第201話「シンナー一缶15,000円の謎 ~産業の血液ナフサが止まりかけた話と、ホルムズがついにうちらの漫才の舞台まで来た話~」
マリコ:(レシートの束を握り締めながら登場)
サチコ:なんやその紙の束。確定申告の領収書か。
マリコ:ちゃう。今週起きたことの証拠物件や。
サチコ:証拠物件って。いったい何があったんや。
マリコ:まあサチコ、聞いてくれや。まず月曜日、外壁塗装の見積もりを取ったら、シンナー代が前回の3倍になっとんねん。
サチコ:シンナーの値段が3倍!
マリコ:火曜日、父親の家のリフォームを頼もうとしたら、工務店に「断熱材が4割値上がりしてて、今すぐ発注しないと工期が来年になります」って言われるしやな。
サチコ:断熱材も!
マリコ:水曜日、仕事で使う梱包用のビニール袋を注文したら、「1週間後の納期でよければ」とか言いよんねん。先週は翌日来とったのに!
サチコ:梱包材の納期まで!
マリコ:木曜日、車の修理でシールパッキンっちゅう部品が「入荷未定」とか言われるしやな。
サチコ:部品も!
マリコ:金曜日、仕事のパンフレットを印刷に出したら「インク代の値上げで以前の1.5倍になります」と言われた。
サチコ:印刷まで!
マリコ:つまりこの一週間で、塗装、断熱材、梱包材、自動車部品、印刷の5つが同時に「高くなった、遅くなった、ない」っちゅう状態になっとる。これは何かの陰謀やないか!!
サチコ:陰謀やないで。全部、一つのものでつながってる。
マリコ:一つのもの? なんやそれ?
サチコ:ナフサや。
マリコ:ナフサ?
サチコ:ナフサや。
マリコ:…せやからナフサってなんや。
サチコ:「分からへんけどなんか全部つながってる問題の気がする」と気づいたのはえらい。でも原因を知らなかったっちゅうことも、今日の漫才にとってちょうどええ出発点や。ナフサとは何かから話すで。
マリコ:頼むで。
サチコ:ナフサは原油を精製した時にできる、燃料にはならない成分や。英語では「ナフサ」日本語では「粗製ガソリン」と呼ぶこともある。
マリコ:「粗製ガソリン」か。なんか「並ガソリン」とか「お徳用ガソリン」みたいな名前やな。
サチコ:そういうわけやない。燃やすのではなくて、化学反応させて別のものに変える原料として使うねん。
マリコ:「燃やす」のではなくて「変える」っちゅうことか。原油からガソリンとか軽油とかを取った後に残る部分がナフサ、っちゅう感じか。
サチコ:そういうことや。そのナフサを高温で分解する設備、スチームクラッカーっちゅうのがある。クラッカーで分解すると「エチレン」とか「プロピレン」っちゅう基礎化学品ができる。
マリコ:エチレン、プロピレン。聞いたことある名前やな。
サチコ:そのエチレンやプロピレンから、プラスチック全般、ゴム製品、繊維、塗料、接着剤、包装フィルム、医薬品の容器……全部ができんねん。
マリコ:全部?
サチコ:今この舞台でうちらが着てる服の繊維、自分が手に持ってるレシート袋、足許の床材、マイク周りのプラスチック、照明器具の被覆材、全部ナフサが起点や。
マリコ:え、舞台上のものが全部ナフサからできとんの!?
サチコ:厳密には全部ではないけど、目に見える製品の非常に多くの部分がナフサ由来や。せやから業界では「産業の血液」と呼ぶこともあんねん。
マリコ:「産業の血液」か。ガソリンが「車の血液」なら、ナフサは「工場の血液」っちゅうことやな。
サチコ:そうや。そして日本のナフサはどこから来てるかっちゅうと、輸入分の74パーセントが中東から来てる。
マリコ:74パーセントも!
サチコ:しかも国内で精製するナフサの原料である原油も、94パーセントが中東産やせやから実質的には、日本のナフサの8割近くが中東由来と言っていい。
マリコ:「輸入も国内精製も、源流は中東」っちゅうことか。二重に中東依存してるんやな。
サチコ:そしてここで、今月の漫才で何回も出てきた話が直撃してくんで。
マリコ:わかった!ホルムズ海峡や!
サチコ:そうや。第189話から始まって、第192話、第197話と話し続けてきたホルムズ海峡の緊張が、ついに「日本の工場と日本の台所」に直接届いた、っちゅうのが今日の話や。
マリコ:「地政学が台所まで来た」っていうのは前の漫才でも話したけど、これはもう台所どころか塗装屋さんの作業台まで来てるっちゅうことやんな。
サチコ:2026年2月末に中東情勢が緊迫化してホルムズ海峡が事実上の封鎖状態になった。中東からのナフサ輸入が急落した。3月の輸入量は前年比で4割以上減った。
マリコ:4割減!それは大きい数字やな。
サチコ:でここで政府は「大丈夫、量は確保できてる」と言い続けとる。中東以外のアメリカやアルジェリアやペルーからの輸入を3倍に増やした。国内の備蓄原油を放出して国産ナフサを作り続けた。5月には「4ヶ月分の在庫は確保できた、年越しまで大丈夫」と発表した。
マリコ:それなら大丈夫やんか。
サチコ:でも「大丈夫」っちゅう発表と、自分が今週体験した「シンナー3倍、断熱材4割増し、梱包材1週間待ち」っちゅう現場の実態が完全に乖離してるやろ。
マリコ:ほんまやな。「数字上は確保できてる」と「現場で手に入らない、高い」が同時に存在しとんのはなんでやねん。
サチコ:これが今日の話の核心や。「量は回ってるのに、現場は足りない感じがする」っちゅう謎を解くために、ナフサの備蓄の話をせなあかん。
マリコ:備蓄?原油は国が買いだめしてるんやろ。
サチコ:確かに原油の国家備蓄は約240日分ある。民間と合わせたら200日超。かなり分厚い。
マリコ:240日!8ヶ月分か。それはすごい。
サチコ:ほならナフサの国家備蓄は何日分あると思う?
マリコ:ナフサも原油と同じくらいかな。240日とはいかなくても、100日くらいはあるんちゃうか。
サチコ:ゼロ。
マリコ:えっ。
サチコ:ゼロや。ナフサには国家備蓄制度がないねん。
マリコ:ゼロ!?あれだけ大事な「産業の血液」なのに、備蓄制度がないんかい!
サチコ:ない。民間企業が持ってる在庫はあるけど、それが約20日分しかない。
マリコ:20日!原油は240日で、ナフサは20日か!10分の1以下やんか。
サチコ:しかも中間製品、つまりエチレンやプロピレンの在庫はもっと薄い。最終製品になるとさらに薄い。「上流は厚く、下流は薄い」っちゅう逆三角形の構造になっとんねん。
マリコ:「上に行くほど余裕があるけど、末端に行くほどカツカツ」っちゅう状態やな。
サチコ:せやねん。これを「逆ピラミッドの在庫構造」っちゅうとる。だから中東から急にナフサが来なくなると、原油の備蓄はあっても「それを工場でナフサに精製して、それをクラッカーに入れてエチレンにして、それを加工して製品にして、それを物流に乗せる」っちゅう一連の工程に時間がかかんねん。
マリコ:「源流は確保できてるけど、末端に届くまでに時間がかかる」っちゅうことか。
サチコ:しかも工場を止めると再起動に2週間かかるんやで。在庫20日しかないのに、工場を止めたら2週間かかって再起動する、っちゅう状況では、「20日の在庫が尽きる前に次のナフサを調達できるか」っちゅう綱渡りが続くことになる。
マリコ:なんで工場の再起動に2週間もかかんねん!もっと早くできるやろ。
サチコ:あんな、そんな簡単な問題やないねん。
まず温度の問題が一番大きいんや。スチームクラッカー(ナフサ分解炉)はナフサを800度前後の高温で熱分解する設備で、炉全体をその温度まで均一に上げるのに時間がかかんねん。そこを急に上げると炉壁や配管の素材が熱膨張で歪んで破損するんや。せやから段階的にゆっくり温度を上げなあかんねん。
。
マリコ:はー、案外デリケートやねんな。
サチコ:次にコーキングっちゅう現象があんねん。分解反応の副産物として炭素の塊が配管や炉内に堆積するんや。停止のたびに蒸気を使ってこれを焼き飛ばす「デコーキング」という作業が必要で、これだけで数日はかかると言われとる
マリコ:はー、掃除も超大変やねんな!
サチコ:それから今度は触媒や設備の確認作業や。停止中に各バルブ、熱交換器、圧縮機、配管の点検をせなあかんから、再起動前のチェックリストが膨大にあんねん。
マリコ:うわー、なんやろ。頭痛くなってきたわ。
サチコ:さらに製品の品質安定化に時間がかかるんや。起動直後は炉の温度や原料の流量が安定しとらんから、エチレンの純度が規格を満たせへんねん。安定した製品が出るまで数日間は「流しっぱなし」で捨てる必要があるんや。
マリコ:うわー、なんか「もっと早くできるやろ」とか言うて、ほんまごめんやで。
サチコ:わかったやろ?これを全部合わせると最低でも2週間というのが現実なんやで。設備の規模や状態によっては1ヶ月近くかかるケースもあんねん。
マリコ:「20日しか持たないのに、再起動に2週間かかる」っちゅうのは、ノーゲーム状態やんか。安全マージンがほとんどないな。
サチコ:せやから「数字上は大丈夫」と政府が言っても、現場の企業は「今すぐ手許に入らないと工場が止まる」っちゅう切迫感で動く。それが過剰発注につながる。
マリコ:「不安だからみんなが多めに買う」っちゅう買いだめ現象やな。
サチコ:政府の発表でも「通常以上の発注が流通の目詰まりを起こしている」っちゅう問題が指摘されとった。つまり「量自体はあるのに、みんなが不安で買いだめするから現場に届かない」っちゅうパニック型の不足が起きとんねん。
マリコ:「コロナの初期のマスクの話」と同じ構造やんな。マスクは工場にあったのに、みんなが買い占めたから棚に並ばなかった、っちゅうやつや。
サチコ:ほんまにその通りや。今回もナフサは総量としてはある程度確保されとるのに、流通の摩擦と心理的な買いだめが重なって「末端で足りない」が起きとる。
マリコ:「量の問題より心理の問題」っちゅう側面があるっちゅうことか。
サチコ:心理の問題だけではなくて、あと代替ナフサには問題もある。
マリコ:代替ナフサに?どんな問題や。
サチコ:中東産のナフサとアメリカ産のナフサは成分が違う。パラフィンやナフテンっちゅう成分の割合が異なる。それをクラッカーで分解すると、出てくる基礎化学品の比率が変わる。
マリコ:どう変わるんや。
サチコ:「エチレンは出るけど、ブタジエンが少ない」とか「プロピレンの比率がズレる」とかが起きんねん。
マリコ:「欲しいものと出てくるものが一致しない」っちゅうことか。材料は来てるのに、製品のバランスが崩れる、っちゅう。
サチコ:せやから「プラスチックは足りてるけど、合成ゴムの原料は足りない」とか「包装フィルムは大丈夫だけど、塗料の溶剤は足りない」っちゅう「品目ごとの偏り」が生まれるわけや。
マリコ:「量が来ても種類が違う」っちゅう問題か。これは食料支援で「米は届いたけど塩がない」みたいな話やな。全体量はあっても、欲しいものが手に入れへん。
サチコ:自分が今週経験した「シンナー代が3倍」っちゅう話は、まさにこの「溶剤・シンナー系が特に影響を受けやすい」っちゅう現象を直に体験したっちゅうことや。
マリコ:うちのシンナー高騰事件がナフサ品目偏在問題と直結してるわけやな。こわ!
サチコ:シンナーは成分のほぼ全部がナフサ由来で、代替がほぼ効けへん。しかも「塗装業者の人が一缶4,000円で買ってたものが15,000円を超えた」っちゅう事例があんねん。めちゃくちゃやろ?
マリコ:4,000円が15,000円!4倍近いやんか!しかも塗装業者さんは現場仕事やから、「シンナーが高いから今月の塗装は止めます」っちゅうわけにはいかへんやんな。
サチコ:業者さんが言えないままに工事を進めたら赤字になるし、値上げを言えば客が逃げる、っちゅう板挟みやな。
マリコ:「現場の職人さんが一番しんどい」っちゅうことやな。しかも一軒家の建築費が50万円上がるっちゅう話もあったやんな。
サチコ:断熱材が4割値上がりしたらそうなるな。しかも断熱材だけやなくて、窓サッシの樹脂部品、壁の塗装材、接着剤、配管のビニール管、全部ナフサ由来やから、一軒家を建てるとなるとあらゆる素材が同時に値上がりすんねん。地獄やろ?
マリコ:ほんまに「全部同時に上がる」っちゅうのは、普通の値上がりと違う質やな。普通はある部材が上がったら、他の部材でコストを抑えるっちゅう調整ができるけど、全部ナフサ由来やったら全部が同時に上がって逃げ場がないな。
サチコ:それが「素材危機」と「エネルギー価格上昇」の本質的な違いや。ガソリンが高うなったら、「車の代わりに電車を使う」っちゅう代替ができる。でもナフサ由来のプラスチックの代わりに「木でやります」っちゅう選択はなかなかでけへん。っちゅうか、できるかい!って話や。
マリコ:「代替手段がない」っちゅう意味で、ガソリン不足より怖い、っちゅうことやな。前の漫才で「ガソリンが1ガロン4ドル48セント」っちゅう話をしたけど、ガソリンが高いのは「痛い」問題で、ナフサが止まるのは「ものが作れなくなる」問題で、次元が違うわけやな。
サチコ:そうや。しかも日本の構造的な問題があって、ここが今日の一番深い話や。
マリコ:なんやそれは。
サチコ:日本のエチレン生産は95パーセント以上をナフサ分解に頼ってる。
マリコ:95パーセント!
サチコ:アメリカはシェールガスから出てくるエタンっちゅう成分を原料として使う。ヨーロッパはLPGも使える。でも日本は1970年代から80年代に石油化学産業を作った時の設備がナフサクラッカー中心で、その構造が今も続いとんねん。
マリコ:50年近く「設備が当時のまま」っちゅうことか。高度成長期に作った工場が今もそのまま動いてるっちゅうことやな。
サチコ:しかも日本のナフサ分解工場は太平洋沿岸の特定の場所に集中してる。鹿島、千葉、大阪、水島っちゅう具合にな。
マリコ:集中しとると何が問題あるんか。
サチコ:輸入ナフサは特定の港から搬入される。港湾インフラに問題が起きたり、船が遅れたりした時に、代替できる港が少ない。しかもホルムズが詰まると、その港に来る船自体が減る。
マリコ:ははあ「入口が一か所しかないコンビナート」みたいなもんやな。その入口が詰まったら全体が止まる。
サチコ:しかも「逆三角形の在庫構造」と「一か所依存の調達構造」が重なると、外部ショックに非常に弱い。これが今回の危機で露呈した、日本の石油化学産業の「平時は効率的だが有事に脆い」っちゅう構造や。
マリコ:「効率のために最適化したら、リスクに弱くなった」っちゅう話やな。前の漫才でClaude Mythosが「ランダムに試すのではなく、論理的推論で弱点を見つける」っちゅう話をしたけど、ナフサの場合も「合理的に中東に集中させた結果、ホルムズっちゅう弱点に集中してしもた」っちゅう構造やんな。
サチコ:「効率と脆弱性はトレードオフ」っちゅう話は、今月の漫才でずっと続いてきたテーマやな。AIの半導体規制も「先端技術への依存は効率的だが脆い」っちゅう話やったし、日本の武器輸出の話でも「防衛産業が効率化のために縮小した結果、有事の継戦能力が落ちた」っちゅう話やったし。
マリコ:どこに行っても同じ教訓が待ってるな。「効率化すると有事に弱くなる」っちゅう。
サチコ:では、政府は何をしてるんや、っちゅう話をしよか。
マリコ:ほんまに何をしてるんや。
サチコ:まず代替調達の加速をしとる。アメリカ、アルジェリア、ペルーなど中東以外からの輸入を5月には平時の3倍近い水準まで増やした。タスクフォースを作って、在庫の偏在を解消する取り組みもしてる。過剰発注への注意喚起もした。
マリコ:「量は確保」っちゅう発表の裏側では、いろんな手を打ってるわけやな。
サチコ:ただし「3倍に増やした」代替ナフサには、さっき言った品質の問題がある。しかも中東からアメリカやアルジェリアに調達先を変えると、船で届くまでの時間が長くなる。中東なら2週間、アメリカ東岸なら3週間以上かかる場合もある。
マリコ:「届くまでの時間が長くなった」っちゅうことは、「発注してから手に入るまで」の隙間がさらに大きくなってるっちゅうことか。20日しかない在庫がさらに薄く感じられる、っちゅうことになるやんか。
サチコ:ほんまにその通りや。そして一番大きな問題として「ナフサには国家備蓄がない」っちゅう法律の穴がある。石油備蓄法っちゅう法律があるけど、ナフサはその対象外や。
マリコ:「法律が想定してへんかった」っちゅうことやな。石油備蓄法を作った時代には、ナフサをここまで大量に使う社会になるとは思ってへんかったんやろうな。
サチコ:今回の危機を受けて、経産省のタスクフォースで「ナフサも国家備蓄の対象にすべきか」っちゅう議論が始まってると報道されてる。
マリコ:「危機になって初めて穴に気づく」っちゅうやつやな。コロナの時のマスクの備蓄の話に似てるな。「平時に考えてれば良かったのに、有事になってから気づく」っちゅう繰り返しや。
サチコ:これも今月の漫才を貫くテーマやな。「平時に備えるか有事で慌てるか」っちゅう。
マリコ:そもそも経済的な影響はどれくらいあるんや。
サチコ:試算があって、最悪シナリオでGDPの成長率を0.7パーセント押し下げるっちゅうものがある。もっと厳しい試算では3パーセントっちゅう数字もあるで。
マリコ:GDPが0.7パーセント下がるとどれくらいのことなんや。
サチコ:日本のGDPは約600兆円規模やから、0.7パーセントっちゅうと4兆円強の下押し。
マリコ:4兆円も!「0.7パーセント」っちゅう小さそうな数字が、実は4兆円っちゅう大きな話やったんか。
サチコ:家計への影響っちゅう意味では、ナフサ由来製品の値上がりで一世帯あたり年間2万3千円から3万5千円の負担増っちゅう試算もある。
マリコ:2万3千円から3万5千円!それは年間でっちゅうことか。月に換算すると2千円から3千円ほど「よく分からないところで消えていく」っちゅうことやな。
サチコ:「よく分からないところで」っちゅうのが厄介なんや。ガソリンが高くなったら「ガソリンスタンドで高くなった」と分かる。でもナフサが高くなると、包装フィルムが少し高くなり、断熱材が高くなり、シンナーが高くなり、と分散して波及しよるから、「全部なんとなく高い」っちゅう体感になんねん。
マリコ:「犯人が見えないまま財布が軽くなっていく」っちゅうことか。これはある意味、ガソリンより気づきにくい分、対処しにくい問題やな。
サチコ:消費者物価への押し上げ効果は0.6パーセントから0.8パーセントっちゅう試算で、これは日常的な感覚では「なんか食料品も外食も高くなったな」っちゅう形で現れる。
マリコ:「全体的になんとなく高い」の正体がナフサだったっちゅうわけやな。前の漫才で「台所の問題が地政学を上回る」っちゅう話があったけど、今回は逆に「地政学が台所に侵入した」っちゅう話やな。
サチコ:しかも今回の問題は、円安っちゅう要因が重なって二重に痛い。2026年3月時点で1ドルが158円台っちゅう円安が続いとるから、ドル建てで値上がりしたナフサを円で買うと、さらに割高になんねん。
マリコ:「ナフサが高くなった上に、円が安い」っちゅうダブルパンチか。これはどう考えても家計がしんどくなる話やな。
サチコ:これを「ホルムズ・インフレ」と呼ぶ人もいる。
マリコ:「ホルムズ・インフレ」!名前がついてしまったっちゅうことは、それだけ広まってるっちゅうことやな。第192話でTACOっちゅう名前がついた話をしたけど、「名前がついたら現実だ」っちゅう法則が、ナフサにも来たっちゅうことか。
サチコ:そうやな。「ホルムズ・インフレ」っちゅう言葉が経済メディアで使われるようになったっちゅうことは、「ホルムズ海峡の緊張が日本の消費者物価に影響している」っちゅう状態が一般化したっちゅうことや。
マリコ:第189話からずっと話し続けてきたホルムズの話が、漫才の183話分くらいを経て、ついに「私の外壁塗装の見積もり」まで届いた、っちゅうことやんな。こわ!
サチコ:「遠い中東の海峡が、日本の一軒家の外壁塗装代に直結した」っちゅう、今月の漫才で言い続けてきた「台所の問題は地政学と繋がってる」っちゅうテーマの最も具体的な例や。
マリコ:前は「ガソリンが高くなった」っちゅう話で地政学との繋がりを感じてたけど、今回は「シンナー」と「断熱材」と「梱包材」と「部品」と「印刷インク」っちゅう、もっと目に見えないものを通じて繋がってきた、っちゅうことやな。
サチコ:「見えにくい繋がり」だからこそ、知らないと対処できないし、知ってても「自分ではどうしようもない」っちゅう無力感もある。
マリコ:ほな長期的にはどうするんや。ずっとナフサを中東に頼り続けるのか。
サチコ:いくつかの方向性がある。一つは調達先の多様化をさらに進める。アメリカ産、南米産、アフリカ産のナフサを恒常的に使えるようにする。
マリコ:「卵を一つのカゴに盛るな」っちゅうことやな。
サチコ:二つ目は、ケミカルリサイクルや。廃プラスチックを化学的に分解して、ナフサの代わりに使えるようにする技術が進んどる。
マリコ:「一回使ったナフサ由来製品を、もう一度ナフサに戻す」っちゅうことか。これが実現したら、中東に頼らなくて済むな。
サチコ:三つ目は、原料自体を変える。アメリカのようにエタンを使えるように設備を改造する、あるいはバイオマス由来の原料を使う、っちゅう方向性や。
マリコ:でもどれも「今すぐできる話ではない」っちゅうことやんな。設備を変えるには10年から20年かかる、っちゅう話や。
サチコ:短期は「代替調達で乗り越える」、中期は「ナフサ備蓄制度を作って在庫を厚くする」、長期は「原料転換を進める」っちゅう三層の対策が必要で、どれか一つでは解決でけへん。
マリコ:「三層」か。今月の漫才はどこに行っても「三層」が出てくるな。「事実・文脈・解釈の三層」から始まって、今日のナフサも「短期・中期・長期の三層」や。
サチコ:「世界は三層で動いてる」っちゅうことかもしれへんな。
マリコ:ところで、今回のナフサの話で一番怖かったのは、「在庫が20日分しかない」っちゅうことよりも、「20日しかないのに国家備蓄が法律上存在しない」っちゅう事実やと思うねんけど。
サチコ:そう、そこが本質の問題やな。原油には法律があって、国が備蓄を義務付けてる。でもナフサには義務がない。なぜかっちゅうと、法律を作った時代には「ナフサが石油化学産業の起点として、これほど重要になる」っちゅう想定がなかったからや。
マリコ:「未来が読めなかった法律の限界」っちゅうことやな。
サチコ:そしてこれは「法律が現実を追いかけ続ける」っちゅう現代の課題でもある。技術が変わって、産業構造が変わって、地政学が変わる。でも法律はすぐには変われへん。
マリコ:これはAIの話でもそうやったな。「Claudeがサンドボックスを脱出したけど、それを規制する法律はまだできてない」っちゅう話や。「新しいことが先に起きて、法律がついてくる」っちゅう構造。
サチコ:「世界は法律より速く動く」っちゅうのが今の時代の特徴やな。
マリコ:それでも、今回の問題は「法律の遅さ」よりも「50年近く間誰も気にしなかった」っちゅうことの方が怖い。「ナフサが20日分しか在庫がない」っちゅう事実は、コロナ前でも同じやったはずで、誰かが気づいてたはずやけど、「困ったことがなかったから問題にならなかった」っちゅうことやんな。
サチコ:「問題は困るまで問題として認識されない」っちゅう人間の本質やな。第196話の山火事の話でも「間伐が大事だと分かってるのに、燃えるまで誰もやらなかった」っちゅう話があったけど、構造は同じや。
マリコ:「危機が来て初めて穴が見える」っちゅうのは、今月の漫才で全員が同じことを言ってるな。ハンガリーの選挙も、日経平均6万円も、武器輸出も、AIの暴走も、ハンタウイルスも、ゴキブリ党も、ナフサも。全部「平時に気づかなかったことが有事で露呈した」っちゅう話やんか。
サチコ:「今月の漫才はまとめると何か」っちゅう問いへの一つの答えがそこにあるかもしれへんな。
マリコ:「有事は平時の問題の棚卸しだ」っちゅうことか。
サチコ:うまいこと言うな。
マリコ:……サチコ、最後に一個だけ確認させてくれや。
サチコ:何や。
マリコ:私の外壁塗装の話に戻るんやけど。
サチコ:うん。
マリコ:シンナー代が3倍になってるから、今月は外壁塗装をやめた方がええかな。
サチコ:代替ナフサの輸入が3倍に増えてきたから、シンナー価格はこれから少し落ち着いてくるかもしれへん。でも元の水準に戻るかどうかは、ホルムズ海峡の情勢次第や。
マリコ:「ホルムズ次第」か。つまり「外壁を塗るかどうかの判断に、第189話の話が影響してくる」っちゅうことやな。
サチコ:「漫才の内容が自分の家の塗装代に影響してる」っちゅう、これ以上ないほど台所に来た地政学の話やな。
マリコ:第189話から始まったホルムズの漫才が、第201話でとうとう私の家の外壁に届いた、っちゅうことか。
サチコ:「世界は繋がってる」っちゅうのが今月の漫才で言い続けてきたことやけど、まさかここまで具体的に繋がるとは思わんかったな。ほんまこわいわ!
マリコ・サチコ:どうもありがとうございましたー!




