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幽縁ノ季楼守  作者: 儚方ノ堂
プロローグ
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1/54

1954年


 花が咲くような笑顔をこちらに向け、少女は走り出す。

 ——()()が迎えに来た、と。

 

 この辺りは昼間だというのに薄暗く、人通りも少ない。

 雑木林が陽の光を、大いに遮っているせいだ。

 

 自分はまだ朝だと呼べる時間帯からここに滞在し、少女はそれからしばらく経った頃に現れた。

 不安そうに辺りを見渡し、やっと見つけた大人が、俺だったらしい。

 少女には同情するが、頼りになるどころか……まさかの同じ迷子仲間である。

 その虚しい真実を、包み隠さず告げれば「お友達ができた!」と、喜ばれてしまった。

 

 それは、ひょんな巡り合わせから始まった、小一時間ほどの交流。

 内容といえば、他愛のない、ただの雑談である。

 俺に気の利いた子守は向かないのだが、そんな不安は杞憂に終わった。

 少女は背丈こそ五つか、六つといった所だが、精神的に随分と大人びていた。

 受け答えがしっかりしているのは勿論、愛嬌があり、コロコロと表情を変えながら楽しげに話し、話題を引き出す。

 

 非常に話し上手で、聞き上手。

 それでつい、色々と話し過ぎた気もするが……。


「お母さんが、迎えにきたの!」 


 そんな少女が跳ねるように、今日一番の笑みを浮かべて、駆け出した。

 せめて彼女達の再会を見届けようと、俺も立ち上がる。

 ……しかし次に顔を上げると、該当する親子の姿どころか、周辺には誰の姿も見受けられない。

 

 狐にでも化かされたか、あるいは神隠し——なんて不穏な単語がよぎる中、四方を見渡していると、見覚えのある物が目に入る。

 それは少女が駆け出した方角に落ちており、弱々しく太陽の光を反射させていた。

 俺達が腰掛けていた倒木から、少し離れた場所にある木陰まで移動し、そっと手を伸ばす。


 三つの鈴が連なる、小さな装飾品——見間違う訳がない。

 今まさに俺を探しているであろう、恩師の私物。

 彼女がいつも肌身離さず付けている、髪飾りだった。

 

 しかし拾い上げたことで、初めて異変に気づく。

 今朝まではなかったであろう——鈴に付着した、赤黒い液体の存在。

 指で拭ってみるが、完全には拭いきれないその粘り気に、嫌な予感がついて回る。


「まさか、アサギの血痕……なのか?」

 

 迫り来る胸騒ぎを押し留め、今朝方の忠告を思い返す。

 数刻前、師であるアサギは柄にも無く、真剣な声色で告げたのだ。

 

『いいかい? もし私とはぐれてしまったら、無闇に動かずその場に留まること。けどそれが困難な状況や、日暮れまでに私と合流出来なかった場合。予定通りに鞠月(まりつき)神社を目指すんだ。結局、あそこが一番安全だから。ただね、ユメビシ一人では、辿り着くことが困難だろう。……それでも諦めず、あの場所に行きたいと、心から願うんだよ』


 ——そうすれば、神社は現れるから。

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