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種付けオッサンとビッチギャル ~二日に一度ヤらないと死ぬ二人の異世界転生~【注目15位、日間217位ありがとうございます】  作者: 黒瀬 量衡
第二章 腐女子男爵とエロゲ公爵令嬢

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第三十七話 初めて恋をしたので、認められなければ公爵家を出ると父に言いました

最初の四十八時間を乗り越えた翌朝。


 公爵令嬢は、朝食を終えると父親の執務室へ向かった。


 眠れなかったわけではない。むしろ性神の祝福のせいなのか、身体の疲れはほとんど残っていなかった。


 問題は、頭の中だった。


 二日後。


 正確には、昨夜から数えて四十八時間以内。


 自分はもう一度、人の体内で射精しなければ死ぬ。


 そして今のところ、その条件を安全に満たせる相手は、あの男爵しかいない。


「……会うしかありませんわよね」


 昨日までは、偶然だった。


 仮面舞踏会で出会った。


 互いに同じ性神の祝福を受けていると気づいた。


 条件が奇跡的に噛み合っていた。


 だから二人で最初の四十八時間を乗り越えた。


 だが、次からは偶然では済まない。


 二日ごとに、意図的に会わなければならない。


 未婚の公爵令嬢が。


 未婚の男爵と。


 二人きりで。


 定期的に。


「絶対に噂になりますわ」


 どう考えても隠し続けられない。


 そもそも公爵令嬢である自分には、自由に外泊したり、男の家へ通ったりできる生活など存在しない。


 使用人がいる。


 護衛がいる。


 予定を管理する者がいる。


 どこへ行ったのか、いつ帰ったのか、誰に会ったのか。


 全部、記録される。


「なら」


 隠れて会い続けるのではなく。


 会っても不自然ではない関係になればいい。


 そこまで考えて。


 公爵令嬢は父親の執務室の前で立ち止まった。


「……我ながら、随分と思い切りましたわね」


 昨日まで。


 自分は男との関係に慎重だった。


 前世の記憶を取り戻す前からそうだった。


 公爵令嬢としての価値を理解していたからだ。


 婚姻は家のため。


 恋愛と結婚は別。


 そんなことは、幼い頃から何度も教えられてきた。


 それを不幸だとも思わなかった。


 それなのに。


「失礼いたします」


 扉を叩いた。


     *


「お父様。お話がございます」


 公爵は書類から顔を上げた。


「珍しいな」


「二人だけでお願いできますか」


 娘の表情を見た公爵は、それ以上何も聞かなかった。


 侍従へ目配せする。


 人が下がり、扉が閉まる。


「それで?」


 公爵令嬢は父親の正面へ座った。


 性神のことは言えない。


 男爵本人の秘密でもある。


 自分の身体に起きた変化についても、まだ話すつもりはなかった。


 四十八時間の期限も同じ。


 だから、別の部分を話す。


 嘘ではない部分を。


「お父様」


「ああ」


「私、初めて恋をいたしました」


 公爵の手から羽根ペンが落ちた。


「……何?」


「恋をいたしました」


「聞こえている」


「でしたら、なぜ聞き返されましたの?」


「確認したかった」


 公爵は落ちた羽根ペンを拾おうともせず、娘を見た。


「誰だ」


 早かった。


「男爵です」


「どこの?」


 家名を告げる。


 公爵の眉が僅かに動いた。


「あの男か」


「ご存じなのですか?」


「名前程度ならな」


 公爵は椅子の背へ身体を預けた。


「領地運営に関する報告で何度か見た。小領ではあるが、財政は比較的安定している。街道整備にも熱心だったはずだ」


 令嬢は目を瞬いた。


「そこまで?」


「凶作への備蓄も悪くない。徴税で無理をしたという報告も聞かん。王都で任された仕事も堅実だ」


「……お父様」


「何だ」


「意外と高評価ですのね」


「公爵を何だと思っている」


「父親ですわ」


「それ以外だ」


「公爵」


「分かっているではないか」


 公爵はため息をついた。


「仕事のできる男ではある」


 そして続ける。


「だが、男爵だ」


「承知しております」


「お前は公爵令嬢だ」


「それも承知しております」


「ならば、私が何を言いたいかも分かるな」


「はい」


     *


 公爵令嬢は背筋を伸ばした。


「私の婚姻が、私一人だけのものではないことは理解しております」


 公爵は黙って聞いている。


「公爵家の婚姻には政治的な意味がございます。王家との関係、他の大貴族家との関係、領地、財産、次代。私一人が好きだからという理由だけで決めてよいものではありません」


「そうだ」


「政略結婚が悪だとも思っておりません」


 それは本心だった。


 前世の記憶が戻ったからといって、今世で十八年間生きてきた価値観まで消えたわけではない。


「貴族として生まれた以上、家のために婚姻することも役目の一つだと理解しております」


「私もそう教えた」


「はい」


「不満だったのか?」


「いいえ」


 令嬢は首を振った。


「今までは、それでよいと思っておりました」


「今までは?」


「はい」


 公爵令嬢は一度だけ息を吸った。


「ですが、初めて見つけてしまいました」


「何を」


「家のことを考えずに選びたいと思う方を」


 公爵の表情が変わった。


 娘が冗談を言っているわけではない。


 そのことを、ようやく完全に理解したらしい。


「家格が釣り合わないことも分かっております。私との婚姻を、もっと大きな政治的利益へ使えることも分かっています」


「その上でか」


「その上でです」


「男爵を選ぶと?」


「はい」


 公爵はしばらく娘を見ていた。


「……いつからだ」


「昨日です」


「何?」


「正確には、昨夜」


「待て」


「ですが以前から顔は存じて」


「待て」


 公爵が片手を上げた。


「お前は昨日、まともに話したばかりの男を相手に、今ここで恋愛結婚の相談をしているのか?」


「結果だけ見れば」


「結果以外に何を見る!」


「事情がございます」


「その事情とは?」


「申せません」


「私にも?」


「私だけの秘密ではございませんもの」


 公爵の目が鋭くなった。


「男爵にも関係する?」


「はい」


「危険なことか」


「今のところは」


「犯罪か」


「違います!」


「借金」


「ございません!」


「女か」


「そういう話でもございません!」


「なら何だ」


「申し上げられません!」


 公爵令嬢も声を上げる。


 二人で睨み合う。


 先に息を吐いたのは父親だった。


「……相手の秘密を守る程度には本気らしいな」


「はい」


     *


「それで」


 公爵が指を組む。


「私が反対したら?」


「家を出ます」


「……」


 公爵の表情が固まった。


「何?」


「公爵令嬢である限り、あの方を選ぶことが許されないのでしたら」


「待て」


「公爵令嬢でなくなります」


「待て」


「家を出て、あの方のところへ」


「待てと言っている!」


 公爵の手が机を叩いた。


「何故いきなりそこまで話が進む!」


「最悪の場合を先にお伝えしておいた方が」


「良くない!」


「ですが」


「今、お前は政略結婚の意義を理解していると立派なことを言った直後だぞ!」


「理解はしております」


「その娘が公爵家から家出すると言うのか!」


「はい」


「はい、ではない!」


 令嬢は少し首を傾げた。


「覚悟を示したつもりなのですが」


「覚悟の方向がおかしい!」


「そうでしょうか」


「そうだ!」


 公爵は額を押さえた。


「昔から思い切ると早い娘だったが、ここまでとは……」


「私、そんな性格でした?」


「自覚がないのか」


「ございませんでしたわ」


「今知れ」


「はい」


     *


 しばらくして、公爵は椅子へ深く座り直した。


「一つ確認する」


「はい」


「男爵は、お前が家を出て自分のところへ行こうとしていると知っているのか?」


「まだ知りません」


「……」


「これから伝えようかと」


「先に本人と話せ!」


「では今から参ります」


「待て」


「何でしょう」


「家出はするな」


「しかし」


「まだ私は婚姻に反対すると言っていない!」


 公爵令嬢が瞬きをした。


「……そうなのですか?」


「何故驚く!」


「男爵ですので」


「だからといって、家格だけを見て話も聞かずに却下するほど私は狭量ではない!」


「ですが、私にはもっと上位の」


「候補はいくらでもいる」


「でしたら」


「それでもだ」


 公爵は真面目な顔で娘を見る。


「あの男の仕事ぶりについて悪い話は聞いていない。家格は低いが、自分の領地をまともに治められない高位貴族よりは余程いい」


「お父様」


「喜ぶな。まだ何も決めていない」


「はい」


「本人を見る」


 声が低くなる。


「娘に公爵家を捨てるとまで言わせた男だ。どういうつもりでお前へ近づいたのか。お前をどうするつもりなのか。本人の口から聞く」


「でしたら」


「連れてこい」


「分かりました」


 公爵令嬢はすぐに立ち上がった。


「今から行ってまいります」


「待て」


「早い方がよろしいのでしょう?」


「そういう意味ではない!」


「では何か?」


「先触れを出せ!」


「……あ」


「公爵令嬢が未婚の男爵の家へ突然押しかけるな!」


「なるほど」


「なるほどではない!」


 公爵令嬢は一度座り直した。


 数秒。


「では、先触れを」


「そうしろ」


「出したらすぐに行ってよろしいですか?」


「……好きにしろ」


「ありがとうございます」


 嬉しそうに立ち上がる娘を見送りながら、公爵は深く息を吐いた。


「初恋というのは、こんなに人を馬鹿にするものなのか……」


 扉の外から、娘の声が返ってきた。


「聞こえておりますわよ!」


「早く行け!」

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