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侯爵令嬢レベッカの追想  殺人事件の被害者になりたくないので記憶を頼りに死亡フラグを折ってまわります  作者: 北村 清
第十章 或る未来へ

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時を戻す秘術(6)

「おまえ、エリーゼ様に法を犯す事を唆すな!」

ぎょっ!とした声でコンラートが言った。


「でも、それがみんなの本音じゃないの?」

話をこちらにふらないで欲しい。


暗殺一家に育ったらしいジークにとって暗殺は身近なものなのかもしれないが、人を殺すのは物理的にも心情的にもそんな簡単なものではない!


「アレミリューラと約束をしたのです。エディアルドを殺さないで欲しいと。アレミリューラは笑っていました。『私の事を馬鹿だと笑ってくれていいよ。エディアルドはいつか世界を滅ぼすわ。それでも私、エディアルドを愛しているの。世界で一番愛しているの』

戻って来る事ができたのはアレミリューラのおかげでしたから、せめてその約束だけは守ろうと自分に課したのです。」


どうしてアレミリューラさんとやらは、エディアルドではなく義母の方を殺したのだろうか?と思っていたが、そういう事だったのか。


アウグスティアン恐るべしだ。

いや、『愛』というものを恐るべきなのか?


まあ、それはともかく。

エリーゼにこれ以上『こうしておいてくれたら』という要求をするつもりは私にはない。エリーゼは十分過ぎるくらい良くしてくれた。これ以上は、おのれで自衛すべき案件だ。



「どちらにしても、エディアルドの命もあと六年です。彼も家族性致死性不眠症を発症しますから。」


そうだった。ハーゼンクレファー家という家は遺伝子に爆弾を抱えている家だった。長くはない命かもしれないからとエディアルドという人は、燃えて弾ける花火のような人生を選んだのかもしれない。


善良に生きている小市民にとっては、迷惑この上ない話だけどねっ!


「というわけなので、ベッキーも他の人達も身のまわりには気をつけなさい。特に王宮の中にいる時は。」

エリーゼがそう言って話を締めくくった。


エリーゼの話が終わった事がわかったからだろう。おずおずとユリアが口を開いた。


「ベッキー様も・・ジーク様も、以前いた世界に帰りたいと思いますか?もし帰れる方法があったら・・・。」


「私は思わないよ。こっちの世界の方が楽しいもん。ご飯もおいしいし、娯楽も多いし。崖の上からやり直せると言われてもつつしんでお断りする。」

ジークは即答した。


「私は・・・。」


その時。ドアをノックする音がしてエリーゼの侍女が室内に入って来た。


「司法大臣と司法省の方々がお越しになりました。」

「レベッカーーー!」


顔が涙でぐしゃぐしゃになったお父様が入って来て、がばあっ!と抱きしめられた。


「無事で、無事で良かった!仮にも王宮でこんな事があるなんて!」

「お・お父様。苦しい!」

抵抗したいが、さっきのエリーゼの話を聞くとしんみりとした気持ちにもなった。一周目では、お父様は次々と家族と友人を亡くしとても孤独だったはずだ。それを思うと、この熱苦しい愛情にもじーんとするものがあった。


「ジークルーネ嬢。君には本当に申し訳なく思う。レベッカと間違えられて君が襲われるなんて。せめてものお詫びに君の御父上にすぐ連絡を入れておいた。」

「余計な事を・・。」

心底嫌そうな声でジークがつぶやいた。


「あの・・詳しい話を一応聞かせて頂きたいのですが。」

背後に控えるお父様の部下達の一人が言った。文書課長のトルデリーゼさんだ。


「こちらも聞きたい事があるのだけれど。あの侍女はどこの家門で誰の推薦で王宮に仕えていたの?」

とエリーゼが聞く。


「ライゼンハイマー家の推薦です。遠い親戚という話ですが、まだ確認がとれていなくて。どうも何回も養子縁組をしていて戸籍をロンダリングしているみたいでして。どうしてそんな人間が王宮の侍女になれたのかも含めて調査中です。」


「ライゼンハイマー家か。ハーゼンクレファー家の親戚だものね。」

とエリーゼが小さくつぶやいた。

確か当主が従兄弟同士なんだっけ。

ついでに言うと、宮廷画家のライゼンハイマー伯爵夫人と芳花ステファニー妃はお友達だ。そういう意味では、あの場にいても自然な人間だったと言える。


それにしても。


お父様の泣き声を聞きながら、長い一日だったな。と思った。いや、まだ全然太陽は高い位置にあるのだけど。

密度の濃い一日だった。同時に大きな肩の荷が下りたような気がする一日だった。

きっと今夜からはぐっすりと眠れるだろう。根本的な問題は別に解決していないけれど。それでも。


そして夜になり。

ベッドにもぐり込みながら私は思った。


そういえば、ルートヴィッヒ王子はいったい何の用だったのだろう?



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