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俺は女神の中の人  作者: 千佳のふりかけ
第三章『異端審問官になるぞ編』
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74話『今日の初見殺し』

「さて。いい感じにヴルディール・リッケンバックが頑張って攻撃を凌いであげているみたいだけど君たちの隊長さんの意識が芳しくなさそうだ。なにか持病でもお持ちなのかな? それとも身の丈に合わない術の行使でもしたのか。今すぐに助けられないのがとても歯がゆく急ぐ足先にも悔恨の力が加わってしまうねぇ!」


「言うとりますけど。助けに行くっつってずーっと柵越しに穴の下を覗いてるだけですよね私達。今ってなんの時間なんですか」


「言ったでしょう? 魔力のブレるタイミングを狙ってるんだよぉ。どう? メリー・ローレル。結界の魔力の流れに変化は?」



 べリスさんにがっしり胴体を腕で押さえられ、涙をボロボロ流して震えているメリーが小さく首を横に振る。口から出る言葉に細工をされたからかずっとあの調子で黙って首を振っているんだよな。

 戦うの嫌だとか駄々こねてたし、包帯ぐるぐる巻きのべリスさん自体に強い苦手意識を持ってそうなのにあんな風に抱き着かれちゃまともな言葉なんて離せないか。可哀想に。



「ちなみに質問なんですけど、その魔力がブレてるタイミングやらを見極めたとして私は何をどう攻撃すればいいんですか? 景色を偽装されてるだかで何にもない空間しか目に映ってないんですけど」


「そのまま目の前に広がる大穴をやたらめったらに切りつけてくれたらいいよ! キッカケ傷さえ出来たら後はボクが広げてあげるから!」


「はあ。柵の向こう側を切りつければいいんですね?」


「いんやぁ? 柵を乗り越えて! 大地を飛び越えて大穴に向かって大ジャーンプ! 落下しながら斧を振り回してくれたら花丸満点合格証〜!」


「やばいこと言ってる。50階建ての高層アパートから街を見下ろしたような深さの大穴をそのままジャンプしろって? 命綱無しで? 頭おかしいでしょ。メイドインアビスでもそんな大胆な階層移動しないですよ」


「とは言っても〜。そう申されても人が行き交う区画からはその斧でも届かない位置に結界が張られてるからそうするしかないんだよぉ。隊長さんから聞いてるよ〜? 身体能力にはかなりの自信があるんでしょ?セーレ・アイゼントゥール。地面に落下する前になんとか斧を壁面に引っ掛けるなり、ムササビみたいに滑空するなりしてそこはどうにか出来るんじゃないのぉ?」



 無茶なこと言うなあ。まあ出来なくはないけど、だからってこの高さの紐なしバンジーに挑戦したがるほど脳が仕上がってないんだよ。前世の感覚がまだ全然残ってるから、本能的に足がすくみそうなのを何とかキャライメージ保たせるために我慢してるだけ。怖いもんは怖いんだよなあ。



「ううぅぅ、目が乾クぅ……」


「大丈夫だよメリー・ローレル。しんどくなったらボクの魔法で眼球を潤してしんぜよう。いつでも教えてね」


「鬼畜ぅ……セーレェ〜……」


「ごめんな、メリー。助けを求められても、ガッチリホールドされてる人質を奪還する訓練は受けてないんだ私。下手な事してもお前の首がへし折られて終わるだけだろ。諦めて真面目に働こうぜ」


「死体掃除の手伝いナんて買って出ルからこんな目に……一生恨む……!」


「まーだ言ってんのかよ。人助けは美徳なんだ、そこはもう割り切ってくれよ。結果論で人を責めてもしょうがないだろって」


「ぐぬぬ……」


「けひゃひゃっ。仲が良いねぇお二人さん。歳の離れた間柄なのにそんな風に同年代っぽく話せるのはとても良い事だ。美しい友情だねぇ。羨ましいなぁ、妬ましい。ボクもそんな友達が居たらなぁって思わない日が無いよ。まっ、こんな包帯だけ巻いたような変質女と仲良くしてくれる人なんてどこを探してもいやしないんだろうけどねぇ〜〜!!! はーんもうこの姿嫌だなぁ早く傷直したいなぁ!!」



 包帯云々関係なく、喋り方の癖がうざったらしいから傷が治っても友達なんて出来にくそうだけどね。なんて、相手のコンプレックスを刺激しそうだったので思うだけで口にはしないでおく。羨ましい妬ましいを連呼する所とか同じような言葉を並べ立てる所とか、あと他人をフルネームで呼ぶ所とかな。どんなキャラ付けだよ。



「……む。揺れた」


「お! 魔力ブレの予兆有りだってよセーレ・アイゼントゥール! ゴーゴー! 柵を飛び越えて何も無い虚空に巨大斧の連撃を見舞ってやれー!」


「スパイダーマンになれたらなぁ……よいしょっ」



 合図が出たので柵に足を乗せ一思いに大穴に向けてジャンプする。

 穴の中心に近い位置に結界が張られてるイメージがあったので脚力に強化をかけていたのだが、そのせいで予想以上の飛距離が出て仰天。てか落下防止の柵を踏み曲げちゃった。やり過ぎたなぁ。



「うおおぉぉぉっ! なんか急に凄い突風!? クレーターに飛び込むとこうなるのか!」



 平地で大ジャンプした時には感じなかった体を持ち上げるような風に瞼が開けにくくなる。いやまあ開けている必要もないか。俺がすることはめちゃくちゃに斧を振り回して虚空を切りつけ続ける事だもんな。目を閉じてても出来る、言われた通り披露してやりますか。巨大戦斧のペン回しを。



「おーりゃおりゃおりゃおりゃおりゃおりゃ! 当たれ当たれ当たれーい! ……待てよ? 結界で斧を切りつけるってことは結界って手で触れられる物なんだよな? じゃあこれ、結界にそのまま落下したら俺普通にグチャって潰れちゃうって事じゃないのか?」



 飛び出してから気付いた事実。数秒後の俺が見るも無惨な飛び降り死体になっている想像が頭を過ぎる。


 ……自己蘇生は出来るけども、不死身だからって痛みを感じないわけではないんだよな。だし、俺が不死身であることは同じ班員のメンバーにさえ伝えていないシークレットだ。当然べリスさんはその事を知る由もない。


 俺、捨て駒にされてる?


 え、待って待ってべリスさんの考えてる事がグロすぎてかなり引いてる。あの人まじか、他人の命をなんとも思わないタイプか。やばっ。騎士なんて辞めるべき終わった精神性の持ち主だろ。サイコパスじゃんガチで。やっっっば。



「きゃあああぁぁぁぁっ!!?!?」


「っ。メリー?」



 頭上からけたたましい悲鳴が聴こえてきたと思ったら、メリーを小脇に抱えて俺と同じように落下してくるべリスさんが見えた。え、何してんのあの人!?



「恋の道程(ポイント・ヴァニティ)」


「うおっ!? お……?」



 高速落下してきたべリスさんが俺の背に追いついた瞬間、彼女が空いた方の手を前に突き出し単語を唱える。直後、俺達3人の落下速度が緩やかになり鼓膜をつんざくような豪風の音も止む。



「ひいいぃぃぃっ!!! 落ちてル! 落ちてる! 死ヌウうぅっ!!!」


「けひゃひゃひゃひゃっ!! 大丈夫だよぉメリー・ローレル。落下死しないように手は施したからさ。そしてご苦労、セーレ・アイゼントゥール! 君の雑な斧の連撃のおかげで結界に綻びができた! ほら、二人とも。3秒数えたら結界に足が着くから構えてねぇ! さん、にぃ〜」



 1、とべリスさんが唱える前に足が地面に着く感覚がした。どうやら結界に着地したらしい。足元は相変わらず何も無い空中、そのまま無人の古代遺跡が佇んでいるのが見える。不思議な感覚だ。ガラスみたいな踏み心地なんだな、結界って。



「無事に着地できたのは良いですけど、今から結界を破壊するんですよね。したらまた私達落下しません? さっきの魔法を二度掛けするんですか?」


「ボクの近くにいる限りさっきの能力の効果は切れないからそこは安心していいよぉ」


「ッ!」



 あれだけべリスさんに怯えていたメリーが必死な形相で彼女にしがみつく。困った顔で笑うべリスさん。あんな事されたら誰だって似たような行動を取るに決まってるのになーにやれやれみたいな顔してるんだこの人。やっぱサイコパスだろ、共感性皆無か。



「しがみついてくるのは構わないんだけどぉ、ボクって騎士団長でしょぉ? 騎士を襲うような人からしてみればボクの姿が目に入れば集中的に徹底的に手抜かりなく攻撃の矛先を向けてくるのが道理だと思うからむしろ引っ付くのは危険だと思うよぉ?」


「ひイぃ確かに!!」


「いやそこはメリーの事をちゃんと守ってやってくださいよ。今回の作戦において重要な役割を果たしてるんですから」


「セーレ……! うぅっ、お前やっぱリ良い奴……!」


「単純か」


「守ってあげたいのは山々だけど、ボクって戦いが得意じゃないからその辺も自信ないんだよねぇ〜。むしろそこはセーレ・アイゼントゥールに頼みたい部分なんだけどなぁ〜」


「何の為にここまで出張ったんですか。騎士団長なんでしょ? 私らより余裕で戦いを得意とするべき立場でしょうよ。戦闘がメイン職じゃないにしても最低限の戦闘力は担保してもらわないと」


「けひゃっ! 耳が痛いねぇ。ま、やるだけやってみるけど危なくなったら一人で逃げてねぇ〜メリー・ローレル」


「うううぅぅ用事思イ出したやっぱリ帰るゥ!」


「どうやってぇ? こんな大空洞の中心ド真ん中の空中からどうやって地上に帰るのぉ? この結界、居住区画の柵まで地続きになってないし途中で足場がなくなって落っこちちゃうだけだよぉ?」


「そんナ!」


「ボクから離れる事になるから能力の効果範囲外になって重力の影響をモロに受けるしぃ? この高さから落っこちたらたとえ奇跡が起こって身体が原型を残しても即死を免れることは不可能じゃないかなぁ?」


「そんなァ〜〜〜!!」



 コメディチックなやり取りだなぁ。言ってる内容は終わり散らかしてるけど。

 絶望のあまり頭を抱え嘆き悶えるメリーとそれを見てケラケラと笑いつつ場所を移動するべリスさん。べリスさんから離れたら自由落下しちゃうんだっけ。泣きわめくメリーの服を掴み、べリスさんから極力離れないようにする。



「てか詳しく聞かずノリで着いてきちゃいましたけど、なんでヴルディールさんとシスター・ジュエルが一緒になって戦闘しちゃってるんですか。偽装工作を使ってくる相手ってなると魔獣なわけもないし結構厄介な相手ですよね」


「さあ? 詳しい事はボクだって知らないよ。ヴルディール・リッケンバックはどうにも個人行動が多いから、何かしらのトラブルに巻き込まれたか、その発端となったか、推測を立てるのも難しい状況だねぇ〜」


「ペーペーの新米には伝えられないような極秘ミッションでもあったんですかね」


「さあぁ〜? 今回のボク達の活動目的と君達の活動目的は一致しているけれど、偶然であって上層部で連絡を取り合ったわけではないからそこもなんともぉ。そもそもそういった共同作戦が行われる場合ボクが一緒じゃないのはおかしな話になるし、奇跡的に示し合わせることなく鉢合わせた可能性が高いんじゃないかなぁ〜?」


「こんな行く所の多い竪穴式巨大都市で偶然居合わせる事なんてありますかね。こっちは行動範囲を事前に決めてるからよく顔を合わせますけど、行き先を知らない人同士で鉢合わせるとか天文学的な確率でしょ」


「そうは言うけどボク達はもう二度も偶然巡り合わせてるわけだしぃ? 天文学と呼べるほど奇跡的な確率とも思えないけどなぁ〜」


「んー……」


「なにか気になるのかな? セーレ・アイゼントゥール」


「んーー……まあ。引っかかりはしますね。場所も場所だし。考えても答えなんて出ないからどうでもいいんですけどね」


「けひっ。割り切るのが早いねぇ〜相変わらず! でもそれでいいよぉ、知らなくても良いことなんて世の中沢山数え切れないくらい有り余ってるわけだしぃ? 自分の領分じゃない所に首を突っ込んでも余計なトラブルが生まれるだけだからねぇ〜」


「ソれは本当にそう! 反省シてよセーレ!」


「俺を責めれそうな時だけ乗っかんなよお前」



 メリーめ。めちゃくちゃ気になる口ぶりだったのに質問する気が失せちゃったじゃないか。

 まあいいや、変に他人を勘ぐっても腹の中を探れるような頭は搭載してないしな。変に怪しんで関係性が気まずくなるのは避けたい、相手はこう見えて騎士団の団長とかいうお偉いさんポジションなわけだし。これ以上質問するのは止しておこう。



「はぁ……もう帰リた、セーレ伏せて!」


「んぇ? おっけぇー……おっと?」


 急にメリーがデカい声を出すから言われた通り屈んでみたら斧刃に金属音が響いた。



「んー? なにそれぇ?」



 斧に当たって落ちた物を拾い上げてべリスさんが首を傾げる。メリーも同様にそれを見て何か分かっていなさそうな表情をする。


 銃の弾丸だ。二人が見慣れていないって事はこの世界にはやはり銃がそこまで普及していないのだろう。


 誰だ? どこから撃たれた? 弾道なんて目で見て捉えられるものでもないし、斧刃に当たった角度から場所を予測するとかも俺には無理だぞ。柄全体がびーんって揺れる感触しかしなかったし。



「メリー。どこからそれが飛んできたか分かるか」


「分かル、今のセーレの左手の方角にアる屋敷の二階がチラチラ光ってる! 彼処カら飛んでキた!」


「どんな視力だよ普通見えねえよあんな距離。ほんでやっぱ弾丸の形状的にスナイパーライフルで狙われてる感じかよ。ガチで命狩りに来てるしこの行動も予測されてたって事っすよべリスさん」


「襲撃があったという事はそういう事なんだろうねぇ。高速で飛来する小さな鋼鉄かぁ、興味深いなぁ使ってみたいなぁ羨ましいなぁ欲しいなぁ!」


「マた来る!」


「分かってるよ。角度こっちな」



 メリーが示した方角から二人を守るように斧を移動させ盾にする。直後、先程と同じ衝撃が二度斧を揺らし金属音が立て続けに響いた。



「ひいぃ! こんなの当たっタらひとたまりもナいよぉ! ベベべリスさんっ! まだ結界壊セないのぉ!?」


「四層ともなるとヒビを広げるのにも時間が掛かるからねぇ。もうちょっとだけかかるかなぁ〜」


「きゃあっ!? また撃ち込マれたぁ! ていウかセーレ! この鋼鉄の飛んでくル角度が変わってる! 撃っテる相手移動してるよぉ!」


「まじか。手応えで分からないもんなんだなそういうのって。どっちに動いてる?」


「ワタシの正面側に近付イてる! と思う! けど撃ってこナいと今どこに居るのかは分かッ、ワタシの指の先に居るゥ!! 守ってぇ早くこっチィ!」


「狙撃を防げるの超便利〜! けど喚き方がちょっとうざったいなぁ〜!」



 メリーが指し示した場所に斧を移動させた瞬間またしてもカツンっと金属音が鳴った。何気に今ギリギリだったか。


 べリスさんが余裕そうな態度を辞め、結界の上にしゃがみこんだまま手を置いて若干真剣に小声で謎言語を唱え始めたのに気付く。まだ結界破りに時間がかかりそうだな。


 どうしよう。相手は銃持ち。引き金を引けばいくらでも一方的に攻撃できるし仲間を呼ばれて複数方面から撃ち込まれたらひとたまりもない。ジリ貧がすぎる。


 狙撃手相手にこんな行動取るの、本来なら悪手も良い所なんだけども。こっちから攻めるしかない状況だよなぁ流石に。



「重奏凌積(リフレクション)」


「セーレ?」


「打って出てみるわ。すいませんべリスさん、一度だけ衝撃に備えてもらっていいですか」


「構わないよぉ〜。メリー・ローレルが吹き飛ばないようしっかり見ておくともぉ」


「あざす。メリー、敵の位置教えて」


「え、えっ? えト、うわぁ〜周り何もナいからえっと! 4時の方向! でイいのかなっ!?」


「いや分からん多分こっち!」



 特殊部隊っぽく言われても全然ピンと来ないのだが、指で方向を示していたのでそれに従い思い切り結界を蹴って指し示された方向に吹っ飛んでみる。



「飛び出す前に見た目の特徴とか聞いとけばよかった〜! なんて言ってはみたものの、見つけたぞ狙撃銃持ち!!!」



 空中を水平移動している最中に狙撃銃を担いでテッテコ走っているジジイを発見した。絶対コイツだ。服装も何だかギリースーツ感あるし、これでただの一般人なわけがない。方向転換ッ! は、出来ないな。空中だもんな。



「いいいぃよいしょっ!! よいしょおっ!!」



 斧の重量を利用し体ごと4回転ぐらいして飛ぶ勢いを散らし、街の天井部分に斧刃をぶっ刺して捻って強引に体の向きを変える。よーし止まった。天井に足をつけて膝を曲げ、一気に飛び込んでやる。



「待てやコラッ!!!」


「ッ!?」



 取っ掛りにしていた斧を抜き、天井を蹴って一呼吸のうちにジジイとの距離を詰める。振り返ろうとしているが遅い、俺の斧の方が先に胴体を袈裟斬りにできる。


 けどいきなり人間を真っ二つにするのもアレだよな。まず会話するターンを設けてもいいか。振り上げていた斧刃を寝かせ、左手を先にジジイの背中に向ける。


 ドスッ! という音と共に右の肩に激痛が走った。相手が振り向く前に狙いを定めずに撃った弾丸が俺の右肩を貫通したらしい。



「その場合は即殺決定じゃこらああぁぁぁっ!!!」


「ぬうぅっ!?」



 飛んだ勢いのまま、掴んだ背中に指を食い込ませて肋骨をガッチリ後ろから握り込む。着地と同時にジジイの身体をそのまま持ち上げ、そのまま地面に叩きつけるために振り上げる。



「黒縄門(こくじょうもん)!」


「あ? ……ありゃっ?」



 地面に叩きつける刹那、極上モン? って日本語チックなワードをジジイが唱えた瞬間地面に大きな黒い円が現れた。

 ジジイの身体は円に吸い込まれ、俺も同様に円に落ちる。地面が無くなったみたいにそのまま再度自由落下。


 通り抜けフープを足元に滑り込まされた感じ? 感想としてはそんな感じ。でその後ずっとよく分からない暗黒空間を自由落下してる。

 なにこれ? 突然の出来事すぎて理解が追いついてないんだけど、一旦詰んだって認識でいいのかな?



「どわっ!? いってぇ……」



 このまま永遠に暗黒空間を落ち続けるのかな。詰んだのかな。なんて思っていたらまた突然地面が出現し無防備に背中から落下してしまった。


 前世でそれなりの数ファンタジー作品に触れてきたからなんとなく察しはつく。今のは穴を通り抜けた対象をどこか別の場所に転送するタイプの魔法だよな。空間の連続性をガン無視したワープポータルを作り出すみたいな感じか。

 そういう類の魔法は存在しないだったか、一般的でないって話をどこかで聞いた気がするがまさか自分に対して使われるとは思わなかったわ。



「尸斑(シフォン)め。ガラクタを掴ませおって」



 立ち上がると、離れた位置に先程俺達に弾丸を浴びせてきた老人が居た。老人は悪態をつきながらスナイパーライフルを地面に捨てる。



「のう、異端審問官よ。貴様、なにゆえ結界を足場にしていたのだ。あのような場所で何をしていた」


「それを答えたら攻撃されそうだから先にこっちに質問させろ。ここは何処? さっき居た座標の真下は地面だし別の座標に落っことされたんだよな。シドンから遠く離れてる感じだったりしないよね?」


「儂の術の性質を初見で理解するか。珍しい手合いも居たものだ」


「会話しろや。ここは何処なんだって聞いてる。知らない外国に転送されたってなったらあんたをぶっ殺す前に元居た場所に帰らせてもらわないといけないからさっさと教えてくんね?」


「儂を殺すと?」


「どこピックアップしてんだよ。殺すは冗談、半殺しにする。見ろよ私の右腕、あんたに撃ち抜かれたせいで今にも千切れそうだ。半殺されても当然の負傷負わせてんだよあんた」


「傷の割に平気そうじゃないか。少しは痛がってみせたらどうだ?」


「痛い痛〜い」



 唇を尖らせ、ぶりぶりした声で痛がってみせる。

 実際、弾丸が通り抜けていった肩には拳大の穴が空いてるし腕先を繋ぎ止めてる肉は薄皮一枚って表現そのままに薄っぺらい生ハムみたいな感じになってるからかなりの激痛が走ってはいるんだけどね。

 俺、不死身なんで。痛みに対してポーカーフェイス出来るくらいには慣れてしまいましたよ。



「ほら、要求通り痛がったから質問に答えろ。ここは何処なんだ。シドンの中か外か。嘘ついたら全殺しよりキツい目に遭わせるからな」


「キツい目とな。それはどんな? 申してみい」


「考えてね〜。強い言葉なんて大抵意味を込めてない軽口に決まってんだろ。口から出た暴言だろうが。真剣に受け取んなよ」


「そうか」


「そうかて。じゃあアレだわ、自ら殺してくださいって懇願するくらいえげつい拷問してやるよじゃあ。てかさっき私、あんたの骨を握って振り回したよな? その痛みはどうした。そっちこそ人間ならちゃんと痛がれよな」


「この世界で老齢まで生きた相手に対しその自信は感心するぞ。例え貴様が数秒先の現実をも見通せぬ愚者であったとしてもな」


「好戦的だなジジイ。遠回しに私じゃあんたに勝てねえって言ってるんだよなそれ。棺桶に片足突っ込んでる身分で気持ちだけは過去のままかよ。見習いてぇ〜その生き様! ぎゃはははっ、かひゅっ」



 かひゅ? なんだ今の音、喉の方から、空気が漏れるような音が……。


 あれれれれ。普通に立ってるだけなのになんか景色がそのまま斜め下にスライドしてる。てかあれー、身体動かない? あれーっ。



「如何なる相手であろうと首を断たれたならば死ぬしかない。先程は驚かされたぞ、瞬きをする間に距離を詰められるとは。手練の剣士を思わせる敏捷性であった」



 であったじゃねえよ。首切られたの俺? そんなのあり? 離れた位置にいたじゃん、ズルくね? どうやって首切られた?

 てか確殺決めてからよお口が回る回る、さっきまでのコミュ障ムーブが嘘みたいに喋り始めるじゃんか。うぜ〜。なにイキり散らかしてんだ能力頼りの死にかけ老人が。


 クッソ声出ねぇ〜声帯パックリいかれてるから発声出来ねぇ〜!!!


 いきなりスナイパーライフルで撃たれ、肩を撃ち抜かれ、よく分からない場所に飛ばされた挙句に初見殺しで首チョンパ。ここ数分の間に散々理不尽な目に遭い為す術もなく一敗。納得いかねぇ〜! でももう首を切られてしまったわけだしこの敗北は受け止めるしかない。


 頭に残留した血液で意識を繋ぎとめてくれている間、ずーっと老人の事を睨みつけてやった。

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