第二十一話 手甲と薬草袋まで巻き込んで、隠し泉で豚とオホ声が止まらなくなったんだけど
足りない。死ぬわけじゃない。二日に一度っていう性神の条件なら、うちはちゃんと満たしてる。童貞神父もいる。マジメメガネもいる。一人でもどうにかできる。豚の方だって同じはず。ギルドや宿で散々構われてるし、生存条件の種付けプレスだって問題なく済ませてる。身体は元気。むしろ元気すぎる。なのに朝から、胸の奥というか、もっと身体の中心みたいなところがずっと落ち着かない。
「……オホッ……足りね」
「何がです……オホッ……?」
「全部」
「説明になっていません……オホォッ……」
教会の宿直室。寝台に転がったうちの横で、童貞神父とマジメメガネも朝からおかしかった。童貞神父は座ってもすぐ立つ。立ったと思ったらまた座る。マジメメガネは聖書を開いてるくせに、同じ行をずっと見てる。それだけならまだしも、二人とも気づくと服の中へ手を突っ込んで、落ち着かせるみたいに動かしてる。
「ねえ。二人とも何してんの?」
「何も……オホッ……していません」
「してんじゃん」
「見ないでください……オホォッ……!」
「昨日も二人とも相手したじゃん。何で朝からそんななの?」
「それはこちらが聞きたいです……オホッ……!」
童貞神父が真っ赤な顔でうちを見る。マジメメガネも眼鏡を押し上げたまま、妙に熱っぽい目をしてる。
「あなたが近くにいると……オホッ……もっと近づきたくなるのです」
「マジメメガネも?」
「……否定できません。オホォッ……!」
「へえ」
「その顔をやめてください……!」
なんか。分かる。うちが足りないせいだ。確証なんてないけど、性神の祝福とか、豚との変な繋がりとか、そういうのを考えると妙に納得できる。うちが悶々としてるから、うちと深く関わった二人まで落ち着かなくなってる。
*
昼にギルドへ寄ったら、もっと分かりやすかった。
「いらっしゃいませ……オホッ……」
「今オホ声出たよね?」
「出ておりません」
「出たじゃん」
「本日はご依頼でしょうか……オホォッ……」
受付のお姉さん。顔はいつもの完璧な受付嬢。声もほぼいつも通り。でも机の下で脚が落ち着かない。座り直す。膝を閉じる。また開きかけて閉じる。何度か服の中へ手を入れそうになって、そのたび仕事中だと思い出したみたいに戻してる。
「豚、今日来た?」
「……オホッ」
「ほら」
「午前中に来られました」
「今どこ?」
「簡単な依頼へ。危険度の低いものだけです」
「めっちゃ管理してんじゃん」
「業務です……オホォッ……!」
その反応で、もう一つ分かった。豚も足りてない。方向だけじゃなくて、何となく分かる。あいつも死ぬわけじゃない。生存条件は足りてる。でも、うちと同じ場所が埋まってない。
宿へ行けば、女将さんと娘さんまで同じだった。
「オホッ……あの馬鹿、まだ帰らないのかい」
「依頼じゃない?」
「危ない仕事じゃないでしょうね……オホォッ……!」
「知らん。うち豚の飼い主じゃないし」
「何で知らないの……!」
「何でうちが知ってなきゃいけないの」
女将さんも娘さんも、豚がいないのに落ち着かない。服の中へ手を入れて、すぐ出して、またしばらくすると同じことをする。
「ねえ」
「何だい……オホッ……」
「何……オホォッ……」
「豚、欲しい?」
「誰が!」
「気持ち悪い!」
「でも息荒いじゃん」
「オホッ……帰ってきたら風呂入れさせるだけだよ!」
「オホォッ……臭いまま寝床へ入れたくないだけ!」
「ふーん」
「その顔やめな!」
やっぱりだ。うちと豚が欲求不満。すると、うちらと関係を持った人まで何かに引っ張られる。理由は分かんない。でも感覚として分かる。
*
教会へ戻る途中で、足が止まった。
「……オホッ」
方向。あっち。豚。そんなに遠くない。そして今日は、位置だけじゃない。悶々としてる。身体を持て余してる。自分でもどうしたらいいか分かってない感じ。
「最悪」
うちも同じ。
童貞神父が駄目じゃない。マジメメガネが駄目でもない。二人とも好きだし、一緒にいると楽しいし、ちゃんと気持ちいい。でも違う。豚じゃなきゃ埋まらないところがある。
「……会お」
教会へ戻ってすぐ、二人へ言った。
「隠れた泉ってあるじゃん」
「昔使われていた泉ですか……オホッ……?」
「うん。今、人来ないんでしょ?」
「ほとんど」
「建物からも離れてる?」
「はい」
「じゃ声出しても平気じゃん」
「何をするつもりですか!」
「豚呼ぶ」
「オホッ……!」
「オホォッ……!」
「二人まで反応すんな」
「二人で行くのですか……?」
「うん」
「何を……」
「分かってんじゃん」
二人とも黙った。顔に全部出てる。
「帰ってきたら二人も構ってあげる」
「そういう問題ではありません……オホッ……!」
「その言い方をやめてください……オホォッ……!」
「じゃ行ってくる」
*
泉へ着いたら、豚はもういた。
「オホッ……いやぁ」
「何で豚まで最初からオホ声なんだよ」
「ギャルさんもですぞ」
「オホッ……うるさい」
二人で顔を見る。それだけで分かる。
「足りない?」
「足りませんなぁ」
「死なないけど?」
「死にません」
「条件も?」
「満たしておりますぞ」
「でも?」
「……オホォッ……もっと欲しいですなぁ」
「うちも」
身体がぞくっとした。
「脱ぐ?」
「早いですなぁ」
「もう無理……オホッ……!」
「おじさんもですぞ」
服を脱ぐ。向き合う。裸を見る。ただそれだけ。
「……オホッ」
「オホォッ……」
「来る来る来る……!」
「お、おじさんも……!」
「あっ、ダメ!」
二人同時に身体が跳ねた。
「オッホォォォォォッ!」
「いやぁぁぁ……!」
まだ触ってない。
「……何これ」
「見るだけでしたなぁ」
「豚の裸見ただけでこれとかマジ最悪」
「おじさんも派手なギャルさんを見ただけで」
「うるさい!」
二人で笑う。でももう離れる気はない。
「来て」
「はい」
抱きつく。胸と腹が潰れるくらい近づく。うちは豚の首へ腕を回す。豚の手が背中へ回る。
「オホッ……!」
「いやぁ」
「笑うな……オホッ……!」
「しかし、やはりおじさんの好みとしては」
「うちも豚はタイプじゃない!」
「身体だけは」
「最高!」
二人。同時。
「……」
「……」
「最悪ですなぁ」
「ほんと最悪……オホッ……!」
ちゅ。ちゅっ。くちゅ。唇を離してもすぐまた重なる。
「オホッ……豚……!」
「はい」
「もっと近く!」
「もう十分近いですぞ」
「足りない!」
「はい!」
立ったまま抱き合って、座って、うちが上になって、豚が上になって、向き合って、背を向けて、また抱き合う。もう何回体勢を変えたか分かんない。ひと区切りついても、少し息を整えたらまた身体が相手を探す。
「オホッ……もっと……!」
「はい!」
「来て……オホォッ……!」
「はい!」
「熱いの……!」
「はい!」
「固い……オホッ……!」
「はい!」
「太い……!」
「ギャルさん、声がすごいですぞ」
「うるさい! もっと!」
「はい!」
「オホォォォォッ……! 来て来て来て……! もっと強いの……! もっと熱いの……! 身体の奥まで豚がいるって分かるくらい!」
「表現が激しいですなぁ!」
「豚ぁ!」
「はい!」
何度でも続く。普通ならとっくに終わってる。でも性神の加護。少し休めば戻る。二人ともそれを分かってるから、遠慮がどんどんなくなる。
*
「ねえ豚……オホッ……!」
「はい」
「さっきから胸見すぎ」
「いやぁ、改めて見ると立派ですなぁ」
「どこ品評してんの……オホォッ……!」
豚の顔が胸元へ寄る。
「この辺りも、前より少し目立つようになっている気が」
「いちいち観察すんな、豚……!」
ぺろ。
「オホッ!」
「やはり反応もよろしい」
「黙れ……オホッ……!」
ぺろ。ちゅ。くちゅ。
「オホォォッ……!」
「ドゥフフ」
「その笑い方ほんっとキモい……!」
そう言いながら、うちは豚の後頭部を抱えて離さない。
「止めんな……オホッ……!」
「はい!」
「もっと……オホォッ……!」
今度はうちの番。豚の頬へ顔を寄せる。
ぺろ。
「おや」
首。
ぺろ。
「ギャルさん?」
「黙って……オホッ……!」
耳の下。首筋。顎。頬。また首。
「ほんっと……何なの、その身体……オホォッ……!」
「何がですかな」
「存在感が凶悪すぎんだって……!」
「褒め言葉?」
「違う!」
ぺろ。
「顔は豚……!」
ぺろ。
「首もオッサン……!」
ぺろ。
「腹も出てる……!」
「散々ですなぁ」
「なのに身体だけ……オホォォッ……! 何でこんな好きなんだよ……!」
首へ腕を回す。ぎゅ。
「離れたくない……オホッ……!」
「おじさんもですぞ」
「キモ」
「酷い」
「でも来て」
「はい!」
*
「ねえ」
「はい」
「今日、もう何でもいい」
「何でも?」
「うちが嫌って言ったら止める」
「当然ですぞ」
「豚が嫌って言っても止める」
「はい」
「それ以外は、何でも付き合う」
「おじさんも好きに?」
「うん」
「ギャルさんへ何を頼んでも?」
「豚ならいい」
「……」
「何」
「おじさんも同じですぞ」
「何が?」
「他の方には頼みにくいことでも、ギャルさんならできます」
「受けるのも?」
「はい」
「……一緒じゃん」
「最悪ですなぁ」
「ほんと最悪」
ちゅ。
「オホッ……!」
そこからは、何をするかより相手がどう反応するかの方が面白くなった。互い違いに寝転がったり、抱き合ったり、転がったり、顔や首や胸元や腹や脚へ口を寄せたりする。嫌そうなら止める。嬉しそうなら覚える。そしてもう一回。
「オホッ……そこ……!」
「ここですかな?」
「そこ……オホォッ……!」
「ではもう一度」
「オッホォォォッ……!」
今度はうち。
「豚、ここ弱い?」
「おや」
「ここじゃん」
「いやぁ」
「分かりやす」
ぺろ。
「おお」
「ほら」
「ギャルさんも似たようなものですぞ」
「うるさい」
相手を喜ばせる。反応を見る。またやる。気づけば、自分がどうなるかより、目の前の相手をどこまで喜ばせられるかに夢中だった。
「オホッ……豚……!」
「はい!」
「もっと喜べ!」
「ギャルさんもですぞ!」
「オホォォッ……!」
*
一度だけ、本当に休もうってなった。
二人で泉へ入る。
「気持ちいい」
「少し冷たいですなぁ」
「ちょうどいい……オホッ……」
「おじさんもまだ声が」
「ギャルさんもですぞ」
「……」
「……」
静か。
ほんの少し。
「オホッ……」
「オホォッ……」
「豚」
「はい」
「やっぱ無理」
「おじさんもですぞ」
「まだ欲しい」
「はい」
泉から出る。濡れたまま岩へ手をつく。
「ギャルさん?」
「今日さ」
「はい」
「もう人間とかどうでもいい」
「はい?」
「顔とか年齢とか、タイプとか、そういうの」
「はい」
「全部どうでもいい」
振り返る。
「うち、一匹の雌でいい」
「……」
「豚も」
「はい」
「一匹の雄になって」
「おじさんでよろしければ」
「豚しか嫌だって言ってんの……オホッ……!」
「おお」
息を吸う。
「アオォォォォン!」
「……」
「何」
「いやぁ」
「豚もやれ!」
「おじさんもですかな!?」
「早く!」
「ウォォォォォン!」
「下手!」
「ギャルさんも似たようなものですぞ!」
「うるさい!」
二人で笑う。でも目が合った瞬間、笑いが消えた。
「来て」
「はい」
「誰でもいいんじゃない」
「はい」
「豚がいい……オホッ……!」
「おじさんもですぞ」
「何」
「ギャルさんがいい」
「もっと言って」
「他の誰でもありません」
「うん」
「目の前の雌が欲しいですぞ」
「オホォッ……!」
「ギャルさんも」
「うん」
「おじさんを求めてください」
「求めてる!」
近づく。
「おじさんですぞ」
「知ってる……!」
「他の誰でもない」
「分かってる!」
「おじさんを」
「欲しい……!」
「はい」
「豚も、うちだけ見ろ!」
「もちろんですぞ!」
「オッホォォォォォッ!」
今日一番荒い。でも今日一番安心してた。顔も好みも全部どうでもいい。目の前の相手が絶対に止めるところでは止めてくれる。嫌だと言えば受け入れる。だから何でもできる。
「オホッ……豚……!」
「はい!」
「うちだよ!」
「はい!」
「他の女じゃなくて!」
「目の前のギャルさんですぞ!」
「オホォッ……!」
「おじさんもですぞ」
「分かってる!」
「他の男ではなく」
「豚がいい!」
「はい!」
「豚の雌でいい……オホォォォッ……!」
*
ようやく一度離れた時、外した手甲が目に入った。
「あ」
「何ですかな」
「豚。これ」
「手甲?」
「孕ませてみる?」
「よろしいので?」
「うん。どうなるか見たい」
「産まれたら手放しますぞ」
「いい。ギルドに持ってく」
「承知しました」
手甲を置く。豚が近づいただけで。
「オホッ……!」
「もう鳴いた!」
「早いですなぁ」
雌化。
「オホォォォッ……!」
「元気すぎ」
豚が手甲へ向き直る。
「では」
「やって」
「はい」
「オホッ……! オホォォォォッ……!」
手甲相手に正式な種付けプレスを始める豚。その横へ、うちもぴったりくっついた。
「ギャルさん?」
「何」
「近いですなぁ」
「手甲だけ構ってんのムカつく」
「はい?」
「豚もこっち向け」
顔を引き寄せる。
ちゅ。
「おや」
首。
ぺろ。
「ギャルさん、今おじさんは」
「知ってる」
ちゅ。ぺろ。
「手止めんなよ」
「二つ同時ですかな?」
「できるっしょ」
「ドゥフフ」
「その笑い方キモい……オホッ……!」
手甲。
「オホォォォッ……!」
うち。
「オホッ……!」
豚。
「いやぁ!」
「ほら、止まってる!」
「申し訳ありません!」
「ちゃんと手甲も相手して、うちも構え!」
「注文が多いですなぁ!」
「オホッ……うるさい!」
*
「次」
「まだありますかな」
「薬草袋貸して」
「おじさんの?」
「うん」
「何をする気です?」
「実験」
適当な棒の先へ薬草袋を被せる。
「これ、うちが使ったら雄化するよね」
「おそらく」
「じゃ試す」
触れた瞬間。
「オホォォォォッ!」
「なった!」
「元気ですなぁ」
「声でっか」
薬草袋の様子を確かめながら、うちはまた豚へ身体を寄せる。
「ギャルさん?」
「何」
「今度はおじさんまで構うのですかな」
「だって豚、見てるだけじゃん」
頬。
ぺろ。
首。
ぺろ。
ちゅ。
「薬草袋だけ相手するのつまんない」
「非常に忙しい実験ですなぁ」
「オホッ……豚も仕事しろ」
「何を?」
「うちをもっと喜ばせろ!」
「はい!」
「オホォォォッ……!」
薬草袋。
「オホォォォッ!」
うち。
「オホッ……!」
豚。
「いやぁ!」
「うるさ!」
「ギャルさんが始めたのでしょう!」
「そうだけど!」
*
気づけば日が傾いていた。
「何時間いた?」
「分かりませんなぁ」
「帰らないと」
「おじさんも宿へ」
「女将さんと娘さん待ってる?」
「間違いなく」
「受付のお姉さんも?」
「明日」
「大変じゃん」
「ギャルさんもですぞ」
「童貞神父とマジメメガネ」
「はい」
「……」
「……」
二人で見る。
「うちら欲求不満になるとさ」
「はい」
「周りまでおかしくなるっぽいよね」
「心当たりしかありませんなぁ」
「教会、朝から二人とも服の中に手入れてた」
「ギルドもですぞ」
「宿も」
「……」
「……」
「じゃ定期的にここ来る?」
「おじさんとしては大歓迎ですぞ」
「うちも」
「おや」
「身体的には」
「身体的には?」
「顔はやっぱ無理」
「おじさんもギャルさんの派手さは」
「黙れ豚」
「はい」
でも。
ちゅ。
「オホッ……!」
「オホォッ……!」
離れる。
また見る。
「豚」
「はい」
「他の人じゃ駄目って意味じゃない」
「はい」
「でも、これを埋められるのは豚だけ」
「おじさんも同じですぞ」
「……そっか」
「はい」
「じゃまた来よ」
「はい」
手甲。
「オホッ……!」
薬草袋。
「オホォォォ……!」
二人でそっちを見る。
「……」
「……」
「こいつらまで足りなそう」
「似た者同士ですなぁ」
「一緒にすんな!」
「オホッ!」
「オホォッ!」
「お前らも返事すんな!」




