第九十三話 幼馴染と二人で腹が大きくなったので母親と跡継ぎの話をしていたら、経産婦という言葉に変なところで興奮しました
ユキの腹も、爆乳令嬢の腹も、もう服の上からはっきり分かるほど大きくなっていた。
並んで長椅子へ腰掛けると、それだけで妙な光景になる。
片方は公爵令嬢。
片方は公爵家と対立する大派閥の有力令嬢。
二人とも妊婦。
しかも、それぞれ別の男との子を抱いている。
「……大きくなったね」
「ユキもでしょう?」
「私は普通じゃない?」
「妊婦としては順調ですわ」
「いや、そっちの胸」
「……」
爆乳令嬢。
自分の胸。
見る。
「また大きくなりましたわね」
「またってレベル?」
元々。
爆乳。
そこへ妊娠。
さらに、以前から使っている淫紋の影響まである。
今は平静なので興奮時の増大効果は出ていない。それでも妊娠前より明らかに豊かになり、衣服も何度か仕立て直したという。
「重くない?」
「重いですわ」
「やっぱり?」
「でも夫が喜びますし」
「そこ基準なんだ」
「ユキも喜んで見ていますでしょう?」
「見てない」
「見ていますわ」
「……ちょっとだけ」
「正直でよろしい」
*
その日の茶会は、本当に母親同士の話から始まった。
「夜、寝づらくない?」
「横向きが増えましたわ」
「分かる。あと急に腹の中で動くとびっくりする」
「最初は少し怖かったですわね」
「今は?」
「元気なのね、と思います」
「私も」
二人。
自分の腹。
撫でる。
以前なら、こんな会話をする日が来るとは思わなかった。
幼い頃から競い。
社交界でも張り合い。
互いの家は大派閥を率いる競争相手。
その二人が今は、腹の子が動いたとか、寝る姿勢がどうとか、胸がまた大きくなったとか、そんな話をしている。
「何だろ」
「何が?」
「私たち、普通に母親みたい」
「母親ですわよ」
「まだ産んでないけど」
「もう子を抱いておりますもの」
「……そっか」
*
少しして。
話。
当然。
貴族らしくなる。
「性別、まだ分からないんだよね」
「ええ」
「男だったら」
ユキ。
爆乳令嬢。
見る。
「かなり面倒だよね」
「かなり、ですわね」
爆乳令嬢も笑う。
公爵家の第一子。
そして、対抗する大派閥を率いる家の第一子。
どちらも男児であれば、将来的にはそれぞれの家の後継者となる可能性が高い。
そして。
そのまま成長すれば。
「二人とも、それぞれ派閥の頭になるかも」
「おそらくは」
「私たちみたいに?」
「親より仲良くなればよろしいのでは?」
「それはそうだけど」
ユキは自分の腹を撫でる。
「こっちと、そっちの子がさ。二十年くらいしたら、社交界で『次代の二大巨頭』とか呼ばれてる可能性あるんでしょ?」
「十分ありますわね」
「……」
「……」
「何か嫌だな」
「なぜ?」
「親同士の裏事情を知ってると」
「確かに」
*
「表では」
ユキ。
手。
上げる。
「公爵派」
「対抗派」
「二大勢力」
「次代の有力者」
「でもその母親二人は」
爆乳令嬢。
にっこり。
「互いに子を孕ませ合う約束をしている」
「そこまで言うな!」
「事実ですわ」
「子供に絶対言えない!」
「いつかは知るのでは?」
「知る必要なくない!?」
*
爆乳令嬢は楽しそうだ。
「でも、面白くありません?」
「何が?」
「この子が男児で、ユキの子も男児だったなら」
「うん」
「将来はそれぞれ大派閥の長」
「うん」
「その母親同士は幼馴染で、恋人でもある」
「……」
「さらに次の子は、互いとの子かもしれない」
「……」
「家系図を作る方が泣きますわね」
「今から泣かせるな!」
*
とはいえ。
政治の話は。
冗談だけでは済まない。
「男だったら、ちゃんと考えなきゃね」
「ええ」
「うちの子だから公爵家。そっちの子だからそっちの家。それは分ける」
「当然ですわ」
「私たちの関係を、そのまま子供の政治関係に押しつけない」
「ええ」
「仲良くなれとは言いたいけど」
「それくらいなら母親として許されますわ」
「だよね」
「ただし」
爆乳令嬢。
目。
細める。
「もし二人が仲良くなりすぎて、派閥そのものまでどうでもよくなったら」
「それはそれで面白い」
「でしょう?」
「お父様たちは頭抱えそうだけど」
「それも見てみたいですわね」
*
その時。
エリー。
手紙。
持ってくる。
「ユキ様。以前、性神について講義を依頼した遠方の神官から、神殿経由で報告が届いております」
「マジメメガネ?」
「その呼び方は本人の前ではなさらないでください」
「知ってるって」
爆乳令嬢。
身を乗り出す。
「何ですの?」
「性神の神殿で、妊娠・出産に関わる補助魔法の開発が進んだとのことです」
「へえ」
*
手紙。
読む。
遠方の性神神殿で。
妊娠を望む者。
望まない者。
妊婦。
産後の女性。
それぞれを支えるための魔法と魔道具が整備され始めたという。
避妊。
排卵補助。
受胎を助ける術。
妊娠初期の母体安定。
さらに。
出産時。
母体への負担を減らす術。
痛みを和らげる術。
出血や衰弱へ対応する術。
産後回復。
授乳補助。
近隣の診療所への普及も検討。
「……」
ユキ。
読む。
「性神、めちゃくちゃまともな仕事してる」
「元来、性だけではなく生殖や出産も管轄する神だと、あの神官は講義しておりましたでしょう」
エリー。
「そうだった」
爆乳令嬢。
「これはありがたいですわね」
「うん」
そこは二人とも。
完全に。
妊婦の顔。
*
「特に安産系」
ユキ。
紙。
指。
「これ欲しい」
「わたくしもですわ」
「でも遠いよね」
「術式や魔道具の移転が可能か、問い合わせればよろしいのでは?」
「それだ」
エリー。
「すでに問い合わせの草案を作成しております」
「仕事早っ」
「お二人が妊娠している以上、当然です」
*
爆乳令嬢。
少し。
真面目。
「出産は、やはり怖いものですものね」
「怖い?」
「少しは」
「そっか」
「ユキは?」
「私も」
ユキ。
腹。
見る。
「楽しみだけど、怖い」
「同じですわ」
「じゃ導入できるなら導入しよう」
「ええ」
「うちらだけじゃなくて」
「領内の産院や診療所にも?」
「それ」
爆乳令嬢。
頷く。
「公爵家とわたくしの家、双方で導入できれば、かなり広く普及させられるでしょう」
「政治利用みたいになるけど」
「妊婦と子供が安全になるなら、有用な政策ですわ」
「だよね」
*
「それに」
爆乳令嬢。
笑う。
「わたくし、無事に産んだら経産婦ですもの」
「……」
ユキ。
止まる。
「何ですの?」
「今」
「経産婦?」
「それ」
「はい?」
爆乳令嬢。
不思議そう。
ユキ。
目。
逸らす。
*
経産婦。
*
ユキの中の。
昔の。
エロゲ好き。
反応。
*
「……」
「ユキ?」
「何でもない」
「顔が赤いですわよ」
「妊婦だから」
「関係ありませんでしょう?」
*
でも。
頭。
止まらない。
目の前。
爆乳。
人妻。
妊婦。
そして。
もう少ししたら。
出産。
経産婦。
しかも。
その女は。
将来。
自分との子が欲しい。
と。
言っている。
「……」
ユキ。
爆乳令嬢。
見る。
「何ですの?」
「何でもない」
でも。
想像。
する。
無事に第一子を産んで。
身体も戻って。
母親になった爆乳令嬢が。
今度は自分との子を欲しいと。
自分から言ってくる。
抱いてほしい。
子供が欲しい。
そう。
求めてくる。
「……ヤバ」
「何が?」
「何でもないって!」
*
爆乳令嬢。
じっと。
見る。
「ユキ」
「何」
「もしかして」
「何」
「『経産婦』という言葉で興奮しました?」
「……」
「……」
「してない」
「今の間で分かりましたわ」
「うるさい!」
*
爆乳令嬢。
嬉しそう。
「まあ」
「笑うな!」
「わたくしが一児の母になった姿を想像して?」
「してない!」
「爆乳人妻経産婦」
「単語重ねるな!」
「そのわたくしが」
爆乳令嬢。
少し。
声。
甘く。
「今度はユキとの子が欲しい、とお願いする」
「……」
「ユキ」
「……何」
「随分、目が怖いですわよ」
「そっちが煽るから!」
*
「でも」
爆乳令嬢。
自分の腹。
撫でる。
「本当にお願いすると思いますわ」
「……」
「この子を無事に産んで」
「うん」
「身体を戻して」
「うん」
「医師から次の妊娠を許されて」
「うん」
「それでもまだ、ユキと子供が欲しいと思っていたら」
ユキ。
少し。
呼吸。
変わる。
「その時は」
爆乳令嬢。
笑う。
「ユキとの子が欲しい、と改めてお願いしますわ」
「……」
「どうしました?」
「それ以上言うな」
「なぜ?」
「来るから」
*
「どこに?」
「聞くな!」
「まあ」
「絶対分かってて言ってるでしょ!」
「ええ」
「性格悪っ!」
*
爆乳令嬢。
楽しそうに。
胸。
張る。
「では、無事に経産婦にならなくては」
「単語!」
「安産魔法も調べましょう」
「それは調べる!」
「産後回復も」
「必要!」
「そして身体が戻ったら」
「……」
「二人目」
「……」
「ユキとの子」
「やめろって!」
*
エリー。
横。
無表情。
「話が医学から急速にずれましたね」
「戻して!」
「私は何もしておりません」
*
結局。
その日の茶会で決まったこと。
第一。
遠方の性神神殿へ。
妊娠。
安産。
産後回復。
関連魔法。
正式問い合わせ。
第二。
有用なら。
公爵家。
爆乳令嬢の実家。
双方。
領内診療所へ。
導入検討。
第三。
子供が男児なら。
将来的な。
二大派閥。
継承。
見据えて。
母親同士でも。
早めに話を始める。
第四。
「ユキは経産婦という単語に弱い」
「それは決まってない!」
*
帰り。
ユキ。
マコト。
馬車。
「今日どうでした?」
「普通に母親の話」
「はい」
「政治の話」
「はい」
「安産魔法の話」
「はい」
「あと」
「あと?」
「……」
「?」
「経産婦」
「……」
マコト。
少し。
止まる。
「ユキ」
「何」
「顔」
「言うな」
「反応してますよ」
「言うなって!」
*
「爆乳人妻経産婦」
「マコトまで言うな!」
「将来、ユキとの子を欲しがる」
「やめろ!」
「ユキにお願いする」
「マコト!」
「……」
ユキ。
顔。
真っ赤。
「ほんとに来るから!」
*
マコト。
笑う。
「分かりました」
「絶対面白がってる」
「少し」
「お前もか!」
*
でも。
ユキ。
自分の腹。
撫でる。
ここにも。
自分とマコトの子。
育っている。
爆乳令嬢の腹にも。
夫との子。
育っている。
将来。
二人が。
母親になって。
子供たちが。
それぞれの家。
それぞれの派閥。
背負うかもしれない。
そして。
さらに。
その先。
別の子。
互いとの子。
考えている。
「……」
「ユキ?」
「何でもない」
「また想像してます?」
「してない!」
*
なお。
数日後。
遠方の性神神殿から。
返事。
『安産・母体保護・産後回復に関する術式について、医療従事者向けの技術共有は可能』
到着。
公爵家。
すぐ。
動く。
爆乳令嬢の家も。
動く。
政治的には競争する二大派閥が。
妊婦と子供の安全についてだけは。
珍しく。
ほとんど。
同じ方向へ。
走り始めた。
きっかけ。
二人の。
妊娠。
そして。
遠い街の。
性神神殿。
だった。




