第七十四話 遊び終わって全裸でお茶を飲みながら、秘密結社の淫紋と事務局員の乳首ピアスを決めました
政治の話を終え。
その後。
たっぷり遊び終えた七人は、まず風呂へ入った。
*
「……生き返る」
ユキが大きな浴槽へ沈む。
「先ほどまで十分すぎるほど元気でしたでしょう」
隣へ入った爆乳令嬢が言う。
「そっちこそ」
「私はまだ平気ですわ」
「歩く時ふらついてたじゃん」
「見ないでくださる?」
広い浴室に湯気が満ちている。
マコト。
エリー。
細身の夫。
筋肉質な騎士。
爆乳令嬢付きのメイド。
全員、髪は乱れ、肌には遊んだあとの痕跡が残っていた。
石鹸を使い。
湯をかけ。
汗や大量の水気や、誰のものか分からなくなった様々な痕跡を洗い流していく。
「これ誰の歯形?」
ユキが肩を見る。
「さあ?」
「お前じゃない?」
「私はもっと下ですわ」
「普通に答えるなよ」
*
向こうでは、マコトが細身の夫と騎士を見ていた。
「……」
「代官殿」
「はい?」
「また見ていますね」
「見てません」
「見ています」
夫と騎士は隣り合って身体を洗っている。
しかも、さきほどまで三人で散々遊んでいた相手。
「……眼福」
「旦那様」
エリー。
「はい」
「声に出ております」
「申し訳ありません」
「反省しておりませんね」
「はい」
「そこは否定してください」
*
一方。
メイドはエリーの背中を洗っていた。
「エリー様」
「何です?」
「ここ、赤くなっています」
「誰のせいでしょうね」
「私も少しは関係しております?」
「何故嬉しそうなのです」
「エリー様に残していただいた痕跡なので」
「……」
「また、そのような扱いをしていただけます?」
「今は身体を洗いなさい」
「はい」
爆乳令嬢が笑う。
「すっかり懐かれましたわね」
「あなたのメイドでしょう」
「でも、もうエリー様のところへ嫁に出した気分ですわ」
「勝手に嫁に出さないでください」
*
風呂を出る。
身体を拭く。
髪を乾かす。
そして。
誰も服を着なかった。
「……このままでいいよね?」
ユキ。
「今さらですわね」
爆乳令嬢。
「このあと真面目な話をするのですよね?」
マコト。
「するよ」
「全裸で?」
「さっきまで全裸以上のことしてたじゃん」
「それはそうですが」
*
結果。
応接室。
七人。
全裸。
紅茶。
焼き菓子。
テーブルの上には政治資料。
非常に真面目な会議の体裁。
ただし。
全員裸。
「では」
爆乳令嬢が紅茶を置いた。
「この会の今後についてですわ」
*
「現在の形は、とても良いと思っていますの」
「どういう意味?」
「誰が上ということもない。親の派閥にも縛られない。参加を強制されない。政治的な意見まで統一する必要もない」
ユキが頷く。
「それは変えたくない」
「私もですわ。ただし」
爆乳令嬢が一同を見る。
「今後、確実に加わりたい者が増えます」
「もう来てるよ」
「こちらにもです」
エリーも答える。
公爵令嬢。
特別代官。
これから貴族家の養子となり、正式に側室へ迎えられる予定のエリー。
さらに、家同士の派閥を越えて妙に仲の良い若手貴族たち。
外から見れば。
何かある。
そう思われて当然だった。
*
「利益だけ欲しい者が入ってくるのは困りますわ」
爆乳令嬢は続ける。
「政治的な繋がりが欲しいだけ。情報を得たいだけ。公爵令嬢や代官と近づきたいだけ。そのような者まで受け入れれば、いずれ会は壊れます」
「じゃあ、参加すること自体にリスクが必要ってこと?」
「ええ」
一拍。
「この会の参加者は、すでに互いの実も心も性癖も晒しておりますもの」
ユキ。
自分たちを見る。
「今も身体は全部晒してるけどね」
「今は物理的に、ですわ」
*
「男だから」
「女だから」
「どこの家だから」
「どの派閥だから」
爆乳令嬢が一つずつ挙げていく。
「それらを理由に相手を見下す者は入れられませんわ」
細身の夫も頷く。
「男同士を嫌悪する者も」
騎士。
「女性同士を嘲る者も」
エリー。
「他人の性癖を外へ漏らす者も」
メイド。
「相手が嫌だと言っているのに続ける者も」
「絶対駄目」
ユキが即答する。
*
「皆が皆を恋愛対象にしなければならない、という意味ではありませんわ」
爆乳令嬢が言う。
「ですが」
一拍。
「男も女も関係なく、この人なら身体を預けても大丈夫。この人の趣味なら笑って受け入れられる。この人が困れば助けたい」
「そういう意味で愛し合える人?」
「ええ」
「そうじゃない奴が一人入ると」
「会の根っこから壊れます」
全員。
それには異論がなかった。
*
「問題は」
爆乳令嬢がユキを見る。
「その覚悟をどう確認するかですわ」
「皆の前で一人でやらせれば?」
「何をですの」
「オナニー」
「公爵令嬢様」
「限界までやって、オホ声出して、失禁とか潮吹きとかして、男なら射精までして」
「公爵令嬢様」
「そのあと、自分の性癖全部しゃべる」
「……」
「それでも本人が楽しそうで、周りも笑って受け入れられたら合格」
爆乳令嬢。
額を押さえる。
「私は」
一拍。
「そのような人物を、そこまでさせる前にどう判断するのかと申し上げておりますの」
「ああ」
「『入会試験、公開自慰』ではありません」
「一発で分かるのに」
「分かりやすすぎますわ」
*
細身の夫が口を挟む。
「最初は紹介制でよいのでは?」
「複数の既存参加者から?」
「ええ。最低二名程度。それから一度、普通の交流へ招く」
騎士も頷く。
「そこで秘密を守れるか、他人を尊重できるかを見る」
「それは必要ですね」
エリーが言う。
「事務局側で推薦者と交流記録を管理しましょう」
爆乳令嬢がエリーを見る。
「やはり、あなたが事務局を?」
「すでに実質的にはそうなっております」
エリーは少し嫌そうに答える。
「公爵令嬢様と旦那様への手紙も、別荘の管理も、新規の相談も私へ回ってきますので」
「それに」
ユキ。
「エリーは今後、貴族家の養子になって正式に側室になるからね」
「はい」
「単なるメイド長じゃない。事務局として人前に出ても立場がある」
爆乳令嬢も納得する。
「なら事務局長として適任ですわね」
「そこまで大仰な肩書きが必要でしょうか」
「必要」
ユキ。
即答。
「事務局長エリー」
「公爵令嬢様」
「格好いいじゃん」
「そういう理由で決めないでください」
*
メイドが。
裸のまま。
小さく手を挙げる。
「では、私は事務局員になってもよろしいでしょうか」
「あなた?」
「エリー様のお手伝いをしたいです」
「動機がそれだけでしょう」
「かなり大きな理由です」
「否定しないのですね」
「はい」
*
「それで」
爆乳令嬢が話を戻す。
「参加者が互いに分かる印も必要ですわ」
「やっぱ印いるよね」
夜会。
舞踏会。
晩餐。
親同士が別派閥で。
表立って仲良くできないこともある。
そんな時。
相手が仲間かどうか分かるもの。
ただし。
外部には意味が分からないもの。
*
「もうさ」
ユキが言う。
「淫紋でいいんじゃない?」
「だから、その淫紋とは何ですの?」
爆乳令嬢が聞く。
「下腹部とか、股間の近くに入れる、いかにも淫らな感じの模様」
「奴隷紋のような?」
「形として近い物があってもいいけど」
ユキは少し考える。
「奴隷でもないのに、一生消えない淫紋を自分から刻む」
一拍。
「それ自体が参加するリスクになるじゃん」
爆乳令嬢。
黙る。
「……なるほど」
「簡単には外せない。後から『やっぱり知らない』では済まない」
「自分の意思で、その印を背負う」
「そう」
「政治的な利益だけ欲しい者には」
「かなり重いでしょ?」
*
今度は。
爆乳令嬢も。
すぐには却下しなかった。
「ただし、一目で会員だと分かるものは危険ですわ」
「だから二重にする」
「二重?」
「普通に見える淫紋と」
ユキ。
指を立てる。
「仲間同士だけ確認できる、魔法で浮かび上がる淫紋」
「なるほど」
エリーも考える。
「外から見れば、単なる個人的な刺青や装飾」
「そう」
「しかし秘密の符号を示せば、もう一つの模様が浮かび上がる」
「それ!」
*
「符号は?」
マコトが聞く。
「こう」
ユキが。
片手の指で輪を作った。
そして。
もう片方の指を。
その輪へ。
すっと入れる。
出す。
また。
入れる。
「……」
「……」
「……」
全員。
見る。
「これ」
ユキ。
「誰でも分かるでしょ」
爆乳令嬢。
「下品ですわ」
「下品なくらいがいいんだよ」
「何故ですの?」
「秘密結社の合図が格好よすぎたら駄目じゃん」
「初めて聞きましたわ」
「それに」
ユキ。
もう一度。
指で。
輪。
挿し入れる動き。
「間違って偶然やる動作でもない」
「……確かに」
「仲間同士でこれやって」
「淫紋の第二層が浮かび上がる」
「そう」
マコト。
小声。
「ものすごく、この会らしいですね」
「でしょ?」
「褒めておりません」
エリーが言った。
*
「では」
爆乳令嬢が整理する。
「正式会員は、一生消えない第一の淫紋を自ら受ける」
「うん」
「さらに魔法的な第二の淫紋を重ねる」
「うん」
「秘密の符号を示した時だけ、第二の紋様が浮かぶ」
「完璧」
「符号が最低ですけれど」
「そこがいいんだよ」
*
「あと」
ユキが。
今度はエリーを見る。
「事務局員は乳首ピアスしてもらおう」
「何故話がそこへ戻るのです」
「いや」
ユキ。
真面目な顔。
「事務局って、会員の家とか性癖とか、相談とか、かなり深いところまで知るじゃん」
「そうですね」
「一般会員より、もっと秘密を背負う」
「ええ」
「だったら」
一拍。
「秘密結社に身を捧げました、って分かるくらいの印があってもいいと思う」
*
エリー。
自分の胸を見る。
「それが乳首ピアスなのですか」
「普段は絶対見えない」
「はい」
「でも必要なら見せられる」
「はい」
「しかも事務局専用の意匠」
「……」
ユキ。
妙に楽しそう。
「夜会とかでさ」
「はい」
「偶然、専用の乳首ピアスしてる人を見つけて」
目を輝かせる。
「『あっ! あの人、事務局の方だ! 素敵!』ってなると思う」
「なりません」
「なるって」
「なりません」
「会員からしたら憧れの印になるかもよ?」
*
爆乳令嬢。
考える。
「……私は、少し分かりますわ」
「でしょ?」
「事務局員は会員以上に秘密を扱う。簡単に辞めて、全て忘れましたとはいかない」
「そうそう」
「ならば、本人がその役目へ深く身を置く覚悟を示す印は」
一拍。
「理屈としては、ありですわ」
「ほら!」
エリー。
「何故そちらへ賛成するのです」
「ただし」
爆乳令嬢。
「本人の完全な自由意思であることは絶対条件です」
「当然」
ユキが即答する。
*
メイド。
小さく。
手を挙げた。
「私」
「何です?」
「事務局員になります」
「まだ決まっておりません」
「乳首ピアスも受けます」
「即決しないでください」
「エリー様と同じものなら、むしろ欲しいです」
「動機!」
爆乳令嬢。
笑う。
「適性はありそうですわね」
「どこを見て言っているのです」
*
結果。
全裸のお茶会で。
妙に重要な制度が。
次々と決まっていった。
一。
会には上下を作らない。
二。
政治派閥にはしない。
三。
参加は自由。
四。
秘密を漏らさない。
五。
性別、性癖、関係性を否定しない。
六。
嫌だと言われたら必ず止まる。
七。
新規参加者は既存参加者複数名による推薦制。
八。
交流期間を経て正式参加。
九。
正式参加者は自分の意思で、一生消えない第一の淫紋を受ける。
十。
その上へ、秘密の符号でのみ浮かぶ第二の魔法淫紋を重ねる。
十一。
秘密の符号は。
指で輪を作り。
もう片方の指を。
出し入れする。
「そこだけ文章にすると余計酷いな」
「決めたのは公爵令嬢様です」
「格好いいじゃん」
「どこがですの」
*
さらに。
十二。
事務局を置く。
十三。
事務局には正式な地位を与える。
十四。
事務局員は、希望する場合、専用意匠の乳首ピアスを身に着ける。
「希望する場合?」
ユキ。
「必須じゃないの?」
「そこを強制したら、あなたが先ほど言った会の理念に反します」
爆乳令嬢。
「自由意思」
「あ」
「忘れないでくださいませ」
「はい」
*
マコトが。
紅茶を飲む。
全裸。
「かなり組織らしくなりましたね」
「権力組織にはしないけどね」
「ええ」
爆乳令嬢が頷く。
「事務局は命令するためではありません。繋ぐためですわ」
手紙。
相談。
紹介。
入会希望。
秘密の管理。
何か問題が起きれば、まず話を聞く。
「つまり」
ユキ。
「エリーが事務局長」
「……」
「将来は貴族で側室」
「……はい」
「しかも専用乳首ピアス」
「最後はまだ受けると言っておりません」
「似合うと思う」
「公爵令嬢様」
「爆乳だし」
「公爵令嬢様」
「絶対格好いい」
「少し黙りなさい」
*
爆乳令嬢は。
全裸の七人。
テーブル。
紅茶。
焼き菓子。
そして。
いつの間にか作られた。
秘密結社じみた規約の草案を見る。
「……」
「何?」
「本当に」
一拍。
「この者たちが、若手貴族の派閥を越えた協力関係の中心なのですね」
「そうらしいね」
「淫紋と乳首ピアスを真剣に制度化している方々が?」
「上手く回ってるじゃん」
「そこが最も恐ろしいのです」
*
政治的な権力は求めない。
上下も作らない。
強制もしない。
ただし。
身体も。
心も。
性癖も。
秘密も。
互いに背負える者だけ。
正式に入るなら。
一生消えない印まで。
自分の意思で背負う。
そして、その全てを管理する事務局まで。
とうとう形になり始めた。
その制度が決められた場所は。
公爵令嬢の別荘。
遊んだ直後。
風呂で全身を洗った七人が。
全裸で紅茶を飲んでいた。
お茶会だった。
続く
後書き
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