十三限目
<<次の日>>
朝のホームルームを終え、聞き込みの第一歩として、畑本に噂のことを尋ねた。
「なぁー、お前井上のこと知ってたよな?」
「おぅ。有名だしな」
「その事なんだけど、何で有名なんだ?」
性格が外交的で友達が多そうな畑本なら、何か知っているかもしれない。
「え?お前そんな事も知らないのかよ。分かってて一緒にいるんだと思ってたわ」
「悪いな。僕には友達がいないんだ」
「……」
そんな可哀想な奴を見る目をやめろ。僕は可哀想な奴じゃない!
「で?何で有名?」
「高校入学して家の事情で学校に来なかったのが原因らしいけど」
それは井上に聞いた。僕が知りたいのはその先だ。
「それだけじゃないだろ?」
「その間に中学での噂が広まったらしい」
「中学での噂?」
畑本は噂の内容を細かく教えてくれた。これ以上聞き込みをしなくても、大丈夫なほどの情報だった。
中学での出来事。井上には親友と呼べる存在がいた。学校の日も休みの日も、一緒に遊んでいたらしい。
そんなある日、親友の子の家で遊んでいる最中、その子の飼っていたペットが、井上に怪我をさせてしまった。怪我自体は大した事が無く、引っ掻き傷がついた程度。
しかし、それを知った井上の親が激怒。その親友の子を転校させ、ペットは殺処分されたらしい。誰が悪いわけでも無いに……。
その噂が、井上の休んでいる間に、学校中に拡散。高校に上がり、井上と同じ中学だった奴が、井上に関わると転校させられる、などと広めた。何も知らない奴らは、噂半分らしいけど。
多分、井上自身も噂の内容が、中学の出来事だと薄々気付いている。だから諦めてしまった。過去のことで、特に間違っている訳では無い噂。否定をする事は出来ないし、肯定なんてしたら、今よりも急速で、悪化するだろう。
原因が明確になった事によって、解決の難しさも明確になってしまった。
一応聞き込みなので、畑本以外の話も聞いた上で判断しよう。あと二、三人の情報は欲しい。
<昼休み>
結局あの後、他三人に話を聞いたが、畑本ほど情報を持っている奴はいなかった。何で畑本は、こんな詳しく知ってるんだ?
疑問は置いといて、井上に報告しに行こう。今日は先に昼食を購入してから、井上の教室ではなく中庭のベンチに直接向かう。
「先輩!遅ーい!」
「いや、遅くないだろ。昼休み入ってすぐきた」
「もう1時間も待ちました。」
「……」
そういえば、こいつ授業をサボる癖があったな。
「四限目は数学だったのか?」
「え?違いますけど、数学は六限目です」
「じゃー、何で授業サボってんだよ?」
「え?授業をサボる理由なんて、だるい意外にあります?」
この前は数学だからって言い訳してたじゃん。教科関係ないのかよ。
「はいはい、そうですね」
「で、聞き込みはどうでした?」
「僕のクラスメイトに何故か詳しい奴がいて、そいつの話によると、中学の噂が原因だって」
「なるほど、あの事ですか?」
「やっぱり知ってたんだな」
「なんとなくですけどね」
情報の共有はできたが、次に何をすればいいか分からなくなってしまった。
考え込んでいると、そこに声を掛けられた。井上ではなく、低い男の声だ。
「よう、一九十。お前、昨日もここでその子と飯食ってたな。羨ましいぜ」
「面倒なのが来た」
「?……誰ですかこの人?」
井上が警戒した目をしている。まぁ、無理もないか。親が過保護だから「男性に話しかけられたら警戒しなさい」みたいな事を言われているのかもしれない。
「紹介するよ。同じクラスの畑本光記だ。さっき話してた、何故か噂に詳しい人な」
「なんかその言い方、悪意ないか?」
畑本の不満は置いといて。
「何でお前ここに居るんだ?」
「ん?ただの散歩だよ。教室にいてもつまんないしな」
「あっそ」
「質問したくせに、冷たくない?ねぇ井上さん」
「……え?そうですね」
井上の反応が鈍かった。今は自分のことで精一杯だから、仕方ない。
「俺はもういくぜ、じゃあな」
と言いながら畑本は手を振ってどっかに行ってしまった。井上の反応を見て気を使ってくれたのかもしれない。
「先輩、あの人何者ですか?」
「ん?さっき説明したろ。同じクラスの畑本だって」
「あの人は危険な気がします。気を付けて下さい」
「警戒しすぎだろ!」
初対面で警戒される畑本が不憫だ。親の過保護を守りすぎだろ。過保護を守るってのも変だけど。
「そうだ、そこを直してもらえば少しは改善するかも」
「何がですか?」
井上は何のことか分からない顔をしていた。
「お前の親の過保護を直してもらえば、中学のことは別として、これから同じことが無くなる」
「私の親は過保護じゃないです!ちょっと厳しいだけです」
守られてる本人は、それが当たり前だから、気が付かないのかもしれない。
「中学の出来事の原因は、私の親じゃないです。父は私のためを思ってやってくれたことですから。誰も悪くないんです」
「なら、どうすれば」
「強いて言えば、私が怪我をしたのが原因です。なので、これからの改善に関しては、私が注意すれば済む話です」
「お前がそれでいいなら、いいけど。これからはそれで良いとして、今の改善はどうする?」
「それに関しては、私はもう諦めていますけど。先輩は何か案、あります?」
ずっと考えていても、良い案が一向に出てこない。案はいくつかあるが、良い案かどうかは分からん。多分良くない。一応聞いてもらうか。その間に、別の案が出てくるかもしれないし。
「お前の別の噂を流すってのはどうだ?」
「何を?」
「印象が良くなるような噂があれば今の噂を忘れてくれるとか、無いかな?実は良いやつですよって」
「それはあまり効果がありそうでは無いですね。今ある噂が強すぎます。他の噂は全部無視されるでしょう」
「だよなー」
噂を流す役も大事だ。僕が流しても影響力ゼロだし。色々難易度が高い。
「なら、担任の先生に相談してみるとか」
「それも難しいですね。先生も噂を知っている以上、あまり関わりたくないと思ってるはずです」
「……」
それもそうだ。今の異様な状況は教師も見て見ぬふりをした結果だ。
僕の考えていた案は、やはり良い案ではなかった。あとはあいつに手伝って貰うくらいしか案が浮かばないが、どうしよう。
「そろそろ、予鈴がなりますね。続きはまた明日にしましょう」
「そうだな」
「では、さようなら」
「あぁ、じゃあな」
そう言って井上は自分の教室に戻らなかった。いや、どこ行くんだよ!またサボるのかよ……。
僕は真面目なので真っ直ぐ教室に帰る。と言っても授業に集中は出来ないだろうな。
<<放課後>>
「いっ君!今日は家に行くね」
「……」
「いっ君聞いてる?」
「え?何?」
「んー。考え事もいいけど、それは明日にして!」
「いや、早く解決しないと」
「今日は私の話相手の日なんだから、明日にして!」
「わかったよ。明日にする」
「よし!じゃあ、帰って支度してすぐ行くね」
「はいはい」
「……」
ちゃんと相手しろと、目が訴えていた。しょうがない、昨日の分も相手してやろう。
<<次の日>>
いつもの通り、朝まで続いたオタク話を聞き、学校へ向かう途中こいつに変なことを言われた。
「もう悩まなくて大丈夫だよ」
「どういう意味?」
この質問には答えてくれなかった。またね、と言い自分の教室に向かっていった。
ホームルームまでの間、畑本と無駄話をして、授業中はしっかり睡眠を取った。流石に徹夜明けの授業は辛い。
四限目には、しっかり目が覚めた。昼休みに井上に会うので、新しい案を考えようとしたが、一向に思い付かない。
何も思い付かないまま、昼休みを迎えてしまった。とりあえず中庭に行こう。
到着すると、もう既に井上が座って待っていた。
「先輩、何かしました?」
「会ってそうそう、なんだよ?何もしてないよ」
「そうですか」
「そうそう、悪いけど新しい案も何も浮かばなかった」
「いや、もう必要無いです」
「おい、諦めんなよ!まだ何かあるって」
「いえ、そうじゃなくて。もう解決しちゃったんです」
「……え?」
言われていることに、頭が追い付かなかった。




