第六十八話 神獣が腹上死したので、結局オッサンだけのものだと言われました
翌朝。
神獣を迎えるために用意された部屋には、神官も教会の者もいなかった。儀式を受ける女が待つための広い部屋と、神獣だけが使う大扉。それだけである。
まだ神獣は来ていない。
なのに。
「オホッ……! オホォォォッ……!」
朝から何度目か分からないギャルの声が、すでに部屋中へ響いていた。
*
「オホッ……! オッサン……また……オホォッ……!」
「はい……」
「神獣……もう来るって……!」
「まだ来ておりませんぞ」
「だからって……オホッ……!」
昨日までのオッサンは、神事だから仕方ないと言っていた。
ギャル本人が納得している。他の雄と遊ぶこと自体、二人の間では今さら問題にもならない。神獣は次代を残すためにギャルを選び、ギャルは二頭の子をその場で孕み、産む。それも必要な代替わりなのだから構わない。
そう言っていた。
全部、理屈としては正しい。
ところが朝になったら、オッサンはまったく納得していなかった。
「オホォォォッ……!」
ギャルが大きく身体を震わせる。
オッサンが繰り返しているのは、ただ一つ。
種付けプレス。
一度終わる。ほんの少し休む。ギャルの頬を撫で、口づける。荒い呼吸が少し落ち着いたところで、また同じ姿勢になり、また種付けプレス。
「オッ……! オッ……! オッ……!」
「オホォォォォッ……!」
また二人とも限界を迎える。
それでも、終わらない。
「オッサン……これ……絶対ヤキモチ……オホッ……!」
「違いますぞ……」
「まだ言う……? 私が今日……他の雄の子、孕んで……産むから……オホォッ……!」
その言葉を聞いた途端、オッサンの動きが少しだけ強くなる。
「ほら……当たってんじゃん……!」
「ギャルさん」
「何……?」
「神獣さんが来るまでは」
「うん……」
「おじさんの時間ですぞ」
「独占欲つよ……オホッ……!」
*
時間が経つにつれて、ギャルの意識はどんどん朦朧としていった。
口は半分開いたまま。舌が少し出ている。汗で髪が頬へ貼りつき、何もされていないわずかな間にも、腰がびくっと跳ねる。
「オホッ……!」
「ギャルさん?」
「まだ……身体が勝手に……オホッ……!」
朝から何度も二人が限界を迎えたせいで、床もすでに酷い有様だった。汗や大量の水気、二人が遊び続けた痕跡が混ざり合い、部屋の中央には池のような濡れ跡まで広がっている。
「これ……誰が掃除すんの……」
「後で考えますかな」
「性神にやらせろよ……こんな身体にした奴……オホッ……!」
また腰が跳ねる。
「責任取れ……」
*
その時。
部屋の奥にある大扉が、重い音を立てて開いた。
「……来た」
馬頭。
牛頭。
二頭の神獣が入ってくる。
どちらも人型に近い巨大な身体を持ち、全身が異様なほど筋肉質だった。
二頭は一歩入ったところで止まった。
床を見る。
ギャルを見る。
オッサンを見る。
もう一度、床を見る。
「……」
「……」
「見るなよ……」
ギャルには、もうまともに恥ずかしがる元気すら残っていなかった。
*
オッサンは、そこでようやくギャルから離れた。
立ち上がる。眼鏡を直す。ネクタイまできっちり整える。
そして二頭の神獣へ向かって、まるで高級料理の主菜でも提供するように、深々と礼儀正しく頭を下げた。
「どうぞ」
「……」
「……」
「オッサン……?」
「いやぁ。本日は大切な代替わりの神事と伺っておりますので」
オッサンは、床に横たわったままのギャルを手で示した。
「こちら、朝からおじさんが存分に可愛がっておきました」
「言わなくていい……」
「つい先ほどまで」
「オッサン……」
「何度も何度も」
「もう黙れ……」
それでもオッサンは営業用のような笑顔を崩さず、もう一度、深々と一礼した。
「どうぞ。おじさんが今朝からたっぷり種付けしたギャルさんですが、無事に孕ませて次代へ繋いでくださいな」
「……」
「……」
「メインディッシュ出す店員みたいに言うなよ……」
*
二頭の神獣はオッサンを見る。
ギャルを見る。
またオッサンを見る。
馬頭の呼吸が荒くなった。
牛頭も、妙に鼻息が強くなっている。
「……何その顔」
ギャルが半分閉じた目で笑う。
「お前ら……他の雄に散々可愛がられた直後の女だから、変な興奮してんの……?」
二頭の様子が、さらにおかしくなる。
「鬱勃起じゃん……」
どうやら。
当たりだった。
*
最初に進み出たのは馬頭だった。
神事そのものについては、ギャルも最初から了承している。
「……来いよ」
身体を預ける。
「オホッ……!」
ところが馬頭は、ギャルだけを見ていなかった。
何度も。
何度も。
すぐそばにいるオッサンを見る。
「オホォッ……! お前……オッサン気にしすぎ……!」
今朝から別の雄に散々可愛がられた女。
その雄本人が、すぐ横で無言で見ている。
「ほんとに……鬱勃起してんじゃん……!」
ギャルに言われるほど、馬頭の興奮はさらに異様なものになっていった。
そして。
全身を大きく震わせる。
限界。
直後。
「……」
動かなくなった。
「……え?」
ギャルが待つ。
「おい」
反応がない。
「オッサン」
オッサンが近づき、確かめる。
「亡くなっておりますな」
「腹上死!?」
*
残った牛頭は、倒れた馬頭を見る。
ギャルを見る。
オッサンを見る。
また馬頭を見る。
「……お前は落ち着けよ」
牛頭の鼻息が、さらに荒くなった。
「何で今ので余計に興奮してんだよ……」
それでも牛頭は役目を放棄しなかった。
「オホッ……!」
ギャルはもう半分意識が飛びかけている。
「オホォォォッ……!」
牛頭も、やはり何度もオッサンを気にする。
「お前も……かよ……。二匹とも寝盗られ趣味……?」
その一言が悪かった。
牛頭は一気に限界へ達し。
そして。
「……」
こちらも動かなくなった。
*
「……」
ギャルが右を見る。
馬頭。
死亡。
左を見る。
牛頭。
死亡。
「二匹とも……?」
「はい」
「私……孕んだ?」
待つ。
昨日説明されたように、急激に腹が膨らむ様子はない。
「……孕んでないじゃん」
「そのようですな」
「代替わり失敗じゃん……」
「そのようですな」
「何しに来たんだよ、こいつら……」
*
ギャルはそのまま力なく仰向けになった。
「……疲れた」
それでも余韻だけで。
「オホッ……!」
腰が時々跳ねる。
「もう……勝手に身体動く……」
そこへ。
オッサンが戻ってきた。
「……オッサン?」
返事はない。
すぐに覆いかぶさる。
「……また?」
種付けプレス。
「オホッ……!」
*
オッサンは、ギャルをただ抱きしめたいわけではなかった。
孕ませたい。
自分の雌として。
自分の子を産む女として。
自分だけが、その役目を持つ雄なのだと確かめたい。
だから。
やることは一つ。
何度終わっても。
何度限界を迎えても。
種付けプレス。
「オホッ……! オッサン……!」
「ギャルさん……」
「牛と馬に……あんなふうにされたんだから……オホッ……!」
息が途切れる。
「もっと……激しく……!」
オッサンは答えない。
その代わり。
さらに激しく種付けプレスを繰り返した。
「オホォォォォッ……!」
*
「全部……」
ギャルの言葉も、もう途切れ途切れだった。
「オッサンの……匂いで……」
「はい……」
「他の雄のこと……全部……上書きして……オホッ……!」
「ギャルさん……」
「私……オッサンの雌なんでしょ……?」
「はい」
「だったら……もっと……!」
「……はい」
「オホォォォッ……!」
オッサンの呼吸も荒くなる。
「ギャルさん……他の男と……遊ぶのは……」
「オホッ……うん……!」
「構いませんぞ……」
「うん……!」
「おじさんも……他の女性と……遊びますし……」
「知ってる……オホッ……!」
「ですが……」
一度。
息を呑む。
「孕んで……」
「うん……!」
「子供を産むのは……」
「オホッ……!」
「おじさんのだけ……ですぞ……!」
「オホォォォォッ……!」
*
「オッ……! オッ……! オッ……!」
オッサンもまた限界を迎える。
「オホォォォッ……!」
その声を聞いたギャルまで、引きずられるように全身を震わせた。
ほんの少しだけ静かになる。
荒い呼吸。
キス。
互いの顔へ触れる手。
そして。
「……オッサン」
「はい……」
「私……」
「はい」
「オッサンの……」
「はい」
「雌……だよ……」
「はい……」
「他の雄と……遊んでも……」
「はい」
「孕んで……産むのは……」
「はい」
「オッサンの……だけ……」
*
また。
種付けプレス。
「オホッ……!」
「ギャルさんは……」
「うん……!」
「おじさんのものですぞ……」
「オホッ……! うん……!」
「おじさんの雌」
「うん……!」
「おじさんが孕ませる」
「オホォッ……!」
「おじさんの子を産む」
「うん……! オッサンの……!」
そこでまた言葉が途切れる。
「オホッ……!」
ギャルの身体が震えた。
「私……オッサンに孕ませてもらう女……!」
*
そこから先は。
まともな会話ですらなくなった。
「オホッ……! オッサン……!」
「ギャルさん……!」
「オホォッ……! 私……オッサンの……!」
「おじさんの……」
「うん……!」
「雌……!」
「オホッ……! そう……!」
「オッ……! オッ……! オッ……!」
「オホォォォォッ……!」
また。
少し止まる。
また。
始まる。
二頭の神獣がすぐ横で死んでいることすら、もう二人とも見ていなかった。
「オホッ……!」
「オッ……! オッ……!」
「オホォォッ……!」
部屋へ響くのは、ギャルのオホ声。
オッサンが限界を迎える瞬間の短いブレス。
あとは時々交わされる、途切れ途切れの言葉だけ。
*
「ヤキモチ……オホッ……!」
「はい……」
「認めた……」
「はい……」
「独占欲……」
「はい……」
「重い……オホォッ……!」
「申し訳ありませんな……」
「謝んな……」
ギャルが、オッサンの顔を両手で引き寄せる。
キス。
「嬉しいから……」
オッサンが少しだけ止まった。
「……」
「何……?」
「もう一度言っていただけますかな」
「うるせえ……」
「ギャルさん」
「嬉しいって言った……オホッ……!」
その瞬間。
また。
種付けプレス。
「オホォォォォッ……!」
*
「オッサン……」
「はい……?」
「昨日……」
「はい」
「ゴメンって言ったじゃん……」
「はい」
「あれ……言っといてよかった……」
「何故ですかな……」
「だって……」
ギャルは朦朧としたまま笑った。
「オッサン……私が他の雄の子を産むの……思ってたより、ずっと嫌だったんじゃん……」
「……はい」
「超ヤキモチ……」
「はい」
「かわい……」
「それは違いますぞ」
「今日は認めろ……豚……」
「そこはいつもの呼び方へ戻るのですな」
「オホッ……!」
*
しばらくして。
「オッサン……」
「はい?」
「まだ……できる?」
「……」
「何その顔……」
「いやぁ」
ようやく。
いつもの気持ち悪い笑いが戻った。
「ドゥフフ」
「キモ」
「先ほど可愛いと!」
「それとこれは別……」
それでも。
ギャルはオッサンを離さなかった。
「もう一回」
「はい」
「種付けプレス」
「はい」
「私」
一拍。
ぼんやりした目で。
それでも。
はっきり言った。
「オッサンの雌だから」
「……はい」
「オッサンが孕ませる雌」
「はい」
「他の雄と遊んでも」
「はい」
「産むなら、オッサンのだけ」
「はい」
「だから……」
ギャルの身体が、また大きく震えた。
「オホッ……!」
「もっと」
「はい」
「もっと……オッサンのものにして……!」
「はい……!」
オッサンは再び覆いかぶさる。
種付けプレス。
「オホォォォッ……!」
ギャルはもう力を抜いたまま、オッサンへ両腕を回していた。
「オホッ……! オッサン……!」
「ギャルさん……!」
「私……オッサンの……!」
「はい……!」
「オッサンだけが……孕ませる……!」
「はい……!」
「オホォォォォッ……!」
身体が震える。
少し止まる。
だが。
すぐに。
また。
「オホッ……!」
「まだ……ですぞ……」
「うん……!」
「ギャルさんは……」
「うん……!」
「おじさんの雌」
「オホッ……! そう……!」
「おじさんが孕ませる」
「うん……!」
「おじさんの子を産む」
「オホォォォッ……!」
そして。
オッサンの息も崩れる。
「オッ……! オッ……! オッ……!」
「オホォォォォッ……!」
*
また静かになる。
数秒。
荒い呼吸。
キス。
頬へ触れる手。
背中へ回された腕。
「……オッサン」
「はい……?」
「まだ……ヤキモチ?」
「はい」
「まだなんだ……」
「はい」
「じゃあ……」
ギャルが。
朦朧とした目で笑う。
「もっとして」
「はい」
「牛と馬にされた分も」
「……はい」
「全部……オッサンで上書きして」
「はい……!」
「私……オッサンのだから……オホッ……!」
また。
種付けプレス。
「オホォォォッ……!」
*
何度繰り返しても。
もう。
二人とも回数を数えなかった。
「オホッ……!」
「オッ……! オッ……!」
「オホォォッ……!」
止まる。
キス。
また。
「オホッ……!」
「オッ……! オッ……!」
そして。
時々。
途切れ途切れに。
「私……オッサンの……」
「はい……」
「孕ませる雌……」
「はい……」
「オッサンだけの……」
「はい……!」
「オホォォォッ……!」
もう。
言葉とオホ声の境目すら曖昧だった。
*
「ギャルさん」
「ん……?」
「帰ってきてくれて」
「……」
「よかったですぞ」
ギャルは。
少しだけ目を開く。
「帰るって……言ったじゃん」
「はい」
「約束したし……」
「はい」
「それに……」
「はい?」
「私が帰る場所……」
一度。
息が途切れる。
「オホッ……!」
それでも。
続ける。
「たぶん……ここだから」
「……」
「オッサンのとこ」
*
オッサンが。
珍しく。
何も言わなかった。
ただ。
ギャルへ口づける。
「……ん」
長い。
ギャルも。
離れない。
「オッサン」
「はい」
「今、ドゥフフって言ったら殴る」
「言いませんぞ」
「よし」
そして。
また。
「もう一回」
「はい」
「種付けプレス」
「はい」
「私」
一拍。
「オッサンの雌だから」
「……はい」
「孕ませるなら」
「はい」
「オッサンだけ」
「はい」
「だから」
ギャルが。
両腕で。
オッサンを引き寄せる。
「最後まで」
「はい」
「離れんな」
「はい」
*
再び。
「オホッ……!」
「オッ……! オッ……! オッ……!」
「オホォォォォッ……!」
二頭の神獣が倒れた部屋で。
最後まで。
二人の声だけが響き続けた。




