第三十二話 オホ声聖書を採点表にして、男と女を比べ始めたんだけど
森で一通り騒いだあと、うちとオッサンは結局まだ仕事へ向かわず、木の根元へ並んで座っていた。
薬草袋と木杯は少し離れた場所で寄り添い、木剣と黒鞘も当然のように一組になっている。手甲に抱え込まれたオホ声聖書だけが、ときどき意味ありげに震えた。
「オホッ……」
「お前、さっきから何に反応してんの?」
「オホォ……」
「知らないふりすんな」
聖書を膝へ置いたところで、ふと思った。
「ねえ、オッサン」
「何ですかな?」
「男って、かなり違うよね」
「何が?」
「身体もそうだけど、やり方」
オッサンが眼鏡を直した。
「随分と直接的な話題ですなぁ」
「最近いろんな男としたんだから、比較材料あるし」
「そこを堂々と言いますかな」
「事実じゃん」
元童貞神父。
マジメメガネ。
虎獣人。
それからオッサン。
全員成人で、性格も身体も、相手との接し方まで全然違う。
「ちょっと比べてみたい」
「では、おじさんも女性陣を比べますかな」
「は?」
「公平でしょう」
「誰を?」
「女将さん、娘さん、受付のお姉さん、女戦士さん。それからギャルさん」
「うちも!?」
「言い出した本人を除外するのは不公平ですぞ」
「……分かったよ」
*
「じゃ、男から。まず元童貞」
「もう童貞ではありませんぞ」
「本人みたいに訂正すんな」
「聞きすぎて癖になりまして」
元童貞神父は、身体もやり方も本人そのものだった。
「基本、受け身」
「でしょうなぁ」
「自分からガンガン来るより、相手に引っ張られたり、言われたことを真面目にやる方が合ってる」
「受付のお姉さんとの相性が良い理由ですな」
「そうそう。真面目なのに、身体の反応だけめっちゃ素直」
うちが何か言えば、まず律儀に反論する。
それでも嫌なら離れるし、嫌じゃなければ最後には自分で選んで残る。
「あと、恥ずかしがるくせに逃げない」
「本人に言えば真っ赤になりますぞ」
「今度言お」
「やめてあげてください」
*
「次、マジメメガネ」
「標準型?」
「うん。すごく普通」
普通と言っても悪い意味じゃない。
相手を見ながら合わせる。主導もするし、任せることもできる。無茶に走るより、相手の反応を確認しながら続ける。
「身体までマジメなんだよね」
「細マッチョ化しておりますからなぁ」
「服着てると普通なのに、脱ぐと肩も腹も腰も結構締まってる」
「女将さんも気に入っております」
「知ってる。娘も」
「知っております」
二人で少し黙る。
「最近あの宿どうなってんの?」
「おじさんに聞かれましても」
*
「虎」
「これは分かりやすいですな」
「筋力」
とにかくデカい。
肩も腕も背中も、最近さらに厚くなった。
そして、その筋力を惜しまず使う。
「抱き上げるの好き」
「ほう」
「普通の人なら維持するだけで疲れそうな姿勢を平気で続ける。立ったまま支えたり、位置を変えたり」
「虎獣人ならではですなぁ」
「あと動きが一番強い。重いし速いし、力そのものが違う」
ただし、本当に乱暴というわけではない。
最初に一度確認する。
うちが遠慮するなと言えば、そこから遠慮を捨てるだけ。
「遠慮すんなって言ったら、本当に遠慮しなくなった」
「ギャルさんが言ったのですかな?」
「うん」
「虎獣人さんも大変ですなぁ」
「何で?」
「そこまで言われたら雄として引けませんぞ」
「それでいいんだって」
*
「で、オッサン」
「ついにおじさんですかな」
「お前は別枠」
「高評価?」
「顔は最低」
「知っております」
「腹も最低」
「はい」
「匂いも普通なら最低」
「普通なら?」
「うちの身体だけは好き」
「相変わらず複雑ですなぁ」
オッサンは、若い男みたいな格好良さとは完全に別方向へ進んでいる。
むしろ脂っこさも、中年臭さも、オッサンっぽさも増している。
なのに雄としての身体的な存在感だけは、会うたびに極端になっていく。
「あと、お前だけ身体が勝手に覚えてる」
「おじさんもですぞ」
「他の三人とどれだけしても、最後にお前見ると別のところが足りなくなる」
「奇遇ですなぁ」
「ほんと腹立つ」
「おじさんもですぞ」
「好みならまだ納得できたのに」
「おじさんも清楚な黒髪女性なら最高でしたなぁ」
「それ今うちの前で言う?」
「ギャルさんも若いイケメンがよかったのでしょう?」
「当然」
「お互い様ですな」
「ムカつく」
*
「じゃ次、おじさんの番ですな」
「やだ」
「公平」
「……分かった」
オッサンが最初に挙げたのは受付嬢だった。
「ドS」
「まだ外見の話をしておりませんぞ」
「身体より先にそこ来るじゃん」
「否定できませんなぁ」
受付嬢は最近、胸のボリュームが以前より少し増している。それでも全体としてはすっきりした体型で、姿勢の良さと鋭い雰囲気が先に来る。
「胸の張りなら、女戦士さんと娘さんの次くらいですかな」
「女将より上?」
「張りだけなら」
「あー、女将は方向違うもんね」
受付嬢は標準的な丸み。
それより特徴的なのは、二人きりになった時の変化だ。
「言葉」
「罵倒ですな」
「道具」
「はい」
「命令」
「はい」
「相手を追い込んで反応見るのが好き」
「……はい」
「何で遠い目してんの」
「思い出しておりました」
*
「女将さん」
「好きだよね」
「熟れた魅力がありますなぁ」
「マジメメガネにも刺さってる」
「でしょうなぁ」
女将は、胸も腰も尻も、全部が若い娘とは違う。
胸は丸みを保ちながら少し柔らかく下がっている。それが欠点というより、成熟した身体の特徴として全体の雰囲気に馴染んでいる。
尻も同じ。
「女将の尻、一番肉厚じゃない?」
「丸いですなぁ」
「ちょっと下がってるけど、それ込みで熟女」
「柔らかいのですぞ」
「知ってる顔すんな」
「知っておりますからなぁ」
やり方も身体に合っている。
「もっちり」
「はい」
「ねっとり」
「はい」
「密着して離さない感じ」
「まさに」
「速さだけじゃないんだ」
「身体全体で包まれるのですぞ」
「オッサン、めっちゃ好きじゃん」
「否定はしませんなぁ」
*
「娘さん」
「若い」
「それが全部?」
「かなり重要ですぞ」
胸は女戦士の次に張りが強い。
尻も高い位置で上向き。丸みはあるけど、女将みたいな柔らかな重さではなく、若さそのままの弾力がある。
「女将と同じ親子なのに、方向真逆」
「娘さんは張り」
「女将は柔らかさ」
「そういうことですな」
そしてやり方。
「最初から全力」
「若い」
「体力ある」
「若い」
「テンポ速い」
「若い」
「何でも若いで済ますな!」
でも、実際それが一番近い。
考え込むより先に身体が動く。
欲しいと思ったら、その勢いのまま来る。
*
「女戦士さん」
「筋肉」
「筋肉ですなぁ」
胸の張りは女性陣で一番。
単純に若いからではない。
その下にしっかり発達した胸筋の土台があるから、全体が高い位置で強く支えられている。
「女戦士、胸まで筋肉の上に乗ってる感じ」
「肩から胸まで繋がって見えますな」
「尻も一番硬そう」
「臀筋が発達しておりますからなぁ」
ヒップは丸さよりも引き締まり。
立っただけで筋肉の線が分かるくらいなのに、女性らしい輪郭そのものは消えていない。
「娘の尻が上向きなら、女戦士は鍛えた尻」
「そうですな」
「受付嬢は普通」
「はい」
「女将は丸くて肉厚、ちょっと柔らかく下がってる」
「完璧ですなぁ」
「何の完璧だよ」
プレイも虎と対になる。
「女戦士も筋力型」
「押さえ込まれますぞ」
「お前が?」
「はい」
「ウケる」
「笑い事ではありませんぞ」
自分から相手を動かす。
身体を支える。
力で姿勢を変える。
虎が雄側の筋力型なら、女戦士は雌側の筋力型。
「本人は?」
「屈してないそうですぞ」
「そこだけ全然変わらないね!」
*
「で、胸だけ並べたら?」
「張りですかな?」
「うん」
オッサンが指を折る。
「女戦士さん、娘さん、受付のお姉さん、女将さん」
「納得」
大きさだけではなく、張りという項目ならそうなる。
女戦士は筋肉の土台。
娘は若さ。
受付嬢は標準的だが最近ボリュームが増している。
女将は丸く柔らかい。
「尻は順位つけにくいね」
「方向が違いすぎますな」
「女戦士は筋肉、娘は上向き、受付嬢は普通、女将は肉厚」
「好みの問題ですなぁ」
「オッサンは?」
「女将さん」
「即答!」
*
「あと、胸の細かい特徴も結構違うよね」
「違いますなぁ」
乳輪の大きさなら、女将が一番目立つ。
次が女戦士。
その後に受付嬢、娘と続く。
「女戦士は興奮すると乳輪そのものが反応するタイプ」
「ギャルさんにも似ておりますな」
「うちは最近もっと極端」
「はい」
「嬉しそうに言うな」
受付嬢は少し特殊だった。
「最近、胸は大きくなってるのに中心が引っ込み気味」
「本人は気づいておりますかな」
「気づいてそうだけど、うちからは絶対言わない」
「賢明ですぞ」
「お前も言うなよ」
「命が惜しいですからなぁ」
*
「最後、ギャルさん」
「来た」
「一番変わっておりますなぁ」
「やっぱ?」
「最初に会った頃と比べれば」
髪。
肌。
胸。
尻。
腰。
脚。
柔軟性。
全部。
「尻も前より上がっておりますぞ」
「ダンスやってたから元から結構上向きだし」
「それがさらに」
「言うな」
「胸も」
「言うな」
「反応も」
「止まれ!」
オッサンが笑う。
「言い出したのはギャルさんですぞ」
「人の比較は楽しいんだよ! 自分入ると急に恥ずいの!」
「理不尽ですなぁ」
*
「でもさ」
うちは聖書を指で叩いた。
「身体だけじゃなくて、やり方まで本人の性格そのままだよね」
「確かに」
元童貞は受け身。
マジメメガネは標準的で、相手を見ながら合わせる。
虎は筋力を全面に出した激しい型。
受付嬢は言葉と道具と支配。
女将は柔らかな身体を使った濃い密着。
娘は若さと体力で最初から全力。
女戦士は鍛えた筋力による強い主導。
「性神の加護って、身体だけじゃなくて性癖まで育ててない?」
「元からあるものを強くしているように見えますな」
「だよね」
嫌なことを好きにさせているわけではない。
本人が元々持っていたもの。
そこを遠慮なく表へ出せるようにしている。
*
「で」
「はい?」
「うちらだけ、やっぱ違う」
オッサンが黙った。
「他の人は本人らしく変わってる」
「おじさん達は」
「互いに合わせて変わってる」
オッサンは、よりうちの身体に合う雄へ。
うちは、よりオッサンに合う雌へ。
「最悪」
「奇遇ですなぁ」
「他にもっと好みの相手いるのに」
「全くですぞ」
「でも身体だけなら」
「一番」
しばらく見つめ合う。
先に逸らしたのはうちだった。
「腹立つ」
「おじさんもですぞ」
*
「オホッ……」
膝の上。
聖書。
「何」
「オホォ……!」
「もしかしてお前、ずっと聞いてた?」
「オホッ!」
「返事すんな!」
オッサンが聖書を見る。
「記録していたりしませんかな?」
「やめろ!」
「性神の聖書ですからなぁ」
「怖いこと言うな!」
手甲が聖書へぎゅっと寄る。
「オホォォッ……!」
「お前も慰めんな!」
*
うちは立ち上がった。
「今度こそ魔物狩り行く」
「おじさんも薬草を採りますぞ」
「あと、今日の話、他の奴に言うなよ」
「もちろんですぞ」
「特に女将と受付嬢」
「命に関わりますからなぁ」
「娘なら?」
「参加したがりそうですな」
「絶対そう。だから言うな」
「了解ですぞ」
二人で反対方向へ歩き始める。
三歩。
「オッサン」
「何ですかな?」
「でも、次会ったらもうちょっと比較しよう」
「おじさんも追加情報を整理しておきますかな」
「いいよ」
「公平ですなぁ」
「うん」
「オホッ……!」
二人とも止まった。
聖書。
「……」
「……」
「お前は採点会に参加すんな!」
「オホォォォォォッ……!」




