第五十話 騎士を交えたらどうなるか考えたら、腐女子代官のBL妄想が止まりません
舞踏会の翌日。
離れの居間で、マコトとユキは昨日の続き――公爵令女個人への忠誠心が強い、あの若い騎士を秘密へ巻き込むならどうなるか――を検討していた。
「もちろん現実に何か頼むなら、本人が自分から望むことが絶対条件ですわよ」
「そこは当然です」
「臣下ですから、命令と同意を混同しない」
「はい」
そこだけ確認すると。
二人の話は。
すぐに現実から離れた。
*
「まず」
マコトが言った。
「お嬢様にはチンポがある、というところは見せないと」
「どうしてそこから?」
「重要ですよ!」
完全に腐女子の顔だった。
「騎士からすれば、ずっと清楚な公爵令女だと思っていた相手ですよ?」
「そうですわね」
「何なら前世の私が男だったら、こっそり抜きネタにしていたかもしれない」
「騎士を勝手にそういう男にしないでください」
「妄想ですから」
マコトは気にしない。
「そのお嬢様に、実は神から授けられた男性側の身体がある」
「はい」
「しかも」
今度は自分を指した。
「私はアナルで条件を満たさないと死ぬ」
「そこまで説明する?」
「そこが肝です」
マコトは急に芝居がかった声になる。
「『お嬢様は、私を生かすために、毎日のように神から授けられた身体で助けてくださっているのです』」
「毎日ではありません」
「最近かなり頻繁です」
「……否定しにくい」
「そしてユキが」
「私?」
「『騎士よ。穢れていく私を許してくれますか?』」
「何故そんな悲劇のヒロインみたいなことを」
「最高だから」
*
さらに。
マコトの妄想は加速する。
「お嬢様だと思っていたら、男でもあった」
「はい」
「女だと思っていた。憧れていた。何なら性的に意識していた」
「はい」
「なのに、そのお嬢様が目の前で別の男と倒錯した関係になっている」
「……」
「いい!」
「何がですの?」
「そこで騎士は思うわけです」
「何を?」
「お嬢様のそばにいたければ、自分もこの世界へ入るしかない、と」
「世界?」
「BL世界!」
「私は女です!」
「男性側の身体もある!」
「それだけでBL判定しないでください!」
*
「しかも」
マコトはまだ止まらない。
「騎士から見れば、目の前には私というクソ野郎もいる」
「自分で言いますのね」
「お嬢様の一番近くにいる男ですから」
「はい」
「当然、嫉妬する」
「まあ」
「で」
マコトが目を輝かせる。
「お嬢様だけじゃなく、目の前のクソ野郎まで相手にしないと、この関係へ入れない!」
「何故ですの!?」
「BLだから!」
「理屈が全部それ!」
「男二人が、お嬢様を巡って張り合う」
「はい」
「でも途中から、互いへの意識まで強くなる」
「はい」
「嫉妬して、罵って、張り合って」
「はい」
「気づいたら私を巡って騎士とユキまで張り合う」
「私は女ですわ!」
「今は攻め役判定!」
「勝手ですわね!」
*
「例えば」
マコトは自分を指す。
「私を挟んで」
「はい」
「ユキと騎士が『自分がマコトを相手にする』って言い合う」
「……」
「男二人に奪い合われる私」
「片方は公爵令女です」
「男性側の身体があるから今だけ男」
「便利に性別を変えないでください」
「でも」
マコトの顔がものすごく嬉しそうになる。
「前世では読む側だったんですよ?」
「はい」
「今世なら」
「はい」
「自分が受け側になれる!」
「そこまで力説しなくても」
*
「逆に」
マコトがユキを見る。
「ユキがドS受けでもいい」
「ドSなのに受け?」
「そこがいい!」
「また始まりましたわ」
「普段は高貴な公爵令女」
「はい」
「でも離れでは、中性的で生意気な成人の男の子っぽくなる」
「はい」
「二人の男を煽る」
「ふむ」
「『もっと本気で来なさい』とか」
「言いそうですわね」
「でしょう?」
「でも最後まで口では負けない」
「最高!」
今度はユキまで少し考え込む。
「……それは」
「はい?」
「ちょっと面白いかも」
「でしょ!」
*
話せば話すほど。
二人とも。
妄想だけで身体の反応が隠せなくなっていた。
「……ユキ」
「何です?」
「これ、検討会ですよね」
「そうですわ」
「まだ騎士本人には一言も話してない」
「ええ」
「なのに」
「ええ」
二人して視線を落とす。
「……ビンビンですね」
「ビンビンですわね」
「最低ですね」
「マコトもです」
「ユキも」
「同類ですわ」
*
少しして。
ユキがようやく冷静になった。
「でもマコト」
「何?」
「一つ大前提があります」
「はい」
「誰でも、あなたみたいにアナル関係へ抵抗がないとは限りません」
「それはそう」
「私たちは性神と生存条件のせいで、かなり感覚が麻痺しています」
「はい」
「騎士が興味を持ったとしても、何をどこまでしたいかは騎士自身が決める」
「そこは絶対ですね」
「それと」
「何?」
「あなた本当に、イケメン騎士に攻められる側でも平気ですの?」
マコトは考えた。
ほんの数秒。
「……一度は味わってみたい」
「早い!」
「だってイケメンですよ?」
「そこですの?」
「しかもユキ推しの騎士が、私に嫉妬しながらですよ?」
「腐女子」
「最高です」
*
ユキがため息をつく。
「つまり」
「はい」
「お嬢様と思っていたら、実は身体に秘密があった」
「はい」
「しかもそのお嬢様は、代官と倒錯した関係にある」
「はい」
「お嬢様のそばへ行こうとすると、代官とも妙な関係になる」
「はい!」
「男二人は嫉妬しながら互いを意識する」
「そう!」
「その間で私も好き放題する」
「完璧!」
「……」
ユキがしばらく考える。
「それ」
「はい」
「私を中心にしたエロゲでは?」
マコトが止まった。
「……いや」
「何です?」
「男二人が嫉妬して、張り合って、互いまで意識するんですよ?」
「はい」
「正しいBLです!」
「私が真ん中なのに?」
「だから倒錯BL!」
「……」
「……」
二人で首を傾げる。
「あれー?」
「あれー? ですわね」
騎士本人は。
まだ。
自分がこんな検討会の題材にされていることすら知らなかった。
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