第七十六話 会員名簿と淫紋を作る話をしていたら、爆乳令嬢までイチモツを欲しがりました
しばらくして。
二階へ上がっていたエリーが応接室へ戻ってきた。
「どうだった?」
ユキが聞く。
「元気です。本人は大変満足しておりました」
「それ元気っていうの?」
「少なくとも本人はそう主張しております。それと、後ほどもう一度来てほしいそうです」
「やっぱり」
「何故、公爵令嬢様が嬉しそうなのです」
その少し後には、細身の夫と筋肉質な騎士も戻ってきた。
全員が揃う。
紅茶。
菓子。
ようやく普通の会合らしい光景へ戻ったところで、爆乳令嬢が止まった。
「……あら」
「何?」
「私たち、今日、本来何を決めるために集まったのでしたっけ?」
「……」
ユキも止まる。
マコト。
エリー。
夫。
騎士。
全員、少し考えた。
「淫紋?」
「その前ですわ!」
*
「まず、会員一覧です」
爆乳令嬢が指を一本立てる。
「ああ」
「『ああ』ではありません」
婚約発表の宴から始まった、若手貴族たちの妙な横の繋がり。
誰が正式な参加者なのか。
誰が一度遊んだだけなのか。
誰が新規参加を希望しているのか。
現状。
誰も正確には把握していない。
「かなりまずいですね」
マコトが言う。
「秘密結社みたいなことしてるのに名簿ないんだ」
「秘密結社ではありません」
エリーが即座に否定する。
「でも事務局あるよ?」
「公爵令嬢様」
「一生消えない淫紋も作るし」
「……」
「もう諦めた?」
「少し」
*
爆乳令嬢は構わず続ける。
「第二に、淫紋そのものの意匠を作れる者」
「デザイナーだね」
「その呼び方でよいのかは分かりませんが、意味としてはそうですわ」
「格好いいやつがいい」
「あなたの場合、格好良さより下品さを優先しそうで怖いですわ」
「下品なくらいがこの会っぽいじゃん」
「そこは否定しづらいのが腹立たしいところです」
「第三に」
指が三本。
「魔法としての淫紋を開発できる術者」
「それ重要」
「第一の紋は、一生消えない通常の印。第二の紋は、秘密の符号によって魔法的に浮かび上がるもの」
「指でこうやるやつね」
ユキが片手の指で輪を作り、もう片方の指をそこへ入れて抜く動きをする。
爆乳令嬢が眉間を押さえた。
「食事中にやらないでくださる?」
「分かりやすいじゃん」
「下品ですわ」
「だからいいんだって」
*
エリーが紙を取り出す。
「では、事務局側の作業として整理します」
一つ。
既存参加者の確認。
二つ。
本人の意思による正式参加の確認。
三つ。
新規参加希望者と推薦者の記録。
四つ。
淫紋の意匠を担当できる者を探す。
五つ。
二重の淫紋を魔法として成立させられる術者を探す。
「外部の者へ依頼するのは危険ですね」
細身の夫が言う。
「会の目的まで説明すれば、秘密を知る人間が増える」
騎士も頷く。
「できれば参加者の中から探した方がいい」
「魔術師いなかったっけ?」
ユキが聞く。
「二名おります」
エリーはすでに把握していた。
「一人は魔道具寄り。もう一人は身体へ施す魔法刻印にも知識があるそうです」
「エリー仕事早っ」
「事務局ですので」
「もう馴染んでる」
「……」
*
「たださ」
ユキが言う。
「魔法の淫紋、浮かび上がるだけじゃつまんなくない?」
爆乳令嬢が嫌な顔をした。
「その顔は、また余計なことを考えておりますわね」
「発動してる間、性的な感度と興奮が上がるようにしようよ」
「……」
「秘密の符号を出す。第二の淫紋が浮かぶ。身体が熱くなる。敏感になる。遊びたくなる」
「何故そこまで機能を付けるのです?」
「楽しいから」
「やはり」
マコトが少し考える。
「でも、本人が任意で発動できるのであれば、ありでは?」
「旦那様?」
「常時なら困りますが、使いたい時だけなら」
「そうそう。強さも変えられるようにしてさ」
エリーも考える。
「正式会員であることを確認する機能と、遊びに使う機能は分離するべきでしょうね」
「どういうこと?」
「会員証明は標準機能。感度増加などは希望者のみ」
「なるほど」
爆乳令嬢も頷いた。
「それなら賛成できますわ」
「よし」
「ただし」
「何?」
「あなた一人に設計を任せない」
「何で!?」
*
「だってさ」
ユキは止まらない。
「淫紋でそういうことができるなら、希望者向けにもっと色々作れるじゃん」
「例えば?」
「男側や女側に、遊び専用の魔法刻印とか」
「……」
「限界を迎えたくても、解除するまで我慢させられるとか」
「公爵令嬢様」
「決めた条件を満たすまで駄目とか」
「公爵令嬢様」
「魔法で下腹部の奥にずっと刺激を与えるとか最高じゃない?」
爆乳令嬢は、しばらくユキを眺めた。
「何」
「いえ」
一拍。
「あなたの頭の何割かが、公爵家の政治に向いていたら」
「うん?」
「私たちの今の関係はなかったかもしれませんわね」
「どういう意味?」
「そのままの意味です」
マコトが笑いを堪えている。
「何で笑ってんの」
「いや。ユキが政治制度の設計より、変な魔法の仕組みを考えている時の方が生き生きしているなと」
「楽しいじゃん」
「否定はしません」
「旦那様まで肯定しないでください」
エリーが深いため息をついた。
*
「でも」
爆乳令嬢が突然、ユキを見る。
「何?」
「そういう話なら」
「うん」
「わたくしも、イチモツを生やしてみたいですわね」
「……」
ユキが止まった。
「え?」
「何です?」
「何で?」
「何故、あなたが驚くのです」
自分にはある。
エリーにもある。
それでも。
幼馴染の爆乳ライバル令嬢から言われると、何故か想定外だった。
「理由ならありますわ」
「何」
爆乳令嬢は紅茶を置くと、真正面からユキを見る。
「あなたと、お互いにどちらが雄でどちらが雌なのか分からなくなるくらい、徹底的に愛し合ってみたいからですわ」
「……」
「今度は、わたくしがあなたを好きなだけ追い込む。逆に、あなたにもわたくしを好きなだけ崩してもらう」
「急にすごいこと言い出したな」
「今さらでしょう?」
爆乳令嬢は笑う。
「身体も」
「うん」
「欲しいことも」
「うん」
「恥ずかしいところも」
「……うん」
「雄とか雌とか関係なく、あなたには全部晒してみたいのです」
*
「それに」
爆乳令嬢が、さらに少しユキへ顔を寄せた。
「わたくしね」
「何」
「あの夜のことを、今でもよく思い出しますの」
「婚約発表の?」
「ええ。あなたを初めて本気で崩した時」
「……」
「わたくしの手で、あなたが我慢できなくなっていくところ」
「お前」
「一人で楽しむ時にも思い出しますわ」
「マジかよ」
「ほとんど毎日」
「毎日!?」
*
「最初は」
爆乳令嬢は、自分でも少し不思議そうに笑った。
「単なるライバル心だと思っていましたの」
「うん」
「あなたより余裕でいたい」
「うん」
「あなたより先には崩れたくない」
「うん」
「あなたをもっと酷い顔にしてやりたい」
「それは今もだろ」
「もちろん」
「即答」
「でも、それだけではなくなりました」
爆乳令嬢の視線が少し柔らかくなる。
「あの夜」
「うん」
「あなたが、いろんな男たちに囲まれて」
「……うん」
「髪も乱れて、全身に一晩遊び尽くした痕跡を残して」
「言い方」
「それでも笑っていたでしょう?」
「……そうだっけ」
「笑っていましたわ」
爆乳令嬢自身も、何度も限界を迎え、ユキへ身体を預けていた。
汗も。
大量の水気も。
何もかも混ざって。
どちらがどちらのものなのか分からない。
「わたくしまで酷い有様で、あなたにもたれかかって。お互い、何度目なのかも分からないくらい崩れて」
「……うん」
「それなのに」
一拍。
爆乳令嬢が少し恥ずかしそうに笑う。
「こんなに綺麗なものがあったのだなって思いましたの」
「……」
*
ユキ。
珍しく。
何も言わない。
「笑わないの?」
「いや」
「いつもなら何か言うでしょう?」
「ちょっと待って」
「何を?」
「思ったより」
一拍。
「重い」
「失礼ですわね」
「だってお前、それ」
ユキが爆乳令嬢を見る。
「ほぼ告白じゃん」
「ええ」
「え?」
「ですから」
爆乳令嬢は何でもないことのように言った。
「愛なのでしょうね」
「……」
「わたくし、あなたのことをかなり愛しておりますわ」
*
「いやいやいや、待って待って」
「何です?」
「幼馴染で」
「はい」
「ライバルで」
「はい」
「政治的には別派閥で」
「はい」
「乱痴気仲間で」
「はい」
「その上、愛してる?」
「何か問題が?」
「情報量!」
爆乳令嬢は楽しそうに笑う。
「でも、あなたもわたくしが嫌いではないでしょう?」
「……」
「嫌い?」
「……嫌いじゃない」
「好き?」
「……かなり」
「でしょう?」
「そこで勝ち誇るな」
「だって、また一つわたくしの勝ちですもの」
「何でだよ!」
「先に愛していると言いましたから」
「その勝負なら今から言える!」
「では、どうぞ?」
「……」
「ほら」
「……」
「ユキ?」
「うるさい!」
爆乳令嬢の笑い声が応接室へ響いた。
*
「それで」
爆乳令嬢は笑い終えると、今度はユキをじっと観察した。
「何」
「あなた、どうやって生えましたの?」
「……」
ユキが自分の身体を見る。
「性神の加護で身体が変わった時に」
「お願いしたの?」
「私の場合は、ほとんど向こうが勝手に」
そこでエリーが口を挟む。
「私は違います」
「エリー様は?」
爆乳令嬢が興味を示した。
「祈りました」
「どれくらい?」
「毎日」
「一日に?」
「二時間ほど」
「……」
「それを何日も」
「……」
「そして夢の中で性神らしき存在に会いましたので、逃がしませんでした」
「……どういう意味ですの?」
ユキが笑い出す。
「エリーさ、夢の中の神様の脚にしがみついて、生やしてくれるまで離さなかったんだよ」
「……」
「最終的に神が折れた」
爆乳令嬢はエリーを見る。
「あなた、神にゴネ勝ちしたのですか?」
「結果としては」
*
爆乳令嬢は、しばらく考えた。
「なるほど」
「何が?」
「方法は分かりましたわ」
「待って」
「祈ればよろしいのでしょう?」
「たぶん」
「では今日から」
「本気!?」
「当然ですわ」
爆乳令嬢は、自分の爆乳を見下ろし、それから細身の夫と筋肉質な騎士を見る。
「あなたたちとも楽しみ方が増えますし」
夫が平然と紅茶を飲む。
「私は構いませんよ」
騎士は視線を逸らした。
「何故こちらを見る」
「嫌?」
「……嫌とは言っていない」
「ほら」
爆乳令嬢は満足そう。
*
マコト。
夫を見る。
騎士を見る。
爆乳令嬢を見る。
また夫。
また騎士。
「……」
「旦那様」
「はい」
「妄想しておりますね」
「してません」
「顔に出ています」
「だって」
一拍。
「この三人、今よりさらに遊び方が増えるんですよ?」
「声に出さない」
「はい」
*
「それに」
爆乳令嬢はもう一度ユキを見る。
「わたくしに本当に生えましたら」
「うん」
「最初はあなたで試しますわ」
「何で最初が私なんだよ」
「幼馴染でしょう?」
「理由になってない!」
「ライバルですもの」
「もっと意味分かんない!」
「愛しておりますし」
「それを便利な理由みたいに追加すんな!」
爆乳令嬢がユキへ少し身体を寄せる。
「でも、楽しみでしょう?」
「……」
「ユキ?」
「……まあ」
一拍。
「かなり」
「でしょう?」
*
「話を戻してよろしいですか?」
エリーが紙を持ち上げる。
「はい」
「お願いします」
今日、決めなければならないもの。
会員一覧。
新規参加候補。
淫紋の意匠担当。
魔法淫紋の開発担当。
事務局の正式な役割。
そして。
いつの間にか追加された。
希望者向け。
感度上昇。
興奮増加。
条件付きで限界を制御する魔法刻印。
その他。
遊びに使えそうな魔法技術。
「……」
エリーが最後の項目を見る。
「これ、本当に事務局の仕事でしょうか」
ユキ。
「秘密結社の研究開発部門」
「勝手に部門を増やさないでください」
*
爆乳令嬢が笑う。
「でも、面白くなってきましたわね」
「でしょ?」
「政治的な権力はいらない」
「うん」
「上下もいらない」
「うん」
「ただし」
一拍。
「遊ぶための魔法技術だけは、妙に発達していく」
「最高じゃん」
「やはり、公爵令嬢として何かが間違っておりますわ」
「今さら」
*
その日。
爆乳令嬢の屋敷から、別荘の事務局へ最初の正式な連絡が送られることになった。
『正式会員一覧の作成を開始すること』
『淫紋意匠担当者を募集すること』
『魔法刻印に詳しい術者へ接触すること』
そして。
一番下。
ユキが勝手に一行を書き足した。
『希望者用の変態魔法刻印も開発する』
「消してください」
「何で!」
「正式文書です」
「大事な研究だよ!」
爆乳令嬢がそれを眺めながら、ぽつりと言う。
「わたくし用のイチモツについても」
「それは性神に頼め!」
「今日から頼みますわ」
「本気なんだ……」
「もちろん」
そして爆乳令嬢は。
もう一度。
ユキを見て。
楽しそうに笑った。
秘密結社じみた会は。
今日も。
政治とはまったく違う方向へ。
順調に発展していた。
後書き
後書きは書かれていません




