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グルゥとリル、もりのはずれで  作者: うつチャリンカー


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23/30

火のつく音

全30話 五月五日まで毎日朝七時投稿

あさの小屋は、まだ半分ねむっているみたいでした。


まどべりには、やわらかなひかりが、うすい布のようにたまっています。寝台のはしで、リルはかけものをあごのところまで持ちあげたまま、そのひかりをぼんやり見ていました。外では、木の葉がこすれる音がして、きょうの風はつめたすぎず、かわきすぎてもいないようでした。


グルゥは、もう起きています。


戸をすこしだけあけて、軒下に置いてあった枝の束を見ました。昨日からそこに並べてあったものの中から、細い枝を何本か取り、腕にのせて、小屋の中へ戻ってきます。足音はあいかわらず小さくて、床はほとんど鳴りませんでした。


かまの前にしゃがみこみ、灰をすこしよせ、枝を組みます。


いつもなら、そこでひと呼吸あるのでした。枝の向きや、火の行きそうなすきまを見て、手を止める時間があります。けれど、その朝のグルゥの手は、まるでもう答えを知っているみたいに、まっすぐでした。


火打ちが鳴って、すぐに、小さな火がつきました。


赤い点が、ぱち、と目をあけたようでした。


そのつぎにはもう、細い枝の先がやわらかく色を変えて、火はするすると上へあがっていきます。ためらうようすがありません。ねむたい朝のなかで、そこだけ先に起きてしまったみたいに、火は明るくなっていきました。


寝台の上で、リルが小さくまばたきをしました。


それから、かけものの中から手だけ出して、火のほうへむけます。まだ遠いのに、あたたかさが少しだけ届いたのか、指先がゆるくひらきました。


グルゥはふり向いて、リルを見ます。


何も言わず、かまのそばの木の椀に水を入れ、机のはしへ置きました。それから、寝台の近くまで運び、手の届くところへそっと寄せます。リルは起きあがって、その椀を両手で持ちました。朝の水はひんやりしていたけれど、小屋の中にはもう火の気がひろがっていて、その冷たさもとがっていませんでした。


「きょう、はやいね」


リルは椀を持ったまま、火を見て言いました。


声も、まだあさの中にあるような、小さな音でした。


グルゥは、かまの前で一本だけ少し太い枝を足し、うなずきます。


火はその枝にもすぐに移って、赤いところをふやしました。ぱちり、ぱちりと鳴る音が、いつもより軽く聞こえます。湿った日には、煙が先に立って、火はしばらく考えるようにゆれているのに、きょうはちがいました。枝の中まで、昨日の風がよく通っていたのでしょう。火は迷わず、まっすぐ育っていきます。


リルは寝台からおりて、グルゥのとなりに来ました。


床のつめたさに足を止めることもなく、そのままかまの前へしゃがみます。火のひかりが、リルの髪のふちをすこしだけ明るくしていました。手をかざすと、ほそい指のあいだに、ゆれる色がのりました。


しばらく、ふたりはそのままでした。


火の音だけが、小屋のまんなかで小さくつづいています。外の風が戸のすきまを通るたび、炎の先がかるく傾いて、またもとに戻りました。まるで、きょうは起きるのがたのしい朝なのだと、火だけが先に知っていたみたいでした。


リルは、火のそばに置かれた枝の束を見て、それからグルゥの手を見ました。軒下に並べて、かわかして、朝になる前から用意していたことを、ことばにしなくてもわかっているようでした。


「いいひだね」


そう言って、リルは火のそばへもうすこし寄ります。


グルゥは返事のかわりに、かまの端へ寄せてあった布を広げ、リルのひざにかけました。布の重みはかるく、火のあたたかさを逃がさないように、ちょうどよくおさまりました。


小屋の中は、もうすっかり朝でした。


まどべりのひかりと、かまの火とが、べつべつの色で床に落ちています。外ではまだ森が静かで、鳥の声もこれからのようでしたけれど、小さな家の中だけは、先にひとつ明るくなっていました。


リルは布の上からひざを抱えて、火を見ます。


グルゥはとなりで、次の枝を手の届くところへそろえました。


その手つきまで、きょうはいつもより軽く見えました。

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