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種付けオッサンとビッチギャル ~二日に一度ヤらないと死ぬ二人の異世界転生~【注目15位、日間217位ありがとうございます】  作者: 黒瀬 量衡
第四章 腐女子男爵とエロゲ公爵令嬢

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第七十九話 社交界では公爵令嬢でも、乱痴気仲間の前では偉くも何ともありません

 淫紋の施術が始まってから。


 ユキは、妙なことに気づくようになった。


 舞踏会。


 お茶会。


 音楽会。


 晩餐会。


 公爵令嬢として出席しなければならない社交の場へ行くたび、以前より明らかに知り合いが増えている。


 しかも。


「ごきげんよう、公爵令嬢様」


「ごきげんよう」


 優雅に扇を持つ伯爵令嬢。


 笑顔。


 完璧な礼。


 普通の社交。


 ただし。


 すれ違う瞬間だけ。


「次の別荘、楽しみにしておりますわ」


「……」


「新しい淫紋も」


「ここで言うな」


「失礼いたしました」


 にこやかなまま去っていく。


 ユキは紅茶を飲んだ。


「……増えたなあ」


「何がです?」


 隣にいるエリーが聞く。


「知り合い」


「公爵令嬢なのですから当然でしょう」


「そういう知り合いじゃなくて」


「分かっております」


     *


 別の日。


 別のお茶会。


 ユキが母親世代の貴婦人へ挨拶を終え、若い令嬢たちの輪へ戻った時だった。


 一人。


 見覚えのない令嬢が。


 こちらを見て。


 明らかに緊張した。


「……」


「何?」


「い、いえ」


「何かある?」


 令嬢は成人したばかりくらいの若い女性だった。


 家紋からすれば子爵家。


 この場では当然。


 公爵令嬢であるユキの方が圧倒的に上である。


「もしかして」


 若い令嬢が。


 声を小さくする。


「貴方が……」


「何?」


「皆様がおっしゃっていた」


 一拍。


「中心の方……?」


「違う」


「え?」


「違うから」


 即答。


     *


 少し離れたところで。


 爆乳令嬢が。


 笑っていた。


「何笑ってんの」


「いえ。とうとう新人から『貴方が』と言われるようになりましたのね」


「やめてよ。秘密結社の首領みたいじゃん」


「実際、発端の一人では?」


「発端と偉い人は別」


「それを新人へ説明して差し上げては?」


「する」


     *


 ユキは若い令嬢を見る。


「名前は?」


 令嬢が名乗る。


「よろしく」


「は、はい、公爵令嬢様」


「ここではそれでいい」


「え?」


「今は社交界だから」


 ユキは周囲を見る。


 母親。


 叔母。


 父親同士の派閥。


 縁談。


 家格。


 爵位。


 誰が誰へ先に挨拶するか。


 誰が上座へ座るか。


 全部。


 ここでは必要だ。


「外では私は公爵令嬢。あなたは子爵令嬢。礼儀も順番もある。それを無視したら家まで巻き込む」


「はい」


「でも」


 声を落とす。


「会の中では違う」


「……」


「私の方が偉い、はなし」


「ですが」


「なし」


「でも、公爵令嬢様が――」


「そこで公爵令嬢様って呼ばれると、その話が全然進まないんだけど」


     *


 爆乳令嬢が助け舟を出した。


「別荘へ入ったら、身分を入口へ置いてくると思えばよろしいですわ」


「身分を……」


「もちろん、現実に爵位がなくなるわけではありません。ただ、会の中で命令する理由には使わない」


「はい」


「公爵家だから優先」


「なし」


 ユキ。


「大貴族だから相手を選べる」


「なし」


「下の家だから断れない」


「絶対なし」


「政治的に必要だから一緒に遊べ」


「一番なし」


 若い令嬢が目を丸くする。


「では……本当に、誰でも断ってよろしいのですか?」


「当たり前じゃん」


     *


「だって」


 ユキ。


 少し考える。


「エロに地位って要る?」


「……」


「いらなくない?」


「公爵令嬢様」


 エリー。


「言いたいことは分かりますが、もう少し表現を」


「ここ新人に一番分かりやすく説明するとこだから」


「嫌な予感しかしません」


     *


 ユキは。


 若い令嬢へ。


 真顔で言った。


「エロには地位はいらない」


「……」


「公爵令嬢でも」


「はい」


「子爵令嬢でも」


「はい」


「騎士でも」


「はい」


「代官でも」


「はい」


「メイドでも」


 エリーを見る。


「何故私を見るのです」


「事務局だから」


「関係ありません」


「とにかく」


 ユキ。


 両手を広げる。


「いって、いって、いきまくって」


「公爵令嬢様」


「エロい姿で」


「公爵令嬢様」


「エロいこと言って」


「公爵令嬢様」


「みんなで気持ちよくなればいいだけなんだから」


「公爵令嬢様!」


     *


 沈黙。


 若い令嬢。


 目。


 丸い。


 爆乳令嬢。


 口元を扇で隠している。


 肩が震えている。


「笑うな」


「申し訳……ふふっ……」


「お前も同意してたじゃん」


「理念には。説明方法には同意しておりませんわ」


「分かりやすいでしょ?」


 若い令嬢が。


 おそるおそる。


「つまり」


「うん」


「会の場では、誰が誰を誘ってもよい」


「相手が嫌じゃなければね」


「誰でも断れる」


「そう」


「公爵令嬢様から誘われても?」


「当然」


「……断ったら?」


「『そっか』で終わり」


「本当に?」


「何でそこで嘘つくの」


     *


 若い令嬢は。


 しばらく。


 考えていた。


「私」


「うん?」


「加入を希望した理由が」


「うん」


「少し変わりました」


「どういう?」


「最初は」


 一拍。


「この会へ入れば、若い世代の有力者と繋がれると思っていました」


 ユキ。


 爆乳令嬢。


 エリー。


 三人とも。


 若い令嬢を見る。


「正直だね」


「申し訳ありません」


「いや。それ自体はいいよ」


「よろしいのですか?」


「入口なんて何でもいいし」


 爆乳令嬢も頷く。


「政治的な利点が生まれていること自体は事実ですもの」


「ただし」


 エリー。


「それだけが目的なら、正式参加はお勧めしません」


     *


「一生消えない淫紋もある」


 ユキ。


「秘密も守らなきゃいけない」


「はい」


「他人の趣味を笑ったり、後から政治利用したりもなし」


「はい」


「会で見た裸とか、誰と誰が何したとかも、外では絶対に使わない」


「はい」


「それでも入りたい?」


 若い令嬢は。


 少し考えて。


 頷いた。


「はい」


「じゃあまず、お試し期間ね」


「すぐ正式会員ではないのですか?」


「ならない」


「なぜです?」


「こっちもあなたを知りたいし、あなたにもこっちを見てから決めてほしいから」


     *


 そこで。


 爆乳令嬢が。


 感心したようにユキを見る。


「何」


「いえ」


「何だよ」


「今のあなた」


「うん」


「かなりまともなことをおっしゃいましたわ」


「失礼じゃない?」


「直前に『いっていっていきまくればいい』と公爵令嬢が熱弁していたので」


「そこもまともだよ!」


「どこがですの」


     *


 さらに数日後。


 今度は夜会。


 ユキはまた。


 会員と遭遇した。


 侯爵家の青年。


 普段なら。


 互いに政治的な立ち位置を考え。


 儀礼的な挨拶。


「ごきげんよう」


「公爵令嬢様。本日はお招きいただき――」


「その件、父に伝えとく」


「ありがとうございます」


 完璧。


 普通。


 そして。


 すれ違う。


 小声。


「淫紋、来週です」


「頑張って」


「施術で何度も限界を迎えるという話は本当ですか?」


「本当」


「楽しみです」


「お前もそっちか」


     *


 また別の会。


 今度は人妻になった元参加者。


「婚姻生活はいかが?」


「順調ですわ」


「旦那さんは?」


「向こうで、あなたの代官様と話しております」


 見る。


 マコト。


 別の男性会員二人と。


 ものすごく楽しそう。


「……政治の話かな」


「どうでしょう」


「顔がBL見てる時の顔なんだよな」


「びーえる?」


「何でもない」


     *


 さらに。


 別の茶会。


 正式会員になったばかりの令嬢が。


 ユキを見つけ。


「あっ」


 近寄る。


「公爵令嬢様」


「ここではね」


「あ」


 令嬢。


 笑う。


「外では」


「そう」


「では」


 さらに小声。


「次の会では、ユキ」


「それでいい」


「本当に?」


「何回聞くの」


「だって」


 令嬢が笑う。


「公爵令嬢を呼び捨てにする機会など、一生ないと思っておりましたもの」


「そっちが目的になってない?」


「少し楽しいです」


「まあ、それくらいならいいか」


     *


 こうして。


 妙なことが。


 起き始める。


 昼。


 社交界。


「公爵令嬢様」


「侯爵令息様」


「伯爵夫人」


「騎士殿」


 家格。


 爵位。


 立場。


 派閥。


 全部。


 守る。


 夜。


 別荘。


「ユキ、酒取って」


「自分で取れ」


「エリー、次の予定いつ?」


「事務局長と呼ばなくても構いませんが、自分で予定表を確認してください」


「マコト、そこ詰めて」


「はいはい」


「爆乳、胸邪魔」


「喧嘩ですわね?」


 なくなる。


     *


 その落差が。


 ユキは。


 案外。


 好きだった。


 社交界そのものが嫌いなわけではない。


 公爵家に生まれた以上。


 責任もある。


 父の立場。


 領地。


 婚姻。


 派閥。


 政治。


 全部。


 無視するつもりはない。


 でも。


 それしかない世界は。


 息苦しい。


     *


 ある日の別荘。


 試験参加中の新人が。


 とうとう聞いた。


「ユキ」


「何?」


 言えた。


 本人が。


 嬉しそう。


「本当に、会長はいないのですか?」


「いない」


「でも、皆さんあなたを中心にしています」


「中心ではあっても、上じゃない」


「違うのですか?」


「全然違う」


     *


 ユキは。


 自分の下腹部。


 服の下にある。


 一生消えない淫紋を。


 軽く指で示す。


「これ」


「はい」


「私にもある」


「はい」


「爆乳にもある」


「はい」


「そのうちマコトにも、エリーにも、希望した正式会員にはみんな入る」


「はい」


「同じ印」


「……」


「公爵家専用の特別仕様とか、ないから」


「なるほど」


「それが答え」


     *


「上の人ほど立派な淫紋になるとか」


「ない」


「公爵家だけ金色とか」


「絶対ない」


「事務局は?」


「仕事が違うだけ」


「エリー様は?」


「事務局として偉いんじゃなくて、事務仕事をしてくれてる人」


「公爵令嬢様」


 エリー。


「もう少し敬意を」


「めっちゃ尊敬してる」


「それは伝わりません」


     *


 新人。


 少し。


 笑う。


「変な会ですね」


「今さら?」


「政治では上下があるのに」


「うん」


「秘密の会では、ない」


「そう」


「公爵令嬢を断ってもいい」


「いい」


「メイドから誘ってもいい」


「いい」


「男同士でも」


「いい」


「女同士でも」


「いい」


「夫婦で別の方と遊んでも」


「全員納得してるなら」


「何もしなくても」


「それも自由」


 新人。


「……」


 少し。


 安心したように。


 息を吐いた。


     *


「だからさ」


 ユキ。


「難しく考えなくていいんだよ」


「はい」


「政治したいなら昼にすればいい」


「はい」


「縁談したいなら家とちゃんと話す」


「はい」


「会を使って相手を脅さない」


「はい」


「秘密を売らない」


「はい」


「嫌って言われたら止まる」


「はい」


「で」


 一拍。


「遊ぶ時は」


 エリー。


「公爵令嬢様」


「まだ何も言ってない」


「分かります」


     *


 ユキ。


 にっこり。


「いって」


「……」


「いって」


「……」


「いきまくって」


「またそれですか」


「エロい姿で」


「公爵令嬢様」


「エロいこと言って」


「公爵令嬢様」


「気持ちよくなればいい」


 新人。


 とうとう。


 吹き出した。


     *


「笑った?」


「申し訳ありません」


「いいよ」


「でも」


「何?」


「少し分かった気がします」


「何が?」


「なぜ」


 新人は。


 部屋の中を見る。


 政治的には敵対する家の者。


 格上。


 格下。


 騎士。


 貴族。


 既婚者。


 未婚者。


 男。


 女。


 それらが。


 今は。


 普通に同じ机を囲んでいる。


「この会の皆様が」


 一拍。


「外でも、妙に仲がよろしいのか」


     *


 ユキ。


 少し考える。


「まあ」


「はい」


「裸まで見た相手と、爵位だけで威張り合うのも変じゃん」


「公爵令嬢様」


 エリー。


「何?」


「たまに、とても本質を突きますね」


「たまにって何」


 爆乳令嬢。


「そこは同意いたしますわ」


「お前まで!」


     *


 こうして。


 社交界で。


 ユキへ声をかける会員は。


 少しずつ増えた。


 新人も。


 増えた。


 公爵令嬢として。


 表では。


 当然。


 家格に応じた礼を受ける。


 だが。


 別荘の扉をくぐれば。


 そこに。


 公爵家の娘だからという理由で。


 特別に偉い人間は。


 いない。


     *


 ある夜。


 エリーが。


 事務局の記録へ。


 新しい一文を追加した。


『会の内部において、爵位・家格・公職その他の社会的地位を、参加・拒否・相手選択に対する圧力として用いてはならない』


「固い」


 ユキ。


「規則ですので」


「私の言い方で書こうよ」


「絶対に嫌です」


「何で?」


「公爵令嬢様の案ですと」


 エリー。


 別紙を見る。


『エロには地位はいらない。いっていっていきまくって、エロい姿でエロいこと言って、みんなで気持ちよくなればよい』


「分かりやすいじゃん」


「公文書にはしません」


「会の理念として額に飾ろうよ」


「燃やします」


 爆乳令嬢が。


 横から。


「わたくし、一票」


「どっち!?」


「額へ飾る方ですわ」


「やった!」


「あなたまで何を言っているのです!」


 秘密結社じみた若手の会には。


 今日も。


 権力者はいなかった。


 ただし。


 妙に下品な理念だけは。


 着実に。


 共有され始めていた。

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