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グルゥとリル、もりのはずれで  作者: うつチャリンカー


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15/30

ひもの布がおりるころ

全30話 五月五日まで毎日朝七時投稿

ひるを少しすぎたころ、小屋のそとのひもにかけてあった布が、やっとよく乾いたみたいでした。


あさのあいだに通っていた風は、もう細くなっていて、木と木のあいだを、白い糸のようにするすると抜けていきます。ひもに並んだ布は、その風にふわりと持ち上がって、またおとなしく戻ってきます。ひかりをすこしだけ含んだ、やわらかい色をしていました。


リルは小屋の前の草のうえに立って、布のすみを指でつまみました。乾いた布は、ぱりんとはしないけれど、朝よりずっと軽くなっていて、手のなかで小さく鳴るようでした。指をすべらせると、日なたのにおいがします。水の気配はもうほとんどなくて、かわりに、風とひかりが残っていました。


リルは目を細めて、ひとまい目をはずします。両手に広げると、布のまんなかがすこしだけくぼんで、そこへ空が浅くたまるようでした。


小屋の戸がひらいて、グルゥが出てきます。大きな手には、からになった木のかごがありました。たぶん、たたんだ布を入れるつもりなのでしょう。何も言わずに、リルのすぐそばにそのかごを置いて、ひものもう片ほうへ歩いていきます。


リルはちらりと見上げて、それから布をたたみました。


端と端をあわせると、さっきまで風をふくんでいたものが、急にしずかになります。広かった布が、だんだん小さな四角になっていくのがおもしろくて、リルはもういちどだけ、そっと開きかけました。でも、向こうでグルゥが次の布を外しているのを見て、こんどはちゃんとたたみます。


たたんだ布は、かごのなかへ置きました。木の底にふれる音が、こつん、とやさしく鳴きます。


グルゥのほうは、リルよりずっと手早いのでした。大きな指が布の端をつまむと、白いものも薄い色のものも、すぐに重なって、きれいな形になります。でも、急いでいるようには見えません。ただ、そうするのが自然であるみたいに、静かに折っていくだけでした。


リルは自分のたたんだ布を見て、それからグルゥの布を見ます。すこしだけ、かたちがちがいます。リルのは端がほんのすこしずれていて、グルゥのは石を重ねたようにまっすぐでした。


リルは布をひとつ持ったまま、首をかしげます。


グルゥはそれに気づいて、手もとの布をいったん止めました。それから、リルの前にしゃがみこみます。大きなひざが草を少し押して、そこだけ青みどりが寝そべったみたいになります。


グルゥは、リルの持っていた布の端を、指先でそろえました。ほんの少しだけ引いて、角を合わせます。それから、もう半分、と短く言いました。


リルはうなずいて、その通りに折ります。


こんどは、さっきよりましでした。まだ少しだけずれているけれど、布はちゃんと四角の顔をしています。リルはしばらくそれを見て、口もとをすこしゆるめました。


グルゥは何も言いませんでしたが、その布を受けとって、かごのいちばん上へ置きました。くずさないように、やさしくのせる手つきでした。


ひもの布がぜんぶなくなるころには、空の色が少しだけやわらいでいました。日なたの白さがうすくなって、かわりに木かげの涼しい色が、地面のうえをひろがってきます。小屋の軒下には、たたまれた布の入ったかごがあり、四角いものたちが、きちんと重なっていました。けれど、よく見ると、ひとつだけ端のあわない布があります。リルがたたんだものです。


リルもそれに気づいて、かごをのぞきこみました。


「これ、へんなかたち」


小さな声でそう言うと、グルゥはかごの中を見て、その布を取りあげます。たたみなおすのかと思ったら、そのまま腕にかけて、小屋のなかへ持っていきました。


少しして、戻ってきたグルゥの肩には、その布がふんわりとかかっていました。昼の終わりの風をよけるのに、ちょうどよさそうでした。


リルはそれを見て、目をまるくしてから、すこしだけ笑いました。


グルゥは木の椅子に腰をおろして、いつものように静かに座っています。肩の布だけが、さっきまでひもで揺れていた名残みたいに、ときどき風にふくらみました。


リルは空になったかごを両手で抱えて、そのそばに立ちます。草のにおいと、乾いた布のにおいと、木の椅子のぬくもりが、夕方の手前でひとつにまざっていました。


たたまれた布は、棚へしまわれれば見えなくなります。でも、指で折った線や、端を合わせた気配は、しばらく手のひらに残ります。リルは自分の手をひらいて、また閉じました。そこにはもう布はないのに、やわらかな四角だけが、まだあるみたいでした。

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