第八十三話 ふたなり神像が人気なので、御神像キーホルダーとチンポとマンコのお守りでひと稼ぎするんだけど
神殿が。
儲かっていた。
「……」
うちは神殿の前にできた行列を見た。
今日も長い。
街の人。
旅人。
商人。
夫婦。
冒険者。
なぜか遠くの村から来たらしい老人までいる。
目的。
馬と牛の神像。
オッサンの祝福を受け。
うちの祝福まで受け。
雄でもあり。
雌でもあり。
夜になると二体で勝手に役割を入れ替えながら遊び始め。
それぞれ小さな子神像まで産んだ。
あれ。
「人気出すぎじゃね?」
「奇跡ですからなぁ」
隣。
オッサン。
「夜中オホ声出す石像だけど」
「御利益は本物だそうですぞ」
「そこが余計タチ悪いんだよ」
*
実際。
評判は。
かなり良かった。
夫婦で参拝したら子供を授かった。
畑の実りが良くなった。
家畜が元気になった。
長く子を残せなかった牛が妊娠した。
夫婦仲が良くなった。
体調が良くなった。
そういう話が。
どんどん。
増えている。
「神像としての性能は最高」
「私生活は最低」
「いつものですなぁ」
「いつものだな」
*
そこで。
うちは。
思った。
「これ」
「はい?」
「金になるじゃん」
オッサンが。
止まる。
「ギャルさん」
「何」
「急に商人の顔になりましたな」
「だってさ」
神殿前。
見る。
「これだけ人来てんだよ?」
「はい」
「みんな何か持って帰りたくない?」
「それはありそうですなぁ」
「でしょ?」
*
うち。
指。
一つ。
「御神像のキーホルダー」
「きーほるだー?」
「あ」
異世界。
ない。
「なんか小さい飾り。紐とか金具つけて、鞄とか腰の袋とかにつけるやつ」
「なるほど」
「馬」
「はい」
「牛」
「はい」
「あと子供サイズの馬と牛」
「四種類」
「そう」
*
さらに。
思いつく。
「お守りも」
「御守りですかな?」
「そうそう」
うち。
手。
叩く。
「ていうかさ」
「はい」
「日本でも」
「はい」
「チンポとかマンコのお守りとかあるって聞いたことあるんだよね」
「……」
オッサン。
眼鏡。
直す。
「ギャルさん」
「何」
「寺社の説明として、その語彙でよろしいのですかな」
「知らん。うち詳しくないし」
「聞いたことがある程度?」
「そう。なんか子宝とか縁結びとか、そういうので」
「なるほど」
「だから」
神殿。
見る。
「性神なら、むしろこっち本場じゃね?」
*
神官へ。
相談。
*
「駄目です」
「早っ!」
「駄目です」
「まだ全部説明してない!」
「最初の一言で嫌な予感がしました」
「商売だよ?」
「その言い方がすでに不安です」
*
神官。
机。
うち。
オッサン。
三人。
「まず」
うち。
「神像人気あるじゃん」
「ありがたいことです」
「参拝客増えた」
「はい」
「宿も店も儲かってる」
「はい」
「神殿も寄進増えてる」
「……はい」
「ならグッズ」
「ぐっず?」
「記念品!」
「ああ」
*
紙。
出す。
うち。
絵。
描く。
「馬の神像」
「はい」
「牛の神像」
「はい」
「小さい馬」
「はい」
「小さい牛」
「はい」
「これを手のひらサイズにして売る」
「……」
神官。
見る。
「それは」
「うん」
「普通に良いのでは?」
「でしょ!」
*
第一案。
採用。
早い。
「木彫り」
「安い」
「石」
「高級品」
「金属」
「旅人向け」
「紐つける」
「持ち歩ける」
「家に置くやつも」
「あり」
神官。
「……」
少し。
乗ってきた。
*
「問題は」
うち。
「次」
「まだあるのですか?」
「お守り」
「御守り」
「豊穣」
「分かります」
「夫婦円満」
「分かります」
「子宝」
「分かります」
「性機能」
「……」
「いるでしょ?」
「言葉を選んでください」
*
「で」
うち。
「形」
「嫌な予感がします」
「チンポ」
「やはり」
「マンコ」
「やめなさい!」
*
神官。
頭。
抱える。
「なぜ!」
「分かりやすいじゃん!」
「分かりやすすぎます!」
「性神だよ?」
「性神ですが!」
「子宝のお守りで、何か丸とか花とかにするより」
「象徴というものがあります!」
「なら直球も象徴じゃん!」
「直球すぎるのです!」
*
オッサン。
手。
上げる。
「おじさんとしては」
「何です?」
「用途別に分けるのはありかと」
「……」
「子宝」
「はい」
「夫婦円満」
「はい」
「男性の健康」
「はい」
「女性の健康」
「はい」
「家畜繁殖」
「はい」
「豊作」
「はい」
神官。
頷く。
「そこまでは非常に良いです」
「そして形状を」
「形状は普通でお願いします」
「先回りされた」
*
うち。
「でも絶対売れるって」
「売上だけで決めません」
「寄進増えるよ?」
「……」
「神殿の修繕できる」
「……」
「貧しい人の治療費にもできる」
「……」
「産婆さんへの支援」
「……」
「妊婦さんの薬」
「……」
神官。
黙る。
「ね?」
「あなた」
「何」
「こういう時だけ妙に現実的ですね」
「商売だから」
*
結果。
妥協。
*
御守り。
六種類。
『子宝』
『夫婦円満』
『男性健勝』
『女性健勝』
『豊穣』
『家畜繁栄』
布袋。
普通。
神殿の紋。
馬。
牛。
意匠。
「……普通じゃん」
「普通が一番です」
「でも」
うち。
裏。
見る。
「これ」
小さい。
刺繍。
「何?」
神官。
目。
逸らす。
「象徴です」
「これチンポじゃん」
「象徴です!」
「こっちマンコ」
「花です!」
「絶対狙ってるでしょ!」
*
神官。
負けた。
完全には。
負けていない。
だが。
少し。
負けた。
*
さらに。
御神像。
試作品。
*
「かわい!」
うち。
小さな馬神像。
持つ。
手のひら。
ちょこん。
牛も。
かわいい。
子神像版。
もっと。
かわいい。
「これ絶対売れる」
「おじさんも欲しいですなぁ」
「お前いる?」
「記念ですぞ」
「原因本人じゃん」
*
ただし。
一つ。
問題。
「……」
神官。
試作品。
見る。
「何?」
「親神像の再現度が」
「うん」
「少し高すぎませんか」
「どこが?」
「ここです」
神官。
指せない。
「どこ?」
「……その」
「言え」
「雄と雌、両方の特徴が」
「ああ」
「かなり明確です」
「ふたなり神像なんだから合ってるじゃん」
「土産物でそこまで忠実にしなくても!」
*
うち。
試作品。
見る。
「でも」
「はい」
「これが本物」
「はい」
「御利益の理由も、雄雌両方の性質持ってるからって言われてる」
「そうですが」
「なら隠したら偽物じゃん」
「……」
神官。
悩む。
*
結果。
二種類。
*
一般版。
衣をまとわせ。
象徴的に。
馬と牛。
雄雌両方の神性。
それとなく。
表現。
そして。
完全再現版。
「何で作ったんですか!」
「需要」
「誰に!?」
「大人向け」
「分ける必要がありますか!?」
*
販売初日。
*
「子馬ください!」
「子牛も!」
「夫婦円満のお守り二つ!」
「家畜繁栄を十個!」
「馬の神像!」
「牛も!」
売れる。
めっちゃ。
売れる。
「ほら!」
うち。
「言ったじゃん!」
「……」
神官。
悔しい。
*
そして。
「完全再現版を」
成人男性。
小声。
「……」
神官。
「一般版もございます」
「完全再現版を」
「……はい」
*
次。
成人女性。
「完全再現版、馬と牛両方」
「……はい」
*
夫婦。
「二体一組で」
「……はい」
*
冒険者。
「俺も」
「……はい」
*
神官。
うち。
見る。
「何」
「売れています」
「でしょ?」
「非常に」
「でしょ?」
「納得したくありません」
*
さらに。
予想外。
起きる。
「小神像の方」
店番。
「在庫ありません!」
「は?」
「全部売れました!」
「早っ!」
*
子馬。
子牛。
圧倒的。
人気。
理由。
「かわいい」
それだけ。
「性神関係ないじゃん!」
うち。
「かわいいは強いですぞ」
オッサン。
「マジでな」
*
そして。
御守り。
こちらも。
人気。
特に。
夫婦円満。
子宝。
家畜繁栄。
売れる。
男性健勝。
女性健勝。
こちらも。
密かに。
人気。
*
「ねえ」
うち。
神官。
「何でしょう」
「男性健勝だけ、なくなるの早くない?」
「……」
「女性健勝も」
「……」
「みんな何を祈ってんの?」
「健康です」
「本当に?」
「健康です!」
*
さらに数日。
神殿。
前。
新しい。
屋台。
できた。
『馬牛神像 参拝記念品』
「完全に観光地じゃん」
「巡礼地と呼んでください」
「同じようなもんでしょ」
「違います」
*
利益。
出た。
かなり。
神殿。
修繕。
開始。
古い屋根。
直す。
産婆。
支援。
増える。
貧しい妊婦。
無料診療。
薬。
配る。
旅人用。
宿泊所。
修繕。
「……」
うち。
見る。
「普通に良いことになってる」
「最初から、こう使うつもりでした」
神官。
「うちのアイデアじゃん」
「発端は認めます」
「チンポとマンコのお守りから始まったけど」
「その部分だけ忘れてください!」
*
オッサン。
木杯。
飲む。
「ギャルさん」
「何?」
「商才がありますなぁ」
「マジ?」
「少なくとも」
行列。
見る。
「人が何を欲しがるかは分かっておりますぞ」
「だって」
うち。
子馬神像。
持つ。
「かわいいし」
「はい」
「御利益あるし」
「はい」
「ちょっとエロいし」
「最後が重要?」
「超重要」
*
その夜。
神殿の奥。
「オホォォォォォッ……!」
親馬。
「オホォォォォッ……!」
親牛。
いつもの。
始まる。
「……」
神官。
無言。
*
神殿前。
参拝客。
「あ」
「神像がお喜びだ」
「ありがたい」
「今夜も御神威が強い」
みんな。
手。
合わせる。
*
うち。
「だから」
一拍。
「それオホ声だから!」
*
翌朝。
新商品案。
会議。
「神像の声を模した鳴き笛」
「却下です」
「まだ説明してない!」
「却下です」
「押すとオホッて」
「却下!」
「売れるって!」
「売れても駄目です!」
*
その日の。
神殿帳簿。
記念神像。
完売。
御守り。
ほぼ完売。
寄進。
過去最高。
そして。
神殿の隅。
うちが勝手に書いた。
次回商品案。
『オホ声御神像』
神官。
赤線。
大きく。
『絶対に作らない』
その横。
オッサン。
小さく。
『売れると思いますぞ』
さらに。
赤線。
『あなたも黙ってください』
神殿は。
今日も。
平和だった。
夜の神像だけ。
相変わらず。
全然。
静かではなかった。




