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俺は女神の中の人  作者: 千佳のふりかけ
第三章『異端審問官になるぞ編』
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68話『一虚一盈』

 人の言動所作にはその人間の人生観や価値観、今まで歩んできた環境や今置かれている立場などが反映される。と、昔からよく言うよね。


 俺の事は置いておこう。出自が特殊なんで、性格と容姿の不一致について考えるのは意味ないんでな。



 聖堂騎士団と言ったら大陸の中で最も強大な戦力を誇る最大の武装組織であり、大陸中央の最重要国家であるキリシュア王国の王室直属の組織でもある。王室直属という事は、組織内での決まり事は多く礼儀作法などを重んじる洗練された人格者の集まりなのだろう。


 上流階級が集う社交界にも出入りが許された高貴で気品に満ちたまさしく騎士の正道。名前から取ったわけではなく、純粋に属している騎士たちの人徳を指して『聖騎士』だなんて呼ばれている恐れ多くもありがたい存在。それが一般的な聖堂騎士団の認識であると俺は思っていたわけだが。



「どっこいせ」


「どっこいせときたか」



 目の前の男、ヴルディール・リッケンバックは俺のイメージしていた聖堂騎士とはまったくもって真逆の性質を持っていた。


 だらしなく伸びた髪、覇気のない瞳、好意的な印象を欠片も与える気のない横一本線の口。表情を見ただけでやる気の無さが見て取れる。


 聖堂騎士団のかっちょいいコートのボタンは途中までしか留められていない。腕をまくっているし、ズボンもベルトをちゃんと締めていないのか腰から下がっている。


 聖堂騎士団にはいくつか団体があるようだが、この人が属しているのは第何騎士団なのだろう。少なくとも序列上位の部隊や重要な任務を任せられる部隊でないのは分かる。こんな団員が居たらその部隊のイメージが下がっちゃうもんな。

 この人の直属の団長さんは何も言わないのか? 由緒正しき聖堂騎士団の癌みたいな存在だろこんなん、許されて良いわけなくない?



「この街は寒いな、長居したくない。異端審問官の服は良いよなぁ、組織自体が新しいから制服の機能も充実してる。羨ましいよ」


「女性しか異端審問官にはなれませんけどね」


「異端審問官になりたいわけじゃなく、その機能的な制服を羨んでるだけなんだけどな」


「私の服着ます?」


「不格好なヨダレ掛けになっちまうな」


「人の服を指してなんて言い草だ」



 ヨダレ掛けて。まあ、ヴルディールさん俺の倍くらい体でっかいもんな。俺サイズの普通の服を着せても破裂寸前の布風船になるだろうし、布を大幅にカットした服なんか着たらヨダレ掛けにしか見えない着こなしになるのも必然か。



「さっき私の上官みたいな事言ってましたけど、ヴルディールさんって何番目の騎士団の人なんですか? テス……お姉ちゃんから聞いた話ですけど、異端審問官の直接的な上位組織って第七修道騎士団ですよね?」



 本題に行く前にヴルディールさんの所属を尋ねておく。ぶっちゃけて言うとこの人の風貌、本当に聖堂騎士か怪しい所あるし。後でジュエルかテストロッサに聞いて真偽を確かめておかないと、この人の言う"良い話"とやらの信頼性が保証されないしな。



「お前、間抜けそうな顔してるのに案外用心深いんだな」


「え? なになに、私今喧嘩売られました? 購入意欲唆られちゃったな〜今の!」


「喋り方が馬鹿そうだろ、お前。意図的にそう感じる話し方をしてるわけでもなさそうだし」


「似たり寄ったりですからねヴルディールさんも」


「言うねぇ。あ、すまん。この酒を二瓶頼む」


「か、かしこまりました〜」



 注文を聞きに来た店員さんがヴルディールさんを見るなりギョッとした顔をしていた。ほら、見た目からそこらのゴロツキと大差ないって他の人も思ってるんじゃん。俺がこの世界のことあまり知らないからそう思ったとかじゃなく、世間一般からしてヴルディールの第一印象は聖堂騎士に結びつかないんだって。


 ていうか昼から酒かよ。そんでもって二瓶? 俺も飲まされる流れなの? アルハラの中でも手練のアルハラーじゃん。了承確認なしの無告知飲み強要とか世間が警笛鳴らしてる悪しき飲み会のド真ん中じゃんか。



「俺の所属の話だったか?」


「はい。それ以外にもツッコミたい所はありますけど、一旦そこを聞いておきたいですね」


「そうな。俺は第四騎士団、聖堂騎士団の情報部に所属している」


「直属じゃないじゃん」


「別に所属が第七だろうが第四だろうが上の地位であることに違いはないだろ。確かに直属ってわけじゃないが、組織全体で見たら似たようなもんだろうが」


「マフィアの幹部と末端薬売りの関係性みたいなもんですよねそれ。全然無関係じゃないっすか」


「反社会勢力に喩えるなよ。もっと他にいい喩えあっただろ絶対」


「おまたせいたしました〜」



 おっ。酒が席に届いた。運んできてくれた店員にヴルディールが感謝を告げ、二つの瓶を同時にキュポっと開けてそのうち一つをガブ飲みする。


 ……え? ガブ飲み? ビールじゃないよね、度数高めの蒸留酒だよねこれ。ガブ飲みするものではなくない?



「ぶはっ。ふぅー……やっぱり不味いな、ここの酒」


「不味いんだ」


「あぁ不味い。色んな酒を飲んできたがここでしか売られてないような酒はどれもこれも他所の酒の味を似せて作られた安物の失敗作って味がする。とても舌が合わん」


「じゃあ飲まなければいいのでは」


「度数だけは一丁前に高いからな。少ない本数で酔えるのは良い事だ」


「人生疲れ切ってますやん」



 酒飲まなきゃやってられんの極地みたいなこと言い出した。

 情報部、か。アニメ知識だけど、情報部隊って聞くとなんとなく他組織に潜入するスパイとか工作員のイメージがあるもんな。もしそのイメージ通りならストレスの溜まり方も半端じゃないんだろう。容姿の乱れもストレスが起因してるって考えたら逆に哀れに見えてきた。



「……ていうか、これは私の偏見なんですけど、情報部隊ってそんな簡単に自分の所属を明かしたりしないものなんじゃないですか?」


「そうさな。気軽に口にする物ではない。平時だったら第四とも情報部とも明かさず、中層師団の出身って答えてる」


「普通に言っちゃってますやん所属元。あ、逆にこれもそういうブラフですか? 真の所属を誤魔化す的な?」


「特殊な隊に属してるって知られる時点で誤魔化しが機能してないがな」


「それはそう。何やってんすかヴルディールさん、鮮やかに初動ミスってるやん」


「別にミスしてるとも思わないが。お前は信用に足る、俺はお前を買ってるからな」


「はい?」



 俺を買ってる? なんでだよ、初対面だろ? それに俺は異端審問官の中でも新人、情報管理においての信頼性を獲得するような実績もまだ積んでないぞ。



「話の流れをぶった斬るが、何故買ってるのかは教えないぞ。そこに関しては俺の個人的な事情が絡んでくる。とりあえず俺はお前の才能、あるいは潜在能力を高く評価してるとだけ言っておく」


「えーと……あれっすか? 私がアイゼントゥール姓だから、みたいな話です?」


「そこは特に意識してないが」



 そうなんだ。てっきりフレイみたいな、俺の名字がアイゼントゥールだからってんで勝手にテストロッサやアザレア? って名前のお姉さんの実績に紐付けて期待を寄せてきてるのかと思った。

 でもそうじゃないならいよいよもって謎だ。俺の何を知ってそんな高評価を叩き出したんだろう。



「本題だが。セーレ・アイゼントゥール、お前は吸血鬼(ヴァンパイア)という魔人の生態をどこまで把握している」



 二本目の瓶を飲み干し、まだあまり酔えてない事を感じ取ったらしいヴルディールが追加で三瓶頼んだ後に話をこちらに振ってきた。



「昼は棺桶の中で寝てて、夜になると動き出すゾンビの進化系ですかね。長い牙とコウモリの翼を持ってる、鏡に映らなくて人の血を吸う、吸った人も吸血鬼になる、みたいな」



 受けた質問に対し、あまり深く考えず前世知識から持ち込んだイメージをそのまま口にする。

 実の所吸血鬼って、この世界の魔獣学関連の書籍に記載が無いからどういったものなのかイマイチ分かってないんだよな。座学でもカスることなかったもんだから現存してるとも思ってなかったし。



「所々誤りがあるが、それは主に亜吸血鬼(デミ・ヴァンパイア)の特性だな」


「デミヴァンパイア」


「吸血鬼と他種族が交配して出来た異常児とも言える不完全な魔人族だ。亜吸血鬼は皮膚が弱く、日光を浴びただけで火傷を負ってしまうから基本的に昼間は行動しない。そして、生殖器を持たず通常の生殖活動を行えないため呪術によって他生物の血中から遺伝子情報を改竄し肉体を変化させることで個体を増やす」


「ほうほう」


「ある年齢を境に細胞分裂が行われなくなるため老化が止まる。寿命自体は伸びるが傷を負えば再生せず、腐ることも無くその箇所は炭化する」


「メリットのように見えてめちゃくちゃデメリットだ」



 老化しないって所だけは良いんだけどな。自然治癒力が無くなるのか、老人より更に体が脆いじゃん。小指ぶつけただけでポロッと取れちゃう可能性あるんでしょ? 怖すぎ〜。



「亜吸血鬼に変化させられた個体も似たような肉体構造になる。変化させられた時点の年齢から容姿が変動せず、卵子や精子が作られなくなり子孫を残すことが不可能になる。光への耐性はかろうじて獲得出来るがそれでも並の生物よりかなり肌が弱くなる」


「見た目の変化でわかるもんなんですか? その変化させられた人ってのは」


「分からんな。人と大差ない。亜吸血鬼は総じて奇形で生まれてくるが、元が通常の容貌で生まれた生物が後天的に亜吸血鬼化したものに関しては見た目での判別は不可能だ。まあ、夏だろうが厚着してるだとか昼より夜の方が活動が盛んだとか何年も歳を取っていないだとかで特定すること自体は容易だが」


「なーるほど」



 歳を取らない、ねえ。それはそれは、かなり俺に都合の悪いお話しだこと。

 勘だけど、俺ってこの10歳女児の見た目から一切成長しない気がするんだよね。

 もし勘が当たってたら亜吸血鬼認定されちゃうじゃん。異端審問官なのに異端審問させられちゃうよ。どうしよっかな。



「と、これが一般的にお前たち異端審問官が狩っている吸血鬼……まあ実態はその劣等種になるわけだが。その概要だ」


「なるほど。見た目が人と大差ないからただ探し回っても無駄……いやそれは亜吸血鬼にされた人の話でしたっけ。亜吸血鬼自体は見た目で分かるのか」


「分かるはずなんだがな。この街に吸血鬼が居ると依頼が出たんだ、お前たちが滞在していた期間中に化け物騒ぎが出ていなきゃおかしいんだよ。進捗報告に進展がないのを見る限り、そういった騒ぎには出くわしてないようだが」


「魔獣騒動はありましたけどね。街中に魔獣が現れたとかなんとか」


「それもそれでおかしい話だ」


「おかしいですか?」


「おかしいだろうよ。街中というが、それは地上の街で起きた騒動なのか?」


「いえ、確か地下街で起きてたような」


「シドンの街は大きく開けられた穴の円周に施設を建造、拡張し作られている。地下街と言っても通気口の必要はないし、周りの地盤が大穴のせいでただでさえ不安定なんだから横穴なんて作るはずもない。排水施設はあるにはあるが、それも大穴内で完結している」


「やけに詳しいですね。さすが情報部」


「気にならないのか?」


「何がです? てか話の進め方が探偵ドラマみたい」


「魔獣の発生源は何処なんだって話だよ。なんだ、探偵ドラマって」


「至極真っ当な疑問すぎてビックリしちゃった」



 てかそれ、フレイから報告受けた時に俺も思った疑問なんですけど。ポケモンでもなきゃ街の中で魔獣が自然発生するなんて有り得ないだろって、既に通過した疑問なんだけどね。解決はしてないけどもさ。



「大抵人が住む街ってのは、大昔の術者達が自分の命を代償とした強力な結界を張って魔獣の進行を防ぐ設計になっている。シドンも同様に、地上街の末端には結界術の術式が施されているのは確認している。そして、その術式には破壊された形跡も張り直された形跡もなかった」


「街中で自然発生しないと辻褄が合わないってことですか」


「そうなるが、無から生物が生まれるなんて事例は今まで報告されていないし、常識的に考えて起こるわけないだろ? そんな事」



 そんな、魔法がある世界で常識的にと言われても。俺的には前提からして常識がぶっ壊れてるから何が起こっても不思議に思えないんだよなぁ。



「とするとだ。その魔獣は、もしかしたら魔獣ではなかったのかもしれない」


「はい? ……魔力を持たないただの獣を、私の同僚達が魔獣だと勘違いしたって話ですか?」


「そうじゃない。世の中にはな、魔獣に変貌する亜人や魔人ってのがいるんだ」


「ほえー」



 魔獣に変身する亜人や魔人、そりゃまた初耳ですな。てか、常識みたいにお話されてるけど俺、亜人とか魔人って人種の基準をイマイチ分かってないんだよね。

 なんとなく亜人は獣人系で魔人は吸血鬼とかサキュバスとかの闇属性っぽい種族って認識してるんだけど、この認識のまま聞いてて良い話なのかな。



「じゃあつまり、その魔獣に変身できる人らがミスってメタモルフォーゼしちゃったばっかりにジュエルさんらにぶっ殺されたと」


「ミスったというよりは、お前らの身内に鼻が利くやつでも居たんだろう」


「鼻が利く?」



 今の所メリーの寄生虫能力とジュエルの戦闘スタイルしか知らないから誰の事を指してるのか分からない。てかそんな、嗅覚で判別できるもんなんだ。



「先程話したのは亜吸血鬼だが、魔獣に変貌する能力を持つのは正真正銘、女神メイリスの子孫である純血の吸血鬼に該当する」


「女神メイリス?」



 ここに来て度々耳にしたことあった単語がヴルディールの口から飛び出した。


 女神メイリス。アレクトラとテルシフォンを含んだ三女神の一人、だったっけ? ピックスさんがそんな話をしていた気がするがあまり興味がなかったため記憶が薄い。



「神話の時代の話だから情報としての信頼性は薄いが、まあ、各地の伝承を総合するとだ。女神メイリスは魔獣に変貌する能力を持ち、自身の肉体の形も自由に操れ、心や記憶に何らかの干渉を行う魔眼を持っていたらしい。そして、メイリスは満月の日には全知になるとも」


「全知?」


「それはちょっと違うな〜」



 おひょっ? 急にヴルディールさんとの会話に女の声が割り込んできた。

 ドラクレアさんの時はヴルディールさんが割り込んできたが、今日は一体なんなんだ? 誰かと会話したら必ず割り込まれる日なのか? 引き寄せの法則が変な方向にバグり散らかしてます。



「満月の日に全知になるんじゃなくて、月は月女神の瞳そのものだから世界をただ見下ろしてるっていうのが正しいね。どこまでも見渡せる目、地平の果てから生物の腸まで。全部が全部視覚情報として把握出来てしまうから全知のように錯覚するだけで、言っちゃえば百科事典をペラペラ捲って流し見してるのと変わらないのさ」


「来てたのか、団長」



 団長。ふむ、第四騎士団の団長さんか。すっごいな、上官も上官、お偉いさんが来ちゃったよ。立って挨拶した方がいいよな。



「もっと言えばメイリスは女神としての名だからその伝承を参照するのは正確とは言えない。名前って最も古くて最も簡易的な呪詛の起源なんだよ? 参照するならちゃんと始祖リリスとしての伝承を参照しないと。それか悪魔としてのバル……悪魔の方はいっか」



 ギョッ!? どんな人が現れるのかなーと思えばこりゃびっくり! 全身包帯でぐるぐる巻きの、街で見掛ける娼婦みたいなボロ布だけを身に纏った不可思議な女の人が現れた!


 ……団長? 騎士団の、団長??

 剣、携帯してませんけど。制服着てませんけど。それに赤紫色の髪が足元まで伸びている、戦闘に相応しい髪の長さじゃないよねそれ。本当に団長なのか? この人。



「リリスとメイリスは同個体だろ。別に大きな違いなんかないんじゃないか? 団長」


「やっぱりこの人が団長なんだ!? 凄まじいな!」


「どうした?」「なあに?」



 両者揃って不思議そうな目で俺を見つめてくる。ヴルディールさんは良いけど団長さんに見つめられるのちょっと痛々しいなァ〜〜!!


 クリクリとしたチャーミングな紫色の瞳が俺の顔をじーっと見てる。ていうか白目も真っ黒! そこも負傷してんの!? 包帯の隙間から火傷の跡が見えるしグロいなァ〜!



「あ、えとっ、初めまして団長さん! 私はセーレ・アイゼントゥール、三等審問官やらせてもらってます!」


「へー。ほー。セーレ・アイゼントゥール。……んぷっ、けひゃひゃっ! 面白い面白い! そっかぁ、異端審問官かぁ。いいねぇ〜〜!」



 何がいいねぇなんだろう。集団の長ともあろうお人が相手だから礼儀正しくしようと思って気合い入れて名乗ったのに何で笑い飛ばされた? 意味分からないんだが。



「こんにちは。異端審問官さん。べリス・アマリリスって呼んでね!」



 呼んでねってなんだ。フルネームで呼べって言われてる? 変な名乗り方。


 ……わあ。べリスと名乗った女性が包帯でぐるぐる巻きの腕を差し出してきた。

 握手、だろうな。…………うぅ、包帯の隙間から人体汁が漏れ出てるぅ。あんまり触りたくないかもなぁ……。



「けひゃひゃっ! そっかそっかァ。そうよねぇ、こんな醜い姿をしたボクと手なんか繋ぎたくないよねぇ〜。いやー失敬! 失礼無礼不躾無作法っ! 美醜の感覚をまるで考慮せずに無理を強いてしまいました! ん〜、綺麗なお肌が妬ましい!」


「い、いや……あの……」


「醜いものには触りたくないのが人間の在り方として定義されてるのにそこを、ボクがっ、咎めるのは何とも滑稽荒唐無稽! 不合理なお笑い草って話さねっ!」



 よく分からない自虐をした後、何にツボったのかべリスさんがギャハハと声を荒らげて笑い始めた。何だこの人。会話のリズムが独特すぎる。波長乱されてるみたいで気持ち悪いな。



「妬ましいなぁ〜妬ましいなぁ〜! 傷の治りが遅いって不便だなぁ〜〜〜!!! あああぁぁ〜〜、ああああぁぁ〜〜〜〜っ!!! 人より治りが早いっていいなぁいいなぁ羨ましいなぁ妬ましいなあ゛あ゛ああぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜!!! でもまあ? 他の人に比べたらボクも早い方だけど。とある人に比べたらやっぱりさっぱり遅いから妬ましさが溢れちゃう! ボクもなぁ〜、君が思う美しい姿で君に会いたかったんだけどなぁ〜〜〜〜!!!セーレ・アイゼントゥールゥ〜〜〜〜〜ッ!!!!」



 ………………なに? この人。こわ。



「あんまり子どもを脅かすなよ団長。絶句されてんぞ」


「んぇ? 絶句するんだ、意外や意外っ! でもそっかァ、心が人なら、人の心なら、醜い相手を見て絶句するも当然そして必然っ! ごめんねぇセーレ・アイゼントゥール。怖かったねぇセーレ・アイゼントゥール〜」


「名前を連呼しないでください。申し訳ないんですけど、本当に怖いです」



 なんなんだこの人。今まで色んなタイプの人とか悪魔とかと関わってきたが、ダントツで関わり合いたくない人種かも。この人の喋りのルールがよく分からんすぎる。


 見た目から激しい戦場を生き抜いてきた女傑なのは明らかだしそこは尊敬できるんだけど、多分これ大分精神病んでるよね。じゃないんだとしたら、最初からこんな感じで騎士になったんだとしたらちょっと聖堂騎士団の見る目変わるもんな。


 第四だけ特殊なのか? やる気なさげなヴルディールさんと形容しがたいべリスさん。面子が二人割れてこれだともう大半がおかしな人の集まりなんじゃないかって思っちゃうわ。



「結局何が良い話なのか教えてくださいヴルディールさん。その為に私を呼んだんですよね? 一応任務中の身ではあるので、あまり雑談に時間を割くわけにはいかないというか」



 べリスさんが机に肘ついて顎を両手の甲を添えてニヤニヤこっちを眺めてくるので話の進行を促す。……なんというか、本能がこの人を受け付けてないのを感じる。喋り方や容姿もそうだけど、多分根本的に相性悪いんだよな。早くこの場をお開きにしたい。



「結論から言うとこの街に居着いてるのは純血の吸血鬼だろうって話だ。純血は肉体構造を一部変えられる能力を持っているから、それで赤い瞳や翼や角を隠して人に成りすましているんだろうという憶測だな」


「純血種の生態は記録に残されていないんだから断言は出来ないんだけどねぇ〜〜〜! 決めつけみたいな言い方は嘘吐いてるのと同義だぞ〜ヴルディール・リッケンバック? ばってん!」


「アタリを付けたのはあんただろ。吸血鬼を炙り出す妙案とやらを思いついたのもあんただ。自分から言い出したんだから茶々入れんなよ」


「けひゃひゃひゃひゃっ! 相も変わらず従来通り、依然として毅然な態度でボクに物申すねぇ〜ヴルディール・リッケンバック! 妬ましいねぇ〜〜〜あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁ〜〜全身が疼くううぅぅっ!!!」


「うぜぇ……一々妬むな。めんどくせぇ」


「忌憚なき罵倒っ!」



 もう無視しよう。や、無視はしてるんだがもうべリスさんの事は居ない者として扱おう。話進まないわ。体感時間だけ延びていくわ。たまらん、まじで。



「吸血鬼を炙り出す妙案ってのはなんなんですか?」


「団長が言うには純血種は女神メイリスと直接的な遺伝の繋がりを有するから似たような体質、魔眼を持っている可能性が高いそうだ」


「リリス〜!」


「……リリスの魔眼は満月の光を浴びると赤く発光する。血を操って目の色を偽装していたとしてもこの現象は制御できず誤魔化すことなど不可能。それと同じ性質の眼を持っているのなら、満月を見上げさせることで吸血鬼か否かの判別ができるとよ」


「満月を見上げさせる、ですか? ……んー、自分らを殺しに来てる奴らが街に居るのに満月の日にわざわざ外に出ます?」


「その疑問を解消するためにボクは思いついたのですよぉ〜セーレ・アイゼ「フルネームやめてください」セーレ・アイゼントゥール!!「なんでやめない?」満月の日に隠れるって分かっているのなら! 家の中に引きこもってるのがおかしいって思われるような盛大で壮大なお祭り? 祭典? お祝い事? を満月の日に実施してやればいいのっ、さ〜さ〜さ〜」



 異世界でセルフエコーを耳にするとは思わなかった。



「……つまり?」


「シドンはキリシュア王国の庇護下にある街の一つだが辺境すぎて国中で盛り上げるような行事が行われる機会は今までなかった。つまり勝手にそういう行事を作り上げても誰も疑問を抱かないってわけだ。領主の協力を仰げればな」


「そしてボクは説得が大の得意なのでごく当たり前にブラディキア・フォールン卿の了承を得られたってわけなのだァ!」


「つーわけで、我々第四騎士団で祭りをでっち上げて、満月の日に花火なんかあげちまってそれらしい反応を見せた奴をお前ら異端審問官に判別してもらおうって寸法よ」



 はえー。大々的な作戦だこと。一からお祭りを作りあげようとしてるんだこの人達。発想力すごいな、騎士団とやらの懐事情がそれとなく透けて見えるわ。



「ユニークなアイデアですけど大前提、祭りが開催されたからって市民全員が外に出るとも限らなくないですか?」


「街の救世主を讃える祭りだったら喜ばない方が不自然だと、団長が自信満々に言い出してな」


「街の救世主?」



 シドンの街にそんな英雄譚じみた過去話があるのか。どこもかしこも脅威に脅かされてるんだなー人類。ほんと、なんで絶滅してないんだ。



「ロドス帝国を滅ぼした魔獣災害の折、ここシドンの最奥に眠る邪神が魔獣達によって世に放たれるのを阻止しようとした英雄が居たのさァ」



 え、ここ邪神眠ってんの? めちゃくちゃ厄ネタじゃんこの街、エグッ。



「阻止しようとしたというか結果的にそう映ったっていう言い方の方が正しいんだけどねっ! 兎にも角にも屍人(アンデッド)の軍勢と無謀の巨人を一人で相手取り、キリシュア王国の道中にあったこの街が踏み潰されるのを阻止してくれた英雄が居ました! 名はローゼフ・シルバーファング!! 人類最高の英雄にして未だ現れぬ剣聖の前任者!!! ひゃーかっこいい! 妬ましいぃ〜〜〜〜〜!!!」



 ぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱち。


 べリスさんが心底面白おかしそうな顔を浮かべて、俺のすぐ近くまで来てグリグリと仕切りに顔の角度を変えながら長ったらしい拍手をする。包帯越しなのに口の端がシワッシワに歪んでるのが分かるニヤケ声だ。


 ……えーと。よく分からないけど、その誰もが知る剣聖ローゼフを祝う祭りをするらしい。ってのをまるで煽るような口調で、言い聞かせるような口調で話してきた。


 ええやん、勝手にすれば。としか思わなかった。俺にどんなリアクションを求めてるんだこの人。

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