第六十六話 獣人と女戦士のところは、ただ一日中交尾しているだけなので平和でした
「でさ」
薬草を摘みながら、ギャルが言った。
「受付のお姉さんと童貞神父が、御主人様と性奴隷」
「はい」
「女将さんと娘さんとマジメメガネが、家族になったと思ったら寝盗られ遊び」
「はい」
「濃くね?」
「かなり」
オッサンも頷いた。
「それに比べますと」
「うん」
「獣人さんと女戦士さんのところは平和ですな」
「……あれを平和って言う?」
「実に単純ですぞ」
ギャルも少し考え。
「まあ、単純ではある」
*
獣人と女戦士。
二人がやっていることは。
基本的に。
交尾。
それだけだった。
御主人様も性奴隷もない。寝盗られたと何時間も煽り続けることもない。妙な設定を用意する必要すらない。
雄が雌を求める。
雌も雄を求める。
互いに汗だくになって。
身体をぶつけ合う。
「オホッ……!」
女戦士の身体が跳ねる。
「オホォォォッ……!」
汗に濡れた肌同士が何度も激しくぶつかり、そこへ限界を迎えるたびにこぼれた大量の水気まで混ざっていく。
髪が額に張りつく。
肩も背中も濡れている。
それでも止まらない。
「まだだ!」
「来い……! オホッ……! もっと!」
獣人も息を荒らし。
「オッ! オッ! オッ……!」
とうとう身体を大きく震わせる。
「オホォォォッ……!」
それを感じた女戦士も。
また。
全身を震わせた。
「……野生動物じゃん」
「獣人さんですからな」
「女戦士の方も同じくらい野生だから」
*
「ただ」
オッサンが指を立てた。
「問題があります」
「何?」
「宿へ入れません」
「ああ」
「娼館も」
「ああ」
「何軒か出入り禁止ですな」
「知ってる」
「声が」
「でかい」
「揺れが」
「酷い」
「寝台が」
「壊れる」
二人。
沈黙。
「営業妨害じゃん」
「結果」
「野外?」
「ほぼ」
*
だから最近の二人は。
町から少し離れた林。
河原。
草地。
人気のない丘。
そういう場所を勝手に遊び場にしていた。
「オホッ……!」
遠くから声が聞こえる。
「オホォォォォッ……!」
「あ、いる」
「おりますな」
「姿見えないのに場所分かるの酷くね?」
「便利ですぞ」
「狩猟笛みたいに言うな」
さらに。
「オッ! オッ! オッ……!」
低い雄の声まで混ざる。
「……向こうだね」
「間違いありませんな」
*
二人は体力もある。
非常にある。
「朝から?」
「はい」
「昼まで?」
「はい」
「夕方?」
「まだ」
「夜?」
「続いております」
「次の日は?」
「場合によっては」
「バカじゃん」
「元気ですなぁ」
一度限界を迎える。
止まる。
水を飲む。
肉を食う。
汗を拭く。
「もう一回」
「おう」
また始まる。
「オホッ……!」
「オホォォッ……!」
「オッ! オッ! オッ……!」
「休憩が冒険者なんだよ」
「長期戦ですな」
「戦闘じゃねえ」
*
しかも。
そこへ。
ギャルとオッサンが混ざることもある。
「おう」
女戦士が片手を上げる。
全身汗まみれ。
髪まで濡れている。
「来たか」
「またやってんじゃん」
「何だ。混ざらねえのか?」
「混ざる」
「即答ですな」
「オッサンもだろ」
「ドゥフフ」
「早く来い」
*
四人になっても。
やることは。
あまり変わらない。
雄は雌を求める。
雌は全力で応える。
「オホッ……!」
女戦士。
「オホォォォッ……!」
ギャル。
二人とも。
声を抑える気がない。
身体を大きく動かすたび。
汗に濡れた肌が何度もぶつかる。
ぺたりと張りつき。
離れ。
またぶつかる。
「オホッ……! もっと!」
「負けねえ!」
「何と戦ってんだよ!」
「オホォォォッ……!」
大量の水気が地面へ飛び散る。
汗なのか。
どちらかが限界を迎えた余韻なのか。
もう誰も気にしていない。
*
雄二人も。
負けてはいない。
獣人の呼吸が荒くなる。
「来るぞ!」
「来い!」
「オッ! オッ! オッ……!」
「オホォォォッ……!」
女戦士も全身を震わせる。
少し離れたところでは。
「ギャルさん……!」
「まだ!」
「いやぁ……!」
「止まるな豚!」
「オッ! オッ! オッ……!」
「オホォォォッ……!」
二人とも。
ほとんど同時に限界。
「……」
「……」
少し静かになる。
十数秒。
「もう一回」
「早くありませんかな!?」
「まだ動けるでしょ」
「ドゥフフ」
「ほら!」
*
四人とも。
時間が経つにつれて。
どんどん酷い姿になる。
汗。
土。
草。
大量の水気。
全部混ざる。
女戦士が獣人の肩へしがみつけば、汗で滑る。
ギャルがオッサンへ抱きつけば。
「ぬるぬるする!」
「ギャルさんもですぞ!」
「オッサン汗くせえ!」
「ギャルさんも汗だく!」
「うるせえ!」
そのまま。
また身体をぶつけ合う。
「オホッ……!」
「オホォォッ……!」
「オッ! オッ……!」
誰かが限界を迎える。
それを見て。
別の誰かも興奮する。
また始まる。
*
獣人も。
オッサンが女戦士の相手をしていても。
特に怒らない。
その間。
自分はギャルのところへ行く。
逆もある。
「それってさ」
「何ですかな?」
「ちょっと寝盗られじゃない?」
「どの辺が?」
「自分の相手が目の前で別の相手と楽しんでる」
「なるほど」
「でも」
ギャルは笑う。
「前の二組ほど面倒じゃない」
「確かに」
「嫉妬させるためじゃないし」
「はい」
「御主人様でも奴隷でもないし」
「はい」
「ただ交代してるだけ」
「非常に分かりやすいですな」
*
女戦士も同じだった。
「おっさん」
「はい?」
「次、あたし」
「獣人さんは?」
「そっちの金髪と楽しんでる」
「嫉妬は?」
「する必要あるか?」
「ないですかな」
「終わったら戻ってくる」
以上。
「強い」
「何が?」
「関係性が」
「難しいこと考える暇あったら来い」
「ドゥフフ」
「早く」
*
ギャルも。
獣人と遊びながら。
向こうでオッサンと女戦士が汗まみれになっているところを見る。
「オホォォォッ……!」
ギャル自身が大きく身体を震わせる。
「オッ! オッ! オッ……!」
獣人もそれに続く。
まだ息を整えきれないまま。
ギャルが向こうを見る。
「お」
「どうしましたかな?」
「オッサン、あっちに夢中」
「ギャルさん?」
「ちょっといい」
「何が?」
「昨日話した寝盗られ感」
「またですかな」
「でもこっちは軽い」
「プチ?」
「そう。プチ寝取られ」
「便利な言葉ですな」
*
オッサンも。
似たようなものだった。
獣人と身体をぶつけ合うギャルが。
「オホッ……! オホォォッ……!」
何度も大きな声を上げている。
「いやぁ」
「何だ?」
汗まみれの女戦士が聞く。
「ギャルさん、楽しそうですな」
「嫉妬しねえのか」
「少しは」
「するんじゃねえか」
「でも」
オッサンは。
目の前の女戦士を見る。
「こちらはこちらですからな」
「そういうことだ」
女戦士が笑う。
「じゃあ余計なこと考えんな」
「はい」
「もっと」
「ドゥフフ」
「笑うな!」
「オホッ……!」
*
結局。
四人とも。
細かいことを考えなくなる。
誰が誰の恋人だ。
誰が誰を取った。
誰が嫉妬した。
そんな話より。
「オホッ……!」
「オホォォッ……!」
「オッ! オッ! オッ……!」
目の前の相手。
汗。
息。
声。
肌がぶつかる感触。
そちらの方が優先される。
「平和ですな」
「だから基準がおかしいって」
*
問題があるとすれば。
終わらないこと。
「もう日が沈みますぞ」
「だから?」
女戦士は。
汗まみれ。
足元までびしょびしょ。
それでも。
まだ元気だった。
「朝からですぞ」
「まだ動ける」
獣人も。
「俺もだ」
「似た者同士」
「ほんっと相性いいよね」
*
ようやく終わっても。
女戦士の身体は。
すぐには静かにならない。
「オホッ……!」
「まだ!?」
座っているだけなのに。
さっきまでの激しさが身体に残っているらしく。
「オホォォッ……!」
また大きく身体が震える。
「触ってないぞ」
「分かってる!」
「では何故」
「余韻だよ!」
少しして。
「オホッ……!」
また。
「……大丈夫ですかな」
「見るな!」
「濡れておりますぞ」
「見るなって言ってんだろ!」
*
ギャルも。
人のことは言えない。
「オホッ……!」
「ギャルさん?」
「今の違う!」
「何が?」
「まだ身体が勝手に!」
「ほう」
「見るな豚!」
「見えておりますぞ」
「向こう向け!」
「ドゥフフ」
「ぶん殴るぞ!」
汗に濡れ。
髪までぐしゃぐしゃ。
身体には草まで張りついている。
それなのに。
少し休んだギャルが。
「……もう一回いけるかも」
「やはり」
「うるせえ」
*
「ということで」
話は薬草採取へ戻る。
オッサンがまとめた。
「受付のお姉さんと童貞神父さん」
「変態」
「女将さん一家」
「変態」
「獣人さんと女戦士さん」
「一日中交尾してるだけ」
「平和ですな」
「比較対象が悪いだけ」
「でも気楽でしょう?」
「それはそう」
ギャルは笑う。
「私もあそこ混ざるの楽」
「おじさんも」
「変な設定いらないし」
「はい」
「汗だくになって」
「はい」
「オホ声上げて」
「はい」
「全員何度も限界まで行って」
「はい」
「疲れたら飯食って休む」
「健康的ですな」
「健康的ではねえ」
*
「たださ」
「何ですかな」
「オッサン」
「はい」
「獣人と私が楽しんでるところ見るの」
「はい」
「好き?」
「……」
「遅い」
「少し?」
「へえ」
「ギャルさんは?」
「オッサンが女戦士と遊んでるの」
「はい」
「結構好き」
「ドゥフフ」
「その笑い方すると一気に気持ち悪くなる」
「酷い!」
「でもさ」
ギャルは摘んだ薬草を袋へ入れた。
「私たち恋人じゃないんだけどね」
「そうですな」
「なのに、他の相手と汗だくになってるの見ると」
「はい」
「ちょっと取られた感じする」
「ありますな」
「で」
ギャルが笑う。
「終わったあと私のところ戻ってくる」
「はい」
「それもいい」
「分かりますぞ」
二人。
少しだけ黙る。
「……」
「……」
「私たちも大概だな」
「今さらですぞ」
「豚に言われたくねえ」
*
遠く。
林の向こうから。
「オホォォォォッ……!」
響く。
続いて。
「オッ! オッ! オッ……!」
二人。
顔を上げた。
「まだやってる」
「朝からですぞ」
「もう夕方じゃん」
「今日は長いですな」
「行く?」
「薬草は?」
「だいたい集まった」
「では」
「ちょっとだけ」
二人は同じ方向へ歩き始める。
「ギャルさん」
「何?」
「ちょっとで終わりますかな」
「知らん」
「明日になるかもしれませんぞ」
「飯持ってる?」
「干し肉なら」
「水は?」
「あります」
「じゃあ大丈夫」
「何が大丈夫なのですかな」
また。
林の奥から。
「オホォォォッ……!」
女戦士の声。
ギャルが笑う。
「ほら。呼んでる」
「呼んでおりますかな?」
「行けば分かるっしょ」
そして。
二人は。
薬草袋を持ったまま。
今日も。
一番平和で。
一番単純で。
一番汗まみれになる。
獣人と女戦士のところへ向かった。
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