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種付けオッサンとビッチギャル ~二日に一度ヤらないと死ぬ二人の異世界転生~【注目15位、日間217位ありがとうございます】  作者: 黒瀬 量衡
第二章 腐女子男爵とエロゲ公爵令嬢

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第三十六話 仮面舞踏会で同類を見つけたので、四十八時間を二人で何とかすることにしました

翌日の夜。


 王都の大邸宅では、仮面舞踏会が開かれていた。


 顔の上半分を隠す仮面。燭台の明かり。弦楽器の音。酒杯を片手に談笑する貴族たち。華やかな夜だったが、若い男爵にはそのすべてが今日は鬱陶しかった。


「……あと一日ほどか」


 誰にも聞こえない声で呟く。


 性神から神託を受けて、すでに一日以上。


 四十八時間以内に一度、アナルへの刺激によって絶頂し、その際に射精すること。


 できなければ死ぬ。


 昨日までは、この手の舞踏会では女性との距離にも慎重だった。年若い男爵という立場上、少し親しげに話しただけでも婚姻の噂にされかねない。遊びで女性へ手を出す趣味もなく、身持ちは固い方だった。


 少なくとも、昨日までは。


「今はそんなことを言っている場合ではないな……」


 しかも性神の神託と同時に、前世の記憶まで戻ってきた。


 前世の自分は日本人女性。


 そして腐女子。


 男同士の恋愛物を愛好していた。


「だからといって、自分のアナルで絶頂しなければ死ぬ人生を望んだ覚えはないぞ……」


 小声で性神を呪った、その時だった。


 広間の反対側で、一人の令嬢と目が合った。


「……」


 仮面で顔の半分は見えない。


 話したこともほとんどない。


 それなのに。


(こいつ)


 男爵は、なぜか確信した。


(同類だ)


     *


 公爵令嬢もまた、舞踏会どころではなかった。


 昨日までなら完璧に振る舞えた。


 微笑む。


 挨拶する。


 誘われれば適度に踊る。


 不用意に男へ近づかず、婚約候補でもない相手とは必要以上に親しくしない。


 彼女もまた、身持ちは固い方だった。


 だが今では。


「……残り一日程度ですのね」


 ドレスの下に生じた、新たな身体の特徴をどうしても意識してしまう。


 性神によって男女双方の特徴を持つ身体へ変えられた。


 さらに四十八時間以内に一度、人の体内で射精しなければならない。


 できなければ死ぬ。


 そして前世は日本人男性。


 エロゲオタク。


「知識として特殊な設定を知っていることと、自分がその設定になるのとは全然違いますわ……」


 人の体内。


 どうすればいい。


 誰に頼む。


 公爵令嬢という立場で、この秘密をどう守ればいい。


 考えながら顔を上げる。


 そこで。


 仮面をつけた男爵と目が合った。


「……」


 理由はなかった。


 なのに分かる。


(この方……)


 公爵令嬢も確信した。


(同類ですわ)


 向こうも、まったく同じものを見つけたような顔をしていた。


     *


 男爵が先に近づいてきた。


「一曲、よろしいでしょうか」


「ええ」


 表向きはごく普通の誘いだった。


 二人で踊る。


 周囲に不審がられないよう、貴族らしい距離を保つ。


 数歩進んだところで、男爵が声を落とした。


「大変失礼なことを伺っても?」


「内容によりますわ」


「昨日」


 公爵令嬢の足が一瞬だけ乱れた。


「神託を受けませんでしたか」


「……」


 男爵が自然に支える。


「失礼」


「いいえ」


「やはり?」


 公爵令嬢が逆に尋ねた。


「あなたも?」


「はい」


「……何の神ですの?」


「性神」


「……」


 公爵令嬢の目が大きくなった。


「あなたも」


「その言い方ですと、やはり」


「ええ」


「四十八時間?」


「……同じですわ」


 優雅な音楽に合わせ、二人はそのまま踊り続ける。


 会話の内容だけが、まったく優雅ではない。


「二人だけで情報交換できますか」


 男爵が尋ねた。


「場所はこちらで用意いたします」


「信用していただけるので?」


「信用したのではありません」


「では?」


「この話をできる相手が、今のところあなたしかおりませんの」


「……私も同じです」


     *


 公爵令嬢は休憩を理由に舞踏会場を離れた。


 男爵は少し時間を空けて後を追う。


 使われていない小さな客間へ入り、扉を閉めた。


 二人とも仮面を外す。


「……あなたでしたの」


「公爵令嬢だったのですか」


「夜会で何度かお会いしておりますわね」


「挨拶程度ですが」


「ええ」


 一瞬の沈黙。


 公爵令嬢が先に切り出した。


「では、本題へ入りましょう。あなたの条件は?」


 男爵は顔をしかめた。


 昨日なら死んでも口にしたくなかった内容だ。


 だが、本当に死ぬ可能性がある以上、見栄を張っている場合ではない。


「四十八時間以内に一度、アナルへの刺激によって絶頂し、その際に射精すること」


「……」


「どうぞ笑ってください」


「笑えませんわ」


「何故」


「私も、人を笑える条件ではございませんもの」


 今度は公爵令嬢が、自分の祝福について説明する。


 健康な身体。


 高い回復力。


 性行為による傷害への強い保護。


 そして、男女双方の性的特徴を持つ身体への変化。


「私の場合、四十八時間以内に一度、人の体内で射精しなければなりません」


「……人の体内」


「ええ」


 男爵が考える。


 公爵令嬢も考える。


 数秒後。


「……あ」


「……まさか」


 二人の視線が合った。


 男爵はアナルへの刺激で絶頂して射精する必要がある。


 公爵令嬢は人の体内で射精する必要がある。


 二人の条件を組み合わせれば。


 一度の行為で。


 二人とも最初の四十八時間を乗り越えられる可能性がある。


「……成立しますわね」


「成立しますね」


「……」


「……」


 また沈黙した。


 今度は長かった。


     *


「嫌ですか」


 男爵が先に尋ねた。


 公爵令嬢は即答しなかった。


「あなたは?」


「正直に言えば、怖いです」


「私もですわ」


「ですが」


「死にたくはない」


「はい」


 昨日までなら考えもしなかった。


 男爵は女性との関係に慎重だった。


 公爵令嬢も同じ。


 まして出会って間もない相手と、こんな相談をするなどあり得なかった。


 だが、四十八時間後には命に関わる。


「昨日までの私なら、女性と二人きりの部屋にいるだけでもかなり気を遣っていました」


「奇遇ですわね。私も男性とは距離を取っておりました」


「身持ちは固い方で」


「私もですわ」


「それが今では」


 二人で顔を見合わせる。


「出会って十分ほどで、アナルを使って互いの生命維持条件を満たせるか相談している」


「性神を一発殴りたいですわ」


「私もです」


     *


 さらに話すうち、もう一つ妙な共通点が判明した。


「前世の記憶も戻りまして」


 男爵が言う。


 公爵令嬢が身を乗り出した。


「あなたも?」


「はい」


「どのような前世でしたの?」


「……日本人女性」


「まあ」


「それで、その……男性同士の恋愛物をかなり好んでいました」


 公爵令嬢が固まる。


「腐女子?」


「何故その単語を知っているのです!」


「私の前世、日本人男性でしたもの」


「……」


「エロゲオタクでした」


「……」


 二人は見つめ合った。


「転生者」


「ですわね」


「二人とも性神」


「最悪の共通点ですわ」


「否定できません」


 公爵令嬢が椅子へ腰を落とした。


「でも少しだけ助かりましたわ」


「何がです?」


「私の身体について、言葉の意味から説明しなくても済みますもの」


「ふたなり」


「ええ」


「知っています」


「私も前世では知識として知っておりました」


「私もです」


 公爵令嬢が額を押さえる。


「まさか前世の趣味に関する知識が、生命維持の相談で役に立つとは思いませんでしたわ」


「私も、腐女子だった経験がこんな形で戻ってくるとは思いませんでした」


「でも」


「はい?」


「見るのと、自分でやるのは別ですわよね」


「まったく別です!」


 男爵は力いっぱい同意した。


     *


 それでも、結論は変わらなかった。


 何もしなければ期限が迫る。


 焦って、もっと危険な相手へ事情を打ち明けることになるかもしれない。


 今なら二人とも冷静だ。


 互いの秘密も共有した。


 何より、条件が噛み合っている。


「確認しましょう」


 男爵が真面目な顔になる。


「私のアナルを使うことで、私の条件を満たす」


「ええ」


「同時に、あなたは私の体内で条件を満たす」


「そのつもりですわ」


「途中で嫌になれば?」


「止めます」


「命がかかっていても?」


「別の方法を探します。嫌がる相手へ無理強いするくらいなら、まだ時間はありますもの」


「私も同じです」


「痛ければ?」


「即座に言います」


「私もですわ」


 二人とも黙る。


 公爵令嬢が大きく息を吐いた。


「……腹を括りましょう」


「はい」


「今から?」


「今からです」


「本当に?」


「あなたこそ」


「私は……」


 男爵も一度深呼吸した。


「やります」


「では私も」


 公爵令嬢が立ち上がった。


「二人とも、生き残るためですもの」


     *


 最初は、ひどくぎこちなかった。


 二人とも経験がほとんどない。


 昨日までなら、自分がこんな状況になるとは夢にも思っていなかった。


「……緊張しますわ」


「私もです」


「少し待ってくださいませ」


「もちろん」


 急がない。


 何度も確認する。


 性神の加護があるからといって、気持ちまで自動的に追いつくわけではない。


 公爵令嬢が男爵のアナルを使う形で、二人は慎重に身体を重ねた。


「……っ」


「大丈夫ですか」


「はい……」


「私も、かなり緊張しておりますわ……」


「無理なら止めます」


「まだ大丈夫です」


 男爵が息を吐く。


「はぁ……っ」


 公爵令嬢も。


「んっ……はぁ……」


 最初は、ただ戸惑っていた。


 それが。


 ほんの少し時間が経っただけで。


「……あれ」


「どうしましたの?」


「急に……何か……」


「私もですわ……」


 感覚が変わる。


 性神の祝福が働いている。


 身体を守るだけではない。


 互いが同意して触れ合うほど、快感まで強くなっていく。


「はぁっ……あっ……!」


「んっ……!」


「これ……思ったより……!」


「ええ……!」


 男爵の息が一気に崩れた。


「オホッ……!」


「……」


「……」


 二人が同時に止まる。


「今」


「聞かないでください!」


「オホ声が」


「聞かないでください!」


 ところが、その直後。


「んっ……オホッ……!」


 今度は公爵令嬢だった。


「……」


「……」


「あなたも」


「言わないでくださいませ!」


「性神!」


「絶対に性神のせいですわ!」


 顔を真っ赤にしたまま、二人で叫ぶ。


 それでも離れようとはしなかった。


     *


「……続けます?」


 男爵が尋ねた。


 公爵令嬢は荒くなった呼吸を整える。


「当然ですわ」


「本当に?」


「ここまで来て止めたら、何のために腹を括ったのか分かりませんもの」


「では」


「ええ」


 また身体を重ねる。


「はぁっ……!」


「んっ……!」


 すぐに声が変わった。


「オホッ……!」


「オホォッ……!」


「また!」


「あなたもでしょう!」


「オホッ……!」


「オホォォッ……!」


 最初のぎこちなさが、少しずつ消えていく。


「大丈夫ですか」


「大丈夫ですわ……あなたは?」


「私も……!」


「もう少し?」


「はい……!」


「オホッ……!」


「オホォッ……!」


 互いに痛くないか確認する。


 嫌ではないか聞く。


 問題がないと分かるたび、少しずつ緊張が解ける。


「これ、本当に……」


「はい?」


「気持ち……いい……!」


「私もですわ……!」


「言いましたね!」


「あなたも同じ顔をしておりますわ!」


「オホッ……!」


「オホォォォッ……!」


 いつの間にか二人とも笑っていた。


 昨日までならあり得なかった。


 男爵として。


 公爵令嬢として。


 前世の女として。


 前世の男として。


 貴族として身につけた常識も、前世で持っていた常識も、全部が「何をしているんだ」と叫んでいる。


 それでも身体は素直だった。


「オホッ……! 公爵令嬢……!」


「肩書きで呼ばないでくださいませ……オホォッ……!」


「では何と呼べば!」


「今は何でも構いませんわ!」


「適当ですね!」


「あなたに余裕がおありで!?」


「ありません!」


「オホッ……!」


「オホォォォッ……!」


     *


 しばらくして、二人とも同時に分かった。


 祝福が強く反応している。


「……待って」


「どうしましたの?」


「多分、もうすぐ……条件が……!」


「私もですわ……!」


「これでいいんですよね!」


「性神に聞きたいところですけれど……!」


「今はいません!」


「肝心な時だけ!」


「来る……!」


「私も……!」


 二人の声が重なる。


「オホッ……! オホォォォッ……!」


「オホッ……! オホォォォォッ……!」


 二人とも限界を迎えた。


 しばらく。


 客間には荒い呼吸だけが残った。


「はぁ……はぁ……」


「はぁっ……」


 男爵が天井を見る。


「……生きてる」


「私もですわ」


「条件は?」


「何となく分かります」


「私も」


 身体の中で。


 四十八時間の期限が、最初から数え直された。


 そんな確信があった。


「成功」


「成功ですわ」


 男爵が笑う。


 公爵令嬢も笑った。


「よかった……」


「本当に」


 二人とも心の底から安堵していた。


     *


 その安堵は、数秒しか続かなかった。


「……次」


 男爵が呟く。


「ええ」


「四十八時間後」


「……必要ですわね」


「そうですね」


 二人とも黙る。


 男爵は顔を覆った。


「一回やれば解決する話ではなかった」


「最初から分かっていたでしょう」


「分かっていましたが、改めて考えると!」


 公爵令嬢も額を押さえる。


「貴族社会で」


「二日に一度」


「秘密裏に」


「アナルを使って」


「互いの条件を」


「……」


「……」


 また顔を見合わせる。


「どうします?」


「どうしましょう」


「また会いますか」


「死ぬよりは」


「ですよね」


「それに」


 公爵令嬢が言いかけて、視線を逸らした。


「何ですか?」


「……思っていたより」


「はい」


「嫌ではありませんでした」


 今度は男爵が黙る。


「私もです」


「むしろ」


「そこから先は、言わない方がいい気がします」


「そうですわね」


 二人の頬が赤くなる。


「次は四十八時間ぎりぎりまで待たない方がいいでしょう」


「賛成です」


「安全のために」


「もちろん安全のためですわ」


「快楽のためではなく」


「当然です」


「……」


「……」


 さっきまで響いていた二人分のオホ声を思い出す。


「説得力がありませんね」


「あなたもでしょう!」


 公爵令嬢が男爵の肩を叩いた。


「痛い!」


「性神の加護がありますでしょう!」


「そういう問題では!」


 二人で笑った。


 昨日まで。


 二人とも一人だった。


 どうすれば生きていけるのか。


 貴族社会でどう秘密を守るのか。


 誰へ相談すればいいのか。


 まだ何一つ解決していない。


 それでも今夜。


 二人は、自分と同じ神に人生をひっくり返された相手を見つけた。


 そして互いの条件を組み合わせることで、最初の四十八時間を乗り越えた。


 次の期限まで。


 あと四十八時間。


 男爵は小さく息を吐く。


「……またアナルですか」


「そこを今さら恥ずかしがりますの?」


「昨日まで身持ちの固い男爵だったんですよ!」


「私だって昨日まで身持ちの固い公爵令嬢でしたわ!」


「それが一晩で」


「性神のせいです!」


「そこだけは完全に同意します!」


 こうして。


 王都の貴族社会の片隅で。


 誰にも知られてはいけない、二人だけの四十八時間が始まった。

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