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俺は女神の中の人  作者: 千佳のふりかけ
第三章『異端審問官になるぞ編』
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67話『吸血鬼の尻尾掴めるかも。尻尾あるかも分からんけど』

「はあ……」



 シドンに来て何の進捗もないまま二週間が経とうとしている。


 どうしよう。今の気持ちを率直に言ってしまうともうこの街、飽きた。

 毎日毎日大した成果も見込めないのに朝から晩まで聞き込み調査。修道女の本分である慈善活動や清掃活動なんかもこなしつつ、アホみたいに移動時間の長いアリの巣タウンを行ったり来たりする日々。


 代わり映えのない日常。刺激のない毎日。お仕事で来てるって名目があるせいで他所の街に行ったり街の娯楽で長時間遊ぶと叱責を受けなきゃならない。なんともつまらない日々。



「こんな広がりのない異世界冒険譚あるかよ〜、スローライフは刺激に飽きた後じゃないと満喫できないよ〜〜」



 今日も今日とて日向ぼっこをしながら天に向かってありのままの感情を愚痴る。


 なんだかなぁ。パッケージ見て無双ゲーなんだろうなって判断してワクワクしながら買っていざ起動してみたらどうぶつの森だったような感じ。


 戦いが起きないってことはそこが平和であることの証左なんだから良い事なんだけどさ。成り行きとはいえ傭兵業に就いてるんだぜ? 一応。戦いに適した身体構造してるんだし、たまにはパーッと体を動かしたいものですよ。



「はあ」



 ゴロリと寝返りを打つ。

 暇だな〜。あ、目の前にちっちゃなお花さんが咲いてる。可愛いなぁ、押し潰さなくてよかった〜。ぺちゃんこになってるお花さんなんて見たら涙ちょちょ切れちゃうよ。なーんか起きないかなぁ〜。



「うーん……」



 十分休憩を取れたのでムクリと起き上がり重い瞼を擦る。暇だし、退屈だし、一周まわってもう何もしたくないという気持ちになりはしたが、そんなこと言って一日ダラダラしてたら余計時間が長く感じてしまう。


 地下街の探索は他の四人が行ってるから、俺は怪しい所なんてあるはずもない地上街のパトロールでもしますか。

 シドンの民は閉鎖的な民族だから身内間で争うことは多分あまりない。でもその分余所者に冷たい、というかよそよそしい所があるからもしかしたら外部から来た観光客? 絡みの喧嘩やらなんやらが起きるかもしれない。



「腹減ったな……」



 パトロールをする前にご飯を食べよう。立ち上がった瞬間にお腹がキュ〜っと可愛らしい音で飢えを嘆き出した。

 直前に飯を食ったのはつい三時間ほど前で、高級レストランにでも来たんかってくらいの値段をはたいて暴食の限りを尽くし腹八分目まで胃を満たしたはずなのにもう空腹なのか。


 ……相変わらずどんな燃費してんだ俺の体。栄養吸収されてるとは思えないくらい肉付きに変化がなくてトイレに行く頻度も普通って考えると我が事ながら不思議生体すぎるぞ。



「考え出したらどんどんお腹すいてきた……ゾンビもびっくりの飢餓感をまさか毎日何回も飯食ってる俺が味わう事になるとは。ロクにご飯を食べれないような人達が今の俺を見たらえげつない憎悪向けられそうだなー」



 もし俺がどこかの軍隊に所属してて兵糧攻めに遭ったりしたらやばいな。口減らしの為に味方殺しちゃう姿が浮かぶ浮かぶ。そういう困窮状態の時に自制が効くタイプには思えないしね、自分の事。






「だから料金なんかちょろまかしてねぇっつってんだろ!!!」


「そうは言いますが、証言があった以上確認は取らないといけませんので」


「しつけぇなっ!!」



 おーおー。パトロール始める前に腹拵えをと思ったのに胃袋ちゃんに餌を与える前に厄介事に遭遇しちゃったよ。引き寄せの法則働いてる? 即効性ありすぎるでしょ。


 ここに居着いてから何度か足を運んだ居酒屋さんに入ったら仄かに鼻の周りが朱に染まった男が声を荒らげているのが見えた。

 男はもう何ヶ月も洗濯してなさそうな薄汚れた外套と手入れがあまりされて無さそうな光沢のない鎧を身に纏っている。


 冒険者なのかな? ただのゴロツキにしては装備整ってる。


 刃渡りが短い割にぶっとい短剣を握りこんでる。ふーむ、刃傷沙汰にしようとしてる? こんな人の行き交う街の目立つ店の中で? 異世界ってすごい、こんなのが日常茶飯事なんだとしたら世界中スラム街じゃん。



「会計用紙をすり替えていないのが確認出来ましたら謝ります。ですが現状この用紙が偽装したものでないという証拠がないのです。手荷物を見させて頂くだけで結構ですので」


「だーかーら! わざわざ自分らで注文内容を書き換えて多少値段を下げることに意味なんかねぇっつってんだろ! 俺たちがそんなに金がないように見えるのか!?」


「それは……」



 金持ってないようには見えるよ。外套ボロボロだし、鎧を指で擦ったら煤とかつきそうだし。装備品の数はご立派だけど手入れ何もしてないじゃん。買って満足管理不満足、衝動買いが日課の貧乏フリーターみたいな物の持ち方してるじゃんこの人ら。風呂もしばらく入ってないのか髪の形が盆栽状態のまま固定されてるしな。



「なあよ、嬢ちゃん。俺たちゃ、あんたら一般市民が平和に暮らせるよう日々魔獣を狩ってやってる身分なんだぜ? 感謝こそされどイチャモンつけられる筋合いはねえと思わねえか?」


「それとこれとは別です」


「馬鹿言っちゃいけねぇ、俺たちが居なかったらあんたらは満足に家の外に出ることもままならねぇじゃないの。労りの心を忘れたら長生き出来ねぇぞ」


「彼らにも生活があるのです。きちんと設定された金額に了承し料理を注文したのはあなた方なのですから、そこはちゃんと払って頂かないと」



 毅然とした態度でゴロツキに対しNoを突きつけている女の人は口ぶりから察するにどうやらこのお店の関係者ではないらしい。偶然客として立ち寄っただけなのか。


 めっちゃ豪華な服着てるな。びっくりした、髪くるんくるんだし。シドンの貴族一家の娘かなんかだろうか? 立ち振る舞いにも気品が溢れてる。

 ボンボンのお嬢さんがよくあんな、いつ殴りかかってきてもおかしくなさそうな気性の荒い男相手に立ち向かえるものだ。

 相手は手に刃物持ってるんだぞ? ビビって萎縮するのがこういう状況の最適解だと思うんですけど、もしや何かしらの物語のメインヒロインだったりする? 早く助けに来てくれー主人公ー。


 ……てか邪魔だな。話し合い長引きすぎ。店の出入口前で言い争うのはやめてほしいかも。



「もし、仮にだが、そんな豪華な服を身に纏ってお高くとまってるお嬢様だからってんで手を出されないとタカをくくってるわけじゃあねえよな? えぇ? お嬢ちゃんよぉ」



 声を低くしたゴロツキが短剣を握りこんだ腕を動かし刃先をお嬢様の眼前にチラつかせる。流石にその行動にはビビったのか、お嬢様が足を引いて僅かにこちら側に背中が近付いた。

 おわっ。すごい、背中の所あみあみの紐で布を支えてるだけで地肌が丸見えになってる箇所ある。うひょ〜、美少女お嬢様のキメ細やかな背中がすぐ眼前に! 眼福だぁ!



「わ、私は脅しには屈しませんわよ」


「そうかい。残念だなぁ、綺麗な顔してるのに自分の浅はかな判断で美が損なわれちまった。あぁ残念だ残念だ、貴族の娘が顔に傷をつけられるだなんてどこの悲恋物語だよ。なあ、そう思うよなぁ!」


「きゃあっ!?」



 お嬢様の腕を引っ張りこちら側に倒れさせる。紙一重、ゴロツキの突き立てたナイフが空を切った。



「あ? ……こりゃまた温室で育ってきてそうな小綺麗なガキが現れたな。なんだお前、このドレスのお嬢ちゃんの知り合いかい」


「初対面です〜」



 お嬢様をお姫様抱っこのままドア側に立たせ、代わりにゴロツキと相対する。



「部外者なら話に割り込んでくるな。……つぅかよく見たらなんだその格好。乳臭ぇガキの癖して随分自信たっぷりに肌を露出してるじゃねえの。娼婦でもそんな服着ねぇぞ。変態マニアの見世物芸小屋で働いてるクチか?」


「刺さる刺さる、その指摘ぶっ刺さりますって。別に好きで着てるわけじゃねえから。こんなちんちくりんな体してんのに自信満々に腋見せ足見せしてたら頭おかしいでしょ」


「じゃあなんだよ奴隷か? はっ、ここらの奴隷は随分と洒落た格好させられるんだな。俺の故郷の奴隷を見せてやりてぇよ」


「だーれが奴隷じゃ。似たようなもんだけどさ」


「似たようなもんか。はっはっ、意味分からん。つーか失せろガキ。そこに突っ立ってたら通れないだろうが。俺たちゃ今から仕事なんだ。こんな所で油売ってる暇ぁねえんだよ」


「ふむ」



 俺達。ゴロツキの後ろを見てみたらさっき確認出来なかった似たような格好のゴロツキが三人控えていた。背が低いせいで見えてなかったや、コイツら集団でこの貴族風のお嬢様を脅してたのか。


 全員見るからに酔っ払った朱色の頬をしてらっしゃる。目がとろーんとしてて、正常な判断が出来てないのは分かるがそれにしても店の中で刃物を取り出すのはなぁ。



「聴こえてんのかァ? これから仕事だっつってんだ。よく分からねえイチャモンをつけられて動き出しが遅れてんのにこれ以上遅れたら獲物を逃がしちまうよ。そしたら依頼金もパーだ、お前そうなったら責任取れるのか取れねぇよなあ。だからさっさと退け、今すぐ退け、さもないと痛い目」

「ちょいやっ」


「ごぎゃっ!?」



 ガチャガチャうるさかったのでテキトーに握り拳で横に殴り払う。ゴロツキは水平に吹っ飛んで店の壁に勢いよくビターンと叩きつけられた。あ、口から泡吐いた。カニさんみたい。



「店主さーん」


「は、はい!?」


「エルドさん!? てめぇこのガキ何やってんだおい!!! ぶっ殺されてぇのか!!?!?」


「多分この人ら、めっちゃ酒とか飯とか頼んだのに会計で帳尻合わないってんで足止めしてたんすよね?」


「そうです! あっ、危ないっ!!」


「無視してんじゃねえぞガキイィィィッ、ゴホォッ!?」



 奥の調理スペースに居た店主さんと会話してる最中なのに邪魔してくるゴロツキが居たので思いっきり叩き込む。鎧ごと胴体に拳がめり込んだおかげで吹っ飛ばなかった。

 邪魔なので、拳がめり込んだ状態のゴロツキをそのまま腕を払って取り除く。さっき吹っ飛ばしたカニさんの上にゴロツキが折り重なる。



「私思うんですけど、こういう連中って最初から払う気サラサラ無しで武装も解除せず店にやってきたわけじゃないっすか。そういう人らってどんだけ詰めようが無いものは無いんだし、話し合うだけ無駄じゃないです?」


「あぁっ、また! 危ないですよお嬢ちゃん!!」


「てめぇコラァッ!!!」「上等だクソガキャアアァッ!!!」



 残った二人が同時に襲いかかってくる。

 先頭に居るゴロツキにはラリアットをぶちかます。ゴロツキの体が俺の腕を軸に一回転するので、俺の肩に乗ったゴロツキの足をふん掴んでそのまま後ろに控えていたゴロツキにフルスイングする。


 気持ちの良いが鳴った。ゴシャッて感じの、何かが潰れるような音。殴られたゴロツキはそのまま山並みに飛んでいく。バットにした方も体をぐでーんと床に垂らし白目を向いている。


 全身脱力しているため姿勢を維持するのは難しいが、バット代わりにしたゴロツキを椅子に座らせて改めて店主さんに向き直る。



「え、ええぇぇぇっ!!?!? し、死んでるっ!?」


「死んでないと思います。この人ら、酔っ払ってるけどちゃんと身体強化使ってましたし」


「本当ですの……? 凄い音鳴ってましたけど……」


「大丈夫です。私も加減は出来ます。感触から察するに、精々粉砕骨折、内臓破裂程度しかしてないと思いますよ。その人たち」


「重症じゃないですか!?」


「治療術師さんはみんなゴッドハンドです。確殺決めなきゃ大丈夫!」


「えぇ……」


「てか、こういう時は話し合いなんかせず、さっさと兵士に突き出すのが一番良いと思いますよ。こんなんでも装備品を見るにどっかのギルドに所属してる冒険者でしょうし、身元確認は簡単でしょ」



 ゴロツキ退治が終わったのでテキトーな席に座りながら調理場の店主さんに意見を物申す。……? 何故かお嬢様が俺の対面の席に座ってきた。確認取らず勝手に相席? 困ったな、孤独のグルメしたかったんだけど。



「んー。なんか対面に座られたのでお嬢様に言っときますけど、普段荒事に手を染めてる人って酒入るとなんでも暴力で解決すりゃいいって思考回路になりがちなんで、関わるだけ損っすよ」


「そ、そうですわね……」



 ご理解頂けたようだ。よかったよかった。ゴロツキの意見を肯定する気はサラサラないが、とはいえこういう連中に関わったらロクな目に遭わないのは事実だからな。箱入り娘の良い社会経験になったことだろう。



「さて。座りはしたけどその前に兵士さんに突き出さなきゃだな。事情聴取とか始まったら穏やかに飯も食えねえし」


「あ、でしたら私が」


「とりあえず両手両足を折っときますか。報復の可能性も考えて、刻むように折って蛇腹にしちゃおう」


「はい!? ちょちょちょっ、待ってください!!」



 座らせたゴロツキの手首と肘関節を掴み、木の棒みたいにボキッとやろうとした所でお嬢様が止めに入った。

 ふむ、店の中でそんなことをしたら気分を害しちゃうか。俺の悪い癖だな、あんまり周りが見れてない。直さなきゃだ。



「ごめんなさい、外でやります。皆さんは中でご飯の続きをどうぞー」


「そうじゃなくてっ! あの、もう動けないようですし手足まで折るのはどうかと思うのですが……」


「むっ。でも起きたらワンチャンまた暴れ出しますよ? 私は別に何度来られてもこの人ら程度だったらどうとでもなりますけど、お店の人やお嬢様は困りません?」


「この街の兵士はとても優秀なので大丈夫です! 自分の領内で育った兵士だから信用出来ます! ですからどうかそれ以上手荒な真似はしないでくださいまし!」


「そうですか? そこまで言うなら、って自分の領内? え? お嬢様、もしかしてこのシドンの街の領主様かなんかです?」


「申し遅れましたわ!」


「あ、かっちょいい名乗りのパート始まりそう。じゃあそれっぽい場を設けたいのでちょっと待っててくださいね。このゴロツキ達を兵士さんに突き出して来ますんで」


「はい。分かりましたわ……」



 出鼻を挫いてしまったせいかお嬢様がトーンダウンした。背筋をぴーんとのばして胸元に右手を添えたかっこいいポーズしてたのに申し訳ないね。物事には順序があるので。現実はアニメのように円滑に物事が進むわけではないんです。






「改めまして。申し遅れましたわ! 私はドラクレア・フォールン!! このシドンの領主であるブラディキア・フォールン卿とその妻カルミラ・フォールン夫人の娘ですわ!! 以後お見知りおきを!!!」


「おー」



 ぱちぱちぱちぱち。

 初めて聞いたな、改めましてから申し遅れましたわに続く挨拶。

 そんで貴族式挨拶のテンプレートを知らないから引っかかっちゃったんだけど、両親の名前を揃えて紹介する必要ってあるのかな。領主の説明だけで良くないか? 夫人の説明は必須だったのか? うーむ、分からん。



「私はセーレ・アイゼントゥール。異端審問官です」


「異端審問官様でしたの! 道理で、見慣れないお召し物だと思っていたのです。腕の良い職人に仕立てさせたのは見て取れますが、一般的な布地ではない特殊な物をお使いになっておられますのね」


「そうですね。さっきゴロツキが持ってた短剣程度ならそのままぶっ刺されても貫通はしないです。一応防刃仕様なので」


「まあ!? 火にも強いのですか? 腐食にも? この肌触りですと魔力の影響も受け流せるよう作り込まれていそうです。凄いですわね……!」



 うんそこまで気になる??? めっちゃ服好きじゃん勝手にジャケットのボタン外して内側の手触りとか確かめてくるじゃん? エイブルシスターズの方?


 なんでもいいけどジャケットの下なんも着てないのよ。紐みたいなブラしかしてないからあんまボタン外したくないんだよね。こっちの事情だから知ったこっちゃないんだろうけど、こっちとしてはかなり困るのね引っ張られると。他のお客さんも居るから。



「なるほど、この繊維は確かに頑丈ですわ。魔獣の爪で切り裂かれてもそうそう破けそうもない……えっ!? せ、セーレさん? 何故上着の下に何も着ていないのです……?」


「おかしいですよね。本当になんでなんでしょうね」


「そ、そういうご趣味の方……?」


「さっきも似たようなこと言われたな。じゃあさっきと似たような返答しましょうか。なわけないでしょ、やばいでしょこんなちんちくりんなのに露出狂やってるとか。頭おかしいじゃん」


「では何故このような? あの、この辺の地域って大陸の中でも特段気温が低い地域ですのよ? 真夏になるまで雪も完全には溶けない程ですのに」


「相当やん。なにそのイメージド直球な北欧世界。まあこの服、布面積は終わってますけど特殊な術式が何層か施されてて体温調整機能もあるんですよ。大抵のフィールドワークはこれさえ着とけばいいみたいな感じになってるんで」


「そうなのですか? 地肌を晒してますのに寒くないのです?」


「寒くないです。なんなら触ってみてください、私の体ポカついてるでしょ」



 ドラクレアさんが俺の手先に触れてきた。そこじゃないやん。滑り止め用の薄手の手袋付けてますやん。地肌って言ったつもりなんだけど。



「この手袋にも魔力の流れが……ふむ。なるほど。としますと、最低限の長さしかなくて正直履いている意味を見出だせないスカートを身に付けながら足を完全に見せつけるでもないその膝上丈の靴下にも魔力を巡らせる構造が成されているのでしょうね。機動性を確保しながら魔力の循環に適した服装、ということですか。考えましたわね……!」


「なんで詳細説明入った? やっぱりエイブルシスターズの方? 正体ハリネズミとかではない?」


「ごめんなさい。つい気になってしまいまして。殿方の目を惹きつける目的でなければ着ないようなげひっ……失礼しました。風変わりな服でしたので」


「まろび出ましたやん本音。下品て。そりゃそうだ、なんの意味があってマイクロミニなんて履くんだよってな」


「マイクロミニって呼ぶのですか? 一般的に流通してるスカートなのですか? それは」


「流通はしてますよ。見た事ありますもんこの世界で。冒険者やってる女の人が鎧の下にこんな感じの長さのやつ履いてましたし」


「はぁ。そうですか。…………好んで着てるのです?」


「言っときますけどこれ、教会指定の格好ですからね。私の趣味じゃないし、全身に魔力を循環させる方法なんていくらでもあるからこんな痴女みたいな格好する必要ないって分かってます。教会の、趣味なんです」


「そのスカート、屈んだ時お尻見えちゃいそうですわよね」


「見えるでしょうね」


「紐みたいな下着を履くのはまずいのでは?」


「まずいでしょうね。そこも含めて教会指定なんでね」


「……恥ずかしくないのです?」


「恥ずかしいわ!!! どーーーうしてみんな恥を感じてない前提で受け取る!? 恥ずかしいわ当たり前に!!」



 ドラクレアさんが俺に『理解不能』とでも言いたげな目を向けてくるが、着たくて着てる訳じゃないってもう説明したはずなんだよな!? 不可抗力だし衣装を変えてくれるよう掛け合おうとはずっとしてるんだよな!? なんであたかも俺が望んでラブホのコスプレみたいな格好してると思われなきゃならないんだ!



「まあ、異端審問官でしたら武器を振るい戦うのがお仕事ですし動きやすい服装に身を包むのは当然の事だとは思いますが。今まで見た異端審問官の中でも特別その、無防備な格好ですわよね」


「ちなみにそんなことないです。ガチで。うちの仲間にもやばい格好いますし。大胆に谷間をおっぴろげてる上にローレグのホットパンツ履いてる人とか、パーカーみたいな服着てるだけでそもそも下着を隠す物なんにも履いてない人とかいますし。圧倒的にやばいのあっちだから」


「異端審問官の方々は肌や下着を見られる事について何も感じてないのですか?」


「そんな事ないと思うけどなァ〜! 少なくとも私はめちゃくちゃ気にしてるけどな! 気にしてないのなんてメリーくらいじゃないかなぁ!」


「なるほど」



 本当になるほどと思ってくれてるかな。払拭してくれただろうか、俺へのマイナスイメージ。



「話は変わりますけど、ミルティア教の異端審問官様方が何故シドンに留まっているのですか? 周辺の地域でなにか、異端審問官でなければ解決出来ないような事件でも発生したのです?」


「いい感じに話題転換しましたね、ナイスです。私らがここに来た目的はアレっすわ、なんか吸血鬼が居るだかで。その吸血鬼を探してぶっ倒せってお達しが出たらしいです」


「吸血鬼探し、ですか?」


「はい。吸血鬼です。ヴァンパイアですよ。夜な夜な現れては血を吸って人を殺す、怖ーい怪異が現れたらしいですよ」


「吸血鬼って昼夜関係なく活動してません?」


「えっ、そうなの?」



 知らなかったんだけど。吸血鬼って昼夜関係なく活動してるものなの? 昼は棺桶の中で寝てるんじゃないの? え、じゃあいつ寝てるの? 不眠症の方???


 ていうかそうだ。領主が居るんだったらその人に繋いでもらって、街で最近起きた変化や怪しげな人物を教えてもらったら効率的に吸血鬼を割り出せるんじゃないか?

 領主って市長みたいなもんだろ? 日頃から街の人と交流あるだろうし何も成果がないなんてことは無いだろう。少なくとも依頼が来てる以上、吸血鬼とやらの被害を受けた人間は絶対にこの街に居るわけだし。そんな一大事件を領主が知らないわけないもんな。



「ドラクレアさん」「もしよければ」



 お?

 俺が名を呼ぶのと同時にドラクレアさんが声を発した。発言タイミングが被ったからつい口を閉じる俺に反し、ドラクレアさんはそのまま言いかけた言葉を続ける。



「もしよければこの後、私の屋敷に来ませんか? 先程助けて頂いたお礼もまだですし」


「え? お礼とか別にいいですよ。羽虫を叩き落とした様なもんですし」


「でしたら吸血鬼を探している、と仰りましたよね? 私は吸血鬼の存在をこの目で見た事はありませんが、父でしたらなにか知っているのかもしれない。シドンは地下街も含めると広大な街です、その助けになれるかもしれませんし」



 おぉ! 正しく俺が望んだ通りの展開になっちゃった。棚から美味すぎるぼたもちをゲットしました!


 いやはや、ドラクレアさんから言い出してくれると、領主とのお話チケットを手にするために理屈こねくり回すターンをスキップ出来るからかなりラッキーなのでは!?

 ツイてんな〜今日の俺。やはり引き寄せの法則ビンビンに作用してるね。今日から『開運☆ セーレちゃんの占い館』でも展開してみようかしら。一儲けできそうな兆しを感じますな!



「是非とも! そういうお話はかなり助かりますので是非ともドラクレアさんのお父様に」

「ちょっといいか」



 うん? 良い所だったのに男の声が割り込んできた。俺とドラクレアさんが座る席の傍らに一人の男が立っている。



「異端審問官。吸血鬼を探して回ってるって話だよな」


「そうですけど。なんすか急に、さっきのゴロツキの残党ですか?」


「無関係だよ。それよりお前、セーレと言ったか」


「急な名前呼び。なんですか知らない人」


「あんたに良い話がある」


「ほ? 良い話とは?」



 男はチラッとドラクレアさんの方を向く。ドラクレアさんも男の方をジッと、無表情で見つめている。なにこの空気、不思議な雰囲気。



「……えーと。なんだかよく分からないですけど、流石に話しかけてくるタイミングが怪しすぎるので名乗ってもらってもいいっすか? 身分で第一印象警戒するべきか決めるんで」



 俺がそう言うと男は小さく息を吐き、ゴキゴキと首を鳴らす。なんだその仕草、ヤンキー漫画に憧れた中高生か。



「俺はヴルディール・リッケンバック。キリシュア王国聖堂騎士団所属。異端審問官の上官って言えば分かるよな」


「じょ、上司ぃ〜?」



 まっことびっくり、まさかの上官様と遭遇してしまったみたいです。そうなんだ、話には聞いてたけど本当に異端審問官ってキリシュア王国の騎士の下に就いてるんだ。同じ組織内の人間すっ飛ばして他部署の部長と会ったような気分。複雑〜。



「そういう事だからドラクレア嬢との交流はまた別の機会に回してくれ。本来ならジュエル二等に話すつもりだったが、宿舎に赴くのも面倒だしここで共有を終わらせておきたい」


「面倒て」



 素直か。宿舎なんて少し歩けば着くのにその最低限の労力さえ割きたくないのかこの人。


 まあ直属の上司からの共有であれば流石に無碍に出来ない。俺はドラクレアさんに「ごめんね!」と軽く謝罪をし、ヴルディールさんと共に二階の席に移った。

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