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グルゥとリル、もりのはずれで  作者: うつチャリンカー


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8/30

かまのそばのひる

全30話 五月五日まで毎日朝七時投稿

ひるのいろが、こやの入り口にまるく落ちていました。

あさにくべた火は、かまの奥でまだ赤くのこっていて、灰のあいだから、ときどき小さな息のような熱を返していました。つよく燃えてはいないのに、そこにあるだけで、へやのすみにやわらかいぬくもりがたまっているようでした。


グルゥは、外から平たい石を二つ持ってもどってきました。川べりでひやされていた石らしく、手の中でおとなしく重たそうでした。ひとつは戸口のそばに、もうひとつは、かまの近くに静かに置かれます。ことり、と低い音がして、それきりです。


床にすわっていたリルは、その音だけで顔を上げました。

石と、火と、グルゥの手を、順に見ていました。眠たげな目はそのままで、けれど、なにをするのかはもうわかっているようでした。


グルゥは木の皿からパンを取り、かまのそばへ寄せました。

今朝のぶんが、まだふたつ。表面はすこしかたくなっていましたが、火のそばに置かれると、しばらくして、粉の匂いがゆるくあたたまりはじめます。


リルはひざでじぶんの足をかかえて、その匂いを受けとめていました。

ぱん、と小さくはじける音がして、かまの奥の赤がまたひとつ、たしかになります。リルの髪が、その音にあわせてわずかに揺れました。


グルゥは、戸口に置いた石の上へ、小さな鉄のやかんをのせました。中には朝のうちに汲んでおいた水が入っていて、ひるの空気のなかで、まだつめたさを抱えているようでした。もうひとつの石には、あたためなおしたパンが置かれます。熱すぎず、つめたすぎず、ちょうど手にのせておけるくらいの場所を、グルゥはよく知っていました。


リルは、かまの前までにじるように近づいて、パンをひとつ手に取りました。

指先でたしかめるように、うらがえしたり、もどしたりしてから、ちいさくうなずきます。


「いいにおい」


声はそれだけで、あとはまた、火の音にまかせました。


グルゥもひとつ取って、戸口のそばに腰を下ろします。

外では鳥が遠くで鳴いていて、町へつづく道のほうから、荷車の輪の音がかすかに聞こえてきました。森の中のこやなのに、その音はふしぎと遠すぎず、近すぎず、ふたりの暮らしのはしに、そっと置かれているようでした。


リルはパンをひとくち食べて、それから、かまの奥をのぞきこみました。灰のなかの赤は、まるでねむりながら番をしているみたいです。

火がまだ消えていないことを、リルはうれしいとも安心とも言わず、ただしばらく見ていました。あさのつづきが、ひるの中にすこしだけ残っている。そんなふうに見えたのかもしれません。


グルゥは、やかんの水を木の椀に分けました。つめたかった水は、石のぬくみをもらって、口にふくむとやさしい温度になっていました。リルはそれを両手で持ち、のみおえるまで、椀のふちに鼻先を寄せていました。


食べ終えたあと、パンのくずがいくつか床に落ちました。

リルがそれを指であつめようとすると、その前に、グルゥの大きな手がそっと木の皿を差し出します。リルは皿にくずをのせ、最後のひとかけをつまんで口に入れました。何も言わず、それで足りる昼でした。


かまの火は、まだ奥で静かでした。

消えそうで、消えずにいる赤は、だれかの話し声よりもたしかに、ここに今日があることを見せていました。戸口の石はぬるくあたためられ、リルの足先はその上にちょこんとのっていました。グルゥはそれを見て、かまに細いまきをひとつだけ足しました。火はおどろかず、ただ小さく受け取って、また同じように燃えていました。


ひるは、急がずに部屋へ満ちていきます。

朝に生まれたぬくもりが、まだちゃんと残っていることを、ふたりはたしかめるでもなく知っていました。

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