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迦微と神と捻くれ者  作者: ユウ
新しい生活
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30/32

第28話 三人の思い

 今は学校の一時限目前。

 何故か僕は昨日と同じように再び職員室にいた。

 鉄製の丸い椅子に座らされている。


「それで、お前が覗き見を行ったというのは本当か」


 いつものような腑抜けた声ではなく鉄のような冷たさの声で問いただされる。


「聞きたいことがあるんですけど」

「何だ」

「何でそれを知ってるんです?」

「それはあの家も私の管理下だからな。何かあってはこちらの責任に問われる」

「質問の返答になっていないんですけど」

「つまりは...あの家には監視用のカメラとマイクを仕掛けてある」

「盗撮と盗聴、と言うことですか」

「違う、監視と録音だ。かわいい生徒のな」

「僕たちのプライバシーはあるんですか?」

「政府がそんな物をようにするとでも」

「法に言ったら法に従えという言葉があるでしょうに」

「例外の作りようはいくらでもある」


 開けられている窓から入り込む陽の光に目を細くしながらも、電子タバコを加えて椅子に座っている静さんを見る。


「それで、だ。昨日、私を年増扱いしたな」

「そんな事言った覚えはありませんし、話が変わってませんか」


 なんだろう。笑顔なのに笑っている気がしない。

 満さんが鉄拳をくらったときのみたいに目の奥が笑っていない。

 あと拳を作って前かがみになるのはやめてほしい。パワハラになるので。

 先生がパワハラで左遷させられるのは生徒という立場からあまり見ていられるものではない。

 そもそも殴られたとしてももみ消されそうではあるが。


「まぁ、冗談だ」


 シャープな目をやめて、いつもの気だるそうな雰囲気へと変わる。


「その割には年齢の問いだけ冗談で出せる雰囲気ではなかったんですけど」

「なんだ。殴られたいのか」

「いえ」

「お前はいつも一言多いんだよ。もっと取り繕え」

「そうですね。善処した結果がこれですが」

「なら善処じゃなくて強制だ」

「どうぞご自由に」


 とうとう諦めたのか、呆れたのか再び口にタバコを咥えて息を吸う。

 今更だが、学校でタバコは吸っていいものなのだろうか。昭和ならまだしも令和のご時世では直ぐに叩かれそうだ。

 静さんの性格上、気に留めなさそうではあるが。

 

「まったく。お前はもっと感情を見せろ」

「出来ていないから言われるんでしょうけど、残念ながらそれは無理ですね」

「なら、この3年間で少しは変わってみせろ」

「3年ですか。そもそも生きてるかもわかりませんけどね」

「確かにな。そう言えば、昨日調べてわかったことがある」

「何がですか」

「破局だよ」


 そう言うと静さんは立ち上がって校内放送のスピーカを手に取る。

 そうしてスイッチを押した。


『特別学級の生徒は一時間目は自習をするように』


 その声が校内に響き渡ると、一時限目の始まりを知らせるチャイムが鳴った。


「随分とタイミングいいですね。計算でもしてました?」

「いやぁ~、私ほどになるとな~」


 などと言っているが、多分この感じはたまたまだろう。


「それで何がわかったんです?」

「どうやらm87星雲級のブラックホールが6つ同時に出現したらしい」

「スケールが大きですね」

「反応が薄い。もっと感情を表に出せ。で、だ。その6つのブラックホールは一点に向かって集まっているらしいぞ」

「ちょっと待ってください。ブラックホールってことはすでに何年か前の映像ってことですよね」

「そうだな」

「つまりもう破局、起こってるんじゃないんですか」

「それは形容しがたい概念に確認を取った。あいつが言うにはそれ込みで2年らしい」

「つまりは彼は...彼女かもしれないですけど、もっと前からわかっていた、と」

「多分、そうだろうな。人が観測できる時間まで言わなそうなやつだからな」

「まぁ、人が観測できるまでは頭がおかしな人扱いされますからね」

「いつでもあいつはそんなやつだ」


 謎の信頼感を見せられながらも全身の力を抜いて脱力をする。

 この力が腑抜ける感じが好きだ。

 そうして、一気に体を硬直させる。


「何をしてるんだ」

「ちょっとした気持ちのリセットです」

「それで、お前の考えは?」

「それはつまり僕の判断についてですか」

「そうだ」


 2年後に訪れるはずの破局に対してどうするのか。

 諦めるのか、自暴自棄になるのか、無謀となるのか。

 私的にはそのどれにも当てはまらないとは思ってはいるが、果たして他の人から見ればどう見えるのか。


「別に、なんとも思いませんよ。ニヒルこともなければ、焦ることも特にありません」

「ほう、それは諦めに近い何かか?」

「さぁ、僕の感覚では違うと思ってますけど。ただ、力まず抜かず、自然体で生きるってことです」

「随分と達観した生き方だな」

「そうした方が破局にも対処しやすいでしょう。意気込みすぎてコケたり、諦めて何もせずにただ消えるのを待つよりかは」

「いい考えではあるが、学生の身としては不合格だな」


 そう言って静さんは僕の頭をワシャワシャとかいて一枚のプリントを丸めてゴミ箱に捨てる。


「なんです、それ」

「これか?ああ、これはお前の自主退学書だ。ま、不必要なものだったがな」

「破局と関わりたくないからって、そこまではしませんよ」


 そうか、と言いながら彼女は紙コップにコーヒーを注ぎ始める。

 入れたてのコーヒーを口に運びながら自分の方にも差し出してきた。


「飲むだろ」

「ありがとうございます。...なんだかサボってるみたいたいですね」


 日が差し掛かっている職員室で生徒一人と教師一人、あまり見慣れないサボり場、組み合わせじゃないだろうが。

 それに対して静さんは否定をせずに、逆に同意をしてきた。


「私も昨日は東奔西走していたからな。少しは休みたいんだ」

「仕事、大変ですね」

「そうなんだよ。ただ嫌いではないからな。むしろ好きまである」

「M?」

「違うぞ!」


 食い気味に否定をされながら僕は椅子から立ち上がってクシャクシャになったそれをゴミ箱から取り出す。


「なんだ。使うのか?」

「人生、いつ死ぬかわからないじゃないですか」

「確かに、遺書的なものがあれこちらとしても助かるが...」

「遺書代わりみたいなものです」


 そう言うと静さんはとても難しそうな顔をした。

 それは自らの教え子が死を考え、淡々と自らの死後を出来事を処理しているからか。はたまたこれまでに自分より若くして死んでいった教え子のことを想起しているのか。

 僕には知るすべはないが、ただ言えるのは、何故死というものをそこまで嫌っているのか、ということだけだ。


「千明」

「何ですか?急に下の名前で呼んだりなんかして」

「死ぬことに関しては死ぬ寸前に考えろ」

「教師みたいな物言いですね。理由を聞いても」

「死というものは唐突にやってくるからな、身構えても無意味だ」

「そうですけど、準備ぐらいはしておいたほうがいいんじゃないですか」

「さぁな、少なくとも私はそう考える派だ。もしちゃんとした答えがあるなら...それはお前が見つけろ」

「なんだか初めて教師の立場として教えられた気がします」

「ようやく私を教師と認める気になったか」

「そうですね。ただ、ちゃんとした解は丸投げでしたけど」

「問いは与えた、場所はクラス、もとい学校がある。後は勝手に成長してくれ」

「今ので全部台無しになりましたよ」


 先生は話し終わったのかグイッと長話で冷めたコーヒーを飲み干した。

 そうして放置していた電子タバコを再び加える。

 窓も空いているし、今この学校には僕と静さん、あとはあの4人しかいないからいいが、室内でタバコはあまり良くは思われなさそうだ。


「それで、たまに私に成長した姿をみせてくれ」

「え、わざわざですか」

「そう嫌がるな」


 そう言いながら先生は時計の針に目を向ける。

 それに続くように目線を向けると、時計の針は一時間目の終わりを告げる数字を指そうとしていた。


「終わりだな」

「そうですね。次の時間、何で知ったけ?」

「国語だ」

「そうですか。じゃぁ、僕はこれで」


 そう言って、僕は職員室の扉を開けて教室へと足を進めた。


 職員室を出て教室までの廊下を歩いていると、廊下まで響いた話し声が聞こえてくる。

 別に談笑をするなとまではいかないが、少し音量を自重してほしいものだ 。

 そんな事を考えていると、後ろから声をかけられた。


「終わったんですか」

「昨日ぶりですね。理悟さん」

「そうですね。何かようですか?」

「僕の言葉を代弁しないでください」

「それが私の趣味でもあり、悪癖でもありますから」

「なら直しましょうよ。直せるのなら、ですが」

「いいえ、直せませんよ。私の悪癖は」

「そうですか」


 廊下の壁にもたれかかっている理悟さんを横目に、まだ遠い教室を眺める。


「あそこに入れない理由でも」

「また、僕の心を読んでます?」

「さぁ、どうでしょう?全知故の遊びかもしれませんよ」

「遊びとか言って、ただ単に嫌われたくないんじゃないですか」

「なるほど、何でそう思ったのか理由お聞きしても」

「全知なら聞かなくてもいいのでは」


 理悟さんに向き直り、頭をポリポリとかく。

 依然として教室との距離は縮まっていない。歩みを止めてこの場に、理悟さんと対話をしているから。


「そう言わないでください。本人、貴方の口から聞きたいんです。紙雅千明という一人の人間の意見を」

「わかりましたよ。...これは僕の考察、ですらない妄想に過ぎませんけど、天納さんと理悟さんは全知なのではなく心が読めるだけなのでは」

「すごい妄想ですね」

「基本一人なので考える時間はたくさんあります」


 一人とは言ったが、大体の場合は隣にマラがいる。

 ただ会話をするわけでもなく、目の届く距離にいることもある。

 いつからから、マラと一緒にいることが当たり前みたいになって、会話を話半分に聞いてることが多くなった。


「会話はちゃんとするべきでは?」

「いいんですよ。どうでもいい与太話なので」

「そうなんですか...」


 そう返すと、理悟さんは視線を外して窓の外を見る。

 同じように視線を向けると木の小枝に鳥が止まっている。生憎、鳥に関して詳しくないので、ミミズクなのかカラスなのか、はたまたカケスなのか、という三択しか出てこない。

 日光を吸収して生き生きと伸びる木々、どこまでも流れているであろう小川、そびえ立つコンクリート出来た校舎の壁、人の手が施されてなお生命の活力は健在だ。

 横を見ると、どうやら理悟さんも同じ景色を眺めていると勘違いをしてしまう。

 けれど、それでも解ってしまうことがある。それは、世界は美しい...醜い、そのどちらとも人の身、生きている内、死んだ後、その全てで一生判断できないということだ。

 そんな事を考えながら自然を眺めていると、理悟さんが急に語りだした。


「随分と昔ですけど、私に友達はいませんでした」

「今は彼女と他にも友だちがいるのでいいですけど、もう少し、時間を大事にした方がいいですよ。たとえ与太話だったとしても」

「主従揃って僕にお説教ですか」

「どう捉えてもらっても構いません」

「目に見える景色は人によって違います。そして、その景色を形成するのは触れ合った自分と相手とです」

「それが、全知だからこそわかることですか」

「そうです」


 全知者からのアドバイス、これ以上の価値のある助言があるだろうか。

 ただ、その助言をもらった者は言うことを聞かない者とする。

 そう、そうなればどんな助言、誰のアドバイスも無価値へと転落する。


「いつか死ぬは死ぬまでわかりませんので」

「確かにそうですね」

「頑固者の貴方には苦労しそうです」

「なら相手をしなければいいのでは」


 言いながら少しおちゃらけ風に両手を使ってアピールすると、彼女はこちらに目を向けていなかった。


 そうしていると授業の終わりを告げるチャイムがなった。

 早く戻って次の授業の準備をしなければいけない。

 教室へと戻るために語ることがなくなったのか、喋らない理悟さんを置いて足を進めようとすると。


「思考の堅物」


 そう背後から投げられて、その言葉は当たることはなかった。

すいません。

事情により月一、月二投稿になりそうです。

依然として投稿をやめる気は無いので、呼んでいただければ幸いです。

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