第五十二話 爆乳メイド長を妄想しすぎた公爵令女が下着でやらかして、とうとう秘密を明かすことになりました
離れへやって来たユキは、いつになく神妙な顔をしていた。
「マコト」
「何?」
「すいません」
「どうしたんです?」
「やらかしました」
嫌な予感しかしない。
マコトは手にしていた茶を置いた。
「何を?」
「昨日、爆乳メイド長について散々妄想しましたわよね」
「しましたね」
「意識しすぎました」
「はい?」
「辛抱できなくなりまして」
ユキが視線を逸らす。
「メイド長の下着を使って、自分を慰めました」
「……」
「それで、オホ声を出しながら限界を迎えたところを」
「まさか」
「本人に見られました」
「なにやってんですか!?」
「申し訳ありません!」
「エロゲ脳すぎるでしょう!」
「自覚しております!」
「妄想した翌日に本人の下着でやらかす人がいます!?」
「ここに!」
「威張らない!」
*
マコトは額を押さえた。
「で、メイド長には?」
「その場で謝りました」
「それだけで済むわけないですよね」
「説明を求められました」
「でしょうね」
「それと」
ユキがさらに小さな声になる。
「このあと、こちらへ来ます」
「今から!?」
「はい」
「先にそれを言ってください!」
「だから最初に、やらかしましたと!」
「規模が分からなかった!」
その時。
コンコン。
二人とも止まった。
「……来ましたわ」
「本当に来た」
「旦那様、よろしいでしょうか」
扉の向こうから。
よく知った声。
マコトは一度深く息を吐いた。
「入ってください」
*
「失礼いたします」
入ってきたのは、旧男爵家の頃から屋敷を取り仕切ってきたメイド長だった。
いつも通り背筋は真っ直ぐ。
表情も厳しい。
そして。
昨日から二人が散々話題にしていた、非常に豊かな胸。
「……」
ユキの視線が。
一瞬だけ下がる。
「ユキ」
「見てません」
「見た」
「今はそれどころではありませんわ!」
「旦那様」
「はい」
メイド長の声は冷静だった。
それが余計に怖い。
「説明をお願いいたします」
「……はい」
「公爵令女とのご縁談を前提として、現在のお立場へ移られたものと理解しております」
「概ねその通りです」
「ですが」
メイド長がユキを見る。
「公爵令女は、我々へ性別を偽っておられたのでしょうか」
「違います!」
ユキが即座に否定した。
「私は生まれた時から女です!」
「では、私が先ほど見たものは?」
「それは……」
「しかも」
さらに目が鋭くなる。
「私の下着を使って、自らを慰めておられた」
「……はい」
「公爵閣下へ確認を取る必要があるのでは?」
当然だった。
公爵令女に周囲の知らない身体上の秘密がある。
その令女が、自分の主人との婚姻話を進めている。
さらに使用人の下着を使って、とんでもないところを本人に目撃された。
何も知らないメイド長からすれば、大事件である。
*
「待ってください」
マコトが口を挟んだ。
「メイド長」
「はい」
「これから私たちは、あなたへ秘密を明かします」
「秘密?」
「あなたを信頼しているからです」
メイド長の表情が僅かに変わった。
マコトはユキを見る。
ユキも頷く。
「今から見ることについて、声を抑えていてほしい」
「……旦那様?」
「公爵閣下にも、詳しいことまでは伝えていません」
「何をなさるおつもりで?」
「見てもらった方が早いです」
*
二人は立ち上がった。
そして。
メイド長の前で服を脱いだ。
「……」
まずユキ。
女として生まれ育った、公爵令女の身体。
ただし今は、性神の祝福によって男性側の特徴も加わっている。
次にマコト。
男として生まれた身体。
こちらも、以前とは違う。
女性側の身体が増えてから、胸元の輪郭や肌つきも僅かに女らしく変わっている。
とはいえ。
胸そのものは。
相変わらず見事なまでに平らだった。
「……旦那様?」
メイド長が目を見開く。
「説明します」
マコトは、自分の身体に起きた変化が分かるように向き直る。
「私は神の祝福を受け、このように女性側の身体も持つようになりました」
「……」
「胸元なんかも少し女っぽくなりましたけど」
自分の胸を見る。
「ここは相変わらず、まな板です」
「今そこを説明する必要あります?」
ユキが突っ込む。
「昨日から爆乳の話ばかりされたので」
「根に持ってる!」
*
メイド長は。
今度はユキを見る。
「公爵令女も?」
「はい」
ユキが頷いた。
「私は逆です。女として生まれましたが、祝福によって男性側の身体が加わりました」
「……神の祝福」
「性神様です」
マコトが言った。
「私たちは二人とも、性神様の加護を受けています」
「性神……」
「公爵閣下には」
ユキも続ける。
「二人だけの特殊な祝福を受けた、としか伝えておりません」
「何故、そこまで重大なことを」
「説明しづらすぎるからです」
マコトが即答した。
「……」
「それと、この祝福は身体を変えただけではありません」
「と申しますと?」
「身体そのものは以前より健康です。丈夫にもなりました」
「それなら」
「ただし」
マコトの声が真面目になる。
「一定期間ごとに、性神様から定められた条件を満たさないと、生きていけません」
メイド長の顔が変わった。
*
「旦那様にも?」
「あります」
「公爵令女にも?」
「あります」
「それで、お二人はこの離れで?」
「互いに条件を満たしています」
マコトはそこだけ簡潔に答えた。
「遊び半分ではありません。少なくとも最初は」
「最初は?」
メイド長が聞き返す。
ユキが目を逸らした。
「最近は」
「ユキ」
「嘘はいけませんわ」
「何を言う気です?」
「……かなり楽しんでもおります」
「言った!」
「事実ですもの!」
メイド長が無言になる。
*
「もう一つ」
マコトが咳払いした。
「この身体になってから、私たちは以前より男女を問わず、人を性的に意識しやすくなっています」
メイド長の視線が。
ゆっくりユキへ向く。
「つまり」
「はい」
「私の下着も?」
「……はい」
ユキは。
深々と頭を下げた。
「申し訳ありません」
「何故、私のものを?」
「その」
「はい」
「昨日から爆乳を意識しすぎまして」
「ユキ!」
「事実でしょう!」
メイド長の目が細くなる。
「公爵令女」
「はい」
「爆乳という言葉を」
「はい」
「私の前で連呼なさらないでください」
「申し訳ありません」
*
「メイド長」
マコトが改めて頭を下げた。
「彼女を許してやってほしい」
「旦那様」
「男性側の身体を得て、まだ日が浅いんです。衝動の扱いにも慣れていない」
「だから私の下着を?」
「そこは普通に怒ってください」
「マコト!」
「そこまで擁護できない!」
「はい……」
「ただ」
マコトは続ける。
「彼女があなたを魅力的だと思ったこと自体は、責めないでやってほしい」
メイド長は。
しばらく二人を見る。
*
「旦那様」
「何です?」
「一つ、伺ってもよろしいでしょうか」
「どうぞ」
「旦那様は」
少し言いづらそうに。
「男性の方にしか、興味をお持ちではないのですか?」
「え?」
ユキの眉が上がる。
「何でそう思ったんです?」
「旦那様にも女性側の身体があり」
「はい」
「公爵令女との特殊な関係も伺いましたので」
「ああ」
マコトは首を振った。
「男女どちらにも興味がありますよ」
「女性にも?」
「あります」
「……」
「それに」
マコトは苦笑する。
「今も、メイド長を前にしているだけで、かなり身体が反応してしまっています」
全裸なのだから。
隠しようがなかった。
「ですから、女性に興味がないということはありません」
「私にも?」
「……」
マコトが止まる。
横から。
ユキがじっと見る。
「マコト」
「何?」
「正直に」
「分かってます」
マコトは観念した。
「あります」
「かなり?」
「ユキ!」
「重要ですわ」
「……かなりあります」
メイド長が。
初めて僅かに頬を染めた。
*
「旦那様」
「はい」
「私は、長く旦那様へお仕えしてまいりました」
「知っています」
「御当主であられた頃から」
「はい」
「公爵家の代官となられてからも」
「ええ」
「そして、この先もお仕えするつもりです」
「ありがたいです」
メイド長は。
少しの間。
黙ってマコトを見つめた。
それから。
エプロンへ手をかける。
「……え?」
マコトが固まった。
ユキも。
同じように固まる。
「メイド長?」
「旦那様」
「はい?」
「もし」
結び目が解かれる。
「私にも、その秘密へ関わることをお許しいただけるのでしたら」
「……」
「旦那様」
上着にも手がかかる。
「私を」
一度。
息を吸って。
「慰み者にしていただけますか」
「……」
「……」
*
メイド長は。
一気に服を脱いだ。
そして。
爆乳。
巨尻。
普段の厳格な姿からは想像しづらいほど、成熟した豊かな裸体が現れる。
「……」
ユキ。
凝視。
「……」
マコト。
凝視。
女性側の身体を得てから少し女らしくなったとはいえ、依然として胸の膨らみがほとんどないマコトと並べば。
その差は。
あまりにも。
圧倒的だった。
「……マコト」
「何?」
「爆乳」
「言うな!」
メイド長は。
少しだけ頬を赤らめながらも。
主人から目を逸らさなかった。
「旦那様」
「……はい」
「私では」
一歩。
近づく。
「不足でしょうか」
次回。
爆乳メイド長。
参戦。




