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奴隷墜ちの少年、転移を思い出す  作者: レモンティー


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6/8

第六話:貴族の試験

貴族の馬車は、商会の奥庭へと通された。

静かだ。

だが静けさの質が違う。

見られている。

評価されている。

「ここでいい」

貴族が短く言う。

その言葉だけで、周囲の空気が従う。

シルヴェストが一歩前に出る。

「何をお見せしましょうか」

貴族は、少年ライルを見る。

「全部だ」

一言。

「お前の価値を決めるのに、断片はいらない」

沈黙。

商人カインが小さく笑う。

「相変わらず極端だな、上の連中は」

だが、その目は楽しんでいる。

少年ライルは一歩出る。

「では順に」


・石鹸

「まずは衛生です」

桶が運ばれる。

泥と油で汚れた布。

少年ライルは静かに石鹸を溶かす。

泡。

白い膜。

それを見た貴族の従者がわずかに眉を動かす。

「ただの洗浄か?」

「はい」

「それが?」

少年ライルは答える。

「戦場では、それが“死”を減らします」

貴族がわずかに目を細める。

「続けろ」


・橋(試作・実演)

次に運ばれるのは木材。

商人カインが横で笑う。

「またあれやるのかよ」

「“あの橋”か?」

少年ライルは頷く。

「はい」

貴族の視線が変わる。

「見せてみろ」

十六本の板。

組み始める。

カチリ、カチリと噛み合う音。

沈黙が深くなる。

「……今までの橋と構造が違う」

シルヴェストが低く言う。

ただの観察。

だが、その目は完全に計算している。

そして――完成。

アーチ。

釘なし。

縄なし。

自立。

貴族が一歩近づく。

「乗せろ」

石が置かれる。

一つ。

二つ。

三つ。

沈黙。

さらに追加される。

ギシリ。

だが崩れない。

むしろ締まる。

「……面白いな」

貴族が初めて感情を出す。


・アルコール(医療)

そして最後。

腕の負傷者。

少年ライルは淡々と処置を始める。

酒。

布。

洗浄。

従者が顔をしかめる。

「痛みで死ぬぞ」

「死ぬのは感染です」

少年ライルは即答する。

沈黙。

貴族が見ている。

一切の動揺がない。

ただ結果を待っている目。


・翌日

「……治っている」

従者が呟く。

昨日まで膿んでいた腕。

腫れが引いている。

痛みが減っている。

「馬鹿な……」

「あり得ない……」

空気が変わる。

“常識”が揺れる音。

貴族が静かに言う。

「理解した」

それだけ。

そして少年ライルを見る。

「これは技術ではない」

「文明だ」

沈黙。

貴族が続ける。

「条件を出す」

空気が一気に締まる。

「お前はこれを、どこまで広げるつもりだ」

少年ライルは答える。

「世界が変わるまでです」

一瞬。

貴族の目が鋭くなる。

「いい」

短く言う。

「なら試験は終わりだ」

沈黙。

商人カインが眉を上げる。

「……終わり?」

貴族は頷く。

「もう証明は済んでいる」

そして続ける。

「次は“管理”の話だ」

空気が変わる。

完全に。

商売ではない。

戦争でもない。

これは――制度の話だ。

シルヴェストが静かに言う。

「つまり、国が関与する」

貴族は否定しない。

少年ライルは理解する。

(売る相手が国ということ…。)

貴族が立ち上がる。

「お前の技術は国家が買うことになる」

「わかりました。」

石鹸は“商品”ではなくなり

橋は“構造物”ではなくなり

アルコールは“薬”ではなくなった

すべてが――文明の入口になった。

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