第四十八話 離れの浴室でBLシャワーごっこを始めたら、後半は調教エロゲになりました
別の日。
公爵家の離れで、マコトとユキは一緒に湯浴みをしていた。
広めの浴室。石張りの床に湯気が立ち、壁際には大きな浴槽がある。
最初は、本当に普通に身体を洗うだけのつもりだった。
「背中、流します?」
「お願いしますわ」
「ではユキから」
マコトが布を取る。
ユキは濡れた髪をかき上げ、壁際へ立った。
裸。
濡れた身体。
壁。
若い二人。
「……」
「マコト?」
「動かないで」
「何ですの?」
マコトの目が完全に腐女子のそれへ変わっていた。
「今、ものすごくBLのシャワーシーンっぽい」
「私は女ですわ!」
「前世は男!」
「またそれですの!?」
「濡れた美形が壁際にいるんですよ!?」
「風呂ですから!」
「裸で!」
「風呂ですもの!」
「最高」
「話を聞いてくださいませ!」
*
マコトはユキとの距離を詰めた。
「一つだけ」
「その言葉、この数日で信用できなくなりましたわ」
「嫌なら止めます」
「それは当然です」
「じゃあ」
ユキの背が壁へ触れる。
マコトは片手で、ユキの両手を頭上へまとめるように押さえた。
「……壁ドン」
「自分で言ってしまったら台無しでは?」
「言いたかった」
「腐女子というものは面倒ですわね」
「ユキ」
「はい?」
「キスしていい?」
そこでだけ。
きちんと聞く。
ユキは少し笑った。
「どうぞ」
唇が重なる。
一度。
二度。
濡れた身体同士が近づく。
「んっ……」
「ユキ」
「もっと」
今度は深く。
さっきまで笑っていた二人の呼吸が、急速に変わっていった。
*
そして。
二人とも、互いの身体がもう隠しようもなく反応していることに気づいた。
「マコト」
「何?」
「立派ですわね」
「ユキもでしょう」
「私は性神のせいです」
「それなら私も!」
二人の逸物は、触れ合いと興奮に煽られるほど、いっそう太く張っていく。
「……これ」
「何ですの?」
「BLとして見たらかなり」
「まだBLフィルターが生きておりますの?」
「絶好調」
マコトは空いている手で、二人を同時に煽るように触れていく。
「っ……!」
「ユキ」
「それ……!」
「嫌?」
「逆ですわ……!」
「じゃあ続ける」
「オホッ……!」
一瞬。
静止。
「……出ましたね」
「言わないでくださいませ!」
「まだ早いでしょう」
「マコトだって――」
「オホッ……!」
「ほら!」
「性神!」
「本当に便利ですわね、その言い訳!」
*
そこからは。
二人とも、まともな会話を保てなくなった。
「オホッ……!」
「ユキ……!」
「オホォッ……!」
「マコト……!」
壁際。
押さえられた両手。
キス。
密着した身体。
互いの熱。
マコトの頭の中では、完全にBL漫画の一場面へ変換されている。
「ユキ」
「何……?」
「今、すごく可愛い男の子っぽい」
「私は公爵令嬢です……オホッ……!」
「でも前世男」
「マコトは前世女でしょう!」
「そこがいい!」
「倒錯しすぎですわ!」
ユキも笑いながら。
それでも離れない。
「マコト」
「何?」
「もっと」
「本当に?」
「ええ……!」
「じゃあ」
二人の身体がさらに強く反応する。
「来る……!」
「私もですわ……!」
「ユキ!」
「マコト……!」
「オホォォォッ……!」
「オホォォォッ……!」
ほとんど同時だった。
二人とも限界を迎え、行為の白い痕跡が互いの胸や腹、肩へ散った。
しばらく。
水音と。
荒い呼吸だけ。
*
「……ユキ」
「はい……」
マコトは、頭上で押さえていたユキの手を離した。
だが。
ユキはその手を下ろすと。
そのままマコトの背へ回した。
マコトも。
同じようにユキを抱き寄せる。
「……離れませんの?」
「ユキこそ」
「少しだけ」
「私も」
二人は余韻を味わうように、ぴったりと密着した。
汗。
湯。
さっき二人で残した痕跡。
それらが肌の間でぬめりとなる。
「……すごいですね」
「何が?」
「ものすごく、いやらしい」
「今さらですわ」
ユキの柔らかな胸元まで、マコトの身体へ押しつけられる。
昂ったままの身体同士も。
互いの熱を確かめるように、ゆっくりと擦れ合った。
「ユキ」
「はい」
「これ、BLなのかな」
「もう何でもよろしいのでは?」
「それもそうですね」
頬を寄せ。
背中を抱き。
互いの身体についた行為の痕跡まで混ぜ合わせるように。
二人はしばらく。
ただ密着したまま。
シャワーごっこの余韻を楽しんだ。
*
「……一段落」
マコトが言った。
「そうですわね」
「今度こそ身体を洗います?」
「その前に」
「はい?」
ユキの声が変わった。
マコトはすぐ気づく。
「……その顔」
「何です?」
「エロゲオタクの顔」
「正解」
「嫌な予感」
「さっきまで散々、私をBLの受け役にしておりましたわよね?」
「はい」
「では」
ユキがマコトの腰へ腕を回す。
「今度は私の番」
「何をするつもりです?」
「エロゲごっこ」
マコトが数秒黙る。
「……ちょっと楽しみ」
「正直でよろしい」
*
ユキはマコトの背後へ回った。
「こちらを向かないで」
「はい」
「今日は」
耳元へ。
「私が男役」
「……」
「マコトは女役ですわ」
低い声。
「それ、ずるい」
「何が?」
「前世男だからか、妙に様になる」
「褒め言葉として受け取ります」
マコトの腰を支える。
後ろから。
今度はユキが主導する。
「マコト」
「何?」
「新しく女の身体までできて」
「……」
「どうです?」
「まだ慣れない」
「でも」
身体を重ねる。
「んっ……!」
「ちゃんと感じる」
「ユキ……!」
「男なのに」
「……っ」
「女としても反応してしまう」
「言わないで……!」
「どうして?」
「恥ずかしいから!」
「でも好き?」
「オホッ……!」
ユキが笑う。
「答えになっておりませんわ」
*
最初は。
単純だった。
女役のマコトを。
男役のユキが後ろから翻弄する。
ところが。
ユキは途中から。
マコトの男としての反応まで同時に意識させ始めた。
「マコト」
「何……?」
「女として責められているのに」
「……」
「男の方まで、こんなに元気」
「言わないで!」
「どうして?」
「恥ずかしい!」
「でも」
ユキがさらに声を落とす。
「女なのに、男の身体まで喜ばせておりますわね」
「ユキ……!」
「変態代官」
「オホッ……!」
「今の、かなり効きました?」
「……もっと」
「もっと?」
「言って……!」
完全に。
マコトも乗っていた。
*
「では」
ユキは容赦をやめた。
「男なのに」
「はい……!」
「女として責められて」
「オホッ……!」
「それでも男の身体まで喜んで」
「……!」
「どちらでも気持ちいいのでしょう?」
「気持ちいい……!」
「どちらが?」
「分からない……!」
「男?」
「分からない!」
「女?」
「それも……!」
「なら」
耳元。
「両方で感じていればいいですわ」
「オホォォォッ……!」
マコトの身体が大きく震えた。
女として奥まで響く感覚。
男として強く高まっていく感覚。
二つを同時に煽られ。
何度も限界を迎える。
「ユキ……!」
「はい?」
「また……!」
「何が?」
「来る……!」
「どちらで?」
「両方……!」
「ふふ」
「笑わないで!」
「可愛いので」
「その言葉……!」
「女として責められているのに」
「はい……!」
「男の方までこんなに素直」
「オホォォッ……!」
*
もう。
マコトには余裕がなかった。
「ユキ……!」
「何です?」
「もっと……!」
「何を?」
「言わせるの……?」
「もちろん」
「……」
「マコト?」
ユキがわざと待つ。
マコトは。
とうとう。
自分から言った。
「お嬢様……!」
「はい」
「変態代官を……!」
「変態代官を?」
「もっとお仕置きしてください……!」
「いい子」
「オホォォォッ……!」
そこから先。
マコトは男なのか女なのか。
もう自分でも区別しようとしなかった。
自分にあるもの全部で。
ユキにされること全部を楽しむ。
「ユキ……!」
「はい……!」
「もっと奥……!」
「欲しい?」
「欲しい……!」
「私の痕跡も?」
「欲しい!」
「どこに?」
「……全部!」
ユキまで呼吸を乱す。
「マコト……!」
「お嬢様……!」
「オホッ……!」
「オホォォォッ……!」
二人の声が。
浴室へ響いた。
*
一通り終わった頃。
マコトは。
とうとう浴室の壁際へ座り込んだ。
「……無理」
「もう?」
「無理です」
「性神の回復があるのに?」
「精神的に!」
「先ほども似たことを言っておりましたわね」
「ユキが酷い!」
「お仕置きしてくれとお願いしたのはマコトです」
「……」
「しかも」
「言わないで」
「『変態代官を』」
「忘れて!」
「嫌ですわ」
ユキが笑う。
*
そして。
ユキは座り込んだマコトの正面へ移動した。
「マコト」
「まだ何か?」
「最後に」
「……」
「嫌そうな顔」
「嫌な予感がするだけ」
「さっきまで」
「はい」
「私もかなり好き勝手しましたわよね」
「しました」
「でしたら」
ユキは少し意地悪そうに笑った。
「最後に、お掃除をお願いします」
「……」
「嫌?」
マコトはユキを見る。
完全に。
元エロゲオタクの顔。
「それ」
「はい?」
「前世のエロゲで見たでしょう」
「似たようなものなら」
「やっぱり」
「それで?」
「……分かりました」
「素直」
「今日はユキのエロゲ回ですから」
*
最後は。
さっきまで自分を散々翻弄したユキへ。
マコトが口で奉仕する側になった。
浴室で。
座り込んだまま。
相手の身体へ残った行為の痕跡を、最後まできれいにするつもりで。
「マコト」
「……」
「上手」
「喋らないで」
「どうして?」
「集中できない」
「ふふ」
ユキがマコトの頭へ手を添える。
「嫌なら止めてくださいませ」
「分かってる」
「無理も?」
「しない」
「いい子」
「……っ」
「今、反応しました?」
「してない!」
「しましたわね」
「黙って!」
また笑われる。
*
ようやく。
本当に。
一段落した。
二人とも浴室の壁へ並んでもたれる。
「……ユキ」
「はい?」
「私たち」
「ええ」
「身体を洗いに来たんですよね」
「そうでしたわね」
「何でこんなに疲れてるんでしょう」
「BLシャワーごっこと」
「はい」
「調教エロゲごっこ」
「……」
「両方したからでは?」
「聞かなきゃよかった」
少しの沈黙。
「マコト」
「何?」
「BLシャワー」
「最高でした」
「即答ですのね」
「ユキは?」
「エロゲ後半」
「どうでした?」
「最高でしたわ」
二人で顔を見合わせる。
「……」
「……」
「倒錯的ですね」
「倒錯的ですわね」
「二、三日前まで」
「身持ちの固い男爵と公爵令嬢でした」
「今は」
「風呂へ入っただけでこれ」
「……」
「……」
同時に。
「性神」
「性神ですわね」
ため息。
*
「では」
ユキが立ち上がった。
「今度こそ身体を洗いましょう」
「賛成」
「背中、流します?」
「お願いします」
「その後は?」
「普通に湯船」
「本当に?」
「本当に!」
ユキが笑う。
「分かりましたわ」
その約束は。
結局。
湯船へ入るまでしか持たなかった。




