第二十八話 黒革ボンテージと張形で、元童貞神父が御主人様の性奴隷になりました
冒険者ギルドの奥にある小さな別室で、元童貞神父は一人、椅子へ座って待っていた。
扉一枚隔てた向こうでは、冒険者たちの声や硬貨の音、受付嬢たちの応対が絶えず聞こえている。先ほどは、いつもの薬草採取へ出るらしいあのオッサンの声まで聞こえた。受付嬢から「先に奥の部屋へ行っていてください」と言われたので素直に来たものの、待たされるほど、自分が何を待っているのか意識してしまう。
「……」
膝の上に置いた両手を組み直す。
仕事の話をするだけなら、こんなに緊張する必要はない。
もちろん、仕事の話だけではないことを知っている。
「……まだでしょうか」
呟いた直後、扉が開いた。
「お待たせしました」
「あ……お疲れ様です」
「声が大きい」
「すみません」
入ってきた受付嬢は、表にいた時と同じ制服姿だった。髪も服も乱れていない。冒険者相手に淡々と依頼を処理している、いつもの仕事のできる受付嬢。
彼女は扉を閉めると、取っ手へ手を伸ばした。
かちゃ。
鍵が掛かる。
それだけで、空気が変わった。
「最初に確認します」
「はい」
「前回と同じです。嫌なら止める。本当に止めたい時の合図も同じ。役の中での拒否と、本当の拒否は分けること。できますね?」
「できます」
「体調は?」
「問題ありません」
「途中で変わったら?」
「すぐに伝えます」
「よろしい」
受付嬢が歩み寄った。
神父が緊張して姿勢を正した、その瞬間。
ぱんっ。
「っ……!」
頬へ平手が飛んだ。
「性奴隷のくせに服を着ているとは、生意気ですね」
「……!」
「何です、その顔は」
「何でもありません」
「嬉しそうですが」
「違います」
「では、嫌でしたか?」
神父は一瞬だけ黙った。
「……嫌ではありません」
「正直でよろしい」
受付嬢が笑う。
それだけで、叩かれた頬とは別のところまで熱くなった。
*
「脱ぎなさい」
「……嫌です」
「そうですか。では帰りますか?」
「私は神父です。このような命令に従うために来たわけではありません」
「扉はそこです」
「……」
「帰って構いませんよ」
「……帰りません」
「では?」
元童貞神父は嫌そうな表情を作りながら、神父服へ手を掛けた。
「……脱ぎます」
「演技が下手ですね」
「そういうことを言わないでください!」
「嫌がっている割には手が早いですが」
「これは命令されたからです!」
「はいはい」
一枚ずつ服を脱ぎ、きちんと畳んで置く。
「そこまで丁寧に畳むところが、あなたらしいですね」
「服を粗末にはできません」
「性奴隷でも?」
「性奴隷でもです!」
「認めるのですね」
「今のは言葉の綾です!」
最後に命じられた通り、床へ四つん這いになる。
「……これでよろしいでしょうか」
「誰が顔を上げてよいと言いました?」
「……」
「下を向く」
「はい……御主人様」
「よろしい」
その声だけで、背筋が震えた。
*
「では、私も準備をしましょう」
背後で衣擦れの音がする。
元童貞神父は床を見たまま動かなかった。
「見ないのですか?」
「見るなと言われましたので」
「真面目ですね」
「当然です」
「見たい?」
「……」
「神父様?」
「……見たいです」
「どのくらい?」
「かなり」
「正直でよろしい。見てもいいですよ」
顔を上げる。
「……」
受付嬢は、いつもの制服姿ではなくなっていた。
黒い革。
金具。
身体の線を強調するボンテージ。
実用性など初めから考えていないと分かる衣装で、隠すためではなく、見せつけるために着ているようにしか見えない。
神父はしばらく何も言えなかった。
「口が開いていますよ」
「す、すみません」
「感想は?」
「……非常に似合っています」
「それだけ?」
「魅力的です」
「もっと」
「……かなり魅力的です」
「よろしい」
受付嬢が彼の前へ立つ。
「実は、あなたを待っている間に困ったことになりまして」
「困ったこと?」
「ええ。表で仕事をしながら、ずっとこの後のことを考えていました」
「……」
「誰のせいでしょうね?」
「私、でしょうか」
「そういうことにしておきます。責任を取りなさい」
「どうすれば?」
受付嬢は自分を示し、命じる。
「綺麗にするまで奉仕しなさい」
「……」
「嫌?」
「いいえ」
「むしろ?」
「……喜んで」
「本当に分かりやすい性奴隷ですね」
*
命じられた奉仕が始まると、最初に余裕を失ったのは受付嬢の方だった。
「オホッ……!」
元童貞神父が一度止まる。
「何を止まっているのです!」
「いえ、声が」
「気にするな……オホッ……!」
「はい」
「もっと真面目にやれ……オホォッ……!」
「真面目にしております」
「そういう意味では……オホッ……!」
受付嬢の手が彼の頭へ伸びる。命令するように押さえ、そのまま逃がさない。
「そこで止まるな」
「逃げておりません」
「なら、そのまま……オホッ……! オホォォッ……!」
いつも冒険者を冷静に捌いている人間とは思えない声が、小さな別室へ響く。
「そのままです……! まだ……!」
「はい」
「オホッ……! オホォッ……! オッホォォォォォッ……!」
最後には神父の頭を抱え込むようにして、受付嬢自身が大きく震えた。
しばらく何も言わない。
「……」
「……御主人様?」
「今は話しかけないでください」
「はい」
「あと」
「はい」
「そんなに嬉しそうな顔をしない」
「無理です」
「……」
受付嬢は彼を見下ろし、それから小さく笑った。
「では、よくできた性奴隷へご褒美をあげましょう」
*
床へ置かれた物を見て、元童貞神父の顔が引きつった。
「……張形」
「見れば分かるでしょう」
「なぜギルドにこのような物があるのですか?」
「私物です」
「聞かなかったことにします」
「逃げない」
「逃げておりません!」
受付嬢は道具を床へしっかり固定すると、その前を指した。
「跨ぎなさい」
「……」
「聞こえませんでしたか?」
「聞こえました」
「では」
神父は真っ赤になりながらも、命じられた位置へ進む。
「嫌そうな顔ですね」
「性奴隷として、非常に屈辱的です」
「やめます?」
「……やめません」
「なら、自分から受けなさい」
「……はい」
言われた通り、慎重に身体を沈める。
「オホッ……!」
一瞬で背中が反った。
「オホォォッ……!」
身体の奥から駆け上がった強烈な刺激に、頭の中まで真っ白になる。
「御主人様……!」
「まだですよ」
「え……?」
受付嬢が背後から近づいた。
そして、彼の身体へ覆いかぶさるように重なる。
「ここからが本番です」
ぐっ。
体重を預ける。
「オホォォォォッ……!」
「随分いい声を出すようになりましたね」
「これは……無理です……!」
「何が無理なのです?」
「頭まで……オホッ……!」
「性奴隷が御主人様に調教されて喜んでいるだけでしょう?」
「オホォッ……! はい……!」
「なら、ちゃんと受けなさい」
「はい、御主人様……!」
*
そこから受付嬢は、完全に調教する側へ回った。
「勝手に動かない」
「はい」
「私が言うまで待つ」
「……はい」
「今」
神父が身体を動かし、受付嬢もそれに合わせて体重を乗せる。
「オホォォッ……!」
「もう一度」
「はい……!」
呼吸を合わせる。
動く。
止まる。
命令を待つ。
「今」
「オホッ……! オホォォッ……!」
「いい声ですね、性奴隷」
「そんな呼び方を……オホッ……!」
「嫌ですか?」
「嫌ではありません!」
「では続けます」
「はい……御主人様!」
受付嬢自身も、神父へ身体を重ねながら次第に息を乱していく。
「オホッ……!」
「御主人様も声が……!」
「生意気ですね」
「すみません……オホォッ……!」
「謝りながら喜ばない」
「無理です!」
「本当に調教しがいがありますね」
命令。
返事。
オホ声。
それだけで、次第に二人の動きが合っていく。
「上げる」
「はい」
「待つ」
「……はい」
「今」
「オホォォォッ……!」
「よろしい」
何度も限界が来る。
それでも受付嬢が終わりと言わない限り、神父は命令を待つ。
「まだです」
「はい……!」
「もう一度」
「喜んで……!」
「今、喜んでと言いましたね」
「もう演技する余裕がありません!」
「では認めなさい」
「何をですか……?」
「御主人様に調教されて喜んでいると」
「それは……!」
「嫌なら終わりにします」
「嫌です!」
「なら?」
元童貞神父は顔を真っ赤にしたまま、しばらく黙った。
「……喜んでいます」
「聞こえません」
「御主人様に調教されるのが……好きです!」
「よろしい」
「オホォォォォッ……!」
その返事を待っていたように、受付嬢がさらに彼へ身体を預ける。
「すっかり私の性奴隷ですね」
「違います……!」
「では終わり?」
「終わりません!」
「ほら」
「……」
「認めなさい」
「……御主人様の性奴隷です」
「よくできました」
「オホッ……!」
受付嬢も笑った。
「では、調教を続けましょう」
「はい……御主人様」
今度は、言われる前から嬉しそうだった。
*
どれだけ繰り返した頃だったか。
最初にどちらが腕を伸ばしたのか、もう分からない。
受付嬢が神父へ抱きつき、神父も彼女の背中へ腕を回す。御主人様と性奴隷という役を続けていたはずなのに、いつの間にか互いを押さえ込むためではなく、離さないために抱き合っていた。
「御主人様」
「今は、それで呼ばなくてもいいですよ」
「では……」
神父が少しだけ顔を近づける。
「聞く必要がありますか?」
「ありませんね」
唇が触れる。
一度。
離れて、また触れる。
今度は長い。
「んっ……」
「……」
受付嬢からもう一度求める。
「オホッ……!」
「キスしながらその声を出すのは反則です」
「あなたもでしょう……オホォッ……!」
笑った直後、また唇が重なる。
どちらかが限界を迎えて動きを止めても、少し経てばまた抱き合う。御主人様も性奴隷も関係なく、額を寄せ、何度もキスを繰り返した。
「もう……」
「止めますか?」
「……あなたは?」
「止めたくありません」
「私もです」
「では」
「オホッ……!」
「また声」
「御主人様もです……!」
「今は呼ばなくていいと言ったでしょう」
「では何と?」
「……受付嬢さんでいいです」
「こういう時までですか?」
「何か文句がありますか?」
「ありません」
二人とも笑う。
そのまま、また唇を重ねた。
*
ようやく離れた頃には、表の騒がしさも少し変わっていた。
「……仕事へ戻らないと」
受付嬢が床へ座ったまま言う。
「そうですね。私も教会へ戻ります」
「立てます?」
「……おそらく」
「情けない性奴隷ですね」
「御主人様の調教のせいです」
「ご褒美でしょう?」
「……はい」
「認めるのですね」
「今さら否定しても説得力がありません」
「少しは成長しましたね、元童貞」
「その呼び方はやめてください!」
「もう童貞ではありません?」
「もう童貞ではありません!」
いつもの返事。
顔を見合わせる。
また笑った。
*
二人とも服を着る。
受付嬢は黒革の衣装を脱ぎ、いつもの制服へ戻った。髪を直し、襟を整え、鏡で顔を確認する。数分後には、冒険者たちが普段見ている冷静な受付嬢そのものになっていた。
元童貞神父も神父服を着直す。襟を整え、乱れた髪を直し、最後に深呼吸した。
「大丈夫ですか?」
「はい」
「顔は?」
「大丈夫だと思います」
「耳が赤いですね」
「誰のせいですか!」
「あなたが喜びすぎたせいでしょう」
「そういうことを言わないでください!」
「声が大きい」
「……すみません」
受付嬢が鍵を開ける。
扉の向こうでは、いつもの冒険者ギルドが続いている。
二人は何事もなかったように別室を出た。適度に距離を取り、途中で他の職員とすれ違えば、受付嬢はいつもの調子で仕事の話をする。神父も礼儀正しく挨拶を返す。
そのままギルドの入口まで来た。
「本日はありがとうございました、神父様」
受付嬢は仕事用の穏やかな笑顔を浮かべる。
「こちらこそ、お時間をいただきありがとうございました」
「教会へよろしくお伝えください」
「承知しました」
「では、お気をつけて」
「ありがとうございます」
完璧だった。
受付嬢と神父。
それだけにしか見えない。
元童貞神父が扉へ手をかける。
「……神父様」
「はい?」
受付嬢が一歩だけ近づく。
周囲には聞こえないほど小さな声。
「私の性奴隷だということ、忘れないように」
「……」
神父の耳がまた赤くなる。
それでも表情を崩さず、同じように声を落とした。
「……はい、御主人様」
「よろしい」
二人はすぐに離れる。
「では、また」
「はい。また」
今度は受付嬢と神父として頭を下げ、元童貞神父はギルドを出ていった。
受付嬢も何事もなかった顔で受付へ戻る。
「次の方、どうぞ」
いつもの冒険者ギルド。
いつもの受付嬢。
ただ、その日の彼女がいつもより少しだけ機嫌よく仕事をしていた理由を知っているのは。
もう童貞ではない、彼女の性奴隷だけだった。




