第33話
とてつもない量の外周をさせられてから3日。
どうも筋肉痛というのはそうそう僕から離れる気はないらしい。私的には早く離れてほしいのだが、生理現象に何を言っても無駄だろう。
静さんとの稽古?が終わった次の日に言われた事は一週間後の金曜日に課外活動をするという事だった。
行うことは妖怪退治。
恐らく破局関連の事だろうとは思うが、彼ら彼女らに伝える伝えないは静さんの判断次第だ。学の持たない小人に判断を任せることはいつの時代だって、例外はあれどまずは無い。
あるとしたら破局のことを説明せずに妖怪退治という名目での視察、除去と言ったところか。勿論、サンプルを取ることができればとるだろうが、生憎そこは学生の身であるから専門外だ。
昼過ぎの休憩時間に窓の外に広がる町並み、田舎並みを眺めていると不意に後ろから肩を叩かれた。
体勢的には右腕を立てて、左腕を枕にして寝ている、様に見えていると思うのだがどうやらそんなのはお構いなしに訪ねてくる人もいるらしい。
「....」
無視をする選択を取った。
一応は昼寝をしている、という設定になっているから。起こそうとするのならもっと強い力で叩いてくるだろう。でなければここで大抵のことは後回しにできる。
後回しにした後は人に任せればいい。後回しにできるということは自分でなくとも成り立つということだから。
なんて、そんな自論が容易に他者へと振りかざすことが出来たらどれほど楽なのだろう。
残念ながら世の中そんな甘くないなんて事はとうの昔に知っている。そうしなければ個の共同体は成り立たないから。
それでも無視をしたのは自分がまだ子供だから。これだけで言い訳のしようは無限に出来る。
「起きてください」
どうやら起こそうとしているのは天納さんらしい。他の人に話しかける時の声色が独り言を言う時のそれと変わりがない。
こんな事が言えるのは同じ住んでいるというおかしな理由があるからか。
どんな理由にしろ催促をされたから話に返答をするとしよう。
「ん、何ですか。神なら死にましたよ」
できるだけ寝起きに近づけて返答をする。寝ていたのだから多少へんなことを言っても問題ないだろう。
「寝たフリをして変なことを言うのは辞めたほうがいいと思いますよ」
「寝る途中で起こしてきたのはそちらでしょう。僕は今、夢と現実の境界が曖昧だったんです」
「それにしては随分哲学的な意味が含まれていたと思いますけど」
「寝言ですから」
「寝ながら言っていたら完璧でした」
しぶしぶ目線を向けると天納さんは体育の時のようにメガネを外してはいなかった。
やはり彼女は全知ではなく心が読めるだけなんじゃないだろうか。心を読んでいる仕草はないが日常的に読んできたのであれば違和感無く読むことも出来るだろう。それに、全知だと言うに他の事への発言があまりない。
恐らくこの考えも彼女の目前にいるのだから全て読まれているのだろうが、それで何か反応があればほぼ確定だ。
まぁ、自分の意見だからこそ穴が無いように思えているだけかもしれないが。いったい、主観による盲目はどうすれば晴らすことが出来るのだろう。
「来週の金曜日のことなんですけど」
「あえて無視しました?」
「さぁ?何のことですか」
どうやら敢えて無視をしたようだ。全知なのならなぜ今の僕の心境を察せなかったか。もしくは察さなかったのか。
「それでですけど、金曜日はどうするつもりです?」
「それは今週ですか?それとも」
「来週のことです。貴方ならわかっているでしょう」
「人間、主語がなければ話し合いは出来ませんよ。それこそ心でも読まなければ」
「はぁ。腹の探り合いは面倒なので単刀直入に聞きますが、妖怪退治の時、どう動きますか?」
ようやく本題に入った。これに関して言えば十割自分に非があるが、そんな事はどうでもいい。会話をするのが面倒で適当な鎌をふっかけていただけなのだから。あわよくばそのまま話がそれればいいと思っていたが、どうもうまくは行かないらしい。
「まずは、ですけど、先日はどうもありがとうございました」
「結局、失敗に近い終わり方をしましたけど」
「あれは少し予想外でした。静さん、博田静という人を見余りました」
「彼女には通じないと私は宣告した気がしますが」
「合って間もない、胡散臭そうな事を初対面時に言った人の言葉をどう信じろと?」
「...それもそうですね」
この前、静さんの白衣のポケットにスマホを入れたのは天納さんだ。スマホを鳴らさせたのはマラではあるが、彼女がいなければ作戦、何ていうのはおこがましい行動を実行する事は出来なかった。
午前中、マラにスマホを取りに行かせて、お昼にスマホを受けとったがそれだけでは不安があった。きっと静さんは僕を警戒してくる。だからこそ僕ではない誰かに実行をしてもらわなければならない。
そこで比較的信用をしている天納さんに頼み込んでみたが、声に出すとバレてしまうのであくまで思考の片隅で頼み込んだ。
彼女のことは信用はしているが、信頼はしていない。
最も、他の三人については信用も信頼も置いていないのだが。この中で唯一信頼をしているのは...やはり自分だけじゃないだろうか。
それでも、自分を疑う事は多々あるけれども。
何にせよお礼ぐらいは伝えたほうがいい。これは短い半生で少なからず学んだことの一つだ。どうも僕以外の人というのは大抵、感謝の気持を伝えられて気分良くなりたい性分らしい。
「それで、妖怪退治の時ですけど...特に何も、としか言えません」
「それは何故です?貴方が無策で初対面の妖怪に挑むとは思えませんけど」
「その初対面だからですよ」
何の情報もない相手に作戦を立てることなんて少なくとも僕には出来はしない。
出来るとすれば全知である目の前にいるお方ぐらいじゃないだろうか。
まぁ、本当か嘘かなんてものは僕にとっては些細な違いだ。どんなものであれど妖怪退治に向かうという事は変わらない。だから、それを受け入れて行動をするだけだ。
ただ、だからといって作戦を立てるほどの行動する意思というのは生まれてこない。
どうやら自分は、まだまだ理想の人間像にはなれないようだ。
けれど、だからと言って研鑽を怠ることはないようにするつもりではあるのだが。意思という曖昧なものに頼らずとも自然体でそう成れるように。究極的には自分の意思でその境地へと行き来が出来るように。
自分が思う、僕に〈とって〉の自分の一つの目標像へと。
なんて、思っているだけではどうにもならない。
人類みな考えたり思うのは勝手だが、行動に起こすまでは何も変わらない。
結果がどうであれ、その行動を起こした意思と行動を称賛しよう。と、僕は思う。
だからは僕は、思慮はどうであれ行動をした天納さんのことを素直に称賛しよう。
「結局、僕から言えることはどうにでも成るということです」
「どうにでも成ればよいですね。結果は悲惨なものになりそうですけど」
「それはこの後に起こることを知ってでの発言ですか?」
「貴方、私が全知であることを疑っているでしょう」
「ええ、ですから鎌を掛けて、それでも本当に全知だったとしたら受け入れますよ」
「芯に至るための懐疑ですか。最終的に残ったものを受け入れる。私、そういうのは嫌いじゃありませんよ」
「なら、僕と話す時だけするその細目、それを辞めてください」
「物事全てに理由がある、とは言いませんけど、貴方に向けるこの態度と視線はそれなりの理由があるんです」
そう言った天納さんはその言葉の真意を口には出さず、何を思ったのかおもむろに白抜井さん達の方へと視線を向けて僕と彼らとの話し合いの場を設けさせる行動をとった。
おせっかい、傍迷惑という言葉が似合う行動。僕にはわからないけれど、彼女なりの思惑があったんじゃないだろうか。
深読みという可能性のほうが大きいとは思うけれど果たして。
面倒くさいですね
......理悟さん、姿を見せずにこちらに語りかけてくるのは辞めてください
あら、そうでしたか
マラでもした事ないことをしれっとやらないでください。
紙雅さんの初めてを貰えましたね
そんなものでしたらいくらでも差し上げますけど、もらって嬉しいですか?
そうですね、1時間後にはゴミ箱にあると思います
いらないじゃないですか。それで、どういった要件で。姿を見せずに
別に。取り敢えず伝えなければいけないことは、私達の方も貴方に合わせて動くつもりだという旨を伝えに
何故理悟さんが?
この芸当が出来るのは私達の中では私という存在しかいないので。そういう事であしからず
一方的に通話?会話を切られて意識が教室へと戻ってくると4人はすでにその輪の中に僕が入るのを待っている状態だった。
「それでどうするんだい。紙雅くん」
「まずその前に訂正したいことが、僕は白抜井さん、もといこの場にいる人達とそこまで交友関係を深めたつもりは無いんですけど」
「不快に思ったのなら謝るよ」
「別にどう僕のことを呼ぼうと僕には拒否権はありませんので好きに呼んでもらって構いませんけど」
快晴を映す自分の目とは違って、脳内の天気は曇り始めた。
人との会話で思考の理想を割くのはそれなりに疲れる。他の人がどう思っているのかは知らないけれど、少なくとも僕は積極的には会話をしたいとは思わない。
けれどある女性のせいで半強制的に意見の交換をしなくてはいけないようだ。
「大方来週の妖怪退治のことだと思ってますけど、それで合っていますか」
「うん、それで合っているよ」
「それで、貴方がた四人はどう動くつもりですか」




