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サチコとマリコの時事ネタ漫才  作者: 藍埜佑


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第200話「私もゴキブリや! ~インドの最高裁長官が失言した翌日に2000万人の巣ができるまでと、笑われると権威が溶ける話~」

マリコ:(なにやらプリントアウトした紙を手に持って颯爽と登場)


サチコ:なんやその紙。また漫才の台本でも用意してきたんか。


マリコ:台本やない!入党届や!


サチコ:入党届!?あんた政党に入ったんか!?


マリコ:入った!先週!


サチコ:どこの政党や!


マリコ:ゴキブリ人民党。


サチコ:(しばらく沈黙)……ゴキブリ?人民党?


マリコ:そう!


サチコ:そんな政党、日本にあったか?


マリコ:インドの政党や。


サチコ:インドの政党に入ったんか!あんたインド人か!


マリコ:ちゃう。でもオンラインで入れるから入った。グーグルフォームで申し込むだけでええねん。


サチコ:グーグルフォームで外国の政党に入る人間がどこにおんねん!


マリコ:世界中に100万人以上おるで。


サチコ:100万人!?ほんまに!?


マリコ:ほんまや。私もその一人や!「私もゴキブリ!」っちゅうことや!


サチコ:「私もゴキブリ」って誇らしく言うな!ほな、あんたがなんで急にインドのゴキブリ党に入ったのか、最初から説明してもらおか。


マリコ:説明する前に、まず私の入党資格を聞いてくれ。


サチコ:入党資格があるんかい。


マリコ:四つある。「無職であること」「怠け者であること」「常時オンラインであること」「プロ並みに文句を言えること」の四つや。


サチコ:……あんた全部当てはまるやんな。


マリコ:せやねん!全部当てはまんねん!しかも正式なスローガンまであって、「世俗的、社会主義的、民主的、そして怠惰」や。


サチコ:最後だけ全然別次元の言葉やんか!「世俗的、社会主義的、民主的」まではどこかの憲法みたいな格調があるのに、「そして怠惰」でガタ落ちしてる!


マリコ:でもその「怠惰」が大事なんやんか。「怠惰」を隠さず掲げる政党っちゅうのが、この党の本質やからな。


サチコ:なるほど「怠惰を政治綱領にした党」っちゅうことか。ほな、なんでこの党ができたんや。始まりはどこなんや。


マリコ:これはな、インドの最高裁の長官さんが法廷で言ってしまった一言から始まるんや。


サチコ:ほうほう、なんかやらかしはったんやな。


マリコ:2026年5月15日、インドの最高裁長官のスルヤ・カントさんっちゅう人が、法廷でこういうことを言うた。「雇用がなくて職にも就けない若者はゴキブリのようだ。彼らは社会の寄生虫で、あらゆるものを攻撃し始める」と。


サチコ:「ゴキブリ」「寄生虫」!最高裁の長官が法廷でそういうことを言うたんか!


マリコ:言うた!しかも文脈があって、「資格を偽って弁護士になった人間」を批判してる中でそう言うたとされてるんやけど、SNSではその文脈が吹っ飛んで「長官が失業した若者全員をゴキブリと呼んだ」として拡散した。


サチコ:「文脈が吹っ飛んで拡散」か。これは前の漫才で毎回出てきた「解釈が先に走る」パターンやな。


マリコ:長官は翌日「若者全体を侮辱したわけではない。偽の学位を持つ人間について言った」と釈明した。でも炎上はもう止まらへんかった。


サチコ:「釈明が火に油を注ぐ」っちゅうパターンやな。釈明すればするほど「じゃあ偽の学位を持つ人間はゴキブリでいいのか」っちゅう別の問いが出てくるし、そもそも「最高裁の法廷でそういう比喩を使うのが問題」っちゅう批判も出てくる。


マリコ:その炎上の翌日、5月16日にアビジート・ディプケさんっちゅう30歳の人がX(元ツイッター)でこう書いた。「ゴキブリのみなさんのためのプラットフォームを始めます」と。


サチコ:「ゴキブリのみなさん」!最高裁に侮辱された側が「ゴキブリ」っちゅう言葉を自分たちで使い始めた、っちゅうことやんな。


マリコ:そうや!「ゴキブリと呼ぶなら、我々はゴキブリだ。ゴキブリは潰しても死なない」っちゅう発想で。


サチコ:「侮辱語を自分たちのシンボルにする」か。たくましいやん、これは面白い逆転やな。差別された側が差別語を逆手にとる手法や。


マリコ:しかもこのディプケさん、ボストン大学でパブリックリレーションズを学んだ人で、もともとインドの野党でソーシャルメディア戦略をやってた経歴がある。


サチコ:「プロが設計した風刺運動」っちゅうことか。「普通の若者がジョークで始めた」のとは少し違うんやな。


マリコ:「ジョークのように見えるけど、中身はプロが作った戦略」っちゅうことや。しかもディプケさんはウェブサイトを24時間で作って、そのためにClaudeとChatGPTを使ったと公言しとる。


サチコ:ClaudeとChatGPTで作った!第195話でClaudeのMythosが「サンドボックス脱出してメールを送った」っちゅう話をしたけど、今度はClaudeがインドの政治風刺運動のウェブサイトを作る手伝いをしたっちゅうことか。「Claudeはほんま多方面に活躍しとる」っちゅう話やな。


マリコ:AIが24時間で政党を産んだっちゅうことやんな。


サチコ:「AI政党産業革命」やな。ほなその後どうなったんや。


マリコ:その後がすごいんやけど、どれくらいすごいか分かるか。


サチコ:わからん。


マリコ:5日ほどでインスタグラムのフォロワーが2000万人を超えた。


サチコ:5日で2000万人!?


マリコ:しかもインドの与党、BJPの公式インスタグラムのフォロワーが約900万人やったから、ゴキブリ党は与党の2倍以上を超えた。


サチコ:「1週間も経たない政党が、世界最大の政党を超えた」っちゅうことか。


マリコ:しかもグーグルフォームの入党届に100万人以上が申し込んだ。


サチコ:100万人!選挙委員会に登録もしてへん、公式政党でもない組織に、グーグルフォームで100万人が「入る」と言うた、っちゅうことやな。


マリコ:「入りたい」っちゅう気持ちがを持っとる100万人いた、っちゅうことやな。うちもやけどな!


サチコ:ここで少し深掘りせなあかん話があるで。「なぜインドの若者がそんなに反応したのか」っちゅう、背景の話や。


マリコ:そこはうちも知りたいねん。インドの若者がなぜそこまでゴキブリに共感したんや。


サチコ:インドは今、「世界最速で成長している大国」と言われとる。GDPは伸びてる、人口は世界最大、IT大国、宇宙開発も進んでる。でも若者の失業率が高い。


マリコ:「国全体は成長してるのに、個人は置いてかれてる」っちゅう状況か。


サチコ:29歳以下の若者の失業率は政府統計でも10パーセント近く、別の計算では15パーセントを超えるっちゅう数字もある。さらに大学を卒業した若者に絞ると、40パーセント近くが仕事に就けていないっちゅう試算も出とんねん。


マリコ:40パーセント!大卒の4割が無職!インドは大学がたくさん増えたけど、就職先がついていかなかったっちゅうことか。


サチコ:「学歴インフレ」っちゅう現象やな。みんなが大学に行くようになったから、大学の学位の価値が下がった。でも学位なしでは仕事に就けない。


マリコ:「勉強したのに意味がなかった」っちゅうことか。それはあかんわ。


サチコ:しかも公務員試験や、医学部受験の全国統一試験「NEET」の不正問題が重なった。今年の5月3日に実施されたNEET-UGっちゅう医学部入試で、試験問題が事前に漏洩しとんねん。


マリコ:漏洩!医学部の試験問題が!


サチコ:230万人以上が受験したのに、試験は中止になって再試験になった。


マリコ:230万人が「やり直し」か。しかも医学部受験っちゅうのは、何年もかけて勉強するような試験やんな。それが一発漏洩で台無しになった、っちゅうことか。ひどいな。


サチコ:「努力が報われない」どころか、「不正をした人間が得をして、真面目に頑張った人間が損をした」っちゅうことや。


マリコ:これはゴキブリが共鳴するわけやな。「どれだけ頑張っても、コネと不正のある世界では通用しない」っちゅう絶望が蔓延する。


サチコ:ゴキブリ党の入党資格が「無職・怠惰・常時オンライン・文句のプロ」っちゅうのは、表面は自虐だけど、裏側に「頑張ったのに報われなかった怒り」があんねん。


マリコ:「怠惰」っちゅう言葉を旗に掲げながら、実際には「怠惰になるしかなかった」っちゅう叫びが込められてるんやな。


サチコ:そうや。香港の若者運動で「廃青」っちゅう自虐語があったり、アメリカの「ドゥーマー」ミームがあったりするけど、あれと同じ構造や。「自分たちをどうせだめだと呼んでみせる」ことで連帯する。


マリコ:「笑い飛ばしながら本気で怒っている」っちゅうことか。


サチコ:しかもディプケさんは取材でこう言うた。「権力者は市民をゴキブリだと思っている。彼らはゴキブリが腐ったところで繁殖することを知っておくべきだ。インドが今そういう状況だ」と。


マリコ:「腐ったところで繁殖するゴキブリ」か。「自分たちをゴキブリと呼ぶなら、その通り増殖してやる」っちゅう開き直りと反撃が一緒になってるんやな。


サチコ:「侮辱語の再所有」っちゅう手法やな。差別された側が差別語を自分で使うことで、その言葉の力を奪う。


マリコ:では政府はどう反応したんや。


サチコ:5月21日、Xのアカウントがインド国内で遮断された。インドの情報省がIT法に基づく要請を出して、「国家の主権と安全保障への脅威」っちゅう理由やった。


マリコ:「国家の安全保障への脅威」!ゴキブリ党が!


サチコ:しかも情報局が首相に「このCJP問題が公衆不安を引き起こす可能性がある」っちゅう報告を上げた、っちゅう報道もある。


マリコ:「情報局がゴキブリを警戒している」っちゅう。なんか深刻なはずなのに笑ってしまう状況やな。


サチコ:ウェブサイトも一時ダウンした。インスタグラムの公式アカウントもハッキングされたとディプケさんは言っている。さらに本人宛に殺害の脅迫が届いたっちゅう。


マリコ:殺害の脅迫まで!


サチコ:で、現在は創設者の自宅があるインドのマハラシュトラ州チャトラパティ・サンバジナガルに、警察が24時間体制で警備に当たっている。


マリコ:警察が守ってるんか!でもそれは脅迫のためか、それとも別の理由か。


サチコ:警察の発表は「群衆が集まりすぎないように」っちゅう理由やが、ある意味それ自体が「この人物が注目されている」っちゅう証明でもある。


マリコ:「守るために来ました、でも脅迫じゃありません」っちゅう発表自体が、「脅迫があるから来た」と勘ぐられやすいな。


サチコ:「隠そうとすればするほど広まる」っちゅう、第192話のTACOの話でも出てきたけど、今月の漫才では何度も出てくる「ストライサンド効果」がここでもバリバリ出てる。


マリコ:「Xアカウントを遮断した翌日、フォロワーがさらに増えた」っちゅうやつか。


サチコ:与党のBJP側は「フォロワーはパキスタンやバングラデシュのボット(偽アカウント)だ」と言った。


マリコ:パキスタン!また「パキスタンが悪い」っちゅう話が出てきた。


サチコ:これはインドの権力側がデジタル運動を批判する時によく使う手法やな。「本物のインド人じゃない、外国の工作だ」っちゅう。


マリコ:それに対してディプケさんはどう返したんや。


サチコ:インスタグラムのアナリティクス画面の録画を公開して「フォロワーの94.1パーセントはインド人だ」と反論した。


マリコ:「証拠を出した」っちゅうことか。「パキスタン」と言ったら「データを見ろ」と返した。これはなかなかスマートな反論やな。


サチコ:デジタルツールが発達した時代の政治抗争の形やな。


マリコ:で、この党は選挙に出るのか。本当の政党になるのか。


サチコ:選挙委員会には登録されてへん。公式の政党ではない。マニフェストはあるけど、「風刺運動」っちゅう位置づけを自分たちで宣言してる。


マリコ:「政党ではないけど、政党のマニフェストがある」か。ちなみにマニフェストには何が書いてあるんや。


サチコ:退任後の最高裁長官に上院議員のポストを与えることを禁止する、っちゅう条項がある。


マリコ:それは今回の発言した長官への直接の反撃やんか。


サチコ:議会の女性枠を33パーセントではなく50パーセントにせよ、っちゅうのもある。メディアの特定財閥による独占を排除せよ、っちゅうのもある。


マリコ:「笑い飛ばしながら、具体的で本格的な政策要求をしてる」っちゅうことやな。


サチコ:しかもNEETの試験漏洩問題を受けて、教育大臣の辞任を求める署名キャンペーンも始めて、60万人以上が署名した。


マリコ:60万人!「ゴキブリがオンラインで動く」と、この数字が集まるっちゅうことか。


サチコ:しかもオンラインだけじゃなくて、実際に各地でゴキブリの着ぐるみを着た若者たちが街頭に出た。


マリコ:着ぐるみ!ゴキブリの着ぐるみ!


サチコ:デリーのヤムナー川清掃活動で、ゴキブリのアンテナをつけた若者たちがプラカードを持ちながらゴミを拾った。


マリコ:「川を掃除しながら政府に抗議する」っちゅう。真面目なんかふざけてるんか分からへんな。


サチコ:それが「ポスト希望の政治」っちゅうもので、真剣に怒りながらも笑えるっちゅう形が今の若者の表現なんやと思う。


マリコ:「熱狂でも暴力でもなく、冷笑で抵抗する」っちゅうことか。


サチコ:インドの政治は今まで、宗教的な熱狂、ナショナリズム、カリスマ指導者崇拝っちゅう「熱い政治」が中心やった。でもゴキブリ党は「冷笑」「自虐」「ネタ」っちゅう正反対のアプローチをとった。


マリコ:「熱さで権威に挑むんじゃなくて、笑いで権威を弱らせる」っちゅうことか。


サチコ:そこが今回の出来事の一番本質的な部分やな。権威っちゅうのは「笑われると弱くなる」っちゅう特性があるねん。


マリコ:「誰かを恐れてる間は権威が成立するけど、笑い飛ばすと権威が溶ける」っちゅうことか。これはうちら漫才師も肝に銘じとかないかんな。


サチコ:最高裁長官がゴキブリのスーツを着たイラストで描かれて、「私もゴキブリ」と2000万人に言われた時点で、その人物の権威は確実に以前と違う何かになってしまうねん。


マリコ:「笑われた権威は崩れるわけではないけど、消えないキズがつく」っちゅう話やな。


サチコ:しかもそれがデジタルに残る。5年後も10年後も「あの最高裁長官はゴキブリ発言で2000万人の風刺党を作らせた人」っちゅう記録が残る。


マリコ:「デジタルの記憶は消えない」か。これは第195話のMythosが「サンドボックス脱出の詳細を公開した」っちゅう話とも通底してるな。「一度インターネットに出た情報は消せない」っちゅう。


サチコ:今月の漫才が全部つながってくるな。


マリコ:で、このゴキブリ党は今後どうなるんや。


サチコ:分析者の間では大きく分けて三つの未来がある。一つは「数ヶ月で消える」。ミームっちゅうのは消費が速いから。


マリコ:「ブームが終わる」っちゅうことやな。


サチコ:二つ目は「象徴的な圧力グループとして残る」。具体的な政策要求を出し続けて、野党や社会運動と連携しながら若者の声の代弁者として機能する。


マリコ:「政党にはならないけど、議会に影響を与える」っちゅうやつやな。


サチコ:三つ目は「野党に吸収される」。すでにいくつかの野党議員がCJPへの連帯を表明してる。野党からすれば「若者票の代理指標」として使えるからな。


マリコ:「ゴキブリを利用したい大人たちが集まってくる」っちゅうことやな。


サチコ:そしてすでに起きてるのが四つ目の側面で、「規制による地下化・神話化」や。Xを遮断するほど「政府がゴキブリを恐れている」っちゅう物語が強くなる。


マリコ:「弱いゴキブリを強大な政府が潰しに来た」っちゅう構図は、確かにゴキブリ側を強く見せるな。


サチコ:「国家安全保障の脅威」と呼ぶほど大げさに対応すると、「これだけ揺さぶられてるっちゅうことは、ゴキブリは正しいことをしている」と思う人が増えるっちゅうことや。


マリコ:「弾圧が神話を作る」か。第193話で株価の話をした時に「数字が現実を表すとは限らない」って言うたけど、権力の反応が「あの運動は危険じゃない」ではなく「あの運動は重要だ」っちゅうメッセージになってしまうっちゅうことやな。


サチコ:「行動の意味が意図と逆転する」っちゅうことや。皮肉やな。


マリコ:あとさ、サチコ、私が一番気になるのは「これはインドだけの話か」っちゅうことやねん。


サチコ:鋭い問いやな。その答えは「インド固有の文脈はあるけど、構造は世界共通」や。


マリコ:どういうことや。


サチコ:高度成長なのに個人は貧しい感覚、学歴があっても仕事がない、試験や資格への不信、AIが仕事を奪う不安、SNSで比較される毎日。これはインドだけじゃなくて、日本でも韓国でもアメリカでもある構造やな。


マリコ:「ゴキブリの条件に当てはまる若者」は世界中にいる、っちゅうことか。


サチコ:日本でいえば「ニート」「社会的ひきこもり」「非正規労働」っちゅう問題が長年あるし、韓国でも「ヘル朝鮮」っちゅう言葉で自国を地獄と呼ぶ若者の自虐文化があった。ゴキブリ党はその「インド版」とも言える。


マリコ:「国は違えど、置いてかれた感覚は同じ」っちゅうことやな。


サチコ:だからインドのゴキブリ党のニュースが世界中で報道されて、インド以外の若者も「これは自分の話だ」と感じた人が多かった。


マリコ:「共感の射程が国境を超えた」っちゅうことか。


サチコ:しかしここで重要な限界も言わんとあかん。


マリコ:限界?


サチコ:ゴキブリ党は「何が嫌か」はハッキリしてるけど、「何を作りたいか」がまだ曖昧やねん。


マリコ:「反対意見は揃ってるけど、賛成する未来が描けてない」っちゅうことか。


サチコ:「怒り」は人をまとめるけど、「建設する」ためには怒りだけでは足りひん。しかもミームは拡散するけど組織を作るのには向いてへん。


マリコ:「拡散力はあるけど、持続力は未知数」っちゅうことやな。


サチコ:世界中の「ミーム政治」がぶつかる壁がそこで、熱狂の後に「で、何をするのか」っちゅう問いに答えられなくて萎んでいく例は歴史上たくさんあるねん。


マリコ:「消費が速いものは賞味期限も短い」っちゅうことか。


サチコ:でも一つ確実に言えることがあるで。


マリコ:何やねん。


サチコ:「一度ミーム化された権威は、永久に少し弱くなる」っちゅうことや。


マリコ:それはどういう意味や。


サチコ:今後インドの最高裁長官が何か発言するたびに、「あの時ゴキブリと言った人」っちゅう背景が付きまとう。しかも「ゴキブリ」っちゅう言葉を使うたびに、2000万人のあのうねりが思い出される。


マリコ:「言葉の意味が変わってしまった」っちゅうことか。「ゴキブリ」っちゅう言葉がもう単純な侮辱語では通用しない。


サチコ:「ゴキブリ」がインドの若者の連帯の言葉になってしまったから、あの言葉を悪い意味で使いたい人は今後使いにくくなった。


マリコ:「侮辱語の意味が逆転した」っちゅうことやな。


サチコ:そういうことや。これは言語の面白いところで、「クィア」っちゅう言葉も、かつては侮辱語だったのが当事者が再所有することで全く違う意味を持つようになった。「ゴキブリ」もインドで似たような変容を経験してる。


マリコ:「言葉を奪う方法は、その言葉を笑いながら名乗ることや」っちゅうことやな。


サチコ:一言でまとめると、「嫌われてるものを愛称にすると、嫌いにくくなる」っちゅうことや。


マリコ:なるほどな……(しばらく考えて)じゃあ私も日本版ゴキブリ党を作ろうかな。


サチコ:えっ。


マリコ:「慢性的に疲れてる党」とか。入党資格は「常時眠い、常習残業、休日何もでけへん、文句だけは一人前」の四条件で。


サチコ:それ日本のサラリーマン全員が当てはまるんやないか。


マリコ:スローガンは「勤勉、誠実、真面目、でも疲弊」や。


サチコ:また最後だけ現実的になるんやな!「勤勉、誠実、真面目」まで格調があるのに「でも疲弊」でガタ落ちする!


マリコ:インドのゴキブリ党が「怠惰」なら、日本版は「疲弊」やからな。どちらも働く意欲が削がれた状態を旗に掲げる、っちゅう点では同じやんか。


サチコ:「怠惰と疲弊の国際連帯」か。


マリコ:「私もゴキブリ!私も疲弊!」っちゅう世界的な共感会議が開けるやんな。


サチコ:会議が成立する前に全員が眠ってしまうやんか!


マリコ:それが一番平和やんか!


サチコ:それはそうかもしれへんけど!


マリコ:あとさ、今月の漫才を全部振り返ると面白いな。


サチコ:ん、何が面白いんや。


マリコ:TACOのトランプさん、ホルムズ海峡の船、北京の米中首脳会談、ハンタウイルスのクルーズ船、インドのゴキブリ党。今月は船とゴキブリが多いな。


サチコ:「船とゴキブリ」でまとめるな!


マリコ:でも全部つながってるで。どれも「数字の裏側に人間がいる」っちゅう話やったし、どれも「解決してへん、つづく」で終わる話やったし。


サチコ:そうやな。TACOも停戦も、株価も、武器輸出も、AIの暴走も、山火事も、ウイルスも、米中会談も、ゴキブリ党も、全部「完全解決はなくて、管理しながら続いていく」話やった。


マリコ:「終わらない世界の話を、終わらせずに漫才した」一ヶ月やな。


サチコ:締まったような締まらないような、いい表現やな。


マリコ:んじゃ、ゴキブリが死なへんように、この漫才も死なずに続くっちゅうことで。


サチコ:漫才をゴキブリに例えるな!


マリコ:でも「潰されても増殖する」っちゅう点では似てるやんか。


サチコ:似てへんわ!もうええわ!


マリコ・サチコ:どうもありがとうございましたー!


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