第八十二話 神獣が死んだので馬と牛の神像をいじったら、ふたなり夫婦と子神像が増えました
神獣が死んだ。
二頭とも。
馬頭。
牛頭。
代替わりのためにやって来たはずなのに、妙な興奮の仕方をした挙げ句、揃って腹上死。
当然。
次代は残らなかった。
「……で」
うちは神殿の奥に並んでいる二体の神像を見上げた。
「これ何?」
「雌の神獣を模した神像だそうですぞ」
隣でオッサンが答える。
一体は、馬の頭を持つ女神像。
もう一体は、牛の頭を持つ女神像。
実際の神獣ほど巨大ではないものの、人より明らかに大きい。どちらも豊穣と繁殖を祈るための古い石像らしい。
「雄が死んで、雌の像だけ残ってんの?」
「皮肉ですなぁ」
「笑えねえ」
*
神殿側も困っていた。
本物の神獣二頭が死亡。
しかも子供なし。
代替わり失敗。
神官たちは朝から顔色が悪い。
その横で。
オッサンだけが。
「いやぁ」
神像を見る。
「これは」
「その顔やめろ」
「まだ何も言っておりませんぞ」
「分かるし」
「ドゥフフ」
「笑うな!」
*
数分後。
オッサンは神官へ確認していた。
「この神像、壊れたりしても修復できますかな?」
「な、何をする気です?」
「実験ですぞ」
「やめろ」
うち。
「絶対ろくな実験じゃない」
「しかしギャルさん」
「何」
「本物の神獣さんは次代を残せませんでした」
「うん」
「なら」
オッサン。
神像。
見る。
「像の方で試すというのも」
「何の代替にもならんだろ!」
*
結局。
やった。
馬の女神像。
牛の女神像。
二体とも。
オッサンの祝福を受けた。
正式な。
種付けプレス。
「オホォォォォッ……!」
神殿に。
女の声。
響く。
「うわ」
「オホォォォォォッ……!」
今度は牛。
「石像でもその声出んのかよ!」
「おじさんの祝福は公平ですなぁ」
「公平って言うな!」
*
しかも。
終わった後。
二体の神像は。
明らかに変わっていた。
石肌の細かな傷。
消失。
欠け。
修復。
神気。
増加。
豊穣神像としての力まで。
強化。
「……」
神官。
口。
開いたまま。
「奇跡だ……」
「奇跡でいいのこれ?」
「神気が明らかに増している……!」
「過程見てたよね!?」
*
そして。
腹。
少しだけ。
膨らんだ。
「孕んだ」
うち。
「孕みましたなぁ」
「像が」
「はい」
「石像が」
「はい」
「もう何でもありじゃん」
「今さらですかな」
*
普通なら。
そこで終わる。
だが。
今度は。
うちの身体が。
反応した。
「……」
馬の神像。
見る。
牛の神像。
見る。
「ギャルさん?」
「何」
「嫌な顔をしておりますぞ」
「嫌な予感してるだけ」
祝福。
雄化。
そして。
目の前には。
すでにオッサンの祝福で強化された二体の神像。
「……これ」
「はい」
「うちまでやったらどうなるんだろ」
「おじさんも興味がありますぞ」
「だよね」
*
試した。
*
「オホッ……!」
うち。
「オホォッ……!」
馬の神像。
「オホッ……!」
うち。
「オホォォッ……!」
牛の神像。
「待って!」
神官。
「何ですか今度は!」
「検証」
「もう十分です!」
「まだ結果出てないし!」
*
結果。
出た。
「……」
「……」
「……」
神官。
うち。
オッサン。
三人。
並ぶ。
見る。
馬神像。
女神像としての姿。
残っている。
なのに。
雄としての性質まで。
追加。
牛神像も。
同じ。
「ふたなり」
うち。
「ふたなりですなぁ」
オッサン。
「何でそうなるんですか!」
神官。
「知らん!」
*
どうやら。
オッサンの雌化。
うちの雄化。
二つの祝福が。
同じ対象へ。
重なった。
普通なら。
雄から雌。
雌から雄。
どちらかに変わるはずだった。
しかし。
性神の神像。
しかも。
すでに強い神気を持つ。
結果。
どちらも消えず。
両方。
残った。
「雄でもある」
「雌でもある」
「孕んでる」
「はい」
「しかも神像」
「はい」
「最悪の全部乗せじゃん」
「最高の全部乗せでは?」
「黙れ」
*
さらに。
問題は。
その日の夜だった。
*
「オホォォォォッ……!」
「……」
「オホォォォォッ……!」
「……」
神官。
廊下。
立ち尽くす。
神殿の奥から。
響く。
二つの。
低い。
オホ声。
「……何です?」
「見ない方がいいと思う」
うち。
「しかし神殿内です!」
「じゃ見る?」
「……見ます」
*
見た。
「……」
馬神像。
牛神像。
勝手に。
寄り添っていた。
「動いてる」
「動いておりますなぁ」
「石像なのに!」
そして。
どうやら。
二体。
互いに。
雄。
雌。
役割。
入れ替えている。
「さっき馬が雄側だったよね」
「今は牛ですなぁ」
「オホォォォッ……!」
「また変わった」
「自由ですなぁ」
「自由すぎる!」
*
朝。
神官が。
必死に。
二体を離した。
それぞれ。
反対側。
設置。
夜。
「オホォォォッ……!」
戻っていた。
*
次の日。
鎖。
使った。
夜。
「オホォォォォッ……!」
鎖。
外れていた。
*
三日目。
別室へ。
分けた。
朝。
同じ部屋。
「どうやって!?」
「神像ですし」
「便利な時だけ神の力を使うな!」
*
最終的に。
神殿側。
諦めた。
「……もう」
老神官。
「好きにさせましょう」
「いいの?」
「止められません」
「でしょうなぁ」
「あなたは黙ってください!」
*
ところが。
さらに数日後。
本当の問題。
発生。
「来てください!」
朝。
神官。
叫ぶ。
「今度は何?」
「増えています!」
「何が!?」
*
神殿奥。
馬神像。
その足元。
小さい。
神像。
「……」
子供くらいの大きさ。
ただし。
あくまで。
小型の神像。
馬頭。
丸い身体。
親の神像を縮小したような姿。
「産まれた」
「産まれましたなぁ」
「石像から!?」
*
牛神像の足元にも。
一体。
小さな牛頭神像。
ちょこん。
座っている。
「二体」
「それぞれ一体ですな」
「オッサン」
「はい?」
「お前のせい」
「おじさんの子供ではありませんぞ」
「祝福の結果だろ!」
「それは否定しませんなぁ」
*
小さな神像。
動いた。
「え」
馬の小神像。
親の足へ。
ぺた。
牛の小神像も。
もう一体へ。
ぺた。
「かわい……」
うち。
止まる。
「……」
「ギャルさん?」
「何」
「今」
「言ってない」
「可愛いと」
「言ってない!」
*
そして。
この小神像たち。
ただ小さいだけではなかった。
馬の小神像が。
神殿の廊下を。
とてとて。
歩く。
通った場所。
古い石床のひび。
少し。
修復。
「……」
牛の小神像。
祭壇の横。
座る。
近くの供物。
妙に。
瑞々しくなる。
「……」
神官。
震える。
「新たな神獣像……」
「効果あるじゃん」
「本当に奇跡だ……」
「だから過程!」
*
結果。
神殿には。
新しい名物が。
四つ。
増えた。
雄でもあり。
雌でもある。
馬の神像。
牛の神像。
そして。
その二体から生まれた。
小さな馬神像。
小さな牛神像。
*
昼間。
親神像。
普通。
神々しい。
豊穣。
繁殖。
健康。
神殿へ。
強い加護。
小神像。
歩く。
参拝客。
喜ぶ。
「かわいい!」
「ありがたい!」
「神の奇跡だ!」
*
夜。
「オホォォォォォッ……!」
「また始まった!」
「オホォォォォッ……!」
「今日は馬が雄側!」
「報告しなくていい!」
「今、牛へ変わりましたぞ」
「実況もいらない!」
*
小神像。
二体。
少し離れたところ。
座る。
親。
見る。
「……」
「……」
うち。
小神像。
見る。
「子供の前で何してんだよ」
「神像ですぞ」
「それでも絵面!」
*
神官たちは。
相談した。
結果。
小神像だけ。
夜は別室。
昼。
親元へ。
戻す。
「これなら健全」
「神像相手に育児みたいになってんな」
「あなた方のせいです!」
*
ちなみに。
本物の神獣。
馬頭。
牛頭。
二頭。
死亡。
次代。
なし。
そのはずだった。
なのに。
神殿には今。
馬。
牛。
それぞれ。
新しい小神像。
存在。
「これ」
うち。
「代替わりってことになんの?」
「分かりません」
神官。
「神学者へ問い合わせています」
「なんて?」
「詳細は伏せました」
「賢い」
「『神獣死後、性神の奇跡により小型神像が誕生』とだけ」
「過程全部消えた!」
「書けるわけないでしょう!」
*
オッサン。
腕組み。
「しかし結果として」
「何」
「次代は残りましたなぁ」
「像だけど」
「奇跡も起きておりますぞ」
「像だけど」
「神殿も栄えそうですなぁ」
「夜うるさいけど」
「性能は最高」
「私生活は最低」
二人。
同時。
「……」
「……」
「いつものじゃん」
「いつものですなぁ」
*
その夜。
宿へ戻る途中。
遠く。
神殿。
「オホォォォォォッ……!」
聞こえた。
「……」
「……」
うち。
「街まで聞こえてんじゃん」
「元気ですなぁ」
「他人事みたいに言うな」
「ギャルさんも半分原因ですぞ」
「オッサンも半分!」
「では共同責任」
「最悪」
*
後日。
街では。
新しい噂が。
広まった。
『神獣が死んだ夜、性神が新しい奇跡を授けた』
『神殿には雄と雌、双方の力を持つ馬と牛の神像がある』
『二体は夜になると勝手に動く』
『そしてそれぞれに小さな神像が生まれた』
ここまでは。
だいたい。
事実。
問題は。
最後。
『豊穣の御利益がものすごい』
参拝客。
激増。
*
「……」
うち。
神殿前の行列を見る。
「成功扱いになってる」
「奇跡ですからなぁ」
「全部下ネタ事故なのに」
「結果良ければ何とやら」
「絶対違う」
その奥。
「オホォォォォッ……!」
また。
鳴った。
行列。
参拝客。
手を合わせる。
「ありがたや……!」
「ありがたい声だ……!」
うち。
「いや」
一拍。
「それオホ声だから!」




