第五十一話 爆乳メイド長を交えたらどうなるか考えたら、女二人で旦那様を奪い合う話になりました
騎士を交えた場合の妄想検討会から、少し時間を置いた翌日。
離れの居間で向かい合ったマコトとユキは、今度はもう一人の候補について話していた。
旧男爵家の頃からマコトに仕え、公爵家へ吸収された後も特別代官となった主人についてきた、叩き上げのメイド長。
口が堅い。
仕事ができる。
マコト個人への忠誠心もかなり強い。
そして。
「マコト」
「はい」
「正直に言います」
「嫌な予感」
「メイド長のあの爆乳で、旦那様を可愛がってほしくはあります」
「……」
マコトが自分の胸元を見る。
「まな板ですいませんね」
「どうしてマコトが謝るんですの?」
「ものすごく比較された気がしたので」
「マコトの身体も好きですわよ」
「フォローが遅い」
*
「でも」
ユキは腕を組んだ。
「騎士の時と同じ構図にするなら」
「はい」
「最初にメイド長が相手をするのは、私ではなくマコトでしょうね」
「何で?」
「だって」
ユキが当然のように言う。
「メイド長は旦那様推しなのでしょう?」
「その言い方」
「長年仕えて」
「はい」
「家がなくなっても残って」
「はい」
「マコトが無茶をすれば本気で叱る」
「はい」
「もう十分、旦那様推しですわ」
「まあ……」
否定しきれない。
*
ユキの中では。
すでに。
古いエロゲのような場面が始まっていた。
「まず」
「はい」
「離れで、私とマコトが好き放題しております」
「いつものことみたいに言わないで」
「最近はかなりいつものことですわ」
「……否定できない」
「それで」
ユキが芝居がかった声を出す。
「散々オホ声を出して、私がもうぐったりしているところへ」
「そこまで確定なんです?」
「確定です」
「はい」
「メイド長登場」
「どうやって?」
「そこは妄想なので適当に」
「雑」
扉を開けたメイド長が。
普段なら絶対に見ない。
主人と公爵令女の姿を見る。
「それで」
ユキが言う。
「私を見て、ちょっと怒ってほしい」
「何で?」
「愛しい旦那様が、公爵令女に散々乱されていたから」
「愛しいまで確定した?」
「妄想です」
「便利ですね」
*
「それでメイド長が」
ユキが胸へ手を当てる。
「『旦那様。そのような女に好き勝手されたのでしたら、私がお世話いたします』」
「そのような女って、自分で言ってます?」
「私はクソ女役です」
「公爵令女なのに」
「エロゲなので」
「強い」
「まずは」
ユキが楽しそうに続ける。
「散々私に付き合わされた旦那様を、メイド長が二人きりの時みたいに世話する」
「はい」
「爆乳も使って」
「そこだけ妙に具体的ですね」
「重要ですもの」
マコトも。
少しだけ。
想像してしまう。
普段は仕事の鬼。
帳簿がおかしければ役人を呼びつけ。
自分が徹夜しようとすれば普通に寝ろと叱る。
そんなメイド長が。
離れでだけ。
『旦那様、私をお使いください』
なんて言う。
「……」
「マコト」
「何?」
「今、想像しました?」
「してません」
「しましたわね」
「少しだけ」
「ほら」
*
「そこから」
ユキが言う。
「マコトがメイド長を可愛がる」
「はい」
「最初はかなり普通に」
「普通?」
「抱き合って、キスして」
「そこまでは」
「旦那様と長年仕えてきたメイド長らしく、ちょっと恋愛ものっぽく」
「急に純愛」
「その方が後半との落差が出ます」
「後半?」
嫌な予感。
「マコトがメイド長を抱き上げるようにしたところで」
「はい」
「私が後ろからメイド長へ抱きつく」
「ユキが?」
「私が」
「何で?」
「混ざりたいので」
「正直」
*
「そこで」
ユキが悪い顔になる。
「メイド長は、愛しい旦那様しか見ていなかったのに」
「はい」
「公爵令女にまで構われる」
「はい」
「しかも私は」
「はい」
「普通のお嬢様ではない」
「男性側の身体がある」
「そう」
「またそこ」
「騎士の時と同じですわ」
ずっと高貴な令女だと思っていた相手。
その相手が。
主人と離れで好き放題していて。
さらに自分にまで近づいてくる。
「メイド長は最初、絶対警戒する」
「でしょうね」
「でも」
ユキが指を一本立てる。
「本人が自分から続きを望んだら」
「そこは絶対」
「当然です」
臣下でも。
使用人でも。
断っても立場は変わらない。
途中でやめてもいい。
それを最初に確認する。
「現実なら、そこから」
「ですね」
「妄想なら?」
「本人も乗り気ということで」
「よろしい」
*
「それで」
ユキが続ける。
「愛しい旦那様の目の前で」
「はい」
「メイド長が、今度は私にまで翻弄される」
「……」
「普段のメイド長からは考えられないくらい」
「……」
「マコトはそれを見る」
「ユキ」
「何?」
「私、それかなり嫉妬すると思う」
「私もすると思います」
「ユキが?」
「だって」
ユキが眉を寄せる。
「私のマコトが、爆乳メイド長を抱いているんですわよ?」
「自分で提案しておいて」
「妄想と嫉妬は別です」
「昨日も似たこと言いましたね」
*
「でも」
ユキの顔が。
またエロゲオタクのそれへ変わる。
「嫉妬するからいいのです」
「出た」
「最初は私とメイド長で協力する」
「何を?」
「旦那様のお世話」
「はい」
「二人で可愛がって」
「はい」
「キスもして」
「はい」
「必要なら二人で口でも奉仕する」
「……」
「そこまでは協力」
「そこまでは?」
「途中から」
ユキがにやりとした。
「旦那様の奪い合い」
*
「メイド長が」
ユキが低い声を作る。
「『そろそろ旦那様をこちらへ』」
「はい」
「私が」
「はい」
「『まだ私の番ですわ』」
「……」
「メイド長が」
「はい」
「『公爵令女には先ほど散々お相手していただいたでしょう』」
「強い」
「私が」
「はい」
「『マコトは私の恋人です』」
「はい」
「メイド長が」
「はい」
「『旦那様に仕えてきた年月なら私の方が上です』」
「……」
「どう?」
「完全に女の嫉妬」
「そこがいい!」
*
しかも。
二人は。
ただ口喧嘩するだけではない。
「マコトをどちらが次に独占するか」
「はい」
「お互いを先に余裕なくさせた方が勝ち」
「何その勝負」
「なので」
ユキが指を動かす。
「キスしたり」
「はい」
「耳を責めたり」
「はい」
「乳首を弄ったり」
「ユキとメイド長が?」
「そう」
「私を取り合ってるのに?」
「相手を先に降参させるためです」
「すごいエロゲ」
「でしょう?」
「褒めてません」
「褒め言葉として受け取ります」
*
「で」
ユキが続ける。
「どちらかが先に限界を迎えたら」
「はい」
「勝った方がマコトを奪う」
「……」
「『次は私です』って」
「宣言するんですか」
「します」
「メイド長も?」
「もちろん」
「それ」
マコトが少し考える。
「二人で私を取り合ってるのに、途中から二人同士でもかなり楽しんでません?」
「……」
「……」
「エロゲですので」
「逃げた」
*
「でも」
マコトが聞いた。
「ユキ」
「何?」
「本当にそれでいいの?」
「何が?」
「私、メイド長をかなり可愛がるんでしょう?」
「ええ」
「ユキの目の前で」
「ええ」
「キスもする」
「ええ」
「ユキより先にメイド長を選ぶ瞬間もある」
「……」
「嫉妬しません?」
ユキは。
しばらく考えた。
「しますわね」
「やっぱり」
「ものすごくする」
「じゃあ止めた方が」
「いえ」
「何で?」
「嫉妬したまま、後でマコトに取り返してもらえばいいでしょう?」
「……取り返す?」
「最後は私に戻ってきて」
「はい」
「散々私を求めてくれるなら」
ユキが少し視線を逸らした。
「まあ」
「何?」
「マコトに激しく求められるの、好きですし」
「……」
「何です、その顔」
「結局そこなんだなって」
「悪い?」
「全然」
*
「むしろ」
ユキが乗ってきた。
「メイド長と張り合って」
「はい」
「旦那様を早くこちらへ寄越しなさい、と本気で嫉妬して」
「はい」
「相手まで散々煽って」
「はい」
「最後は」
「はい」
「私がマコトを取り戻す」
「……」
「最高では?」
「ユキ」
「何?」
「それ、完全に寝取り返しもののエロゲ」
「いいではありませんか」
「しかもメイド長側から見れば」
「はい」
「愛しい旦那様を公爵令女に取られたと思ったら」
「はい」
「自分も巻き込まれて」
「はい」
「最後はまた旦那様を奪い合う」
「はい」
「忙しいな」
「エロゲヒロインは忙しいものです」
*
そこで。
二人とも。
少し黙った。
「……」
「……」
マコトがユキを見る。
ユキがマコトを見る。
「ユキ」
「何?」
「身体、反応してますよね」
「マコトもです」
「妄想だけですよ」
「昨日もそうでした」
「騎士本人にも」
「メイド長本人にも」
「一言も相談してない」
「ええ」
「なのに」
二人して。
視線を落とす。
「……またビンビン」
「またビンビンですわね」
「最低」
「同類です」
*
「整理します」
ユキが言った。
「メイド長を巻き込むなら」
「本人の自由意思」
「断っても何も変わらない」
「途中でやめてもいい」
「そして本人が、もっと深く関わりたいと言った場合だけ」
「その先を考える」
「はい」
そこまではまとも。
「その先は」
「爆乳」
「ユキ!」
「旦那様争奪戦」
「そこは否定しませんけど」
「私とメイド長でマコトを可愛がる」
「はい」
「途中から女の嫉妬」
「はい」
「互いにキスしたり、相手の弱いところを弄ったりして」
「はい」
「先に余裕をなくした方が旦那様を譲る」
「……」
「最後はマコトが私へ戻ってくる」
「そこ重要?」
「最重要」
*
「じゃあ」
マコトが笑った。
「メイド長が勝って、私をなかなか返してくれなかったら?」
「……」
ユキの目が。
すっと細くなる。
「取り返します」
「怖い」
「旦那様は私の恋人ですので」
「さっきメイド長と共有する話してましたよね?」
「共有と独占されるのは別ですわ」
「難しい」
「女心です」
「前世男ですよね?」
「今世十八年女です!」
「強い」
*
「それで」
ユキが最後に言った。
「取り返した後は」
「はい」
「ちゃんと私を満足させてくださいませ」
「……」
「何です?」
「本当に結局そこ」
「だって」
ユキが笑う。
「マコトに散々求められるの」
「はい」
「好きですもの」
マコトも。
少し笑った。
「それなら」
「はい?」
「最後はちゃんとユキのところに戻りますよ」
「よろしい」
「ただし」
「何です?」
「メイド長本人が」
「はい」
「本当にこんなことしたいかは」
「まったく別問題」
「……」
「……」
二人して。
「あれー?」
「あれー? ですわね」
また。
本人不在のまま。
妄想だけが。
とんでもなく先まで進んでいた。




