64話『興味は狂気に程近い』
このシドンという場所に最初に来た時、石造の高層建築物こそ乱立してるものの形成範囲? がそこまで広くないので村っぽいという印象を持っていた。
ここに定着して気付いた事だが、どうやらシドンは横に広がるタイプの街ではなく地下に文明を発展させてきた街らしい。
地上に存在するのは宿舎や小規模の教会、馬車道や商業施設がほとんど。人口こそ多いものの地元民というよりは余所者ばかり闊歩している、駅前の繁華街って感じのイメージ。
地上都市は円形に構築されていて、地元民の生活圏は内側に位置する螺旋状の階段を下ってアクセスする。街の全体像を例えるならアリジゴクみたいな構造って所か。
「うーーむ」
たっかい木に登って地下街を見渡し考える。
「街に潜んでる吸血鬼を見つけ出してぶっ殺す、それが俺達の今回の任務との事だが」
思った以上に捜索範囲が広い。地下街が広がってる縦穴の深さを見てると超高層ビルから街を見下ろしてるような錯覚に陥る、それくらい規模が広大だ。5人ぽっちで特定の個体を探すってのはちょっとばかし無理筋なような気しかしない。
「ふーーむ……」
ついでに、だ。指でカメラフレームを模したポーズを作り縦穴の底を視界に収める。
渦を巻くように形成された地下都市の中心には巨大な石造遺跡のような物がある。台風の目からニョキっと生えたピラミッドとか、コロッセウムの真ん中にぶっ刺さったエッフェル塔的な? そんなノリの不思議構造、芸術的と思えなくもない出で立ちだ。
「多分、あそこを基点に街が作られてるよなあ。そんな事ある? 先に馬鹿でかい洞穴を掘って、アホほど時間掛けなきゃ到達出来ない地底の奥底まで降りていって遺跡作って、その周りに街を作る? まるで意味分からん。それとも地底人が地上を目指して作った街とかなんかな」
何が謎ってあの建造物、地元民もなんなのか分かってないっぽかったんだよな。
地元民曰くアレには入口らしい入口が存在せず、建造物の外壁は特別硬い鉱石で何層にも渡って形成されている上に特殊な防護結界まで張られていて民間の術師では突破はおろか傷をつけることすら敵わないらしい。
決して突破できない、最年長の地元民が生まれる前からそこにあった謎遺跡。どんな意図があって造られたのかという記録さえ残らない正体不明の巨大遺跡。
怪しさしかない。吸血鬼探しの件とは別件になるんだろうが、怪しすぎる。個人的にはあの謎遺跡の調査を推し進めたい。男の子の知的好奇心をくすぐる要素しかないもんあれ。絶対未知のオーパーツとか古代王のミイラとか眠ってるじゃん暴きたすぎるよ。
「そこで何しているんだ? セーレ三等」
さっき買った蜂蜜たっぷりの団子もどきを頬張りながら街を眺めていたら下から声を掛けられた。フレイが呆れた様子で俺を見上げている。
「わ〜。セーレ三等って呼び方、軍隊みたいでかっこいい」
「何をしてるんだって訊いてるんだが」
「敵情視察ですよ、敵情視察。街をぶらついてたらシスター・ジュエルにこっぴどく怒られちゃったでしょ? 反省を活かして色んな情報を集めようかなっていう従事意識の表れですな」
「誰よりも早く起きてやる事が食い物貪りながら街を眺めることか。筋金入りのサボり魔だなお前」
「なんだかなぁ。私と接する人らって鼓膜か脳みそが機能してない人多すぎー。お仕事中だって言ってますやんか、なんでサボり認定されるのさ」
「身を起こしたのはついさっきのこと。それまではずっと幹に背を預けて気持ちよさそうに昼寝してたろうが。起きてもしばらく鼻歌混じりに遠くを眺めていたし」
「ずっと見てたんですか? 女の子の昼寝を覗くとか趣味わる〜」
「はあ〜……一応お前にも報告しておく。先刻、シドンの地下街で魔獣の発生が報告された」
「地下街でですか?」
ほえー。魔獣って人の住み着かない場所で発生するものだと思ってたんだけど市街地にも出てくるんだ。
なにそのランダムエンカウント、ゲームの世界じゃなきゃ有り得ない出現の仕方じゃない? 街の中にある草むらから出てくる野生ポケモンとかいう謎概念と全く同じシステムが成り立ってるじゃん、こわぁ。
「斧を取ってこなきゃだ」
「いや、魔獣はとっくにお前を除くメンバーで討伐したよ。事後報告というやつだ」
「怪我人とかいました?」
「全員無傷だ」
「そりゃおめでとうございます。上官でもないのに報告義務とかあるんすね?」
「共有は全員にしておいた方がいいだろ。部下への共有を怠って万一不和が生じても困る」
「統制取れないかもって心配じゃなく不和っすか? 仲間外れだーって私がプンスコ怒り散らかす可能性を忌避してんのかな。大丈夫ですよ、私は私の知らないところで何が起こっても興味湧かないんで」
「組織に向かない人柄だな」
「むしろ組織人として相応しくないです? ただ言われた事を無心で全うする優秀なエージェントを自負しております」
「言われた事すら全うしないし言われずともやるべき仕事を放置を貫いてるだろ。どこが組織人なんだ」
言外に社会不適合者だろって当てつけられてるなあ今。酷いもんだ、無理やり部隊に編入されてるって状態なのに俺の自由意志は尊重されないらしい。
「異端審問官のくせに戦闘行為に参加せず、かといって聞き込み調査をするでもなく惰眠を貪って。ジュエルに知られたらまた夜まで説教コースだぞ」
「見ての通り10歳の女の子なんで、物騒な現場に出るのは場違いだと思いまーす。怖いのやだー」
「メリー三等も似たような事を言って建物の影に隠れていたな。どうなっているんだ今年の新人は……」
メリーが魔獣ごときにビビり散らかして隠れてた? そんな事あるんだ、アイツ悪魔なのに。
「で、いつになったら降りてくるんだお前は。このまま日が落ちるまでそこでくつろぐつもりなのか?」
「邪魔が入らなかったらそうするつもりでしたけど、邪魔が入ったんでそろそろ仕事に行きますよ。よいしょ」
「降りられるか?」
座っていた枝から飛び降り、重奏凌積を使って安全に着地する。木の高さはそれなりだったからかフレイは目を丸くして俺を見つめていた。ピースしてやる。
「へへっ。降りられた」
「一瞬魔力の起こりが見えたが身体強化の一種か? 随分器用なことをするな」
「何がです?」
「普通、自前の魔力を使った身体強化は効果が切れるまで魔力を起こし続ける必要があるだろ。お前のは一瞬だった、衝撃の瞬間に合わせたのか」
「そりゃそうだ」
あんまり意識してないことを訊かれたので普通に答えた。答えた後にあることに気付き、俺は慌てて手を出しストップの意志を伝える。
「待って。俺、なんかやっちゃいました的な会話を振られると私にかかる期待が爆上がりする可能性あるのでやめてください」
「何を言っているんだ?」
「すごいことはしてないので褒めないでください。みんな出来ることをしました、自分基準でそう言ってるのではなく全人類の平均値を取った上での意見です」
「……いや、誰にでもできることではないだろ。すごいことしているぞお前」
「してないです」
「魔力の入出力を瞬間で切り替えられるんだろ? それに地面に傷がつかない尚且つ自分にもダメージがいかないよう細かく出力も調整してる。精密で繊細な魔力コントロールが出来てる証拠だ」
「違いますね。具体的にどう違うか訊ねるのは卑怯だと先に言っときます。無意識にできる人は少ないと言われたら困るのでそう言われた場合は馬鹿にします全力で。お前の水準が低いだけやろって言います」
「馬鹿にしてるのか?」
「する可能性もあると言っている。私がしたのはあくまで、物を殴っても拳が痛まないように力を入れただけのことなので」
「……例えるなら飛んできたボールを正確に殴って、吹っ飛ばすのではなくその場に落とす、の方が近いと思うのだが」
「違いますね」
「人が無意識に行う筋肉の連動や体の反射を意識的に行うようなものだぞ?」
「それよりお腹すいたー! フレイさんなんか奢って!」
話を変えるためにわざとらしく腕にすりついて甘えた声を出す。昇進はしたいけど評価はされたくないからな。
「セーレ三等」
「さっき見つけたお店がいいです! ちょっと高そうなお店だけど魔導師さんって高給取りなんでしょ? 行けますよね!」
「魔導師と魔術師、違いはどこにあると思う?」
「は? ……ネーミング?」
「魔術師は素養次第で誰でも使える魔術を行使する者。魔導師は独自の魔法理論を持ち合わせており、体質的に魔力の質や量を感応することに長けた者を指す」
「はあ」
「魔導師は一般人や一般的な魔術師以上に魔力を敏感に感じ取れるという事だ。魔力濃度の薄い土地であってもその場所の特性を読み取ることができる。そしてこれは土地に限ったことではなく、対人でも同じことが言える」
「はあ。……フレイさん、よく話が回りくどいって言われません?」
「お前、周りに自分の力を隠しているようだが。なにか事情でもあるのか?」
なんだその質問。隠すも何もお披露目する機会なんて一度もなかったろ。隠そうとは思ってるけどもさ。
「なんの事ですか? 私は人よりちょっぴり力が強いだけの幼女ですよ」
「そうだな……。魔導師は、生きた魔力測定器だとでも思ってくれ。そう言えば分かりやすくもなるだろう」
「はい?」
「人に触れるだけで対象の魔力量、魔力の性質、魔力に応じた体質、属性といったものをあらかた把握出来る」
慌ててフレイから距離を取る。
「初めての経験だぞ。触れた相手の魔力の多さで酔いかけたのは」
「待ってください待ってください」
「大した魔力量だ。生成効率も桁が外れてる。お前を生きたまま魔力炉心として魔術機構に組み込めば半永久機関の完成だな」
「非人道的!」
「でも魔力の性質は利用しにくそうだな。停滞、汚染、腐食、吸収に反芻……どれもあまり見ない魔力性質だ。破壊や崩壊を伴う性質が多いから属性分けするなら闇に区分するのが1番的確かな」
「フレイさん!!!!」
誰にも、少なくとも尼さん生活をする中で関わる人間に対しては絶対に漏らさないでおこうと思っていた俺のトップシークレットを次々口にするフレイに再びしがみつく。俺の魔力に酔いそうなったならそのまま酔わせて忘れさせてやれ!
「少女がそう親しくもない男にベタベタくっつくのは如何なものかと思うぞ?」
「うおおおぉぉぉ! 酔え! 酔え! 酔っ払え!!!」
「搾精鬼みたいな事を……。言っとくが、お前の魔力への耐性は今しがた獲得している。もう酔うことはないぞ」
「なにぃ!?」
耐性!? そんな毒の抗体みたいなもん即座に獲得できるものなの!?
「くっ、それなら!!!」
それなら、と言いはしたし何かありげに腕を振り上げてみたものの。アレクトラの能力一覧を頭の中で高速検索し記憶に干渉できるものがないか探してみたけどそんなものは一つもなかった。
なんでやねん。嫌な記憶を思い出させる事は出来るのに、霊や死にたてほやほやの死体の過去を覗き込む事も出来るのに、記憶抹消する能力はないの? 分からんわその基準。
「魔力錯流」
「ふぇっ? ぬぎゃっ!?」
考えなしに出た強化無しのパンチをフレイに受け止められた瞬間、フレイに組み付いていた俺の体がツルッと滑り落ちるように地面に落下する。サルスベリにしがみついた猿みたいな感じ。見た事ないけどねそんな光景。
「いてて……なんだよ今の? 全身からローション出す魔法でも使ったんかあんた。めちゃくちゃ滑ったんですけぬぎょほっ!?」
明らかに変な魔法を使われたのは分かるので抗議してやろうと立ち上がった瞬間足がツルッと滑ってまた背中から地面に落ちる。なんぞこれ!? 地面がツルツルだぁ!? 立ち上がれないいぃぃぃ!!!
「く、うおおぉぉぉっ!!? なんなのこれ! めっちゃ転びゅはっ!? めちゃ転ぶー!!!!」
「生物はみな、常に微量の魔力を体外に放出している。この術はその魔力に流れを作る術だ」
「いだいっ!? 立てないーーー!!!」
「自然放出される魔力量は保有している魔力量に比例するからな。魔力が多ければ多いほど体表に作られた流れは激しくなる。体の周囲に圧縮空気の膜ができてると思った方がいいぞ」
「つまりどういうことですか!!!」
「立てないと諦めるのは勝手だが、そのまま寝そべっていた方が危険なのかもしれない。今のお前は若干浮いてるんだからな」
そう言ってフレイが俺の肩を指で少し押す。すると俺の体は勝手に地面を滑り始めた。
「え? ちょっと?」
変わらない姿勢のまま、一方向へスライドする速度が加速していく。
「ちょっと!? 止まれ! とまれええぇぇぇ!!?!?」
どれだけ姿勢を変えても、どこに力を入れても滑走は止まらず。足でブレーキをかけようとしてもそもそも足が地面に接触した感覚もないまま滑り続ける。なんじゃこれ! 全身に滑車がついてるかのようなどうしようもできない感じ!!!
あ、木に当たる。
「ふぎゃっ!!!?」
どうにも出来ないまま木に思い切り背中をぶつけ、ようやく滑走が停止した。
今の俺は地面に後頭部をつけ、背中を木の幹に押し当て、両足開いた状態でひっくり返った様相である。
馬鹿みたいに短いスカートを履いてるから、当然パンツもパッカーンしている。その状態で足と足の隙間からフレイの呆れた目と目が合っている。無様すぎるね。
「よくその格好で平気だよな、セーレ三等」
「好き好んでこんな格好してると思ってるんすか」
「白い衣装に黒い下着は目立つだろ。下着も教会指定なのか? 流石にそれはないよな」
「教会指定ですけど。てかパンツの話かよ。この無様なポーズを見て思うところないんすか」
「俺に何かしようとしただろうお前。自業自得だ」
「分かった。なんでこの顛末になったのかは一旦置いとこう。私、どっからどう見ても幼い女の子ですよね。女の子にこんな格好させて、パンツ眺めといて、思う所は?」
「色気のない貧相な体を見て何を抱けと?」
「誰も欲情しろとは言ってねぇんだよ。さっさと術を解除しろっつってんの、怒りますよ?」
「先にそちらが俺に何をしようとしたかだけ訊いておこうか。解除はそれからかな」
「あんたがこっちの都合の悪いことベラベラ喋るからぶん殴って忘れさせようとしただけですけど?」
「解除できないな、今後も」
「殺しますよ?」
「何故襲われるリスクがあるのに保険をかけず野放しにしないといけない? お前の身体強化能力の精度はかなり卓越している。強化幅も凄まじいんだろうよ、あんな鉄の塊を主武装として持ち歩いてるくらいだしな。そんな相手に殴られたら記憶どころか頭部ごと消滅してしまうだろ」
「その方が楽っすねそうしますそうします」
「解除してほしくないのか?」
「さっさと解除するなら許しますよ。しないならそうします。今すぐこれ、解け。今すぐに」
「もう解除してあるが」
「まじすか。じゃあはよ言ってくださぬぎゅっ」
立ち上がろうとしたらまたまたすってんころりん、足が滑って世界が一回転した。
「…………私、かなり気ぃ短いですよ?」
「魔力に流れを与えているだけと言っただろう。魔法でもなんでも使ってお前の方でコントロールすればいいじゃないか。何故そう頑なに能力を見せたがらない?」
「違う違う、ズレてんのよそれは。そもそも最初っから対策できるよねって話じゃなくて、解除してあるって答えたのはあんただよね? 嘘じゃん。そこの筋通さない内はどんな反論も意味成さねぇから」
「自力でどうにかしてみろ」
舐めてんのか? と思った所だったがどうやらこのフレイという男、俺がなにかしらの魔法なり能力なり使ってるのを見たくてこんな事をしてきてるっぽい。先日の至近距離地肌ガン見事案の事もあるし、俺の事を研究対象のモルモットかなんかだと思ってる節あるな。
ピックスさんといい、なんで俺と一定期間接する事になる男ってオタク気質なんだろう。グラニウスも方向性は違うけどある意味ではキモいオタクみたいな性癖してたし。そういうのを呼び寄せるフェロモンでも出てるのだろうか?
「私、言うほど器用じゃないんですけど。使える能力はなんというか、体が使い方を覚えてるから感覚的に再現してるだけで厳密には毎回全く同じ効果が現れるかなんて分かりませんし」
「魔力操作くらいは出来るだろ? 現に先程俺の前でやって見せたじゃないか」
「あれは受けた衝撃を魔力に変換してるだけ、だから順序で言うならダメージ食らってからそれを別のエネルギーに変換して相対的に打ち消してるというか……説明の仕方は分からないですけど、フレイが言うようにフレーム単位で魔力を操作したみたいな話じゃないんすよ」
「つまり何かしら外部の干渉を受けない限りあの能力は発動できないと」
「そういう事です。多分」
「じゃあ身体強化は出来ないと? あの鉄の塊のような戦斧は? 素の筋力で扱ってると言うのか?」
「それは……うーん……一般的な身体強化がどういうものなのか知らないんすけど、私の場合はなんだろう……なんか、溜まってくんすよ。パワーゲージみたいなのが」
「溜まる?」
「んー……さっきの能力で打ち消したエネルギーをまず魔力にしますやんか。その魔力を全身に巡らせとくと、一々魔力のスイッチを押さなくても任意で強化が入るんです」
「ふむ……よく分からんな」
「私も分かんないです。そんな考えながら能力なんか使ってないし、感覚なんですよ。ほら、幼少期に側転出来たら大人になってもなんとなく側転出来るじゃないですか。そんな感じで、体が覚えてるみたいな」
「天才の言う方便だな」
「そんな事ないな絶対に」
「そもそも魔力を独自の理論で術に昇華する"魔法"なんてものを使える時点でかなり素養は高いんだぞ。己の性質を深く理解し、魔力で現象を起こすに至るまでの解釈を行える時点でまあ天才の部類だからな」
「魔法使いなんてそこらにいっぱい居ますやん……」
「魔術師は多いが、体系化されてない魔法を使える者はそう多くない。魔導師だってかなりの年月修行に費やすのに、その幼さで自分流の術を複数行使できるのは正直言って破格だぞ」
「あぁ。望んでない展開来ちゃいそう……」
「属性に関しても、"闇"に該当する性質を持つ者はその危険性ゆえ身を滅ぼすのが殆どであるにも関わらずお前は制御出来てるようだし。いやはや興味深い。早く何かしらの能力を見せてくれ!」
うわあ。目がキラキラしてらっしゃる。
嫌だなぁ。未だにパンツおっぴろげ状態なのにこっちの事ガン見してほしくないなぁ。そういう意図はないにしても嫌だもんな〜当たり前に。
「えーと……私の事高く評価してくれてるのはまあ、有難くもないんですけども。私、この手首の刻印のせいで外向きの魔力行使って言うの? そういうのが基本できない体なんですよ」
地面に仰向けで倒れた状態のまま腕だけ起こしてヒラヒラと手首のタトゥーをフレイに見せつける。転生した直後はついてなかったのにいつの間にか着いていた謎の封印術的なやつだ。
これのせいで俺は基本的に体内の魔力を体外に発射したりは出来なくなっている。だからあの雷を出す戦斧を愛用してるわけなんだよな。あれが生み出す雷、元は魔力で構成されてるっぽいからね。
「身体強化以外は使えないということか?」
「使える能力もあるにはありますけど……ここじゃ使えない」
骨を出したり血を撒き散らしたり、後は物を停止させたりって能力ぐらいしか素の状態で使えるものはない。大抵人前で披露するのは憚られる能力群だ。停止能力もこう地面にぶっ倒れてる状態じゃ使う先がないし。
「……分かった。セーレ三等」
「諦めてくれました? それなら早く解除を」
「これから俺の工房に来てもらう。お前の分析を行いたい」
「うんなんの話をしているんだろう。術の解除はまだかな」
「満足出来る成果を得られたら解除してやる。安心しろ」
「安心出来ないねぇ!? 何する気なんですか! 人体実験!? きゃー誰か助けてー!!!」
「切ったり裂いたりするわけではない。お前はジュエルの部下だからな、細心の注意を払うさ」
「丁重に扱え!? 細心の注意を払うはなんか、壊れないよう気をつける的な意味合いが透けて見えるから嫌なんですけど!!!」
「延命措置には自信がある」
「その一言で駄目になった近付かないでください!!! どっかに縛り付けでもしやがったらすぐに小便引っ掛けますからね!! ちょっとチクッとしたらすぐゲロ吐いて大便漏らしますよ!!! 工房が汚れてもいいのかな!? 不衛生になっちゃうぞー!!!」
「幻術の心得も一応あるから安心しろ。万が一に備えて収縮剤と弛緩剤の用意もある、何も心配は要らんよ」
「マッドサイエンティストなんだろうなぁこの人!! 死体振り回したら頭に血が巡って蘇るとか考えるタイプのキチガイなんだろうな絶対そうだろ!!! 双子いたら体くっつけようとするだろあんた!!! 相容れない存在だーーー誰か助けてーーー!!!!!」
「急にすごい発想出てきたな。死体の下りはよく分からないが、確かに双子は脳を入れ替えたらどうなるか気になりはするよ」
「やばいやばいやばいやばい。本物だったわチョケの空気感じゃなくなった。シスター・ジュエル!!! 私はここです助けてください!! 可愛い後輩が尊厳失う危機に晒されてまーーーす!!!」
命からがら逃げ出そうとするも体が滑って言うこと聞かず、結局フレイに捕まってしまった。
フレイは俺にかけた術を解かないまま、全身を縄で縛って引っ張る形で俺を運び歩く。体が浮いてるのだから引きずられることもないし痛くないだろう、との事だ。頭いかれてる、他人の目とか一切気にしないのかこの人。




