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完璧な幼馴染と凡人な僕  作者: Kouga
一学期
12/20

十二限目

 井上の席は教室の真ん中。そこを中心にドーナツ形を成して、人が離れて位置していた。井上の存在がまるでドーナツの穴のように無視されている。無視しているわりに、距離を取っている。そんなちょっとした矛盾が、僕にはとても気持ち悪く感じた。


 一人で黙々と昼食をとっている井上に近づく。


「とうとうここまで来ちゃいましたか」


「おまえ、もう少し、怒っていいと思うぞ」


「誰にですか?」


「まぁ、確かにな」


「でしょ……」


 いつもの元気はどこにもなかった。これはこれでレアだからもう少し見ていたいが、場所を変えよう。


「一緒に昼どうだ?」


「もう食べ終わるんですけど」


 確かに、弁当箱の中身はほとんど空だった。あと二口で食べ終わる程度。


「僕はまだなんだよ。いいから付き合え」


 といい、少し強引に中庭に連れ出す。途中で自分の昼食を購入して、前回と同じベンチに腰を下ろした。


「で先輩は私を強引に外に連れ出して、告白ですか?」


「んなわけねーだろ!なんでそうなるんだよ。渡すものがあんの!」


「あー、ラブレター」


「違う、お礼だ!」


「何をくれるんですか?」


 小さめの袋を渡した。気に入るかは分からないけど真剣に選んで買った。


「開けてみろ、要らなかったら捨ててくれ」


「まー、何が入ってるか知ってるんですけどね。未来見えるわけですし」


「渡し甲斐がねーな!サプライズとかできないじゃん!」


「それでもうれしいです。人からものをもらうなんて、何年ぶりか……」


「……それは、良かった。渡した甲斐があったよ」


 袋の中には青色の桜をモチーフにしたヘアアクセサリー。井上はそれを早々と髪に付けて、みせてくれた。


「どうですか?似合ってます?」


「あぁ、とっても」


「大事にしますね」


「そうしてくれ」


「……」


 場所を変えても、井上の元気は戻らなかった。教室の自分を見られたのを引きずっているのだろう。見せたくないならそうすることもできたのに、それでも井上は教室にいた。


「お前、クラスで何があったの?」


 訊こうか悩んだが、率直に訊いてみることにした。


「話したくないなら、いいけど」


「入学して、すぐですね。私は家の事情でほとんど学校に行けていませんでした。そのせいですかね。自然とあんな空気になってました」


「それだけで、あんな感じになるか?」


「人は思い込みをすると、なかなか変えられませんからね。私からも否定や肯定はしてません。そのうち終わると思ってたんですけどね……」


 入学してから1ヶ月以上が経過して、より悪化したらしい。正しいことは分からないまま、出どころも分からない噂だけを信じて、全員がそれを確かめようとしないまま、あのクラスは今に至る。


「それで、あきらめたのか?」


「まー、どうすればいいか分からないですし。今でも家の事情で学校を休まなきゃいけない状態ですし。たまにそれを言い訳にずる休みはしますけどね。数学の授業とか……」


「……」


 こいつのクラスでの扱いは、おそらく全校生徒が知っているのだろう。それを知らないのは僕みたいな友達がいない奴くらいだ。


 それにしても、これからの高校三年間、あのクラスで過ごすのは可哀そうだ。こいつには僕のことで頑張ってもらってる。何とかしてやりたいが、どうしたものか。


「昼休み終わりそうなんで、私は戻りますね」


「ああ……」


 あいつに言われたあの言葉が、頭をよぎった。


(いっ君にできることなんてないでしょ)


 本当にその通りだ。なにもできない。まだ僕が原因のほうが、ましだったかもしれない。



 予鈴が鳴り、教室に戻ると畑本がいた。午後からとは珍しい。今日はもう来ないと思った。


「よう、今来たのか?」


「ああ、野暮用でな」


「ふーん、どうでもいいけど」


「もう少し興味持てよ」


 笑いながら、そんなやり取りをする。これは友達なのでは?


「俺はお前に興味あるぞ!昨日は明日雛先輩と何してたんだ?」


「なんで一緒の前提なんだよ!一緒だったけどな」


「で?どうなんだ?」


「なんで、そんな気になるんだよ。別に普通だよ」


「そっかー、それは何より」


「何だよ、気持ち悪い」


「ひどいな!」



<<放課後>>



 授業は手につかず、解決策をずっと考えていたが、何も思いつかなかった。


「いっ君、帰ろー」


「ああ」


 そういえば、こいつは井上のことをどこまで知っていたのだろうか?


「お前、井上のクラスでのことって」


「うん、知ってたよ。だから、いっ君が原因じゃないから大丈夫って言ったじゃん」


「それはそうだけど……」


「それに、いっ君が助けてあげたくても、あの子は『助けて』って言ってない」


 確かに口には出していない。井上はもう諦めてしまっているのかもしれない。だけど……。


「だけど、口に出していないから、助けてはいけないってことはないだろ」


「いっ君がそこまで言うなら私が何とかすることは出来るけど、言葉にするのは大事なことだよ。あの子が口にするのを、待ってからでも遅くはないと思うけど」


「まって?なんとかできるの?」


「出来るよ」


 そんな簡単に。僕がここ2時間以上考えて何にも出なかったのに……。


「簡単ではないよ。いろいろ下準備と根回しが必要だし」


 下準備?根回し?とても大掛かりだけど何をするのだろう?


「いっ君が、本当に助けたいのであれば準備しておくよ。方法は秘密だけどね」


「……」


 なんだか危険な臭いがするが、最終手段でお願いしておこう。


「それじゃ、もしもの時は、頼むよ」


「りょうかーい」



~家~



 あいつは、準備をするといって今日は家に来なかった。どんだけ大掛かりなんだよ……。


 明日以降、井上は当分学校に来ないかもしれない。次会うときまでに何か解決策を思いついておきたい。


 ピンポーン!!


 時刻は午後4時過ぎ、こんな時間に誰だろう。家には僕しかいないので僕が出るしかない。


「先輩!お疲れ様です!」


 玄関の扉を開けた瞬間、元気な後輩が目に入った。昼に会ったばかりだというのに。


「お前……元気だな。さっきのお前はどこに……」


「なんのことですか?」


「まぁいいや、ちょうど誰もいないし上がってよ」


 策の一つも思いついていないというのに。まぁ、一人で考えるよりは、本人と二人の方がいいだろう。


「そういえば、この前来た時も誰もいないときだったな」


「はい。先輩が一人の時を狙ってきてるんで!」


 なるほど、未来を見たのね。あいつと似たようなことを言いやがって。


「なんか、ストーカーみたいだな」


「え?そんなわけないじゃないですか。気持ち悪いこと言わないでください」


 そこの反応は違うのかよ。温度差すごいな。冷たすぎて凍死するかと思った。


「そんなことより先輩!未来を変えに行きましょう!」


「言い回しが無駄にカッコイイな!」


 そういえば僕が殺されないための別の方法を考えるって言っていたっけ。


「で、何をするんだ?僕はそれより、お前のあの状態をどうにかしたいと思ってるんだが……」


「ほぅ、人の心配とは随分と余裕ですね」


「僕のことは未来のことだけど、お前のことは現在進行形で悪化してるだろ。早く何とかしたほうがいいと思うぞ」


「良いんですよ。私のことは」


「いや、そっちが先だ!お前が良くても、あれを見た僕が不快な気持ちになるんだ」


 少し言い方は悪いが、こうでも言わないとこいつ自身が動くことはないだろう。


「でも私には、どうにもならないですし」


「だから一緒に解決策を考えるんだろ」


 僕の思考時間と比べて、井上は一か月以上費やして、諦めたのだろう。そこまでして出ない解決策をこれから出せるだろうか。最悪あいつの力を借りることになるが、できれば避けたい。


 具体的に何を解決しなければ、いけないのか。これを明確にしよう。


「僕は知らないんだけど、どんな噂が流れてるんだ?」


「私もよく分かりませんが、いろいろ流れてるみたいですよ」


 本人が知らない噂であれば、本人が解決するのは難しいだろう。その噂がどんなものなのか。そこから調べる必要がありそうだな。噂の出どころも気になる。誰が、何の目的で流したのか。


「じゃー、まずは聞き込みだな。本人には出来ないから、それは僕がやろう」


「……」


「ついでにそのまま噂の出どころもわかればいいんだけど」


「……」


「あーそうだ、おまえ明日学校行くの?それ次第でとる行動が変わってくる」


「……」


 井上は口を閉じたまま何か考え事をしているのか、とても静かだった。心ここにあらずって感じだ。


「おい、聞いてるのか?話し合いなんだから、何か反応しろよ」


「あー、ごめんなさい、ちょっと分からなくて……」


「ん?噂のことか?それはさっき聞いたぞ」


「いえ、そうではなくて。どうして先輩がそこまでしてくれるのか分からないんです」


 あーそういう意味か。僕だって、どうしてそこまでしているのか分からない。出会って十日ちょっとの後輩にそこまでする義理は普通無いだろう。でも、僕からしたら、この後輩がどうして僕の命をそこまで大切にしてくれているのかの方が、分からない。


「理由は特にないけど。強いて言えば、お前が僕を、助けようとしてくれているからかな。僕は借りたものは返したい派なんだ」


「それは、面倒くさい性格ですね」


「うるせー、お互い様だろ」


「ふふ、そうですね」


 井上は笑っていた。さっきまでの疑問が解けたからかもしれない。


「で、明日学校は?」


「行きます」


「おっけー、じゃー聞き込みは僕がやっとくよ。経過報告も含めて昼休みにまた行くわ」


「わかりました。今度はお弁当を食べないで待ってますね!」


 と、今日のところは帰ってもらった。親が帰ってくるまでいたら大騒ぎになってしまう。


「よし!!」


 両頬を強くたたき、気合を入れる。


 明日から頑張ろう!僕に出来ることは少ないが、その出来ることを全力でやろう。

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