第六話 木杯と木剣、見せ合ったら止まらない
「で」
ギャルは腕を組んだ。
「そっち、本当にそのコップ孕ませてんの?」
「木杯ですぞ」
「コップじゃん」
「木杯ですなぁ」
「どっちでもいいし」
冒険者ギルドの片隅。
初対面から十分も経っていないのに、おじさんとギャルは互いの性神の祝福について情報交換していた。
おじさんの腰には木杯。
「オホォ……」
ギャルの背中には、布をぐるぐる巻きにした木剣。
「オホォォ……」
二つが交互に鳴く。
「……」
「……」
「うちら、ギルドにいていいのかな」
「追い出される前に話を済ませた方がよさそうですなぁ」
「それな」
周囲の冒険者は、もう露骨に距離を取っていた。
「そっちは?」
おじさんが木剣を見る。
「雄ですかな?」
「雄」
「ドゥフフ」
「何その笑い」
「いやぁ。おじさんは物を雌にして、お嬢さんは雄にする。実に対照的ですなぁと思いまして」
「マジそれ」
ギャルは木剣を背中から下ろした。
布。
白い染み。
「……また染みてる」
「ほほう」
「見るな」
「見てませんぞ」
「ガン見じゃん!」
「いやぁ、布の状態を」
「それがキモいっつってんの!」
ギャルは布を握る。
湿っている。
「最悪……さっき替えたばっかなんだけど」
「元気ですなぁ」
「そっちのコップだって鳴いてんじゃん」
「オホッ」
「ほら」
「この子も元気ですぞ」
「子じゃないし」
「おじさんに二度ほど孕まされておりますからなぁ」
「二回!?」
「本日二回目ですなぁ」
「出産した後にまた?」
「ドゥフフ」
「キモ」
「またそれ!」
しかし。
気になる。
ギャルは木杯を見る。
「それ、何できんの?」
「飲み物を甘露へ変えますぞ」
「甘露?」
「毒も腐敗も浄化するようですなぁ」
「は?」
おじさんは近くの水差しから水をもらい、木杯へ注いだ。
淡く光る。
「どうぞ」
「いや、飲んで平気?」
「おじさんも飲みましたぞ」
「それ安全の証明になってる?」
「丈夫ですからなぁ」
「ダメじゃん」
それでも飲んだ。
「……」
目を見開く。
「何これ」
「うまいでしょう?」
「めっちゃ甘い」
「砂糖水とは違うでしょう?」
「うん。なんか身体に入った瞬間、全部スッキリする」
「聖別された甘露とかいうものらしいですなぁ」
ギャルは木杯を見る。
「性能ヤバ」
「でしょう?」
「見た目普通なのに」
「オホォ……」
「鳴かなきゃね」
「そこは諦めましたなぁ」
今度はおじさんが木剣を見る。
「そちらは?」
「元は捨てる木剣」
「ほほう」
「でも使うたび強くなる」
ギャルは立ち上がった。
軽く振る。
ぶんっ。
空気が鳴った。
「……木剣ですかな?」
「木剣」
「今、風切り音がおかしくありませんでした?」
「うちもそう思う」
もう一度。
ぶんっ。
「たぶんこのまま育てたら、マジで伝説級いくと思う」
「それは手放せませんなぁ」
「だからこいつだけ残す」
「おじさんも木杯だけですなぁ」
「他は?」
「できるだけ手放しますぞ」
「うちも」
また一致した。
「……」
「……」
「なんかムカつく」
「なぜですかな!?」
「おっさんと考え方同じなのが」
「おじさんも若いギャルと同類扱いされるのは複雑ですぞ」
「は?」
「おや」
「今ケンカ売った?」
「ドゥフフ」
「その顔マジむかつく!」
*
結局。
「説明だけじゃ分かんない」
と言い出したのはギャルだった。
「おっさんの種付けプレスって、実際どんなん?」
「実際ですかな?」
「うん」
「見ます?」
「……」
「ドゥフフ」
「その笑い方するとやっぱやめたくなる」
「では見ない?」
「見る」
「どっちですかな」
「同じ神の祝福なんでしょ? 条件とか比較した方がよくない?」
「それは一理ありますなぁ」
「うちのも見せる」
「ほう!」
「食いつくなキモい!」
「いやいや、比較検証ですぞ!」
「絶対それだけじゃないじゃん!」
否定できない。
おじさんも男である。
十八歳の派手なギャルが、自分の能力を実演すると言っている。
多少期待する。
ただし。
好みではない。
そこだけは本当だった。
「でもここじゃ無理」
「当然ですなぁ」
「外」
「人のいないところですかな?」
「倉庫とか」
ギルドの受付へ相談した。
内容はかなりぼかした。
「能力の検証をしたいので、音が出ても大丈夫な場所はありませんかな?」
「どの程度の音ですか?」
「かなり」
「かなり?」
「あと声」
「声?」
「かなり」
受付嬢は二人を見る。
木杯。
「オホォ……」
木剣。
「オホォォ……」
「……町の外に古い資材小屋があります」
「助かりますぞ!」
「ありがとうございます」
「壊さないでくださいね」
「善処しますなぁ」
「壊さないでください」
「はい」
*
町外れ。
使われていない資材小屋。
壁は厚い。
周囲には人影もない。
「じゃ」
ギャルが木箱に座った。
「おっさんから」
「おじさんからですかな?」
「見せて」
「ドゥフフ」
「だからその笑い方やめろって!」
「では真面目に」
木杯を床へ置く。
仰向け相当。
「これが重要ですぞ」
「何が?」
「向き」
「コップに向きとかあんの?」
「神様判定ですからなぁ」
「めんどくさ」
「まったくですぞ」
おじさんが説明する。
上から覆う。
押さえる。
下向きの動作。
最後まで完遂。
「これ以外だと四十八時間の条件に入りませんなぁ」
「ガチでめんどいじゃん」
「でしょう?」
「でも今日はもう条件クリアしてるんでしょ?」
「ええ」
「じゃ今やる意味なくない?」
「……」
「……」
「やりたい」
「キモ」
「お嬢さんだって同じでしょう!」
「うちもやりたいけど!」
「ほら!」
「でもおっさんが言うとキモい!」
「理不尽!」
木杯。
「オホッ!」
「お前も参加すんな」
*
「じゃ、見てますぞ」
「うん」
ギャルは腕を組んだ。
「……」
おじさんは少し緊張した。
「何ですかな」
「別に」
「見られておりますと」
「見せるって言ったじゃん」
「そうですがなぁ」
普段とは違う。
目の前に誰かいる。
しかも。
性神の同じ祝福を持つ女。
「ドゥフフ……」
「何?」
「いやぁ」
妙に張り切りたくなる。
「ちょっと本気を出しますかなぁ」
「何で対抗意識出してんの?」
「男というのは見られると張り切るものですぞ」
「知らんし」
始まった。
詳細は省く。
だが。
音は省けない。
ズンッ!
「オホォッ!」
「うわ」
ズンッ!
「オッホォォォォッ!」
「音デカ!」
「いつもより少々気合いが入っておりますなぁ!」
「何で!」
「見られてますからなぁ!」
「バカじゃん!」
ズンッ、ズンッ!
「オホッ! オホォォォォッ!」
木杯の声も。
いつもより大きい。
「そっちもテンション上がってない?」
「オホォッ!」
「絶対上がってんじゃん!」
「ドゥフフ!」
ギャルは呆れていた。
なのに。
目を逸らさない。
「……」
おじさんが気づいた。
「お嬢さん」
「何!」
「随分熱心に見ておりますなぁ」
「能力見てんの!」
「ほほう」
「その顔やめろ!」
また。
ズンッ!
「オホォォォォォッ!」
普段より激しい。
普段より長い。
おじさん自身も分かっている。
人に見られている。
ギャルに見られている。
それだけで妙に昂ぶる。
そして。
「出ますぞ」
「オホッ!」
「濃いのが……」
「うわ、実況すんの!?」
「オッ! オッ! オッ! オッ!」
「オッホォォォォォォォォッ!」
木杯が震えた。
大量の液体。
「うわ!」
ギャルが後ろへ下がる。
「床びっしょ!」
「いつものことですぞ!」
「これ毎回!?」
「毎回ですなぁ!」
「最悪!」
静かになった。
「……」
おじさんは息を整えた。
木杯。
「オホォ……」
「ドゥフフ」
「終わり?」
「何を言いますかな」
おじさんは眼鏡を押し上げる。
「見られて一回だけでは格好がつきませんぞ」
「いや何の格好!?」
「さて」
木杯。
「オホッ!」
「抜かずの二回戦ですぞ」
「マジで続けんの!?」
続けた。
ズンッ!
「オホォォォォッ!」
「いや一回目より激しくなってない!?」
「まだまだですぞ!」
「何張り合ってんの!」
そして三回。
四回。
「まだ!?」
「性神様の加護ですからなぁ!」
「おっさん元気すぎ!」
「お嬢さんに言われたくありませんぞ!」
「まだうち何もしてないし!」
「では次はお嬢さんですなぁ!」
「……」
ギャル。
木剣を見る。
「いいよ」
「ほほう」
「見せたげる」
*
布を外す。
白濁した布。
「うわぁ」
「その反応やめろ!」
「いやぁ、かなり染みておりますなぁ」
「だから布替えてもすぐなんだって!」
木剣。
「オホォォ……」
「お前も準備良すぎ!」
ギャルが木剣を持つ。
おじさんが座る。
「では拝見しますかなぁ」
「ガン見すんなよ」
「見せるのでは?」
「そうだけど!」
「難しい注文ですなぁ」
「キモい顔すんなってこと!」
「顔は変えられませんぞ!」
そして。
「……」
ギャルも。
妙に緊張した。
「何?」
「いや」
「ドゥフフ」
「笑うな!」
「見られて緊張しております?」
「してない!」
「ほう」
「してないって!」
している。
いつも一人。
木剣だけ。
今日は。
脂っこい中年ハゲデブチビが見ている。
「……最悪」
「何ですかな?」
「何でもない!」
なのに。
身体は。
いつもより熱い。
「……ムカつく」
「おじさん何かしましたかな?」
「いるだけ」
「酷い!」
*
始まった。
「来る……」
「早いですなぁ」
「黙って!」
「はい」
「来る、来る来る来る……っ!」
木剣。
「オホォォォォッ!」
「あっ、ダメ……!」
おじさんの眼鏡が光る。
「……」
「見るな!」
「いやぁ、能力検証ですからなぁ」
「その言い訳さっきうちが使った!」
「便利ですなぁ」
「ムカつく……っ!」
木剣。
「オホォッ!」
「熱いの……!」
ギャルの声が変わる。
「もっと……濃いの……!」
「ほう」
「感想言うな!」
「いやぁ」
「孕ませて……っ、いっぱい……!」
木剣では妊娠しない。
本人も分かっている。
それでも言ってしまう。
「来る……あっ、ダメ!」
「オホォォォォッ!」
「お゙っ……!」
ギャルが一瞬、自分の口を押さえた。
「今のが」
「言うな!」
「例の」
「言うなって!」
もう遅い。
「んお゙っ……お゙っ、お゙っ……!」
「ほほう」
「お゙っ゙お゙っ゙お゙っ゙ぉ゙ぉ゙ぉ゙っ!!」
「おお……」
「感心すんなぁ!」
木剣。
「オホォォォォォッ!」
二つの声。
小屋いっぱいに響く。
床へ白濁液。
布にも染みる。
「もう……出てる……っ!」
「木剣殿、早いですなぁ」
「お前も実況すんな!」
「ドゥフフ」
「もっと……っ、このまま……!」
そして。
一回。
二回。
三回。
「いやぁ」
おじさんが眼鏡を押し上げる。
「お嬢さんも大概ですなぁ」
「うっさい……!」
「普段より激しいのでは?」
「……」
「ドゥフフ」
「おっさんに見られてるから!」
「おや」
「変な意味じゃないから!」
「何も言ってませんぞ」
「顔が言ってんの!」
木剣。
「オホッ!」
「お前も黙れ!」
だが。
止まらない。
「来る来る来る……!」
「またですかな?」
「数えんな!」
「四回目?」
「知らん!」
「五回目?」
「お゙っ゙お゙っ゙お゙っ゙ぉ゙ぉ゙ぉ゙っ!!」
「おお」
「だから感心すんな!」
*
終わった頃。
資材小屋は。
酷かった。
「……」
「……」
床。
びしょびしょ。
木杯。
また膨らんでいる。
木剣。
さらに艶が増している。
巻き直した布。
もう白濁液が染みている。
「……最悪」
「いやぁ、なかなか有意義な検証でしたなぁ」
「どこが」
「互いに見られると」
「うん」
「いつもより激しくなる」
「……」
「回数も増える」
「……」
二人。
目が合う。
「それ、性神の祝福?」
「分かりませんなぁ」
「単に見られて興奮してるだけじゃない?」
「可能性はありますなぁ」
「最悪」
「お互い様ですぞ」
「うちはおっさんに見られて興奮したわけじゃないし!」
「おじさんもビッチギャルを見て興奮したわけではありませんぞ!」
「誰がビッチ!」
「服装も言動も!」
「清楚系好きとか言ってたオッサンのくせにガン見してたじゃん!」
「能力検証ですぞ!」
「うちの言い訳パクんな!」
二人は睨み合う。
しかし。
「……」
「……」
どちらも。
妙に身体が軽い。
満たされている。
しかも。
相手の姿が。
さっきより気になる。
「……ムカつく」
「奇遇ですなぁ」
「何が」
「おじさんもですぞ」
「絶対タイプじゃないのに」
「おじさんも清楚系がいいですなぁ」
「うちもイケメンがいい」
「では問題ありませんなぁ」
「なのに何で見んの?」
「お嬢さんこそ」
「……」
「……」
「キモ」
「最後それで終わらせます!?」
*
二人は小屋を出た。
「もう一回する?」
ギャルが聞いた。
「どちらが?」
「それぞれ」
「ドゥフフ」
「笑うな」
「おじさんは構いませんぞ」
「うちも」
「先ほど十分やったのでは?」
「まだやれるし」
「おじさんもですなぁ」
また小屋へ戻る。
「……」
「……」
「ほんとバカじゃない?」
「性神様のせいですなぁ」
「それで全部済ますのズルくない?」
「便利ですぞ」
扉が閉まる。
少しして。
ズンッ!
「オホォォォォォッ!」
「来る来る来る……っ!」
「オホォォォォッ!」
「出ますぞ! 濃いのが、オッ! オッ! オッ!」
「お゙っ゙お゙っ゙お゙っ゙ぉ゙ぉ゙ぉ゙っ!!」
町外れまで。
普通に聞こえた。
翌日。
この小屋の近くには誰も寄りつかなくなった。




