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種付けオッサンとビッチギャル ~二日に一度ヤらないと死ぬ二人の異世界転生~【注目15位、日間217位ありがとうございます】  作者: 黒瀬 量衡
第五章 種付けオッサンとビッチギャル

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第八十五話 全店出禁の虎獣人と女戦士に石造りの教会建屋を貸したら、自信家が泊まって自信を失う宿になりました

 虎獣人と女戦士が、歓楽街の全店舗から出禁になった。二人一緒だからではない。虎獣人は単独でも駄目。女戦士も単独でも駄目。男性向け、女性向け、男女どちらも利用する店、全部駄目だった。金払いはいい。暴れもしない。店の規則も守る。相手が嫌がれば止まる。それでも、体力がおかしい。設備がもたない。従業員の予定が崩れる。一人の客だけで店の一晩が終わる。だから歓楽街の店主会議が出した結論は、ひどく簡潔だった。


『二人とも、自分たちだけで何とかしてください』


「……じゃあ逆に金取れば?」


 うちが出禁通知を見ながら言うと、神官が嫌そうな顔をした。


「何の話です?」

「この二人」

「はい」

「全店出禁になるくらいなんでしょ?」

「そうだな」


 女戦士は全く反省していなかった。虎獣人も隣で普通に頷いている。


「二人だけでも十分だが、たまには他の相手とも遊びたい」

「俺もだ」

「なら、相手してもらう側じゃなくて、相手する側になればよくない?」

「……」

「全店出禁になった男と女を相手にしてみませんかー、って」


 神官が額を押さえた。


「なぜそれで客が来ると思うのです」

「来るって。今この街、外から人いっぱい来てるじゃん。冒険者もいるし、旅人もいるし、歓楽街目当ての客もいる。そういう中に絶対いるって。『俺ならいける』『私ならあの女戦士と張り合える』『二人まとめてでも平気』って言う自信ある奴」

「最後の方はかなり特殊では?」

「でもいる」

「根拠は?」

「人間って自信あると試したくなるじゃん」

「何の自信です?」

「体力とか、夜の技術とか」

「言葉を選びましたね」

「褒めて」


 女戦士は少し考えただけで、あっさり頷いた。


「私は構わないぞ」

「早っ」

「冒険者として魔物を倒して金をもらうのと、こちらが納得して相手をして金をもらうのと、私にはそこまで大きな違いはない。相手も納得して来るんだろう?」

「当然。嫌なら断れるし、途中で嫌になったらやめる」

「ならいい」

「俺もそれでいい」


 虎獣人まで迷わない。神官だけが頭を抱えていた。


「あなた方はもう少し悩まないのですか」

「店を全部断られて、欲求だけ溜める方が辛い」

「それは分かる」

「あなたは特に分かるのでしょうね……」

「うん。したいのにできないの、普通にしんどいじゃん。したい二人がいて、相手してみたい客がいて、全員納得してるならよくない?」

「理屈だけなら否定しづらいのが腹立たしいですね」

「勝った」

「まだ許可していません!」


     *


 問題は場所だった。歓楽街の店は全部出禁。普通の宿でやれば、また壁か床かベッドが死ぬ。二人の今の家は寝るだけなら十分だが、何人も客を入れられる広さはない。


「頑丈な建物借りれば?」

「どこを」

「石造り」


 うちは神殿の方を見た。


「こちらを見ないでください」

「神殿の裏に使ってない建物あるじゃん」

「ありません」

「ある」

「ありません」

「あの古い二階建て」

「……」

「あるじゃん」


 神殿の敷地の端には、昔使っていた石造りの巡礼者宿が残っていた。新しい宿泊棟ができてからは使われず、倉庫にすらなっていない。


「今使ってないんでしょ?」

「将来的な用途が」

「じゃあ家賃取って貸せば?」

「教会資産です」

「だから家賃払うって言ってんじゃん。タダで寄越せとは言ってないし」


 うちは指を立てた。


「賃料を神殿に払う。売上からも何割か神殿に入れる。建物壊したら二人が直す。客は成人だけ。酒で判断怪しい奴は駄目。料金は先に決める。客も途中でやめていいし、この二人も嫌な相手は断っていい」

「……」

「めっちゃまともじゃん」

「それをあなたが考えたことに一番驚いています」

「失礼!」


 神官はすぐには認めなかったが、結局、最後に効いたのは金だった。参拝者が増えれば神殿の維持費も増える。妊婦への支援、産婆への補助、貧しい夫婦への相談事業にも金がかかる。使っていない建物から賃料が入り、さらに売上の一部まで入る。


「……会計上は、悪くありません」

「よっしゃ!」

「その喜び方をやめてください」


     *


 こうして古い石造りの建物は補修され、虎獣人と女戦士の自宅兼店舗になった。看板は二人が考えると本当に『虎と女戦士の家』になりそうだったので、最終的には『虎と女戦士の宿』で落ち着いた。宿泊もできるため、嘘ではない。


「飯は?」

「出さない」

「風呂は?」

「ある」

「泊まれる?」

「泊まれる」

「営業日は?」

「私たちがしたい日」

「自由すぎる!」


 二人は冒険者を辞めなかった。依頼へ行き、魔物を狩り、疲れて帰ってきた日は休む。二人だけで過ごしたい日も休む。客が欲しい日だけ看板を出す。


『本日営業』


 それだけだった。


     *


 最初の二日ほど、客は遠巻きに眺めるだけだった。だが三日目、とうとう一人の男性冒険者が入った。


「本当に二人とも選べるのか?」

「俺だけでもいい」

「私だけでもいい」

「全員が納得しているなら、二人ともでも構わない」


 冒険者は虎獣人を見る。女戦士を見る。もう一度虎獣人を見る。


「……二人で」

「お」


 たまたま近くにいたうちが思わず声を出した。


「勇者」

「違います!」


 神官に怒られた。


 翌朝、男は自分の足で出てきた。怪我もない。普通に歩ける。ただし顔だけが妙に静かだった。


「どうだった?」

「聞くな」

「でも生きてるじゃん」

「俺、自分は体力ある方だと思ってた」

「うん」

「違った」

「……」

「全然違った」


 そこから口コミが広がるのは早かった。


『自信がある奴だけ行け』

『虎だけでもきつい』

『女戦士だけでもきつい』

『二人同時は選ぶな』

『絶対に選ぶな』


 そして人間は、絶対に選ぶなと言われると選びたくなるらしい。


     *


 女冒険者が来た。


「女戦士一人で」


 翌朝。


「私、女同士なら負けないと思ってた」

「何に勝つ気だったん?」


 獣人の男が来た。


「虎で」


 翌朝。


「自信なくした」


 夫婦も来た。


「私たち二人で、お二人ともお願いしたいのですが」

「四人?」

「全員が納得しているならいいぞ」


 翌朝、夫婦は並んで出てきた。


「どうだった?」

「仲は深まりました」

「いいじゃん」

「自信はなくなりました」

「両方なんだ」


 ついには冒険者三人組がやって来た。


「三人なら二人を相手にできるだろ」


 翌朝。


「……人数じゃなかった」


 五人。


「何であの二人、普通に朝飯食ってんだ?」


 八人。


「団体予約まで入った!」


 翌朝、八人は女将の店で朝食を取りながら、全員無言だった。


「何だい、朝から葬式みたいな顔して」


 一人がパンを見つめたまま答える。


「自信を置いてきました」

「どこに?」

「虎と女戦士の宿」

「ああ。なら仕方ないね」

「街の共通認識になってるじゃん!」


     *


 やがて『虎と女戦士の宿』には、正式な店名とは別に妙な評判がついた。


『自分の体力に自信がある者が泊まる宿』

『夜の技術に自信がある者が挑む宿』

『冒険者が自分の実力を確認する場所』

『そして大抵、自信を失って帰る宿』


「何だこれ」


 女戦士が評判を書いた紙を見る。


「人気店じゃん」

「私は普通に相手をしているだけだぞ」

「それで歓楽街全部出禁になったんだって」

「虎も普通だ」

「俺は普通だ」

「二人の普通がおかしいんだよ!」


 二人にとって重要なのは、客の数ではなかった。今日は二人だけで過ごしたいなら休業。誰かと遊びたいなら営業。一人でも、複数でも、男でも女でも、二人が嫌なら断る。


「今日は客を取らない」

「何で?」

「二人でしたい」

「なるほど」


 翌日は。


「今日は客がほしい」

「じゃ営業?」

「ああ」


 気分営業。それなのに、その不規則さまで希少価値になった。


「今日開いてるらしいぞ」

「マジか」

「今夜泊まれるか?」

「自信あるのか?」

「ある」

「明日の朝にも同じこと言えるといいな」


「何その会話!」


     *


 神殿にも、きちんと金が入った。賃料。さらに売上の一部。


「どう?」


 うちが帳簿を覗く。


「見ないでください」

「儲かってる?」

「かなり」

「ほら」

「認めたくありません」

「妊婦さんの支援増やせる?」

「今月はかなり増やせます」

「ほら!」

「そこだけは本当にありがたいのですが……」


 しかも石造りの建物を選んだのは正解だった。壁も床も厚く、事前に補強までしたため、今のところ建物は無事である。音も普通の宿よりかなり外へ漏れにくい。


 以前二人を出禁にした歓楽街の店主たちも、一度見学へ来た。


「繁盛してるな」

「おかげさまで」


 女戦士が答えると、一人の店主がおそるおそる聞いた。


「……うちへ戻りたいとか思ってないよな?」

「いや。こっちの方が気楽だ」

「俺もだ」

「よかった」

「そこまで安心するか?」

「本当に戻ってこないでください」

「まだ言うのか!」


     *


 ある朝、宿の看板の下へ誰かが勝手に札を付けていた。


『あなたの自信、確認します』


「これ誰が書いたの?」

「客らしい」

「センスあるじゃん」


 翌日。


 その下へ、さらに一枚。


『確認ではありません。破壊されます』


「ひどくない?」


 その翌日。


『三人で行って三人とも負けました』


「だから勝負じゃねえって!」


 それでも客は来た。むしろ増えた。


     *


 神殿は参拝者が増え、御神像が名物になった。女将は店を増やし、歓楽街も広がった。そして街の端には、新しい名所として『虎と女戦士の宿』が加わった。


 旅人の間では、いつの間にかこんな案内まで広まっている。


「性神の街へ行くなら御神像を見ろ」

「御守りを買え」

「夜は歓楽街へ行け」

「それから、自分の体力や夜の技術に自信があるなら――虎と女戦士の宿へ行ってみろ」

「おすすめなん?」

「いや」

「じゃ何で?」

「帰ってきたら、自分がどの程度だったのか分かる」


「完全に観光名所じゃん」


 うちが呆れている横で、オッサンは木杯を傾けていた。


「ギャルさんの企画ですからなぁ」

「商才ある?」

「かなり」

「マジ?」

「その商才を、もう少し普通の方向へ使ってください」


 後ろから神官。


「でも儲かってんじゃん」

「それを言われると弱いのです!」


 夜。


 街の端から、遠く声が響く。


「オホォォォォォッ……!」


 反対側。


 神殿からも。


「オホォォォォッ……!」


 うちは立ち止まった。


「右、御神像」

「はい」

「左、虎と女戦士」

「はい」

「……この街、夜うるさすぎない?」

「観光地には活気が必要ですからなぁ」

「そういう活気じゃねえよ!」

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