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グルゥとリル、もりのはずれで  作者: うつチャリンカー


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7/30

あさのひもにゆれる布

全30話 五月五日まで毎日朝七時投稿

あさのひかりが、こやのまえの土をうすくあたためていました。

夜のあいだにのこったしずくが、草のさきでまるくなっていて、風がとおるたびに、ちいさくふるえて見えます。


こやの戸がひらくと、グルゥが大きな布のかごを持って出てきました。

洗っておいた布が、まだ少しだけ水をふくんでいて、かごのふちから白やうす茶のすそがのぞいています。重たそうでしたけれど、グルゥはいつものように、音を立てずに歩いていました。


そのあとから、リルもゆっくり出てきます。

まだ少しねむたげな目で空を見あげて、それから、ひものはられた木と木のあいだを見ました。あさの風が、そこだけすこし青く見えるような、しずかなうごきをしていました。


リルは、かごのいちばん上にあった小さな布をつまみます。

つめたい水の気配が指にのこって、リルはちいさく目を細めました。布の端から、せっけんのやわらかいにおいがしています。森のにおいとまざると、それはなんだか、うすい雲をたたんだみたいでした。


グルゥは木の枝でつくった洗濯ばさみの入った袋を足もとに置き、ひもを片手でぴんと張ってみせました。

たるみがないのをたしかめてから、リルのほうへひとつ、ばさみを渡します。


リルは受け取って、布のはしをひもにかけました。

けれど、うまくひろがらずに、布が半分だけくるりとまるくなってしまいます。

リルは首をかしげて、そのまま少し見ていました。


グルゥは何も言わず、となりへ立ちます。

大きな手で布の反対の端をそっと持ちあげると、風がするりと中へ入りました。すると布は、ねむりから起きるみたいに、ふわりとひらきます。

リルはそれを見て、ほんのすこし笑いました。


「ひらいた」


グルゥは小さくうなずいて、つぎの一枚を手に取ります。


白い布、うすい灰色の布、パッチのあたったやわらかな布。

ひとつずつ、ひもの上に並んでいくたび、こやの前が少し明るくなっていくようでした。ぬれた布は、風をうけてときどきふくらみ、また静かにもどります。まるで、空にむけてゆっくり息をしているようでした。


リルは途中で、布の影が土の上をゆれるのに気づきました。

朝の日が高くなるにつれて、影の形もすこしずつ変わっていきます。長かったものが短くなり、ゆらゆらしたものが、足もとにやさしくたまっていくのです。

リルはしゃがんで、その影に手を入れてみました。つかめないのに、風の冷たさだけが、ちゃんと手のひらに残りました。


グルゥはかごの底を見て、最後の一枚を取り出しました。

少し厚手の、大きな布でした。ひとりで干すにはむずかしい形です。

グルゥが片方を持ち、もう片方をあけて待っていると、リルは立ちあがって、その端を両手で受け取りました。背の高さがちがうので、布はすこしななめになります。けれどグルゥは、ひもの位置を少し下げて、リルの手が届くようにしていました。


ふたりで布をひろげると、朝の光がうしろからうっすら透けました。

布の目のあいだからこぼれる光が、こまかい粒になって、リルの頬やグルゥの腕に落ちます。

リルはまばたきをして、そのままじっとしていました。

布のむこうの空は、やわらかく白んでいて、木々の先だけが、うすみどりの影になっています。


「おおきいね」


そう言って、リルは布を押さえます。

グルゥはばさみを二つ、端に留めました。もう二つ、真ん中にも留めると、布はおちついた顔をして、ひもの上におさまりました。


それがおわるころには、かごはからっぽになっていました。

袋の口も閉じられて、木の枝のばさみは、もう中で音を立てません。

こやの前には、風にゆれる布だけがならび、ひかりと影が、足もとをゆっくり行き来しています。


リルはその下に立って、はためくすそを見あげました。

布がうごくたび、日のにおいのまだない、洗いたての清い空気がふれてきます。

グルゥはそばの桶に残った水を土へあけ、空になった桶を壁ぎわへ返しました。それから、ひとつだけ、少し低くなっていた布の端を直します。


リルはそれを見て、何も言わずにグルゥのとなりへ行きました。

肩のあたりに、ふくらんだ布の影がふわりとかかります。日なたと日かげの境目が、ちょうどそこにありました。


風はつよすぎず、よわすぎず、森のあいだから順番にやってきます。

布はそのたび、ちいさく返事をしていました。

グルゥもリルも、しばらくそこに立って、それを見ていました。なにかを待つでもなく、たしかめるでもなく、ただ、乾いていく布の白さが、朝の中にまじっていくのを見ていたのでした。

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