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俺は女神の中の人  作者: 千佳のふりかけ
第三章『異端審問官になるぞ編』
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73話『血みどろ胃袋閲覧注意につき』

「うっ、うぅっ、うぅぅぅ……っ。潰れタ肉片をバケツに集めて、零れた血を洗い流しテ拭き取って……。こんな過酷不衛生労働ヲ強いられルなんて! 最悪!!!」



 ため息混じりに愚痴を呟くメリー。その言葉の節々から俺を責めるような気配が滲み出ている。まあそうだよな、関与してない戦闘の後始末をやらされてる状況なんだもん。発端となった俺に対して恨みを募らせるのはメリーからしてみれば当然。

 謝るつもりはサラサラないが、その晴れない心を少しでも明るくさせてやるくらいの気概は見せるべきかな。やれやれ。



「見ろよ」



 メリーの肩を指でツンツンし振り向かせ、手に持っていたものを見せつける。



「ナに」


「千切れた腸の先端をちねってみた。何に見える? これ」


「気持ち悪いモの見せつけナいで」


「何に見える」


「小腸」


「先端ちねったら皮かぶりちんちんにそっくりじゃない? ちょっと笑えるだろ」


「笑えナい」


「なんでだよ。咥えてみろよ」


「咥えルかぁ。てカ顔に近付けないデよ、汚い」


「汚かねえだろちゃんと洗ってきた。中のうんちもしっかりしごき出してきたし、野草すり込んできたから食用としても頂けるぜ? 食べてみろよ」


「人間のお前ガ人間の臓物持って食べるよう勧めてクるなよ。人間の中じゃタブーナんだろ、同種食いッて」


「どの界隈でもタブーだろって思ったけど経産婦のカマキリはいの一番に夫を食料にするんだっけか」


「飢えた動物は大抵同種食イするんじゃないノか。人間だけはヤたらそういウ背景があっタにしても大袈裟に同種食イを異常な行為とシて捉える印象がアるけど」


「不思議だよな。美味しいのに」


「美味シかないだロ別に。って今度は何だソれ、どこの臓器だヨ。持ち上げナいでよ気持ち悪い」


「思ったんだが、重さ50kgを優に超える馬鹿みたいな粗大ゴミを何個も何個も行ったり来たりして片付けるのめんどくないか? お前悪魔だろ。食えよ、これ」


「馬鹿ナの?」


「もう一時間はこんな作業してるんだ。いい加減飽きがくるぜ」


「それハ分かるケど」


「だからもうこんなもんとっとと食って片付けてくれ。したら依頼完了クエストクリアだろ」


「そノ解決法に行き着くロジックがわからナい。ワタシの事どう見えてるノお前。人間を食う怪物にでモ見えてるの?」


「悪魔なんだろ。悪魔なら食えよ、人くらい」


「人間は捕食対象じゃないンだよなァ」


「グルメさんめ。じゃあ魔法でも使ってこの死骸を全部ちちんぷいぷいで消してくれ」


「無茶言ワないでよ。そンな魔法あルわけないでしょ」


「魔法って本来は悪魔の専売特許だろ。悪魔が魔女に教えて世に浸透する系の不思議パワーだったんだろ、歴史考証的に。ソロモンななじゅーにちゅーとか七つの大罪のチームメンバーだったりしないのお前」


「大罪の悪魔デはないヨ。そんナ有名人じゃなイ」


「あるんだ、この世界にもその辺の括り。俺らが属してる宗教ももしかしたら形を変えたキリスト教なんかもしらんな。内部に悪魔本人が紛れ込んでるのちょっとまずすぎるか一旦」


「マた始まった、セーレのよく分からナい独り言時間だ」


「異文化間でよくある情報差異の擦り合わせタイムだから気にすんな。で、なんともなんねーわけ? 悪魔って魔導書から召喚されるテイムモンスター的な存在だろ。そのうちグリモワール取り寄せるから後払いってことで一つ頼めねえ?」


「誰が使い魔ダ。ワタシは自我ヲ確立してルから術師なんテ要らない悪魔なノ! その辺の下級悪魔と一緒にシないで」


「高名な悪魔なら作業効率を上げる何かしらのスキルを使ってほしくはあるんだけどな。力は蛆虫を出さなきゃ人並み、特別な魔法も使えない、人も食べないし臆病で泣き虫で怖がり。何が出来るんだお前。悪魔界隈引退しろよ」


「引退トかなイから。馬鹿なこと言ってナいで早く片付けようヨ。自慢の怪力でこのバケツ全部持ってっテ」


「力持ちだろうが腕は2本しかないの。待てる数に限りがあるだろ。メリーも運べよ、愚痴って地面こねてないで」


「エー!? ばっちくて嫌だッて言うかラ仕方なく血とか内臓トか集めてあげテるのにその言い草!? そウいう役割分担デしょ!」


「生まれた時からこの大陸に居たんなら血なんか慣れっ子だろ。俺は元々戦いとは無縁の場所にいたの。適材適所だろうよ」


「の割にはウッキウキで斧振り回してたよネ」


「過ぎたる力を手にした一般人は基本バーサーカーになるんだよ。英霊召喚システムを現代人に適応してみろ。80億人のバーサーカーで世界が溢れる。誰もが攻撃特化型の能力を得たら平和なんて訪れねえ」


「ワタシも人間のことハ嫌いだけどさ。そンなに人間って凶暴ダっけ」


「凶暴だよ〜。どんだけ小心者な奴でもな、妹か弟が産まれたら殴る蹴る罵倒浴びせるが日常になるからな」


「口が上手いワけでもないのに口数のせイで納得シかけちゃうナ……」



 はあ。しっかしなぁ……。掃除自体は嫌いじゃないけど、長距離を移動するような反復作業は好きじゃないんだよな。周りの目が気になるし、着ている服が白基調なせいで汚れるし。



「うーーーーむ。分かった。おいメリー」


「イてっ。きゃあ!? ねェ! 千切れた目ん玉投げナいでよ! ビロビロがほっぺに当たっタって!」


「お前からしたら乗り物みたいなもんだろその体。気にする事かよ」


「気にすルわ! 乗り物じゃナく自分の肉体トして神経同期シてるから! こノ体にされた事はワタシ自身にされタのと同ジなの!」


「へー。不便な寄生だこと」


「ナのに人のこと寄生虫だの蛆虫ダの。酷い話!」


「そこは合ってるだろ別に。で、話は変えるんだけども。お前って妙にナイフの扱い上手いじゃん?」


「ワタシがってより体が覚えテるみたいナ感じだけどネ」


「へえ。まあなんでもいいんだけども。でさ? そのお得意の手捌きで集めた死骸をさらに細かく刻んでくれね?」


「え、嫌だ」


「なんで」


「なんデって、逆にナんでワタシがそんな事しなきゃナらない? 自分デやったらいいでショ」


「いいのか? 果物握り潰す感じになるけど。めっちゃ飛沫飛ぶぞ。お召し物汚れますよ」


「ナんで握り潰す……? ナイフ貸すよ」


「俺が手先器用に見えるか? ペン回しは得意だけど手書きの汚さはギネス級だぞ」


「だかラってワタシが死体を解体するのは御免ダ。そンな残酷ナこと出来ない」


「おっ? どうしたどうした、どこから倫理観をレンタルしてきたんだお前。数ヶ月前はシラフで俺の事ぶっ殺そうとしてきたじゃん」


「アの時は必死だっタ。ワタシは元々こうなの」


「必死だったで有耶無耶に出来るかな。殺人未遂って」


「……トにかく、必要もないのに人を殺しタり、人を解体するよウナ事はしたくナい。ワタシはただ、穏便に日々ヲ過ごせれバそれでいイの」


「実はメリーは既に故人で、今は悪魔が肉体を乗っ取ってるって周りにバレたりしたら果たして穏便に過ごせるのかな」


「なっ!? 卑怯だゾ! それヲ交渉材料に使うノか!?」


「いいかメリー。人間関係ってな、弱みを握られた時点で対等じゃなくなるんだ」


「お前は人間の中でモ特に嫌ナ人間だ!!」


「言葉巧みに罠に嵌めるような腹黒じゃないだけマシだろうよ〜。俺は正直に、嘘偽りなく、騙す気もなしに真正面から真心を込めてお前にお願い事をしてるの」


「ワタシの秘密を盾にシてる!」


「バレたらまずいよな〜って言っただけやんか。でもさ、秘密って他人に知られた時点で秘密として機能しなくなるというかぁ。ふとした拍子に外部に流出してしまう事も多々あるよな〜と」


「意図的に流布すルつもりだろ!」


「意図するかどうかは本人のみぞ知るだからな。どれだけ状況証拠を揃えようと、論理的に追及しようと、意図したかどうかは内面的な問題だからそこを責める事は不可能だと先に言っておくわ。その上でだ。秘密を握ってる相手の機嫌を損ねるのはどうだろう? 要求を突っぱねるのってどうだろう? 俺は怖いからそんな事しないな〜」


「卑怯者卑怯者卑怯者! 弱みをチラつかせテ残酷なこトを強要してル! 悪人! 大悪人!!!!」


「なあメリー、お前の言い分も分かるけどさ。コイツらは王国の騎士を襲った反社会的な集団であって本来なら石打ちの刑に処されたっておかしくない身分なんだぜ? 人権意識のガッタガタなこの世界であえてアウトローをやってる酔狂な連中なんだ、死んだ後死体をどう扱われようが覚悟の上だと思わねえ? 同情する必要も無いと思うけど」


「同情してるワけじゃなくて! この人達の覚悟どうコう関係なくワタシが嫌だっテ話だから! 切り裂き魔の気持ちは1ミリたりとも分かラない真っ当な思考回路ヲ持っているかラお断りシてるんだよ!」


「突っぱねられたら悲しいな。メリーの秘密握ってるな俺。ナイーブな状態になってる人って何を口走るか分からないよな」


「じゃあモうセーレを殺すしかこちら側ノ選択肢なくなりマすけど!?」


「待て待て。なんだかんだ一緒に見習いエクソシスト、いやエクソシスターとしてこれまで行動してきたじゃないか。友情を深めたろ? 友達を手にかけるなんてそんな悲劇的な発想は一旦どこかへ置いておこうよ」


「大体いツも喧嘩してばかリだろ」


「喧嘩するほど仲がいいって言葉が俺の生まれ故郷にはあったんですよ」


「仲良くナいです」


「何を言うか。無二の親友だろうよ。俺とお前は悟空とベジータ。二人揃えばなんでも出来るさ。よろしくやろうぜヴェノムもどき」


「よくそンなにペラペラと意味の分からナい出任せが出ルものだなァ。じゃアその親友の秘密を周りニバラすかもみたイな思わセぶりな発言をするノはどうナの」


「危機に瀕したらいつでも言え、加勢するぜ」


「危機を誘発しかねナい奴が今の所セーレしかいないんだヨ」


「じゃあ分かった明言してやる。悪魔は契約事に忠実なんだろ。誓約してやるから契約として受け取れや。死体を細かく刻んでくれたら秘密はバラさない。お願いを聞いてくれなかったら何がなんでも命をかけてお前の秘密を方々に流して回る。地の果てまで流布させる。この誓いを破ったら心臓を奪われても構わない。固く誓うぜ」


「勝手すぎナい!? 契約内容、セーレが一切ノ不利を被らない一方的すぎる内容になってマすけど!? てかソれワタシの承諾なんて一切必要トしてないよね!? 逃げ道ノない強制命令を下されてル!」


「どうする? お願いを聞くか逃亡生活するか。選んでいいよ」


「選ぶ権利与えラれてない! もおおおおっ!!!」



 不満げな声を上げながらメリーが自前のナイフで肉を刻み始めた。まさか最初に断られるとは思わなかった、俺が知ってる元いた世界の悪魔はこの世界の悪魔とはすっかり別物らしい。パブリックイメージとの乖離が凄まじいなあ。


 解体作業を任せてからさらに小一時間ほど経過した頃、げんなりとした表情でメリーが俺の肩を叩いてきた。どうやら作業が終わったらしい。横になって目を閉じて待っていたから動き出すのが億劫だ。ふわぁ〜欠伸出ちゃった。



「ワタシにこんナ作業させておイてよく隣で寝れるヨね」


「よせやい照れるだろ」


「殴りタいナぁ……追加の要求ハもう受け付けナいから。運ぶの手伝ってって言わレても重すぎルから持たないヨ。ここマでさせたんダから後は一人でヤってね」


「構わん構わん。さんきゅーですよメリーちゃん」


「本当に重イよ? まあセーレの力なら難なく運べルだろうけど」


「運ばないよ。ちと人気のない所までは運ぶけども」


「は?」


「よいしょ」



 赤黒い内容物でミッチミチになっているバケツの1つを持ち上げる。確かに重い。大男が持つにしてもこれを長距離運ぶのは至難の業だろう。バケツそのものがでかいから余計な。



「……ナにしてるの、セーレ」


「先に言っとくが俺の心配はしなくていいぞメリー。俺の胃袋は引くほど頑丈だからな。腹壊すのなんて生理の時くらいだ」


「胃袋……? ちょっ!」



 バケツを頭上に持ち上げて、手前側に少し傾け端に唇をつけて、後はぐいーっと大きく傾けるだけ。


 ごくごくごくのごくりんちょ。



「ぷはっ! うん、じゃりじゃりのくにゅくにゅな食感!」


「お゛えっ!」



 大きく体を曲げて青い顔で嘔吐しかけるメリー。まあそりゃな、気持ちは分かるのでその行動を否定はしない。たとえ食事をしてる目の前で吐き気を催されるという割と最悪に近い事をされてるとしても今回のケースで言えばそうなるのが当然な絵面だし。しょうがないよね。



「なニ考えっ、う゛っ!? ぉ、ええぇぇっ!! 気持ち悪う!?」


「パパッと食べちゃえば解決って話だったろ。これで時短だな」


「正気なノ!? 病気にナるよ!?!?」


「今日気になったこと俺正気? 常軌逸したそこのけ病気ぃー。ヘーイ。エーイヨウッ。ごくごく」


「うわあああぁまた飲ンでるっ! 頭おカしいいぃぃおおおえっおげえええっ!? ボロッ!?」


「なに本当にちょっとゲロ出してんだよ。食事してる人の目の前で口から胃液垂らしてんじゃないよ、汚い」


「ワタシヨりセーレの方がよっポどだろ!」


「汚くない。食えるもんを食ってるだけだから。俺に食えないものはない」


「食べらレるからって食べて良いワけじゃないカら!」


「味覚ってよ、食った本人が美味いって感じられるんならそれはそいつに適した栄養源として補給オッケ〜って太鼓判を押すための機能なんだと俺は捉えてるワケ。美味えぞ、人間シェイク」


「なら味がついてる毒キノコもバクバクいって問題ないっテ理屈にナるが!? そうじゃナいよね美味しかっタとして食べなイよね!」


「俺死なないもん」


「死なナくても毒なラ普通食べないでショ! 毒じゃなクたって、普通食べナいとされてる物は食べルべきじゃない!」


「毒キノコだって食えるぞ。俺に毒は効かねえ。後出しジャンケンで血清? 耐性? 作れるからな」


「ソういう話じゃっ、うっワ気持ち悪っ、あやばお゛おぉええぇぇえっ!!!」



 わあ。ついに我慢できなくなったメリーが目の前で滝のような吐瀉物をぶち撒ける。圧巻な勢いだなぁ、ばっちっちだぞ〜。人のいない物陰に移動しといて良かった〜。



「あっ、二人ともぉ〜! ごめんねぇ片付けのお願いしときながら勝手に場を離れちゃっ、て……」



 嘔吐したメリーの背中をさすってやろうと近付き激しく拒否られたタイミングでべリスさんが戻ってきた。


 ゲロで出来た水溜まり。血と肉片がこべりついた複数個のバケツ。


 当人だから自覚出来ないものの、さぞ凄まじい悪臭がここら一帯に漂っていたのだろう。べリスさんは笑顔のまま立ち止まり、さっと自分の手を鼻と口に当てた。包帯でぐるぐる巻きになっていても分かる、絶対ドン引きした表情で苦笑いを浮かべているなこの人。



「えーと……けひゃひゃっ。片付けを代わってくれたのはありがとう、なんだけど。そのまま街を歩くのは止した方がいいんだろうけどぉ。かと言ってボク達が泊まってる宿に寄らせるのも気が進まないんだけども、一般の人が目につく場所で体を洗わせるわけにもぉ……」


「げふっ」

「おげえええぇぇっ!!」


「……セーレ・アイゼントゥール、出来ることならボクの近くでゲップしないでほしいかな。メリー・ローレルはもう少しこう、吐くのを我慢してほしいかな。掃除の手間が増えちゃうから」



 その後、汚物に塗れた俺とメリーはべリスさんの親切心で騎士団の人達が拠点としている宿に案内してもらい身も服も清めることができた。


 この教会から押し付けられた修道服風の痴女服、戦闘に用いる為の工夫が施されてる副産物として雑に洗っても破れたり型崩れしないからめちゃくちゃ便利だな! 道理で一着しか渡されなかったわけだ。

 まあ前の修道服の時もそうだったけど、服を何着も仕立てられるほど経済面に余裕がないって事情も孕んでるのだろうが。衣装代って案外かさむもんなぁ。


 頼まれ事もやる事も全部終わり、後は自分らの宿に戻り軽い報告をしてくつろぐだけ。という流れになったのに何故か俺とメリーは装備を整えてべリスさんと共にシドンの街の大穴を覗ける広場に再集合する運びとなった。



「集合遅いよ〜二人とも。セーレ・アイゼントゥール、メリー・ローレル。闘争の戦闘の戦乱に身を投じる準備は支度完了かな?」


「戦闘!? え、ア、やややっぱリ戦うんでスか!? なんで!? 装備を整エて来るよウにって言われテ薄々そんナ気はしてまシたけどナんでぇ! 嫌ぁ!」


「ご覧の通り満身創痍ですけど」


「けひゃひゃっ! 何か嫌な事でもあったのかなぁ可哀想妬ましい! でもこうして足を運んでくれてありがとう勇気を出してくれたんだよねぇメリー・ローレル! その気概、買います! その勇気、羨ましい妬ましいいい!!」


「駄目だ。援護射撃したけどべリスさんに通じてないっぽいわ。ごめんなメリー、諦めろ」


「やだやだやだやだやだやだ戦イたくないやだァ!」


「けひひっ。にしても良い斧だねぇセーレ・アイゼントゥール! それどこで手に入れたのぉ? 対巨人用? 対邪竜用? 人が扱う規格の斧じゃないね、聖剣に似た不思議な力を感じるよぉ!」


「その辺で拾いました」


「想定しうる内の一番有り得ない入手方法だぁ〜」


「なンでワタシ達ナんかをわざわざ名指シでたたた戦イってなんで、帰りたイです! べリスさん、ワタシ達新人ナので力及ばずデす帰りたイですうぅ!!」


「けひゃひゃひゃひゃひゃ! 哀れだねえ惨めだねぇメリー・ローレルは戦いが怖いかぁ可哀想可愛いねぇ! そして残念ながらこんな事を頼むのは慙愧の念に耐えないという思いを片鱗に抱きつつ悲しきことに帰っちゃだめー! というのも何を隠そうこの大穴の下、一番最奥最下の中心奥底にボクの大切な部下と君たちの大切な上司が困りあぐねているのをビビビッと感じ取ったのでいざ! 助けに行かなくてはなのだよボク達で!」


「普通に考えテ! 王国の騎士とベテランの異端審問官が居て手を焼いテるようナ相手に新米異端審問官2人が出来ル事ってナいと思うのですガ! 居ても無駄というか! 役たたずト言うかァ!」



 ビクつきすぎて丸まったハリネズミのようになっているメリーが懸命に声を絞り出しべリスさんに抗議する。でも言ってる内容は確かに、王国騎士とジュエルが仲良く戦っててピンチになるような戦場に素人同然の新米2人を投入させるのって無駄死にさせるリスクを背負わせてるだけにしか思えないな。



「ん〜。メリーの言い分も一理あるというか、普通こういう場面で声を掛けるべき人材って私らみたいな新人よりシスター・ワルワラとかフレイみたいな経験豊富な人らが適任だと思うんですけど」


「当然それは考えたんだけどねぇ? 包帯まみれの焼け爛れた頭皮の向こう、茹だった後のカチコチ半熟な脳みそをこねくり回して考えてはみたんだけどねぇ〜? まあ、何処にいるかも分からない君たちの先輩さん方を探し歩いたり他の仕事で手が空いてないうちの子達に声掛けるより偶然鉢合わせた暇そうな新人2人をそのまま連れ歩いた方が楽というか? まあいっか、というか?」


「テキトーすぎる」


「そンな考えなしにたダ近くニ居たからッテ理由だけでワタシ達を来させたンですかぁ!? やダああぁぁっ! ほら、馬鹿セーレ! 他組織の人の揉め事に首ヲ突っ込むかラこんナ目に遭う! 藪蛇! ばーか!」


「そんで怒りの矛先が私に向くのね。結果論でキレないでほしいな〜。でも実力不足が否めないのは事実なんでやっぱり帰ります。代わりに先輩方に声掛けとくんで、それでどうにか」


「! うン! 帰る! その判断正解! セーレ賢イ!」


「よせやい照れるだろ。ってことですいませんべリスさん。私らはそっちの騎士団の団員じゃないし、新人なんでこの独断も目を瞑ってくださいな。クレームがあれば上の者にお繋ぎしますのでその際はまたご連絡お願いします〜」


「けひゃひゃ。二人とも、自分の耳を手で塞いでくれる?」


「? 分かりました」



 突然妙な事を頼まれメリーと顔を見合わせてから手を耳に当てる。



「唯一の善人には肯定を《プロキシー・ヘブンリー》」



 ?


 べリスさんの目がうす〜く光ったというか、薄紫っぽく色付いたような気がした。そして何か言っていたが当然その言葉が俺とメリーの鼓膜を震わせることはなかった。耳、塞いでるからね。

 肩をトントンと叩かれたので耳から手を退ける。



「なんだったんですか今の。面と向かって悪口言ってました?」


「そ、そレよりもワタシ達もう時間が……なノで今日のとコろは帰らせていただキ……」


「さっ! これで準備は整ったね! さあてさてさてセーレ・アイゼントゥール、メリー・ローレル! ボクら3人で下に居る仲間達を助けに行こーう!」



 話を聞いてなかったのかこの人。会話の流れガン無視ですか。俺らは帰りますよ〜って直球で伝えたはずなんだけどなんで無かったことにされてる? 帰らせろよ。



「え、えと、それでどウやって助けに行くンでスか? 穴の最奥まで降りルのって時間かかりマすよね? そレになンか、下を見てモ戦ってる様子なんて見当たらナいんですけど……」



 ……ん?



「メリー? なにお前急にやる気出してんの?」


「ちちちがうちギャウちがううウっ! なんでワタシ今っ、帰リたい戦う気ないのにィ!」


「大丈夫かお前。1秒で態度真逆に突っ走ってんぞ」


「ちがううノさっきはなんか何故かワタシ思ってる事ト言ってルことがあべこべにナって!」


「今日日聞かねえ〜あべこべって語彙。ドラえもんの漫画で見たのが最後の語彙すぎる。帰りたいのかバトりたいのかハッキリしてくんね?」


「手伝ってくれるよね? メリー・ローレル」


「手伝ウ! ……!? ちががぎゃぎゃちがうチガうチギャウウウ!!!」



 なんだこいつこわ。結局やる気なのか。よく分かんねーな。


 言葉とは裏腹に戦う気満々みたいだから一応俺も柵に寄りかかり大穴の下を眺めてみる。


 高いなぁ。街の階段を伝って降りるとしたら1時間は余裕でかかるぞこんなん。でもメリーの言う通り、誰かが戦ってるような気配は全く感じない。

 クレーターの中央で戦いが起きてるんだっけ? 人っ子一人居ないけど、いつも通り謎の古代遺跡が突っ立ってるだけですけどね。



「戦いってのはあの古代遺跡の内部で起きてるんすか?」


「アレには出入口が無いから。壁面を破壊しない限り内部に入る事は出来ないねぇ〜。戦いはアレの周囲で起きてるよぉ」


「誰も戦ってませんけど」


「景色を偽装されてるんだよ。結界を張ってるみたい。物理的接触を拒む結界を四箇所から折り重ねていて、その上に偽装術式を被せている感じかなぁ〜」


「へぇ」


「一番上の対物理結界はうちの騎士団流に編み込まれたもの。それを破った後、術式を再構成して別の結界で更に補強している感じかなぁ。けひゃひゃっ、ボク達のお友達を襲っている連中はよほど他人の介入を嫌がっているみた〜い。そこまでしてあんな所まで踏み入って襲撃しようとする執念、無駄に無意味に熱烈な行動力が羨ましいなぁ〜ボクも欲しい〜!」


「へぇ〜。念入り〜。結界こねこね出来るってことはインテリジェンスに経験値振ってるタイプの人が相手っすか。パワー系の出る幕なさそうだな〜。私は役に立たなさそうだしどうやって侵入します(やっぱり帰りますわ)? ……あれ?」


「セーレ!? 途中マで良い流れだったのになんで急に侵入方法ヲ尋ねるノ! 言葉の使い方間違えテるよ!!!」


「いや、そうだよな。なんだ今の」



 なんか今、口に出そうとした言葉と口から出てきた言葉に差異が生じた? 口の動きはそのままなのに喉から出力された声が別の音色を奏でていたぞ。なにこの不思議体験。



「侵入方法については考えがあるよぉ。その策は君たち2人がいるからこそ使える柵なのさぁ必要不可欠完全無欠の完璧な巡り合わせなのだよぉ君たち2人は!! 特にメリー・ローレル! いやはや羨ましい! 羨ましい目をお持ちだよね、君は!」


「へっ!? メ、目ですか!? 一体ナんの事だか」


「ずばり君の目は普通の人間よりもちょっとばかし特別な能力を兼ね備えてると見た! 普段は普通にしてたら通常の凡庸な人間と大差のない目だけど、少し意識を集中すればその動体視力認識能力は人並外れて優れた物に早変わりする! その性質を是非とも! 応用したぁい!」


「そそそソんなッ!? 分かリました」


「メリー???」



 目に関する話題はコイツにとって最もデリケートな話題のはずなのだが、メリーはあっさりべリスさんの頼みを承諾した。なんで? てか途中まで焦ってた様子なのに急にスンッとしたのはなんなんだ?


 ……ん? いや、スンッとしてないな。めちゃくちゃワタワタしてる。どういう事? 言ってることと態度がまるで噛み合ってないけど。



「結界というのは流れる魔力の濃度で硬度を変えるからね。基本常に一定の魔力が流れてるけど、ほんの一瞬、普通の生物が知覚できない刹那の瞬間に魔力の流れがブレる瞬間があるんだ。まあこれに関しては結界に限らず万物そうなのだけれど。そのブレた瞬間は結界の硬度が著しく下がるから、その瞬間をメリー・ローレルの特別な目で見切ってもらって、タイミングを合わせてセーレ・アイゼントゥールの剛力無双怪力乱神な一撃を叩き込み結界を破砕する! 本来力押しじゃどうにも出来ない結界だって君たち2人なら術式解除を行わず正面突破できる!!! これ以上ない最高の最優の最上の最適な巡り合わせなのだよぉ〜!」


「めちゃくちゃ話進んでるけどいいのか、メリー」


「手伝ってくれるよね?」


「手伝いマす! 頑張らせテいただきまス!! ……っ!!! 嫌あああぁぁぁ言ってナい言ってナい言ってないいぃ!!!」


「……私達になんかしました? べリスさん」


「仲間を助けに行くのに理由なんか必要なかろう2人とも!!! 作戦はもう伝えおいたからちゃっちゃと動こう〜! 刻一刻とボク達の大切な隣人が命の危機に瀕しているよ! 足踏みしている余裕はない!!! そうは思わないかいメリー・ローレル!」


「まったクその通り! …………そそそそれはそうだけど、でもっ、ワタシはっ、ワタシ戦いたくなイ死にたくナい怖いいいぃ!!!」



 ……変な魔法をかけられたのは明らかなのだが、それを本人に追及しようとしても多分性質上声に出せないんだろうな。

 ここでうだうだああでもないこうでもないって言い合うのもしょうもないし仕方ない。嫌がるメリーには悪いけど、ぼちぼち真剣にやる気出してみるか。ジュエルがピンチなのはガチっぽいしな。

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