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侯爵令嬢レベッカの追想  殺人事件の被害者になりたくないので記憶を頼りに死亡フラグを折ってまわります  作者: 北村 清
第十章 或る未来へ

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時を戻す秘術(3)

「つまり、私達が今生きているこの世界は、繰り返された二度目の世界なのです。」

とエリーゼは言った。


「大陸歴311年の10月24日に戻った私が一番最初にした事は、アレミリューラの元へ駆けつける事でした。そして貴女が正しかった。だからレティーツア様を殺さなくても良い。と伝える事でした。時を戻す秘術は一つの世代では一度しか使えません。アレミリューラがまたレティーツア様を殺しても、もう一度時間を巻き戻す事はできないのです。やり直しのチャンスは一度だけなのです。アレミリューラは『良かった。嬉しい』と言って翌日自ら命を断ちました。」


「何でですか⁉︎」

と私は大声で叫んでしまった。


「既にアレミリューラは『家族性致死性不眠症』を発症していたのです。治療法の無いこの病気がどのように進行していくか、過去にこの病気を発症した人達を見てきたアレミリューラはよく知っていました。『苦しみが限界を超える前に逃げる私を許して欲しい』と遺書には書いてありました。何者にもなれず何も残せなかったアレミリューラにとって、ヒンガリーラントを守る事は生きた証しだったのです。それを成功できたという事実に満足して彼女は逝きました。」


エリーゼは琥珀色のお茶を眺めながら悲しそうにそう言った。


「それから私は、一度目の世界を覚えている人を探しました。だけど私の周りでそのような人は見つかりませんでした。ルートヴィッヒも国王陛下も以前の世界の事を覚えてはいませんでした。二人がどれだけ一度目の世界で苦しんだか知っていましたからほっとした反面、私一人で世界を変えていかねばならない事に重圧を感じました。そんな中奇妙な事が起こりました。建国祭の子供チェス大会で優勝したはずのフィリックスが一回戦で負け、代わりにベッキーが優勝したのです。

私はベッキーかコンラートのどちらかに一度目の世界の記憶があるのでは?と思いました。」


その通りである。

別にもう今更隠す事ではないが、とりあえずエリーゼの話を最後まで聞こうと思った。


「その疑念が強まったのは、二人が図書館に閉じ込められたステファニー様を救出した時です。一度目の世界で、ステファニー様は図書館の隠し部屋に閉じ込められて命を落としました。なので私は、ステファニー様が第一王子とその取り巻きに連れ去られたと聞いた時、侍女を通じてルートヴィッヒにステファニー様が図書館に連れて行かれたという事を伝えました。だけどルートヴィッヒが図書館に着いた時、既に二人は救出の為の行動をとっていたのでしょう?

私はベッキーの事がもっと知りたくて、国王陛下にベッキーをアカデミーに入れてくれるようお願いしました。

だけど実際貴女に会っても、よくわかりませんでした。貴女は慎み深く、自分に注目を集めるような厚かましい発言はしなかったし、封筒や多色刷り版画、新しい音楽や新しい物語を作り出す貴女はむしろ『稀人』なのでは?と思えたからです。」


エリーゼの洞察力の鋭さには、ほんと感心してしまう。


「全ての人達を救う事はできませんが、それでも身近な人達の命は取りこぼす事がないよう、私なりに力は尽くしてきたつもりです。平民の使用人と心中してしまったジークルーネの事は、信頼できる使用人をヒルデブラント邸に送り込み前もって詳しく状況を調べさせました。ユリアの13歳の誕生日に殺されてしまったユリアのお父様も、何とか死の運命を回避できないかと思い、私自らブルーダーシュタットに足を運びました。」


そう言った後エリーゼは小さく笑った。


「貴女のお父様がシュヴァイツァー邸に行かなくても済むように、前日貴女のお父様の朝食のコーヒーに遅効性の下剤を盛ったのだけど、あそこまで効くとは思いもしなかったわ。ごめんなさいね。」


なんと!

エリーゼまでダニエルさんに下剤を盛っていたのか⁉︎

下剤にアサガオの種まで食べさせられて、ダニエルさんよく死なずに済んだなあ。

別な意味で命が危なかった・・・。


「ベッキーやユリアやジーク達がグラハム博士の救出に動いてくれたおかげで、天然痘の被害も最小限で済みました。一度目の世界では『種痘』などというワクチンの話は全く聞きませんでしたから。」


私は何もしていない。


それにたぶん一度目の世界に『種痘』はなかったのではないのかなあ。


グラハム博士はセシル王女と出会って『種痘』を作り出した。そのセシル王女は稀人で、たぶん一度目の世界にはいない人だったから。


「ミュリエラの事件は1年近く早まったので対処に遅れました。それでも皆の力で無事戦争を回避する事ができました。そして、次に起こる悲劇がベッキーの殺人事件だったのです。ベッキーは大陸歴318年5月12日に王宮の石段から突き落とされて殺されました。近衞騎士達の証言で、現場の近くにはルートヴィッヒと彼の関係者、僅かな使用人しかいなかった事が判明し、ルートヴィッヒ一派の誰かがルートヴィッヒの命令で殺したのでは?と噂になりました。」


「石段から転げ落ちた、って事は事故の可能性はなかったんですか?」

とジークが手を挙げて質問した。


「死体の背中には短剣が刺さっていたのです。」


『短剣』と聞いて皆の表情が厳しいものになる。さっきの騒ぎを皆思い出しているのであろう。私もなんか急に背中がむず痒くなった。


「私は犯人候補だったユリアとコルネを、5月12日に王都の外に出しました。そしてジークに頼んでベッキーを王都から連れ出しました。

そうして5月12日は乗り越えましたが、エディアルドが背後で糸を引いている以上このまま終わる事はないないでしょう。私は、ベッキーがルートヴィッヒに呼び出されたタイミングで罠をはってみる事にしました。それがついさっきの出来事なのです。」


「それがすごく不思議なのですけれど。」

私もさっきのジークに倣って手を挙げて発言した。


「ミュリエラさんの事件は一周目ではまだ起きてないのですよね。孤児院での人身売買事件も一周目では明るみに出なかったし。そもそも一周目ではお父様が司法大臣になっていません。という事はさっきの金髪の侍女さんに恨まれる覚えもないわけで。つまり一周目の犯人はあの人じゃあない別な人ですよね!」

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