十五限目
今日の昼に井上を誘った女の子たちは、一昨日僕が話しかけた女の子たち。噂を理由にあの空間を放任していた、そんな彼女たちが日をまたいで友達を名乗り出る。自分を笑っていた奴と一緒にいて心地いいはずがない。
「でも先輩、いいじゃないですか。周りからは仲良しに見えるんですから」
「その周りに僕が含まれていない」
「……先輩は特別なんで」
「お前はもう少し自分を大切にした方がいいと思う」
自己中心的と馬鹿にする人はいるが、井上は他者中心的すぎる。その分自分が苦しんでいる。
「お待たせしました」
店員さんが料理を運んできた。
「話はあとにしましょう。まずはご飯です!」
「オレンジジュースが二つ、オムライスが一つ、パンケーキが一つ、ご注文の品はお揃いでしょうか?」
「はい、ありがとうございます」
「僕は飲むだけだけど。お前はすごい食べるな」
「何言ってるんですか?こんな量一人じゃ無理ですよ」
「じゃーなんで頼んだんだよ!」
「いいじゃないですか。食べたかったんです!半分こしましょう」
「はぁー、しょうがないな」
井上が楽しそうなので良しとしよう。
「どうぞ先輩!」
オムライスを取り分けてくれた。思ったより量がある。夕飯食べれるかな……。
食事後、中身のない雑談をしていたら、外が暗くなってしまった。
「そろそろ帰らないと親が心配するんじゃないか?」
「そうですね。では最後に忠告です」
「ん?忠告?」
「明日先輩のクラスに転校生が来ます」
「え?先生そんな話してなかったけど」
「急に決まったことみたいです」
「で?その転校生がどうしたんだ?」
「死ぬようなことはありませんが、警戒しておいてください」
「物騒だな、分かったよ」
井上は心配性な気がする。親の影響かもしれない。
「それじゃー、帰るか」
「はい」
お会計をするために席を立つ。前を歩く井上についていく。井上はレジの横を通り過ぎて店を出た。っておい!どこ行くの?
「井上、お会計は?」
「もう払ったんで、行きますよ」
「え?いつ払ったの?いくらだった?」
「いいですよ。今日誘ったのは私ですし、先輩金欠なんでしょ?」
「それは、そうだけど。半分は食べたんだし払うよ」
「なら、これのお礼ってことで!」
井上は頭の髪飾りを示した。一昨日渡してからずっと着けてくれている。
「それは先週のお礼だって言ったろ」
「では、今日の分はまた今度、プレゼントしてください」
「はぁー、分かったよ。期待してろ」
「はい、待っています」
井上と解散して、家へと向かう。言っておくが、食事前にしていた話を忘れているわけではない。井上が楽しそうに話をしているのを、暗い話で遮りたくはなかっただけだ。
ちなみに夕飯はぎりぎり食べれた。残すのはよくないと思ったので頑張ったが、きつい……。次からは気を付けよう。
<<次の日>>
「おはよう。いっ君」
「おはよう」
「今日転校生が来るんだって?」
「みたいだなー、なんでこのタイミングなんだろう」
「楽しみだね!」
「なんでお前が、楽しげなんだよ!」
「だって、転校生だよ!学園アニメだと定番の展開じゃん!」
「おーい、オタク出てんぞー」
昨日うちに来なかったからな。話足りないのかもしれない。
「どんな子だったか教えてね」
そういって、自分の教室に向かっていった。
「なんでわざわざ」
「おはよう!一九十」
「あー、おはよう」
「なんだ?元気ないな?」
「逆になんで光記は朝から元気なんだよ?」
「それは、転校生が来るからに決まってんだろ!」
「なんで、お前がそれを知ってんだよ!」
「俺の情報網を甘く見るな!」
「何カッコつけてんだ」
ちょうど教室のドアが開いた。先生とその後ろに転校生。教室がざわつく。
「おい、転校生って女の子なの?」
「そうだぜ。だからテンション上がってんだろ」
「みなさん、静かに!急ではございますが、転校生を紹介します」
先生は黒板に、転校生の名前を書いた。
「宇兎舞衣です。宜しくお願いします」
その転校生は礼儀正しく挨拶をした。髪色は金髪だが、どこか大人びている雰囲気がある。高校生とは思えないぐらいの落ち着き。
ふと目が合った。彼女はこちらを見て微笑む。なんだろう?顔に何かついていたかな?
「では、仲良くしてあげてください」
そういって先生は教室を出た。教室は転校生を中心に円をなしている。
「光記、お前はいかなくていいのか?楽しみにしてたろ?」
「俺はあの連中とは違う!あえて興味のないふりをしてアピールする!」
「なに馬鹿な駆け引きしてるんだよ」
すると転校生がこちらに向かってくる。本当に効果があったようだ。光記がドヤ顔でこちらを見ている。うぜぇー。
「早川君、こんにちわ」
どうして僕の名前を知っているんだ?
「久しぶりよりはじめましてかしら?」
ん?どういう意味だ?前にあったことがある?
「あの、どこかで会ったことが?」
「ええ、十年ほど前だけど……忘れているのもしょうがないわ」
「なんだ?知り合いだったのか?一九十」
「んー?やっぱり思い出せない」
「ふーん。で宇兎さん、一九十に何か用かい?」
「ええ、早川君。私はあなたに返しに来たの」
「返しに?何を?」
「それはあとで、まずはこれから、よろしくね」
転校生は右手を前に出し握手を求めてきた。そういえば井上から警戒するように言われていたな。握手ぐらいなら大丈夫か。
握手をした。だが、離しくれない?!あれ、握手ってこんなに長くするものだっけ?
「あれ?なんで?」
転校生が戸惑っている。なんでと思っているのは僕の方なんだけど。
「どうかしたの宇兎さん?」
「いえ、なんでも……」
と言って手を解放してくれた。
「なるほど、それが条件ね」
光記がよく分からないことを言っている。なんだ?
「宇兎さん、一九十に今、何をしようとした?」
「え?何?僕何かされそうだったの?」
「!……いいえなにも、ただの挨拶ですよ」
「まぁいいや、授業が始まるから席に戻りな転校生」
「ええ、そうします……」
と言って、席に戻っていった。
「光記どういうこと?全然理解が追い付かないんだけど」
「いいか、一九十。あの転校生は危険なにおいがする。気をつけろ」
井上と似たようなことを言っている。
「分かったけど、どうして?」
「俺にもよく分からん、だが接触は控えた方がいい」
「お前がそこまで言うなら」
でも気になるな。十年前に会っているのか……思い出せない。あいつなら知ってるかも?
それよりも井上のことが優先だ。
<<昼休み>>
朝以降あの転校生が話しかけてくることはなかった。光記が近くにいたからかもしれないけど。
「おい、一九十どこに行くんだよ?」
「中庭だけど?」
「井上さんと飯か?」
「そうだけど」
「なら大丈夫か、行ってらっしゃい」
意味が分からないが、とりあえず中庭に向かう。
「先輩!あれだけ警戒しろって言ったじゃないですか!」
「いや握手は大丈夫だと思ったんだよ」
「そこまで言わないといけないんですか?鈍いですね」
「そんなに言う?でも何ともないよ」
「それは、たまたまです。いいですか!接触禁止!」
「はい」
なんでそこまで言われているのだろう?そんな危なかったか?
今はそんなことよりも、やらなきゃいけないことがある!




