、準備も増えます」
美月が言う。
「最初から全部そろえんでもええ。できるものを一つずつ増やすんです」
春江は自分の作業時間を書いた紙を差し出した。
「私は三時間四十分。彩ちゃんのお母さんと外で話した時間も入れました」
「予定外の対応ですね」
「相談を受ける仕事にするつもりはありませんよ」
「では、次回から参加者と二人きりで話す必要はありません」
「そうきれいには分けられません。泣いとる人を置いていけんでしょう」
「北村さんが引き受ける必要もありません」
「必要やなくても、することはあります」
美月は手を止めた。
無理を当たり前にしない。
けれど、予定外の親切まで禁じれば、この村で行う意味が薄れてしまう。
「したくてしたことと、しなければならなかったことを分けて記録しましょう」
美月は新しい欄を作った。
『自分で選んで行った時間』
『断れずに行った時間』
「同じ三十分でも、負担は違います」
春江がうなずいた。
「昨日のは、自分で選びました」
「次もできますか」
「毎回は無理です」
「では、今回はできた。次回は分からない、と記録します」
「それでええです」
*
最初の試行にかかった費用は、七十一万三千四百八十円になった。
承認された上限を、一万三千四百八十円超えている。
木箱の製作費、アレルギー対応の備品、予定外に延びた作業時間が主な原因だった。
本社への報告会で、小田切は費用表を見たまま言った。
『上限管理ができていない』
「はい。私の見積もりが不十分でした」
『一組のモニターで七十一万円。予定価格は十二万円。事業とは呼べない』
「初回の設計費を除いた場合でも、現状では十二万円を下回りません」
『参加者の評価は?』
「父親が四、母親が四、娘が三です」
『平均三・七。七十一万円をかけて、その数字か』
「満足度だけを上げることが目的ではありません」
『客が満足しない事業は続かない』
「住民が疲弊する事業も続きません」
『住民評価は?』
「もう一度なら担当できると答えた方が二人。内容を減らせば可能が三人。現状のままでは継続できないが四人です」
『成功とは言えないな』
「はい」
美月は即答した。
黒田が資料をめくる。
『では、失敗か』
「一組を受け入れれば自動的に家族の会話が生まれ、村の人も満足するという仮説は、誤りでした」
『それを確認するのに七十一万円使った』
「はい」
『次は、どうする』
「体験を一泊二日の定型商品として固定せず、家族ごとに一つの時間を選ぶ形式へ変えます。選択肢は、森林散策、共同調理、川沿いの散歩の三つに絞ります。一回につき一つだけです」
『提供内容が減れば、十二万円は取れない』
「価格も見直します」
『安くすれば、住民への支払いを減らすことになる』
「支払いは減らしません。運営に必要な人員と時間を減らします」
『利益は?』
「二回目で、継続可能な価格を検証します」
『また会社負担か』
「二回目は、参加者にも一部負担を求めます。支払意思も確認します」
小田切が椅子の背にもたれた。
『田中君。君は、何を成功させようとしている』
美月は一度、資料から目を離した。
「誰かが無理をした結果を、成功と呼ばない事業です」
『きれいごとに聞こえる』
「今回は、村の人の予定外の労働で、一見すると体験が成立しました。そこを無償の善意として計算から外せば、収支は改善して見えます」
『現場では、多少の融通は必要だ』
「必要です。ただし、その融通を毎回期待すれば、義務になります」
『客は予定どおりに動かない。現場で起きたことを、すべて費用にできると思うな』
「すべて請求するという意味ではありません。見えないことにしないという意味です」
小田切は答えなかった。
黒田が費用表を閉じた。
『一回目は失敗として処理する。二回目の予算は、修正案を見てから判断する』
「承知しました」
『ただし』
黒田は美月を見た。
『失敗したと書ける報告書を出したことは評価する』
会議が終了した。
画面が暗くなっても、美月はしばらく席を立てなかった。
*
その夜、彩から一通のメッセージが届いた。
参加者用の連絡先へ送られたものだった。
『木、途中のまま机に置いています』
その下に写真が添えられている。
杉の木片は、鉛筆立てにも、置物にもなっていなかった。片側だけが削られ、表面に鉋の跡が残っている。
『お父さんとお母さんと、京都の学校を見に行く日を調べました。まだ決めていません』
美月は返信した。
『ご連絡ありがとうございます。木片の写真を、佐藤さんへ見せてもいいですか』
すぐに返事が来た。
『いいです。でも、SNSには載せないでください』
『分かりました』
さらに、もう一通届いた。
『一時間で家族は変わりませんでした』
美月は画面を見つめた。
慰める言葉も、成果を探す言葉も送らなかった。
『はい。私もそう思います』
そう返した。
数分後、彩から短い文章が届いた。
『でも、十三分でも話せました』
美月は、その言葉を事業報告書へ写さなかった。
参加者の感想として外へ使ってよいか、確認していない。
代わりに、自分の大学ノートへ書いた。
『一時間を守れなかった人が、十三分だけ戻ってきた』
その下へ、二回目の試行で守ることを記す。
置かない選択を否定しない。
途中で取り出しても失敗と呼ばない。
家族全員に、同じ行動を求めない。
話し合いを成果として強制しない。
予定外の親切を、無料の労働に変えない。
活動を詰め込みすぎない。
最後に、住民会議で決めた言葉をもう一度書いた。
『無理を当たり前にしない』
ノートを閉じ、スマートフォンを窓辺へ置いた。
木箱は一階にある。
箱がなくても、端末は置ける。
美月は腕時計を外し、隣へ並べた。
川の音を聞くためではなかった。
今夜は、何に向き合うか決めていない。
決めないまま、畳の上へ座った。
五分ほどすると、仕事用のスマートフォンが震えた。
画面を見れば、誰からの連絡か分かる。
美月は手を伸ばしかけ、止めた。
出ないことを選ぶのか。
必要な連絡を無視しているだけなのか。
判断するために、画面を見るべきなのか。
美月は端末を手に取った。
母からの着信だった。
そのまま電話へ出る。
「もしもし」
『美月? 今、大丈夫?』
「うん。大丈夫」
『仕事中だった?』
「今は、置く時間にしようとしてた」
『置く?』
「スマートフォンを」
『じゃあ、切った方がいい?』
「切らなくていい」
美月は広縁へ移動し、籐の椅子に座った。
「今日は、お母さんと話す時間にする」
電話の向こうで、母が黙った。
『何かあったの?』
「何もない」
『何もないのに電話するの?』
「お母さんからかけてきたんでしょう」
『そうでした』
母が笑う。
美月も笑った。
窓の外では、川の水が途切れることなく流れていた。




