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種付けオッサンとビッチギャル ~二日に一度ヤらないと死ぬ二人の異世界転生~【注目15位、日間217位ありがとうございます】  作者: 黒瀬 量衡
第二章 腐女子男爵とエロゲ公爵令嬢

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第三十五話 性神の神託を受けた男爵と公爵令嬢が、貴族社会でどう生きればいいのか分からなくなりました

その日。


 王都のまったく別々の場所で、二人の若い貴族が同じ神の声を聞いた。


 一人は、成人済みの若い男爵。


 もう一人は、公爵家の令嬢。


 二人には面識こそあったが、親しいわけではない。夜会で顔を合わせれば挨拶を交わす程度で、互いの人生がその日を境にほとんど同時におかしくなるなど、知る由もなかった。


     *


 男爵が神託を受けたのは、自邸の礼拝室だった。


 朝の祈りを終えようとした、その時。


『聞こえますか』


「……誰だ?」


 女の声だった。


 いや、女というより。


 男爵がこれまで見てきたどんな美女よりも、妙に自分の好みに刺さる女の声。


 振り返っても誰もいない。


『私は性神』


「……はい?」


『あなたへ祝福を授けます』


「待て」


『健康な身体。高い回復力。性的な行為による身体損傷への強い耐性。そして――』


「待てと言っている!」


 しかし神は待たなかった。


『四十八時間以内に一度、後ろ側への刺激によって絶頂し、その際に射精してください』


「…………」


『四十八時間を越えれば、あなたの生命活動は急速に低下します』


「…………」


『以上です』


「以上です、ではない!」


 男爵は礼拝室で立ち上がった。


「待て! 何だその条件は!」


『祝福です』


「呪いだろう!」


『祝福です』


「貴族だぞ私は!」


『存じています』


「男爵だぞ!」


『それも存じています』


「だから何故!」


 返事はなかった。


「……性神?」


 沈黙。


「おい!」


 沈黙。


「帰るな!」


 完全に消えた。


 男爵は礼拝室の中央でしばらく立ち尽くした。


「……夢だ」


 そう思いたかった。


 だが、その瞬間。


 頭の中へ、別の記憶が流れ込んできた。


     *


「…………あ」


 日本。


 マンション。


 スマートフォン。


 薄い本。


 イベント会場。


 通販。


 推していた男同士の組み合わせ。


「…………は?」


 さらに記憶が戻る。


 前世の自分。


 女だった。


 腐女子だった。


「待って」


 今の自分は男。


 しかも貴族。


 若い男爵。


 鏡を見れば、我ながら整った顔をしている。社交界でも女性人気は高いし、婚約話だって何件も来ている。


 その男の前世が。


「……腐女子?」


 頭を抱えた。


「いや、それはいい」


 良くはないが、今すぐ命に関わる問題ではない。


 もっと大きな問題がある。


「四十八時間」


 男爵は指を折った。


「二日」


 二日に一度。


 絶対に。


 後ろ側への刺激で絶頂して射精する必要がある。


「……どうするんだ?」


 真顔になる。


「貴族社会で、どうするんだ?」


     *


 従者には言えない。


 侍従にも言えない。


 執事にも無理だ。


 まして父母や親族へ、


『性神の祝福を受けまして、二日に一度、後ろで絶頂しないと死にます』


 などと報告できるはずがない。


「死ぬ」


 別の意味で死ぬ。


 家名が。


 社会的立場が。


 何より自尊心が。


「いや待て、前世の私ならむしろ……」


 そこで止まる。


「違う!」


 前世の腐女子趣味と、今の自分が実際にそれをすることは別問題である。


「見る側だったんだ!」


 誰もいない礼拝室で叫ぶ。


「やる側ではない!」


 静寂。


「……何を言っているんだ私は」


 男爵は顔を覆った。


     *


 一方、その頃。


 公爵家でも同じような惨事が起きていた。


 公爵令嬢は、自室で神託を受けていた。


『あなたへ祝福を授けます』


「……はい?」


『健康な身体、高い回復力、性的行為による損傷への強い耐性』


「何のお話でしょう」


『そして新たな身体機能』


「新たな?」


 次の瞬間。


 公爵令嬢は、自分の身体に明らかな変化が起きたことを悟った。


「…………」


『あなたは今後、男女双方の性的特徴を備えます』


「…………はい?」


『四十八時間以内に一度、人の体内へ射精してください』


「…………」


『四十八時間を越えれば、生命活動が急速に低下します』


「…………」


『以上です』


「お待ちください」


『はい』


「待ってくださるのですか」


『今回は』


「でしたら最初からもっと丁寧にご説明ください!」


 公爵令嬢は思わず声を荒らげた。


「私は公爵令嬢です!」


『存じています』


「婚約候補もおります!」


『存じています』


「社交界にも出ます!」


『はい』


「それなのに!」


 自分の身体を見る。


「何故こんな身体にしたのですか!」


『祝福です』


「祝福の意味を辞書で引いてくださいませ!」


     *


 さらに追い打ちが来た。


「……っ」


 記憶。


 日本。


 パソコン。


 ゲーム画面。


 大量の成人向けゲーム。


 攻略情報。


 美少女。


 特殊な設定。


 そして。


「…………俺?」


 令嬢が呟いた。


 前世の自分は男だった。


 しかも。


「エロゲオタク……?」


 記憶が次々戻る。


 学生時代。


 社会人になってからも買い続けたゲーム。


 予約特典。


 限定版。


 設定資料集。


 そして、ふたなりというジャンルについても当然知識がある。


 公爵令嬢は鏡の前で固まった。


「……知識として知っているのと」


 自分を見る。


「自分がなるのは」


 さらに見る。


「全然違うでしょうが!」


 令嬢らしからぬ叫びが部屋に響いた。


     *


 幸い侍女はいなかった。


 扉も閉まっている。


 公爵令嬢はベッドへ腰を下ろし、両手で顔を覆った。


「落ち着こう」


 前世の口調が出かかる。


「……落ち着きましょう」


 今世の令嬢として言い直す。


「条件を整理します」


 一。


 身体は健康になる。


 二。


 回復力が上がる。


 三。


 性的な行為による身体的な問題から守られる。


 そこまではいい。


 問題はその後。


「四十八時間に一度」


 人の体内へ射精。


「人の……体内」


 そこが最悪だった。


 物では駄目。


 一人では達成できない。


 必ず相手が必要になる。


「……どうすればよろしいの」


 公爵令嬢は真顔になった。


「私、公爵令嬢なのですけれど」


     *


 結婚すればいい。


 一瞬、そう思う。


 だが。


「結婚相手に何と説明すれば?」


『実は性神から祝福を受けまして、二日に一度あなたか誰かの体内へ射精しないと死にます』


「無理ですわ」


 婚約前ならさらに無理。


 婚約後でも無理。


 婚姻後に打ち明ければ詐欺同然。


 それ以前に、自分の身体が変化したことを公爵家がどう扱うか分からない。


 政治的価値。


 継承。


 婚姻。


 血統。


 醜聞。


 宗教。


「……最悪の場合」


 公爵令嬢は青ざめた。


「神殿に囲われる?」


 珍しい祝福持ちとして研究対象になる可能性すらある。


「それは絶対に嫌」


 前世がエロゲオタクだからこそ分かる。


 特殊能力を持つ高位貴族の令嬢が宗教施設に保護される。


「絶対ろくな展開にならない!」


     *


 男爵も同じ頃、自室へ戻っていた。


 机の前。


 紙を置く。


 羽根ペンを握る。


『問題点』


 そう書いた。


 一、四十八時間制限。


 二、秘密保持。


 三、方法。


 四、結婚。


 五、性神。


 そこまで書いて止まる。


「性神が一番問題だろう」


 そもそも、性神などという神格を公にしていいのか分からない。


 中央神殿で一般的に祀られている神々とは明らかに毛色が違う。


「……聖神」


 男爵は呟いた。


「聞かれたら、聖神とでも言うか」


 字面だけなら似ている。


 性神。


 聖神。


「……詐称では?」


 神相手に怒られそうだ。


「だが性神と言えるか!」


 無理だった。


     *


 公爵令嬢も、ほぼ同じ結論へたどり着いていた。


「祝福を受けたこと自体は隠しきれないかもしれません」


 健康状態が突然良くなったり、怪我の回復が異常に早くなれば、周囲はいずれ気づく。


「でも性神は無理ですわ」


 公爵令嬢は机へ突っ伏した。


「聖神」


 呟く。


「……聖なる神から、健康の祝福をいただいた」


 それなら通せる。


 多分。


「問題は」


 顔を上げる。


「二日に一度の方ですわ」


     *


 男爵はさらに悩んでいた。


 自分一人で条件を満たせるのなら、まだ何とかなる。


 だが貴族の生活には常に人の目がある。


 使用人。


 侍従。


 訪問客。


 夜会。


 領地視察。


 泊まりがけの狩猟。


 王都と領地の往復。


「二日ごとに絶対必要」


 予定表を見る。


「社交界と相性が悪すぎる!」


 夜会の最中に期限が来たらどうする。


 領地へ向かう馬車の途中なら?


 他家の屋敷へ泊まっている時は?


「病弱ということにする?」


 定期的に一人になる時間を確保する。


「いや、健康の祝福と矛盾する」


 頭を抱える。


「どうやって生きればいいんだ……」


     *


 公爵令嬢の問題はさらに深刻だった。


「相手が必要」


 これに尽きる。


 しかも四十八時間以内。


 毎回。


 絶対。


「恋人を作る?」


 無理。


「結婚を急ぐ?」


 もっと無理。


「使用人?」


「何を考えておりますの私は!」


 自分で自分を叱る。


 相手の立場が弱ければ、同意があったとしても権力関係が問題になる。


 公爵令嬢という身分は、こういう時にはむしろ邪魔だった。


「対等な相手……」


 貴族。


 ある程度の身分。


 秘密を守れる。


 自分の事情を理解する。


 継続的に会える。


 そして何より。


「二日に一度ですわよ?」


 そんな相手がどこにいる。


「……詰んでません?」


     *


 その夜。


 男爵は一人、ベッドへ横になった。


「前世が腐女子」


 天井を見る。


「今世が男爵」


 ため息。


「性神の祝福」


 さらにため息。


「四十八時間に一度、後ろで絶頂して射精」


 毛布を頭まで被る。


「何だこの人生」


     *


 同じ夜。


 公爵令嬢も天蓋付きのベッドで丸くなっていた。


「前世がエロゲオタクの男」


 枕へ顔を埋める。


「今世が公爵令嬢」


 身体が変化した。


 しかも四十八時間に一度、人の体内へ射精しなければ死ぬ。


「……エロゲでももう少し導入を考えますわよ」


 自分で言ってから止まる。


「何を基準に評価しているのです、私は」


 枕へさらに顔を埋める。


     *


 二人はまだ知らない。


 同じ日に。


 同じ神から。


 同じ四十八時間という期限を与えられ。


 同じように貴族社会でどう生きればいいのかと悩んでいる人間が、王都の反対側にいることを。


 男爵は考える。


「誰にも言えない」


 公爵令嬢も考える。


「絶対に秘密にしなければ」


 男爵は呟く。


「どうすればいいんだ」


 公爵令嬢も呟く。


「どうすればよろしいの……」


 そして。


 二人の身体の中では。


 最初の四十八時間が、すでに静かに減り始めていた。

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