第五十四話 爆乳メイド長と風呂で張り合っていたら、旦那様に見つかりました
エリーが三人目の秘密を知ってから、数日。
その夜。
離れの浴室には、ユキとエリーの二人だけがいた。
「せっかくですから、一緒に入りません?」
そう誘ったのはユキだった。
マコトはまだ仕事。
離れへ来るのは少し遅くなる。
なら、その前に女同士で湯浴みでも。
という。
建前だった。
「……」
「エリー?」
「見ています」
「何を?」
「あなたをです」
三人の時とは違う。
ここには旦那様がいない。
二人きり。
そして。
エリーの視線は。
全裸のユキの身体を上から下まで遠慮なく眺めていた。
「……何です?」
「やはり」
「はい?」
エリーの目が細くなる。
「淫売ですね」
「いきなり!?」
*
三人の前では。
エリーはユキと呼ぶ。
公の場なら、当然公爵令女。
だが。
二人きりになると。
「淫売」
「何で定着したんですの!?」
「旦那様をあんなふうにした女ですので」
「マコトも喜んでます!」
「そこが腹立たしいのです」
「嫉妬では?」
「嫉妬ですが?」
「認めるんだ」
エリーは平然としていた。
「それに」
「何?」
「その身体」
視線が。
また下がる。
「……反応しておりますよ」
「見ないでくださいませ!」
「誘ったのは淫売でしょう?」
「お風呂へですよ!」
「私の身体を見て、もうそれですか」
「爆乳で全裸のエリーが目の前にいれば仕方ないでしょう!」
「開き直りましたね」
*
ユキも。
負けじと言い返す。
「でも」
「何でしょう」
「マコトは、これが好きなんですよ?」
「……」
「私の男としての身体も」
「はい」
「女としての身体も」
「……」
「両方」
ユキが。
わざとらしく胸を張る。
「離れでは散々、私を欲しがりますから」
「……淫売」
「ほら嫉妬した」
「黙りなさい」
「それに」
ユキがさらに笑う。
「エリー」
「何です?」
「マコトは、私に乱されるのも好きなんですよ」
「……」
「男として強がってても」
「はい」
「私が本気で意地悪すると」
「はい」
「すぐオホ声です」
「……」
「可愛いですよ?」
「黙れ、淫売」
「効いてる!」
*
そこで。
エリーが。
急に距離を詰めた。
「え?」
壁。
ユキ。
その正面にエリー。
「ちょっと」
「何です?」
「近い」
「今さら?」
エリーの手が。
ユキの身体へ触れる。
「っ……!」
「さっきから」
「何?」
「随分と旦那様の自慢ばかり」
「事実ですから」
「なら」
エリーが。
耳元で囁く。
「旦那様が来るまでに」
「……」
「何もできない身体にしておきましょうか」
「エリー?」
「大丈夫」
「何が?」
「嫌なら止めます」
一度。
確認。
ユキは。
数秒。
エリーを見る。
「……止めません」
「では」
エリーが笑った。
「覚悟なさい、淫売」
*
そこから。
立場が。
一気に変わった。
「んっ……!」
「どうしました?」
「エリー……!」
「先ほどまで随分と偉そうでしたよね」
「だって……!」
「旦那様にはこれが好きだ」
「はい……!」
「旦那様は自分を欲しがる」
「はい……!」
「随分と自信満々で」
エリーの手つきは。
妙に上手かった。
どこへ触れれば。
ユキが一番嫌がるのか。
いや。
一番喜ぶのか。
数日前に三人で過ごした経験から。
もうかなり覚えている。
「っ……!」
「淫売」
「何です……?」
「腰が逃げています」
「逃げてません……!」
「なら」
エリーがさらに近づく。
「こちらへ」
「オホッ……!」
*
「出ましたね」
「言わないで!」
「旦那様の前では散々出しているでしょう?」
「それとこれは別ですわ!」
「何が違うのです?」
「エリーに言われると腹が立つ!」
「ではもっと言いましょう」
エリーが。
ユキの手を頭上へまとめるようにして。
壁際へ押さえる。
もう片方の手は。
胸元へ。
「っ……!」
「小さい」
「エリー!」
「私と比べれば」
「爆乳を基準にしないで!」
「でも」
エリーの指が。
意地悪に動く。
「ここは随分と素直ですね」
「オホッ……!」
「淫売」
「……!」
「何でも気持ちよければいいのですか?」
「違う……!」
「では何故」
ユキの身体が。
エリーへ。
だんだん。
自分から近づいていく。
「私にそんなに擦り寄ってくるのでしょう」
「オホォッ……!」
*
しばらくすると。
ユキの方が。
先に余裕を失った。
「エリー……」
「何でしょう」
「私にも」
「何を?」
「触らせて」
「何処へ?」
「……」
「言えませんか?」
「エリー!」
「ではこのまま」
「触りたい!」
「何を?」
「エリーの身体!」
「全部?」
「全部!」
エリーが。
少し笑った。
「本当に淫売」
「うるさい!」
「旦那様がいなくても」
「はい……!」
「私一人で、こんなになる」
「オホッ……!」
「貴様なんて」
耳元。
「旦那様に捨てられたら、誰にでも縋るのでしょうね」
「それはない!」
「何故?」
「マコトが捨てないから!」
「……」
一瞬。
エリーが止まった。
「何?」
「そこだけ」
「はい?」
「即答なのが腹立たしい」
「嫉妬!」
*
しかし。
今度は。
エリー自身にも。
余裕がなくなってきた。
「……淫売」
「エリー?」
「黙って」
「今」
「黙れ」
キス。
強引に。
ただし。
嫌なら離れられる程度に。
ユキも。
即座に応じる。
「んっ……!」
「……」
「エリー」
「何?」
「そっちも」
「……」
「かなり来てますよね」
「うるさい」
「私だけじゃない」
「うるさいと言いました」
「エリーも淫――」
「それ以上言ったら」
「何?」
「後悔させます」
「やってみれば?」
今度は。
ユキから。
口づけた。
*
そこから先。
二人は。
もうどちらが先に始めたのか分からなくなった。
壁際。
浴槽の縁。
互いに抱き合い。
キスをして。
胸や腰へ触れ。
相手が嫌がるところと。
喜ぶところを。
競うように探す。
「オホッ……!」
「ユキ……!」
「エリー……!」
「オホォッ……!」
片方が力を失えば。
もう片方が支える。
そのまま。
少し落ち着けば。
今度は支えられていた側が反撃する。
「まだ?」
「まだです……!」
「なら」
「エリーこそ!」
「私はまだ――オホッ……!」
「ほら!」
「淫売!」
「爆乳!」
「それは悪口になっていません!」
*
やがて。
浴室は。
本来の目的から。
完全に遠ざかっていた。
湯気。
汗。
濡れた床。
行為の余韻。
浴槽へまで。
二人が騒いだ痕跡が残る。
「……」
「……」
それでも。
二人はまだ離れない。
額を寄せ。
肩で息をする。
「エリー」
「何です?」
「楽しい?」
「……」
「私は楽しい」
「淫売」
「それ答えになってない」
「……楽しいです」
「ほら」
「旦那様には言わないでください」
「何で?」
「何となく」
「嫉妬させたい?」
「……少し」
*
ガチャ。
「え?」
「……」
二人とも。
固まった。
浴室の扉。
「お二人とも?」
マコトだった。
「先に入ってると聞いたので――」
止まる。
「……」
「……」
「……」
三人。
沈黙。
マコト。
濡れた床。
ユキ。
エリー。
二人とも全裸。
しかも。
完全に抱き合ったまま。
「……何してるんです?」
「これは違うのです!」
エリーが即答した。
「何が違うの?」
「旦那様!」
「エリー」
「はい!」
「腰」
「……」
「止まってませんよ」
「オホッ……!」
「ほら」
「違うのですぅ……!」
言葉とは裏腹に。
身体は。
まだ完全には余韻から抜けていなかった。
*
マコトの顔が。
変わった。
いたずらを思いついた時の顔。
「エリー」
「旦那様?」
「お仕置きが必要ですね」
「何故です!?」
「私がいない間に」
「はい」
「ユキと二人で」
「これは」
「楽しそうですね?」
「……」
「しかも」
マコトがユキを見る。
「ユキ」
「何?」
「エリーに何て呼ばれてました?」
「淫売」
「ユキ!」
「本当でしょう!」
マコトが。
吹き出した。
「エリー」
「はい……」
「完全に馴染んでる」
「違うのです」
「その言い訳」
一歩。
近づく。
「あとでゆっくり聞きます」
*
そこから。
今度は三人になった。
マコトが。
エリーを後ろから支える。
ユキは正面。
「エリー」
「旦那様……」
「無理なら止めて」
「……止めません」
「じゃあ」
そのまま。
三人で。
浴槽へ。
「わっ……!」
「危ない!」
「だから支えてます」
「旦那様……!」
マコトが背後。
ユキが正面。
また。
エリーが。
前後から挟まれる。
「オホッ……!」
「エリー」
「はい……!」
「さっきまでユキを淫売って言ってた人が」
「旦那様!」
「今は一番声大きいですよ」
「オホォッ……!」
*
ユキも。
負けていない。
「エリー」
「何……?」
「よかったね」
「何が?」
「大好きな御主人と」
「……」
「こんなに近くで」
「……」
「私まで一緒」
「淫売……!」
「まだ言えるんだ」
ユキが。
エリーへキス。
その直後。
マコトにも。
「んっ……」
「ユキ」
「何?」
「忙しいですね」
「三人なので」
そして。
またエリーへ。
「ほら」
「何?」
「大好きな御主人と同じ唇」
「……」
「これで私ともキスしたら」
「……」
「もう御主人経由の間接キスどころじゃないよ?」
「淫売……!」
「顔赤い」
*
エリーは。
とうとう。
マコトへ助けを求める。
「旦那様」
「何?」
「この女」
「ユキ?」
「どうにかしてください」
「でも」
「はい?」
「楽しそうですよ」
「誰が!」
「二人とも」
「……」
「……」
ユキとエリー。
目が合う。
「エリー」
「何です?」
「否定できる?」
「……」
「私は無理」
「……淫売」
「やっぱ楽しいんだ」
*
浴室では。
その後も。
三人で。
何度か立場を変え。
誰かが主導して。
誰かが翻弄され。
また逆転する。
「オホッ……!」
「マコト……!」
「エリー……!」
「ユキ……!」
最後には。
誰が誰へ嫉妬しているのか。
誰が誰を取り合っているのか。
本人たちにも。
もうよく分からなくなっていた。
*
「……移動しません?」
最初に言ったのはマコトだった。
「何処へ?」
「ベッド」
「まだ続けるのですか?」
エリーが聞く。
「嫌?」
「……」
「エリー?」
「嫌とは」
少し視線を逸らす。
「言っておりません」
「では」
ユキが笑う。
「行きましょう」
「淫売」
「はいはい」
*
三人は。
浴室を出た。
そして。
今度はベッドへ。
そこでも。
立場を変え。
誰が主導するかを奪い合い。
キスをして。
抱き合い。
互いの身体を好き勝手に可愛がる。
マコトを巡って。
ユキとエリーが張り合い。
ユキを巡って。
マコトとエリーが意地になり。
エリーを巡って。
マコトとユキが競う。
「ちょっと待って」
途中。
マコトが言った。
「何?」
「何でしょう、旦那様」
「これ」
「はい」
「誰が誰を取ったとか」
「はい」
「もう意味なくない?」
「……」
「……」
三人とも。
少し考える。
「そうですわね」
「そうですね」
「じゃあ」
マコトが笑った。
「三人とも好きなようにしましょう」
「賛成」
「……旦那様がそう仰るなら」
そこから先。
三人は。
誰か一人を奪い合うというより。
全員で。
互いを取り合うように。
夜を楽しんだ。




