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種付けオッサンとビッチギャル ~二日に一度ヤらないと死ぬ二人の異世界転生~【注目15位、日間217位ありがとうございます】  作者: 黒瀬 量衡
第二章 腐女子男爵とエロゲ公爵令嬢

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第三十八話 公爵宛ての手紙を書いていたら、公爵令嬢本人が押しかけてきました

同じ頃。


 男爵は自邸の執務室で、別の問題に頭を抱えていた。


「……公爵閣下へ話を通すしかない」


 机の上には予定表がある。


 最初の四十八時間は、公爵令嬢と二人で乗り越えた。


 だが次もある。


 その次も。


 二日ごとに。


 男爵はアナルへの刺激で絶頂し、射精する必要がある。


 公爵令嬢は、人の体内で射精する必要がある。


 二人の条件は見事に噛み合っていた。


 だからこそ問題だった。


「未婚の公爵令嬢と、二日ごとに密会?」


 声に出す。


「無理だ」


 一度や二度なら誤魔化せる。


 仮面舞踏会。


 偶然。


 社交上の用事。


 だが毎回は無理だ。


 公爵令嬢が二日ごとに男爵邸へ来る。


 あるいは男爵が二日ごとに公爵令嬢を訪ね、人払いまで要求する。


 そんなことを繰り返して、噂にならないわけがない。


「高級宿を二日ごとに借りる?」


 完全に愛人との密会だった。


「郊外に屋敷を?」


 もっと悪い。


 男爵は頭を抱える。


「正面から行くしかない」


 公爵へ話を通す。


 もちろん性神について全て説明するつもりはなかった。


 それは公爵令嬢と相談してから決めるべきことだ。


 だが少なくとも。


 令嬢と今後も継続的に会いたい。


 遊びではない。


 必要なら、婚姻まで考える。


 それくらいは自分の口から言わなければならない。


     *


 男爵は紙を一枚取り出した。


『公爵閣下におかれましては――』


 止まる。


「硬すぎるか」


 破棄。


 次。


『突然の書状を差し上げます非礼を――』


「何の用事か分からないな」


 破棄。


 次。


『御令嬢について、お話し申し上げたき儀が――』


「これでは完全に何かやらかした男だな」


 破棄。


 机の横に、書き損じの紙が増えていく。


「難しい……」


 男爵家なら。


 領民との交渉もする。


 商人とも話す。


 王都で他の貴族と仕事もする。


 書状だって何百通も書いてきた。


 それなのに。


「娘さんと定期的にアナルで生命維持をしておりますので、今後も会わせてください、とは書けないしな」


 自分で言って頭を抱えた。


「絶対に書けない」


 当然である。


     *


 前世の記憶が戻った。


 日本人女性。


 腐女子。


 だが、その記憶が戻ったからといって、今の自分が突然現代日本人へ戻ったわけではない。


 今の自分は、この世界で育った貴族だ。


 男爵家を継いだ。


 領地を預かっている。


 家臣も領民もいる。


 自分の行動で家名が動く。


 相手はさらに重い。


 公爵令嬢。


「性神にこうされたから仕方がない、では済まない」


 二人で会わなければ死ぬ。


 それは事実だ。


 だが、それを理由に公爵令嬢を秘密裏に二日ごとに呼び出す男になる気はなかった。


「……婚姻」


 声に出してみる。


 昨日までなら、考えるはずもなかった。


 身分差が大きすぎる。


 公爵家が娘を男爵家へ嫁がせる政治的利益など、普通に考えればほとんどない。


「だが」


 公爵令嬢本人について考える。


 前世がエロゲオタクだった。


 妙なところで思い切りがいい。


 貴族としての常識はある。


 昨夜も、自分の条件だけでなく男爵の状態を何度も確認していた。


 話していて嫌ではなかった。


 むしろ。


「……また会いたいと思ってるんだよな」


 生命維持とは別に。


 そこまで考えた時。


 廊下の向こうが騒がしくなった。


     *


「お嬢様、お待ちください!」


「先触れは出しましたわ!」


「先触れが到着した直後に御本人が来られては、先触れの意味がございません!」


 男爵が顔を上げる。


「……まさか」


 執務室の扉が開いた。


「男爵!」


 公爵令嬢が立っていた。


 その後ろには、顔色を悪くした男爵家の家令。


「申し訳ございません、閣下。公爵令嬢様が――」


「家令を責めないでくださいませ。私が通せと申しました」


「……」


「来ましたわ」


「それは見れば分かります」


 男爵はゆっくり立ち上がった。


「ところで」


「はい?」


「何故、公爵令嬢が未婚の男爵の執務室まで直接入ってきているのです?」


「急いでおりましたので」


「そこです」


「何が?」


「そこです!」


     *


 男爵は机を回り込み、公爵令嬢の前へ立った。


「前世の記憶が戻ったからといって、貴族社会の礼儀まで忘れてはいけません」


「忘れてはおりませんわ」


「今まさに忘れていました!」


「先触れは出しました」


「到着直前でしょう!」


「少し前です」


「どのくらい?」


「馬車一台分」


「ほぼ同時ではありませんか!」


 公爵令嬢が視線を逸らす。


「……早く会いたかったので」


 男爵の言葉が一瞬止まった。


「それは」


「何です?」


「……いや」


 危ない。


 ちょっと嬉しかった。


 だが、ここで流されてはいけない。


「とにかく!」


「はい」


「あなたは公爵令嬢です」


「知っております」


「私は男爵」


「それも」


「未婚の男女が、周囲にどう見られるかを考えてください」


「昨夜は二人きりでしたけれど」


「あれは緊急事態です!」


「今日も重要ですわ」


「だからといって何でも許されるわけではありません!」


 男爵はきっぱりと言った。


「私も前世を思い出しました。ですが、だからといって今日から日本人の感覚だけで行動することはできない」


「……」


「我々は、この社会で十八年以上生きてきた貴族です」


「はい」


「秘密を抱えたからこそ、余計に普通のところでは礼儀を守るべきです。そこまで崩したら、すぐ周囲に怪しまれる」


 公爵令嬢がしばらく黙る。


「……おっしゃる通りですわ」


「分かっていただけましたか」


「はい」


「次からは?」


「十分に余裕を持って先触れを出します」


「そうしてください」


「明後日も?」


「……」


「四十八時間ですもの」


「それは後で予定を組みましょう」


「はい」


 少しだけ空気が和らいだ。


     *


 そこで公爵令嬢が机を見る。


「随分と紙を無駄になさっていますわね」


「あ」


 一枚。


 二枚。


 三枚。


 書き損じ。


 そして、その奥に書きかけの一通。


「お父様?」


「読まないでください!」


「宛名だけですわ」


「それ以上も駄目です!」


「何故、父へ?」


 男爵は一瞬迷った。


 だが、本人へ隠すようなことでもない。


「あなたと今後も会うためです」


 公爵令嬢が黙る。


「二日に一度、秘密裏に会い続けるわけにはいかないでしょう」


「ええ」


「仮に誰にも知られず続けられたとしても、私は嫌です」


「嫌?」


「あなたを密会相手として扱うことになります」


 公爵令嬢の表情が変わる。


「性神に強制されたから仕方なく会う、ではいずれ無理が出る。貴族社会で継続して会うなら、それが許される関係を作るべきです」


「それで父に?」


「正式にお目通りを願おうと」


「何をお話しするつもりでした?」


「あなたと真剣に交際したいことを」


「……」


「必要なら」


 一度言葉を選ぶ。


「婚姻も視野に入れていることを」


 公爵令嬢の目が大きくなった。


「婚姻まで?」


「そこまで驚きますか」


「だって」


「あなたは公爵令嬢です」


「はい」


「私は男爵です」


「はい」


「私があなたへ手を出しておきながら、四十八時間ごとに会えればそれでいい、などと言えると思いますか?」


「性神の条件なのに?」


「条件と責任は別です」


 男爵は机の書き損じを見た。


「前世の記憶が戻ったからといって、今世で受けてきた教育までなくなったわけではありません」


「……」


「公爵家の婚姻に政治的な価値があることも理解しています」


「ええ」


「だから簡単ではない。でも、簡単ではないから黙って密会する、というのはもっと違う」


 公爵令嬢は何も言わない。


「あなたを二日ごとに秘密裏に呼びつけるだけの男にはなりたくありません」


「男爵」


「はい?」


「今すぐ来てください」


「……どこへ?」


「公爵邸です」


「はい?」


     *


 公爵令嬢は机の上の手紙を指差した。


「その手紙、必要ありませんわ」


「何故です?」


「お父様が直接あなたに会うと」


 男爵が固まる。


「……公爵閣下が?」


「はい」


「どうしてそんな話に?」


「今朝、話しました」


「何を?」


「私があなたに恋をしたと」


「……」


「男爵?」


「待ってください」


「はい」


「今、何と?」


「初めて恋をしたと申しました」


 男爵の顔から血の気が引く。


「それだけ?」


「公爵家の都合を考えずに選びたい人を見つけてしまった、と」


「……」


「政略結婚の意味も理解している。それでもあなたを選びたい、と」


「……まだあります?」


「認めてもらえないなら、家を出てあなたのところへ行くとも」


「待ってください!」


 男爵の声が裏返った。


「何を言っているんですか!」


「覚悟を示しました」


「公爵家を捨てると言う前に私へ相談してください!」


「今しております」


「言った後でしょう!」


「お父様にも似たようなことを」


「でしょうね!」


 男爵は両手で頭を抱えた。


「私は今、どれだけ慎重に手紙を書いていたと思っているんです!」


「五枚?」


「数えないでください!」


「六枚ありますわ」


「増やさないで!」


     *


「とにかく」


 公爵令嬢が男爵の手を取った。


「お父様は、あなたに会うとおっしゃいました」


「今から?」


「今から」


「心の準備が」


「馬車の中で」


「そんな短時間で公爵に会う覚悟ができると思いますか!」


「私との婚姻は考えられたのでしょう?」


「それとこれは別です!」


「同じ話ですわ」


「私にとっては段階があります!」


 公爵令嬢は男爵の腕を引っ張る。


「行きますわよ」


「待ってください!」


「何です?」


「せめて着替えます」


 令嬢が男爵の服を見る。


「そのままでも」


「これは執務用です!」


「では待ちます」


「本当に?」


「五分」


「短い!」


「十分」


「交渉みたいに増やさないでください!」


     *


 どうにか外出用の服へ着替え、男爵は公爵令嬢と馬車へ乗った。


 公爵邸へ向かう途中。


 男爵は向かいに座る令嬢を見た。


「公爵閣下は、怒っていますか」


「少し」


「少し?」


「机を叩かれました」


「帰っていいですか」


「駄目です」


「家出すると言ったからでしょう!」


「おそらく」


「何故そんなものを最初に投げるんです!」


「覚悟を」


「もっと穏当な覚悟の見せ方があります!」


 令嬢は少し考える。


「ですが、お父様はあなたのことをご存じでした」


「私を?」


「領地運営を評価されていましたわ」


「……公爵閣下が?」


「税収、街道整備、備蓄。王都でのお仕事も」


 男爵は黙った。


「公爵というのは怖いですね」


「私の父ですもの」


「その答えになっていません」


 今度は公爵令嬢が男爵を見る。


「それで」


「はい?」


「本当に婚姻まで考えていたのですか?」


「……先ほど言ったでしょう」


「もう一度聞きたいのです」


「何故?」


「聞きたいから」


「ずるいですね」


「はい」


 男爵は窓の外を見る。


 しばらく黙ってから。


「考えました」


「性神の条件があるから?」


「それだけなら、密会する方法だけ考えます」


「では」


「あなたとなら、結婚してもいいと思ったからです」


「……」


 今度は公爵令嬢が黙った。


「何です?」


「急に真正面から言うのは反則ですわ」


「あなたは今朝、公爵閣下へ恋をしたと宣言したのでしょう?」


「あれは必要な説明です」


「私も必要な説明をしただけです」


「……」


「……」


 二人で黙る。


 少しして、男爵が尋ねた。


「本当に恋なのですか?」


 公爵令嬢はすぐには答えなかった。


「分かりません」


「分からない?」


「だって、まともにお話ししたのは昨日が初めてですもの」


「それはそうですね」


「でも」


 令嬢が男爵を見る。


「今朝、あなたに会いに行こうと思った時、嬉しかったのです」


「……」


「四十八時間があるからだけではなく」


「はい」


「もう一度、普通にお話ししたいと思いました」


 男爵は何も言わない。


「ですから、お父様には恋だと申しました」


「随分と見切り発車ですね」


「今から本当に恋をすればよろしいでしょう?」


「そんな予定を立てるものですか」


「前世のエロゲなら」


「前世を基準にしない!」


     *


 馬車が止まった。


 窓の向こう。


 公爵邸の巨大な門。


「……着きましたわ」


「見れば分かります」


「緊張しています?」


「当たり前でしょう」


「大丈夫ですわ」


「何が?」


「お父様は、話を聞くとは言ってくださいました」


「その後は?」


「あなた次第です」


「一番怖い言葉を最後に持ってきましたね」


 令嬢が先に馬車を降りる。


 そして男爵へ手を差し出した。


「参りましょう」


 男爵はその手を見る。


 前世の記憶が戻ったからといって、貴族社会の礼儀を捨てるつもりはない。


 性神によって二人の身体が奇妙な条件で結ばれたからといって、それだけで全てを決めるつもりもない。


 だから正面から行く。


 男爵として。


 公爵令嬢として。


 二人が会い続けても許される関係を作る。


「……分かりました」


 男爵は手を取った。


「行きましょう」


「ええ」


 四十八時間ごとに会わなければ死ぬ。


 そんな関係から始まった二人だった。


 だが次に越えなければならないものは、四十八時間ではない。


 公爵家の玄関扉だった。

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