第11話 作戦
おもむろに雑音によって目が覚めると空はまだ薄暗く、物音がする方へ眼を向けるとクリスが起きていた。
「ごめん、起こした?」
クリスが申し訳なさそうに謝る。
「どうした? 腹減ったのか?」
俺の冗談に大きな声で抗議しょうとするが、口に右手の人差し指を立て、左手の人差し指でぐっすり眠っている3人に指すとクリスは頬を膨らませる。
「今までのことを考えてたの、嫌なこといっぱいあったなって」
どうやら今までのことを考えていたようだ。クリスも教会で育ったとはいえイラーリたちと同じように心細い思いをしてきたのだろう。
「今までのことなんて忘れたほうがいい、悲しい過去より希望がある明日が大事だろ?」
クリスはしばらく考えた後にゆっくり頷く。
「アルスの料理は美味しいけど、売れると思う?」
クリスは言いづらそうに話す。
「どうだろうね、人の往来が多い所に店開きたいけどお金が足りないだろし。何よりもいつも窃盗を働いてる孤児の作った物を食べてくれるのか……」
(昨日あんな啖呵切っておいてなんだけど状況はよくないな、まあ最悪荷物を運べば生活はギリギリだけど生きていけるだろ)
「分かってたの? ならいいけど、あんなこと言ったのなら私たちを養ってよね」
(多分これがクリスなりの気遣いなのだろう)
「ついて来いとは言ったが養うとは言ってない、今の俺に養う力はないぞ」
クリスは返事も聞かずに再び眠りに着こう横になった。
結局クリスはそのまま寝てしまい、俺は3人が起きるまでずっと料理をどうすれば売れるのか考えていた。
朝にご飯を作っているとみんな特に話をせず、あっても一言二言だけ。空気は悪くはないがまるでどう接するのかわからないといった様子。空気を読まなさそうなシークでさえおとなしい。
やはり昨日の言った家族云々がそうさせているのだろう。
(恥ずかしい、穴があったら入りたい)
そう考えて穴を探していると20人近くのドワーフたちがぞろぞろと家に挨拶もなく入ってきた。
「小僧、この鍋すごいぞ。本当に普通の鍋より短い時間で料理が作れるぞ。いったいどういう原理か教えろ」
ドワーフたちは興奮した様子圧力鍋を持って問い詰めてくる、あまりの迫力に4人は少しおびえてしまった。
「まあまあ、そう興奮せずに。原理は分かり易く例えるなら鍛冶の窯のようなものだ。熱が逃げないから温度は高く維持できる、煮込み時間もかなり短縮する」
そう言われたドワーフたちは「そうなのか」と声をあげる。
「やっぱりそうなのか。これは約束通り渡すぞ」
ドワーフたちの先頭にいたドランは自分の考えた原理と同じことを聞いて満足したのか圧力鍋を渡してくれた。
渡された鍋を見ると、鍋は鈍い金色、鍋には蓋を抑えるために7のようなでっぱりがある。そしてこの鍋を見て驚いたのはこの世界の鍛冶レベルは低くないということだ。街の様子は中世のそれとは変わらないレベルなのに、おそらくは魔物と戦うには鍛冶の能力が上がっているのだろう。
「そうだ、せっかくだからご飯を食べていきますか? 実は今度料理を売り出そうと思っていたところなんですよ、この鍋でどんな美味しい物ができるのか気になりますよね?」
「分かった、鍋が気になるから食べていこう。お前が作ってる間に家の方を直して置くぞ、俺たちドラン工房にかかればこんな家1時間もかからないぞ」
ドワーフたち孤児の作った飯には期待していないが鍋の出来は気になるようで食べていくことにした。
「よし、この鍋を使ってドワーフたちが度肝を抜かすような美味しい料理を作るぞ」
俺が気合の入った声上げると、4人もノリよく「おー」とさっきの気まずさを吹き飛ばした。
ドワーフが家を直してる間にいろんな店を回り、肉、ソーセージとベーコン、塩と胡椒、野菜に酒、白パンに牛筋を買ってきた。お金がギリギリなために商業ギルドからさらにお金を引き出した。
荷物を抱えた家に帰るとドワーフたちがお酒に目を釣られて仕事を止めてしまう。そんなドワーフたちにドランを怒鳴って仕事をさせる。ドワーフたちが怒鳴られたというのに嬉しそうに仕事をしていく、心なしか気合が入ってるように見える。やっぱりお酒が好きなのか。
一番初めに圧力鍋で牛筋を煮込んでいく、調味料は塩と酒だけだ。昨日と同じようにホットドッグと野菜スープを作っていく。今回スープは新鮮な野菜と肉を使う、そしてベーコンはおつまみとしてサッと焼いて塩だけ振る。ドワーフたちの胃袋を掴むという作戦だ。
お酒を見たドワーフたちのテンションは高く、3時間かからず仕事を終えた。
並んだ料理を見てドワーフたちが驚いて声が出ないようだった。おそらく期待していない分より旨そうに見えているのだろう。
ドランが料理を口に入れると目がカッと開き、「旨い旨い」と連呼しながら食べていく。そんなドランの様子を見たドワーフたちは遅れを取らないようにとどんどん食べていく。
そんなドワーフたちを見て4人とも嬉しそうに笑い、食べ始める。
ドワーフたちのクリスには敵わないがかなり大食いのようで時間かけて作っていた食べ物がどんどん消えていく。特に圧力鍋で作った牛筋料理が好評のようだ、こんな筋の張ってない牛筋が初めてなのだろう。
ホットドッグは一人4個と作っていたがスープと共にきえた。
酒の摘みにベーコンと牛筋がなくなったからとさらに作れと強要され、腹いっぱいまで食わせて。
結局食事会は盛り上がり夕方まで続いた。酒が入ってドワーフたちがどんどん倒れていく。シークとウィズはずっと料理を続けて疲れたのか寝てしまったようだ、イラーリとクリスは後かたずけをしていた。酔っていたドランさんはまるで人が変わったように穏やかな顔で話し始めた。
「アルス今日はありがとう、こんな旨い物は始めてだ。でもどうしてほかの店と同じ物を使ってるのにこんな旨いスープが作れるんだ?」
どうやら料理が想像以上に旨かったらしい、呼び方も小僧からアルスに変わった。
「食材によって料理方法を変えて、食材が一番おいしい食べ方を組み合わせたようなものです。鍛冶で例えるなら鉄と銅の作り方が違うようなものです」
(俺が作ってるのは和食、素材を活かす調理方法だ。ホットドッグは別だけど)
ドランは方と感心しながら俺を褒める。
「お前の料理はオックスソードで一番だな」
「それならこの鍋を造ったドランさんはこの街一番の鍛冶屋ですね」
ドランは街一番と言われたことに対して寂しそうに笑った。
「そうだな、街一番人殺しの道具を作ってる鍛冶屋だな」
お酒が入ってドランが本心を吐いてしまったようだ、言った後「すまん」と謝ってきた。
(ここは励ましたやろう)
「いや、道具は使う人次第だと思いますよ。確かに武器がなければ人は喧嘩で死人が出にくいかもしれない。だけど武器がなければ魔物から身を守れない。敵国の人間を切るのは仕方ないですよ、そうしなければ家族や街を守れません。割り切るしかありません。
それにドランさんはこの鍋を造ったじゃないですか、この鍋の名前はドラン鍋にしましょう」
ドランは励まされて少し元気が出たようだ。
「いいのか? 考えたのはアルスだろ?」
(著作権の存在しないこの世界で考えただけでは意味がないのだ)
ここで俺はある作戦を思いつく。
「構いませんよ、私では作れませんでしたし。でもドラン鍋はほかの工房に真似されて、名前を変えられるのは面白くないですね。なんせこのドラン鍋はドランさんの名前と共に歴史に刻まれますからね」
ドランは自分の名前が歴史に刻まれると言われて酔いが一気に醒めた様だ。
「アルスドラン鍋にしなくてもいいのか? それほどの価値はあるのか?」
圧力鍋の価値をあんまり信用していない。
「アルスドラン鍋は長いからダメでしょ。価値はありますよ。なんせ普通の鍋より何倍も効率がいいですよ? それよりドラン鍋が広まるような作戦を考えなければな」
「どうすればいいだ? そんな作戦あるのか?」
ドランは興奮が隠し切れない様子で聞いてくる。少し考えた振りをした後に話を進める。
「作戦ならあります、しかもこの方法なら最初に沢山の鍋が売れます。世界にドラン鍋が広がりますよ。成功すればの話だが、でも条件がありますよ」
ドランは自分の名前が世界に広がるのを想像しているのか、しばらくニヤニヤと妄想の中に浸かっていた。
「条件ってなんだ?」
ドランは条件を聞いてもかなり上機嫌のようだ。
「まあ、お金の話です。鍋が売れた利益の2割を頂く。元々私が考えた物なんです、しかもドランさんのために作戦を考えるんですから」
ドランは利益の2割と聞き少し悩み、話を受ける。
「うむ、いいだろ。今日の工事費もただでいいぞ」
(多分ドランじゃなくても他の工房でもいいと気づかれたのかな? 工事費は少しでも恩を売っておきたいってことなのか)
「契約は作戦決行前に商業ギルドでしましょう」
その後にイラーリとクリスと一緒に片づけをして、そのまま眠った。
みなさんはどんな作戦を思いつきますか?




