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種付けオッサンとビッチギャル ~二日に一度ヤらないと死ぬ二人の異世界転生~【注目15位、日間217位ありがとうございます】  作者: 黒瀬 量衡
第四章 腐女子男爵とエロゲ公爵令嬢

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第六十九話 婚約発表の別荘で、招待客全員の距離感がおかしくなってきました

 公爵令女と、公爵家の特別な代官となった元男爵。その婚約を正式に発表する宴が、公爵家所有の郊外の別荘で開かれた。


 本邸で行うほど堅苦しくせず、それでいて公爵家主催として十分な格式は保つ。庭園と森に囲まれた大きな別荘には、公爵家と縁の深い貴族、その子女、有力な騎士や役人までが集まっていた。


「おめでとうございます、公爵令女様」 「ありがとうございます」 「代官殿も。このたびは誠に」 「ありがとうございます」


 ユキとマコトは朝から何度同じ祝いの言葉を返したか分からない。エリーも今日はあくまでメイド長として二人の後ろに控え、マコトの襟元を直し、ユキのグラスが空けば交換し、長話になりそうな客がいれば自然に次へ流していた。


 ただ、この宴には婚約祝いとは別の意味もある。


 貴族にとって、同年代の男女がこれほど大勢集まる機会は多くない。しかも公爵家に正式に招かれている時点で、家柄も身元もある程度保証されている。未婚なら将来の縁談相手を探す絶好の場所であり、既婚者にとっても新しい人脈を作る機会だった。


「何かさ」 「はい?」 「みんな、ちょっと目が怖くない?」


 ユキが笑顔のまま小声で言うと、マコトも会場を見回した。


「まあ、出会いの場でもありますからね」 「やっぱギラついてるよね」 「本人たちは隠しているつもりでしょうけれど」


 表向きは優雅な社交の場。それでも、誰と話すか、誰の隣へ立つか、誰へ紹介を頼むか。その一つ一つに、わずかな欲が透けて見えた。


     *


 そしてユキ自身も、今日に限って他人のことを笑えなかった。


「……みんな気合い入ってない?」 「何がでしょう」 「ドレス」


 令嬢たちの装いは華やかだった。胸元を大胆に見せる者、腰を細く締めて身体の曲線を強調する者、歩くたびに尻や脚の形が目につく仕立てを選んでいる者もいる。


 元エロゲオタクのユキは、それを普通の同性を見る目だけでは眺められなかった。


「……あの赤いドレス、胸すご」 「公爵令女様」 「その隣も尻が」 「ユキ」 「分かってるって」


 男側の身体が、本人の意思とは関係なく反応している。


「今日、何か駄目かも」 「婚約発表の主役が何を言っているのです」


 一方、マコトもまるで他人事ではなかった。


 騎士。


 若い貴族子弟。


 細身の美青年。


 精悍な武官。


 柔らかな笑顔を浮かべる長身の男。


「……あの二人」 「旦那様」 「幼馴染だったりしないかな」 「旦那様」 「片方だけ昔から好きで、でも家格の差があって」 「マコト様」 「はい」


 止められた時には遅い。腐女子の妄想はすでに十分たぎっており、こちらも身体が正直に反応していた。


「二人とも」


 エリーが低い声で言った。


「本日は御自身方の婚約発表ですよ」 「分かってる」 「分かってるよ」 「なら、他人を見てそのような状態にならない」 「エリーは平気なの?」


 ユキが尋ねる。


「当然です」


 即答したエリーが、その直後に黙った。


「……」 「エリー?」 「何でもございません」 「もしかしてエリーも?」 「何でもございません」 「してるんだ」 「公爵令女様」


 三人とも、その時点では気づいていなかった。


 自分たちを中心に、性神の祝福から生まれた甘い気配が、少しずつ別荘全体へ広がり始めていたことに。


     *


 最初は、本当に些細な変化だった。


「今夜は少し暑くありません?」 「そうですね。酒のせいでしょうか」


 身体が熱い。


 酒の回りが早い。


 近くにいる相手の香水や汗の匂いが、妙にはっきり分かる。


 それだけだった。


 ところが時間が経つにつれて、会場の距離感がおかしくなっていった。


「……近くない?」 「何がです?」 「みんな」


 ユキが気づいた頃には、挨拶の時に腕一本分ほど距離を取っていた男女が、肩を触れ合わせて話していた。婚約者同士で手を繋いでいた者は、いつの間にか腰へ腕を回している。


「あ」 「どうしました?」 「あの人、今、婚約者の尻撫でた」 「……本当ですね」 「人前でやる?」 「普通はいたしません」


 女性たちも妙に落ち着かない。頬を赤くし、胸元を気にし、何度も脚を組み直す。下着が湿るほど身体が熱を持ち始めている者もいるらしい。


 男性陣はさらに分かりやすかった。


「……隠せてない人、増えてない?」 「見ない方がよろしいかと」 「でも分かるじゃん」 「分かりますが」


 礼服越しでも、股間の反応を隠しきれていない男があちこちにいる。


 しかも。


 異変は身体だけではなかった。


     *


「今年の穀物価格についてですが――」


 そんな話をしていた男が、いつの間にか。


「ところで、伯爵はどういう女性がお好みで?」 「私は背の高い女性が」 「男性なら?」 「……男性?」 「ええ。今夜は何故か、そういう話も悪くない気がしまして」


 別のところでは。


「先ほどから、あの騎士をご覧になっていますね」 「そんなことは」 「お好みなのでしょう?」 「あなたこそ、あちらの令嬢を何度も」 「可愛いでしょう?」


 領地。


 派閥。


 縁談。


 商取引。


 そういう話が、少しずつ消えていた。


 代わりに増えるのは、誰が好みか。男なら誰か。女なら誰か。あの人の胸がいい。あの騎士の身体つきがいい。


 性別すら関係なく、会話が妙に生々しい方向へ寄っていく。


「おかしいですね」


 エリーが最初に真顔になった。


「だよね」 「はい。明らかに通常の宴席ではありません」 「僕たちもさっきから変だよね」 「……性神?」


 ユキの一言で。


 三人が黙った。


「……」 「……」 「……可能性は高いですね」


     *


 異変に気づいた頃には、三人へ言い寄る者たちの目的まで変わっていた。


「代官様」


 若い令嬢が、マコトのすぐそばへ寄る。


「少しだけ、別室でお話しいたしません?」 「何のお話でしょう」 「二人きりでなければできないお話ですわ」


 最初なら、公爵家の特別代官へ近づいておきたい、婚約前に多少の縁を作っておきたい、という政治的な思惑を疑っただろう。


 今は違う。


 目が完全に。


 一度でいいから相手をしてほしい。


 そう訴えていた。


「いやぁ……」


 しかも困ったことに、マコト自身も会場のフェロモンに当てられている。


「代官様?」 「いえ。お断りします」 「本当に?」 「近い、近いです」


     *


 ユキにも来た。


「公爵令女様」 「はい?」 「御結婚前に、最後の火遊びはいかがでしょう」


 見栄えのする若い男が囁く。


「火遊び?」 「別室を一つ、お借りできれば」 「……ずいぶん直接的ですね」 「今夜は、何故か遠回しに申し上げる気になれなくて」


 しばらくすると、別の男はもっと酷かった。


「庭園の奥なら暗いですよ」 「行きません」 「少しだけ」 「行きません」


 さらに時間が経つ。


「もう場所はどこでも構いません」 「我慢してください」 「難しいです」 「難しいじゃありません」


 ユキが断っても。


 十数分後には。


 また別の男が来る。


     *


 エリーも例外ではなかった。


「メイド長殿」 「何でしょう」 「少し、お時間をいただけませんか」 「ございません」 「別室で」 「ございません」 「庭でも」 「ございません」 「では廊下の奥でも」 「ございません」 「もうここでも――」 「黙りなさい」


 エリーが笑顔を消した。


「公爵家の婚約発表の席です。御自分が何を口走っているのか、一度お考えください」 「……申し訳ありません」


 男は我に返ったように離れていった。


 だが十歩ほど歩くと、今度は別の女性へ話しかけ始める。


「重症ですね」 「これ、放っておくとまずくない?」 「すでにまずいかと」


     *


 三人は一度、会場脇の小部屋へ退避した。


「原因、たぶん私たちだよね」 「性神の加護同士が集まったことと、この場の欲望の多さが何らかの形で作用しているのでしょうか」 「公爵家の婚約発表で何をしてくれてるの、あの神」


 マコトが頭を抱える。


 窓から庭を見ると、すでに何組かが暗い方へ消えていくところだった。


「見なかったことにしましょう」 「エリーが諦めた」 「全員を止めて回る方が目立ちます」


 問題は。


 三人自身への誘いも、まったく止まる気配がないことだった。


「僕、さっきから女性に五回くらい誘われてる」 「私は男性が六人」 「私は男女双方です」 「エリー強い」


 ユキが少し考える。


「じゃあさ」 「嫌な予感がします」 「女の人は、私とエリーが受け持つ?」


「……」


 エリーが黙る。


「ほら。私たちなら女性を相手にしても、少なくとも跡継ぎ問題には発展しないじゃん」 「理屈だけなら、そうですが」 「相続騒ぎにならないの大事でしょ?」 「大事ですが、そのために宴席で何をする気ですか」


 マコトが恐る恐る尋ねる。


「では……男性は?」


 ユキとエリーが。


 同時に。


 マコトを見る。


「……」 「……」 「何で僕を見るの?」


     *


「男の人はマコトが一身に受ければいいんじゃない?」 「どうしてそうなるの!?」 「男性同士なら、少なくとも子供ができて継承問題になることはないし」 「旦那様なら適任かと」 「エリーまで!?」


 ユキがにやにやする。


「それにマコト、さっきからイケメン見て妄想してたじゃん」 「妄想と実行は別!」 「先ほどの騎士を見た時など、かなり嬉しそうでした」 「エリー!」


 外から、楽しそうな笑い声が聞こえてくる。


「別室、空いてます?」 「もう外でいいでしょう」 「あなた、さっきからずっと私を見ていたでしょう?」


 三人。


 黙った。


 宴はまだ半分も終わっていない。


「……これ」 「はい」 「もっと酷くなるよね」 「おそらく」 「じゃあ」


 ユキが会場へ続く扉を見る。


「女は私とエリー」 「まだ決定しておりません」 「男はマコト」 「決定しないで!」


 マコトの悲鳴の向こう。


 別荘を満たす甘い気配は。


 まだ。


 濃くなり続けていた。

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